オラリオで好き勝手するのはまちがっているだろうか   作:JP_JK_Loling

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四話 上る階段

あのオッドアイの女、アルフィアにボコボコにされてから数週間。俺――トート、14歳は、来る日も来る日もダンジョンに潜り、モンスターや闇派閥のクズどもを狩りまくっていた。目的はただ一つ、ステイタスをカンストさせてLv.2になること。そして、あの女に一泡吹かせてやることだ。…まあ、一番の目的は、強くなってうめえ飯を腹いっぱい食うことだがな。

 

「くそっ、あと少しなのに、なかなかカンストしねえな…」

 

その日、俺は珍しくダンジョン探索を早めに切り上げ、気分転換にオラリオの街をぶらついていた。前世じゃしがない高校2年生だった俺にとって、このファンタジー世界の活気ある街並みは、いくら見ても飽きねえ。特に、屋台から漂ってくる様々な匂いは、俺の胃袋を刺激してやまなかった。

 

「おっちゃん、じゃが丸くん一つ!」

 

俺は一番うまそうな匂いを放っていた屋台で、定番のじゃが丸くんを注文した。熱々の揚げたてジャガイモに、甘辛いソースとマヨネーズがたっぷり。一口頬張ると、カリッとした衣とホクホクの中身が口の中でとろける。

 

「んー、やっぱこれ、クソうめえな…」

 

じゃが丸くんを味わいながら、俺はふと、最近ずっと感じていた違和感について考えを巡らせた。俺の知ってる「ダンまち」…つまり、アニメ二期までの知識と、この世界の現状には、どうにもデカいズレがある。ゼウス・ファミリアだのヘラ・ファミリアだのが今のオラリオで一番強えって話も、あのアルフィアとかいう化け物みてえな強さの女がいたことも、俺の知ってる情報にはなかった。ロキとかフレイヤは、まだ「これから」って感じらしいし…。

 

(…これ、もしかして…俺が知ってる時代より、めちゃくちゃ昔なんじゃねえか? ベルってガキが出てくる、ずっと前…。ゼウス、ヘラとかが幅を利かせてた時代…? つーことは、まさかマジで20年くらい前だったりすんのか…!?)

 

その可能性に思い至った瞬間、少しだけ背筋が寒くなった。そんな大昔に飛ばされて、俺、ちゃんとやっていけんのか…?

 

「…まあ、じゃが丸くんがうめえから、今はいいか! 時代がどうだろうと、腹は減るしな!」

 

俺はすぐに思考を放棄し、残りのじゃが丸くんを胃袋にかき込んだ。難しいことを考えても、腹は膨れねえ。

 

しかし、じゃが丸くん一つでは、俺の成長期(?)の胃袋は到底満たされない。もっとこう、肉! 圧倒的な肉塊が食いてえ! 俺は記憶を頼りに、以前訪れた大衆食堂へと足を向けた。

 

「おばちゃん! 豚の丸焼き、まだやってるか!?」

 

勢いよく店の扉を開けると、活気のある女将さんが笑顔で迎えてくれた。

「あいよ! やってるよ、トート坊や! 今日もいい稼ぎだったのかい?」

「おう! だから今日は、特上のやつ頼むぜ!」

 

俺は壁のメニューを見上げ、「特製! 豚の丸焼き(一人前) 時価」を指さした。時価だろうがなんだろうが、今の俺には食う権利があるはずだ。

 

待つことしばし。厨房の奥から、ジュウジュウという音と、筆舌に尽くしがたい香ばしい匂いが漂ってくる。そしてついに、そいつは俺の目の前に運ばれてきた。

 

「お待ちどう! 特製豚の丸焼きだよ!」

 

デカい木の皿に鎮座する、こんがりと飴色に輝く子豚。パリッパリに焼かれた皮は、ナイフを入れる前からその食感を主張している。表面には黒胡椒とハーブが惜しげもなくまぶされ、立ち上る湯気と共に、俺の理性を吹き飛ばさんばかりの香りを放っていた。周囲の焼き野菜すら、今は脇役でしかない。

 

「…来たぜ…俺の、ご馳走…!」

 

俺はナイフとフォークを握りしめ、まずは皮に狙いを定めた。パリッ! サクッ! という軽快な音。口に運ぶと、香ばしさと脂の甘み、そして凝縮された豚の旨味が爆発する。

 

「んんんんんんんんんんん!!!! うめえええええええ!!!」

 

