オラリオで好き勝手するのはまちがっているだろうか   作:JP_JK_Loling

3 / 16
三話 響きの誘い

タナトス・ファミリアで格上の闇派閥をぶっ殺し、「偉業」を達成してから数ヶ月。俺――トート、14歳は、相変わらずLv.1のまま、ダンジョンに潜っては闇派閥狩りを繰り返す日々を送っていた。レベルアップはステイタスがカンストしてから、というのが俺の揺るがぬ方針だ。武器も、いつまでもボロ剣じゃ心許ないので、闇派閥からブン捕ったそこそこ上等な戦斧を愛用するようになっていた。

 

「今日の晩飯は、市場で一番でけえステーキだ…そのためにも、もう一仕事といくか!」

 

そんな俗な欲望を胸に、俺はダンジョンの中層、10階層を少し過ぎたあたりを探索していた。この辺りになると、出くわす闇派閥の連中もそれなりに手練れが多くなるが、スキル【拒却死(タナトス・アンチ)】を持つ俺にとっては、格好の経験値であり、金蔓でしかなかった。

 

その日も、俺は数人の闇派閥員を袋小路に追い込み、一方的な殺戮を繰り広げていた。戦斧を振り回し、返り血を浴びながら、獣のように敵を蹂躙する。俺の戦い方は、綺麗事なんざ一切ねえ。ただ確実に、効率よく、相手の息の根を止める。それが俺のやり方だった。

 

「…ふう。これで全員か。大した稼ぎにもなりゃしねえ」

 

最後の闇派閥員の首を戦斧で断ち割り、金目の物を漁っていると、不意に背後から静かで、それでいて有無を言わせぬプレッシャーを伴った声がかけられた。

 

「――そこで何をしている」

 

振り返ると、そこには一人のヒューマンの少女が立っていた。歳は俺より少し下の、12、3くらいか。腰まで届く長い灰色の髪が、薄暗いダンジョンの中でも微かな光を反射して艶めいている。そして何より印象的なのは、その瞳だった。右目が鮮やかな翠、左目がどこか深淵を思わせる灰色。その美しいオッドアイが、感情の読めない静かな光をたたえて、俺と、俺の足元に転がる肉塊と化した闇派閥の死体を射抜いていた。幼さの残る顔立ちだが、その美貌と、全身から発せられる尋常ならざる雰囲気は、そこらの冒険者とは明らかに格が違った。

 

(…なんだ、この女…? 今まで会った奴らとは、レベルが違うみてえだ…クソ強そうじゃねえか)

 

俺は本能的に警戒レベルを引き上げた。

 

「貴様がやったのか?」

少女の静かな問い。

 

「ああ? そうだが、それがどうした? こいつら、見てわかんねえか? 闇派閥のクズだぜ。掃除してやったんだよ、感謝しろとは言わねえがな」

俺はいつもの調子で答えた。

 

少女のオッドアイが、俺の言葉を聞いてわずかに細められる。

「…確かに奴らは闇派閥のようだな。だが、その始末の仕方はあまりに無慈悲だ。まるで獣の所業。貴様、何者だ? その禍々しい気配…ただの冒険者ではあるまい」

彼女は俺の言葉を否定はしなかったが、そのやり口を問題視しているのは明らかだった。

 

「ちげえねえ。俺は獣だ。だがな、こいつらみてえなクズどもを殺すのに、手加減なんているかよ。俺は俺のやり方で掃除するだけだ」

 

「その歪んだ正義、そして貴様から感じる異質な力…見過ごすわけにはいかない」

少女――アルフィアはそう言うと、ふわりと宙に浮いたかのような、予備動作のない動きで間合いを取った。そして、その小さな唇から、神の託宣のような言葉が紡がれる。

 

「――【福音(ゴスペル)】」

 

詠唱…? 短え! アニメで見たベルくんの魔法(ファイアボルト)より、ずっと短けえぞ!

 

その瞬間、俺の全身を凄まじい衝撃波が襲った。

 

「がっ…!?」

 

何が起きたのか理解できなかった。見えない何かに、巨大なハンマーで全身を同時に殴りつけられたような感覚。俺の体は紙切れのように吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に叩きつけられた。肺から空気が押し出され、視界が明滅する。

 

(クソ…! 今の…魔法か!? 見えなかったぞ…!)

 

スキルがフル回転し、軋む骨と裂けた筋肉を修復していく。だが、ダメージがデカすぎる。

 

「まだだ…! てめえ、何者だか知らねえが…いきなりぶっ放してきやがって…!」

 

俺は壁から体を起こし、少女を睨みつけた。彼女は静かに俺を見下ろしている。そのオッドアイは、相変わらず冷徹な光を宿していた。

 

「私の名はアルフィア。ヘラ・ファミリア所属。貴様のような野放しの危険を見過ごすわけにはいかない」

 

アルフィア…? ヘラ・ファミリア…? 知らねえな。アニメ二期までじゃ、そんな名前出てこなかったはずだ。だが、こいつがとんでもねえ強さだってことだけは、嫌というほど理解できた。

 

「危険、ねえ…。まあいいや。理由はどうあれ、俺に喧嘩売ったからには、容赦しねえぜ!」

 

俺は地面を蹴り、アルフィアに向かって突進した。魔法が厄介なら、懐に潜り込んでぶん殴るしかねえ!

 

だが、アルフィアは動じることなく、再び短く詠唱する。

 

「【福音】」

 

まただ! 見えない衝撃波! 今度は横薙ぎに襲いかかり、俺の突進をいとも簡単に弾き飛ばす。空中で体勢を崩した俺に、さらに追撃の「福音」が叩き込まれる。

 

「ぐ…あ…があああああ!!」

 

地面に叩きつけられ、何度もバウンドする。全身の骨が砕け、内臓が破裂するような感覚。だが、俺の【拒却死】はまだ止まらない。血反吐を吐きながらも、俺は必死に立ち上がろうとする。

 

(こいつ…強すぎんだろ…! なんだよこの魔法…! 音か? 音の塊でもぶつけてんのか!? 「神威無効」ってのは、こういう魔法には効かねえのかよ!? それとも、俺がまだ使いこなせてねえだけか…!?)

 

アルフィアの魔法は、不可視であるだけでなく、その射程と威力も規格外だった。しかも、詠唱が異常に短い。これじゃあ、接近することすら叶わねえ。

 

「まだ…まだだ…! 俺は…死なねえ…!」

 

だが、アルフィアは冷徹だった。彼女は、俺が再生する時間を与えるつもりはないらしい。

 

「その程度の再生能力で、私に適うとでも思ったか。終いだ」

 

アルフィアが右手を軽く振るう。その瞬間、先ほど俺が吹き飛ばされた空間、俺が転がった地面、その全てに、残留していたかのような魔力が一斉に爆ぜた。

 

「――【炸響(ルギオ)】」

 

「な…に…!?」

 

時間差攻撃!? さっきの「福音」の魔力が、その場に残ってやがったのか! まるで地雷原にでも足を踏み入れたように、俺の周囲で連続的な爆発が発生する。一度目の攻撃で受けたダメージを修復しきれていない体に、追い打ちをかけるような破壊の嵐。

 

「ぐ…ご…ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

もはや悲鳴とも呼べない絶叫が、俺の口から漏れた。視界が真っ白になり、意識が遠のいていく。全身がバラバラになりそうなほどの激痛。さすがの【拒却死】も、この連続的かつ広範囲な破壊には追いつけない。

 

(クソ…! こいつは…本当にヤベェ…! 勝てねえ…! 逃げねえと…死ぬ…!)

 

本能が警鐘を乱打する。プライドもクソもねえ。今はただ、生き残ることだけを考えろ!

 

俺は最後の力を振り絞り、懐に隠し持っていた煙幕弾を地面に叩きつけた。一瞬にして視界が煙に覆われる。

 

「小賢しい真似を…!」

 

アルフィアの声が聞こえる。だが、俺は既に反対方向へ全力で逃走を開始していた。ボロボロの体を引きずり、血の跡を引きながら、ただひたすらに、光のある方へ。

 

アルフィアは深追いしてこなかった。あるいは、煙幕の中で俺が死んだとでも思ったのかもしれない。どちらにしろ、俺は九死に一生を得た。文字通り、死ぬかと思った。

 

どれくらい走っただろうか。もはや自分がダンジョンの何階層にいるのかも分からない。ただ、地上へと続くであろう上り階段を見つけた時、俺は崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。

 

「…はあ…はあ…クソ…ったれが…」

 

全身がズタズタだ。だが、生きてる。そして、不思議と気分は最悪ではなかった。

 

(あの女…アルフィアとか言ったか…? クソ強えし、魔法もカッケェ…おまけに、あのオッドアイ…忘れらんねえぜ…なんか、こう…ムカつくけど、可愛かったな…)

 

圧倒的な力への畏怖と、どこか惹かれるような、そんな複雑な感情。今まで出会ったどんな女よりも、強烈な印象を俺の心に刻み付けていった。

 

どれくらい気を失っていたのか。次に目を覚まし時、俺はタナトス・ファミリアの薄汚い自室のベッドの上だった。どうやってここまで帰ってきたのか、記憶が曖昧だ。

 

「やぁやぁ、目が覚めたかい、僕の死を拒む者クン。随分と派手にやられたようじゃないか」

 

部屋の隅の長椅子で、タナトス神がいつものおどけた調子で俺を見ていた。

 

「…神様…見てたのかよ…? あんたが助けてくれたのか?」

 

「アハハ、君ほどの面白い玩具が、そう簡単には壊れないことくらいは分かってたよ。でも、あのヘラ・ファミリアの小娘に、まさかここまでボコボコにされるとはねぇ。さあさあ、その無様な背中、見せてごらんよ。どれくらい成長したか、あるいは退化しちゃったか、確かめてあげようじゃないか」

 

俺は言われるがままに背を向け、タナトスにイコルを垂らしてもらった。背中に浮かび上がる神聖文字。タナトスがそれを指でなぞり、楽しそうに読み上げる。

 

「おっと、これはすごい! 力がA844からS972、耐久もA870からS992だって! 器用も敏捷もSランクに片足突っ込んでるじゃないか! Lv.1としては見事なまでに鍛え上げたねぇ。そしてそして…おやおや? 魔法の欄に何か新しい輝きが見えるよ」

 

【トート】

Lv.1

力:A844→S972

耐久:A870→S992

器用:A823→S906

敏捷:A838→S929

魔力:I0

《魔法》

【ペイン・サクリファイス】

・特殊魔法(代償転移系)

・三段階位魔法

《スキル》

拒却死(タナトス・アンチ)

 

「魔法!? 俺にも魔法が使えんのか!?」

 

俺は思わず身を乗り出した。あのアルフィアみてえなカッケー魔法が使えるかもしれねえ!

 

「うんうん、その名は【ペイン・サクリファイス】だね。しかも、位階が三段階に分かれてるみたいだ。効果は、他人の傷や病気、呪いなんかを自分に移して肩代わりする、って感じかな? アハハ! 君のスキルとは実に相性がいいねぇ! とっても献身的で、そしてとっても歪んだ魔法じゃないか!」

 

(ペイン・サクリファイス…痛みを肩代わり…? なんか地味だなオイ! アルフィアの魔法みてえに、ドカーン!とかじゃねえのかよ!)

俺は少しがっかりしたが、それでも初めて手に入れた魔法だ。使えねえよりはマシか。

 

タナトスは俺の落胆ぶりを見て、さらに面白そうに笑う。

「ちなみに、君が戦った相手は、ヘラ・ファミリアが秘蔵する天才少女、アルフィアちゃんだよ。まだ12歳なのに、もうLv.2なんだってさ。成長スピードが異常だって、もっぱらの噂だよ。ゼウス・ファミリアと並んでオラリオのトップにいるヘラ・ファミリアの中でも、次代のエースって言われてるんだ。君が手も足も出なかったのも、無理はないんじゃないかなぁ?」

 

アルフィア…ヘラ・ファミリア…。俺が知ってるダンまちの時代よりずっと昔、とんでもねえ化け物がゴロゴロしてた時代だってことか。

 

数日後。オラリオの冒険者ギルド。

アルフィアは、先日遭遇したダンジョンでの一件と、討伐対象だった闇派閥の壊滅を報告していた。その際、ギルド職員から、最近ダンジョン浅~中層で闇派閥のみを標的にして狩りを行っている「血まみれの掃除屋」と呼ばれる正体不明の人物の噂を耳にする。その特徴――金髪、目つきの悪さ、そして驚異的な再生能力――が、先日交戦した男と奇妙に一致することに気づいた。

 

(あの男…トートと言ったか。確かにやり方は滅茶苦茶だったが、闇派閥だけを狙っていたというのか。「闇派閥のクズだぜ。掃除してやったんだよ」と、彼は確かにそう言っていた…。獣のような見た目と戦いぶりだったが、獣でも理性はある獣だったか…)

 

アルフィアは自分の対応を省みた。あの時、彼の言葉をもう少し信じ、その行動の真意を確かめるべきだったのではないか。彼のやり口は容認できるものではなかったが、結果として闇派閥という明確な悪を排除していたという事実は無視できない。

 

(だとしたら、私の対応は過剰だった。こちらに非があったわけか。次に会う機会があれば…いや、見つけ出して、謝罪しなければなるまい)

 

一方その頃、トートは。

「くっそー! あのオッドアイ女、ぜってーもう一回会って、今度こそギャフンと言わせてやる! そのためには、もっともっと強くならねえと…! あの魔法も、なんか地味だけど、使いようによっちゃぁ面白えかもしんねえしな!」

 

アルフィアへのリベンジ(と歪んだ願望)を胸に、新しい魔法の使い道と更なる強さを求めて、今日もダンジョンへと向かう。

「まずは、このLv.1のステイタスをオールカンストさせて、とっととLv.2になってやるぜ! そんで、うめえ飯食って、あの女ぶっ飛ばして、俺の言うこと聞かせてやる!」

 

その欲望だけが、今の俺を突き動かす原動力だった。




第一位階で軽傷、一時的な状態異常
第二位階で重傷、身体欠損、呪い、病、状態異常
第三位階で不治の病、強力な呪い、ステータスによるデバフ
の予定
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。