もはや遠慮などない。俺は手掴みで肉にかぶりつき、骨から引き剥がし、貪り食った。皮はサクサク、肉はホロホロと柔らかく、それでいて噛むほどにジューシーな肉汁が溢れ出す。脂身は甘く、赤身は力強い。ハーブとスパイスがその旨味を極限まで引き立てている。夢中で食べ続け、気づけば皿の上には綺麗に磨かれた骨だけが残っていた。俺はその骨すら名残惜しそうにしゃぶり、最後の最後まで豚の恵みを味わい尽くした。

 

「ぷはーっ! 食った食った! やっぱ、人生、うめえモン食ってる時が一番幸せだぜ!」

 

満腹感と多幸感に包まれ、俺は満ち足りた溜息をついた。

 

そんな幸せな日々(?)を送りつつも、俺はタナトス・ファミリアの一員としての「仕事」もこなさなければならなかった。その日、俺はタナトスに呼び出された。

 

「やぁやぁ、トート君! 君の新しい魔法『ペイン・サクリファイス』、なかなか面白いじゃないか。でも、使わなきゃ宝の持ち腐れだよ? ちょっと練習してみたらどうだい?」

 

そう言ってタナトスが指さしたのは、ファミリアの地下牢に転がされている数人の男たちだった。見るからにボロボロで、中には腕が欠けていたり、深い傷から血を流し続けている奴もいる。こいつらは、他の闇派閥との抗争で負傷した下っ端か、あるいはタナトスがどこからか攫ってきた実験動物か。

 

「こいつらで練習しろってか? まあ、いいけどよ…」

 

気は進まなかったが、魔法への興味と、タナトスの有無を言わせぬ雰囲気に、俺は一番近くにいた腕が欠損した男の前にしゃがみ込んだ。どうやら、この数週間で俺も少しは成長したらしい。第一位階では軽傷しか治せなかったが、今はもっとデカい傷もイケる気がする。

 

「【我が身を捧ぐ、汝の盾とならん。血肉を喰らい、魂を分かち、その痛みを我が糧とせん。】」

「【ペイン・サクリファイス】」

 

第二位階の詠唱。俺の体から淡い光が溢れ、男の欠けた腕の断面に吸い込まれていく。次の瞬間、俺の左腕に、肉が抉り取られるような激痛と共に肩から先が消失していた。

 

「ぐっ…!」

 

思わず顔を顰めるが、すぐに【拒却死】が発動し、痛みは霧散していく。そして目の前の男を見ると、さっきまで失っていた腕が、肩から綺麗に元通りになっているではないか。男は信じられないという顔で、自分の腕をさすっている。

 

「…おお…治った…だと…?」

 

周囲で見ていたタナトス・ファミリアの団員たちが、ざわめき始めた。最初は、俺が苦痛に顔を歪めるのを見て面白がっていた奴らも、目の前で起きた奇跡のような治癒を目の当たりにして、表情を変えている。

 

「おい、トート…今のは…」

「あいつの怪我が、一瞬で…いや、無かったことに…」

 

俺はその後も、タナトスに言われるまま、他の怪我人たちに次々と魔法を使った。深い切り傷も、火傷も、俺がその痛みを引き受けることで、面白いように治っていく。

 

最初は俺のことを「化け物」「気味の悪い奴」と遠巻きにしていたファミリアの連中だったが、この光景を何度も見せつけられるうちに、その態度は少しずつ変わっていった。ある日、ダンジョン探索で深手を負った団員の一人が、おずおずと俺のところにやってきた。

 

「と…トート。頼む…この傷を治してくれねえか…? 報酬は…これ、今日の晩飯、好きなモン食ってくれ…」

 

男が差し出したのは、そこそこの額が入ったヴァリス袋だった。

 

「…しゃあねえな。その金、有り難く貰っとくぜ」

 

俺はぶっきらぼうに答え、彼に魔法を使った。傷が癒えた彼は、涙ながらに俺に感謝していた。それからというもの、俺の元には、ファミリア内で怪我をした団員たちが、恐る恐る治療を頼みに来るようになった。

見返りに飯を奢らせたり、金目の物を巻き上げたりしたが、それでも依頼は後を絶たなかった。いつの間にか、俺に対するファミリアの連中の視線は、恐怖から困惑へ、そして困惑からある種の「有用な厄介者」としての認識へと変わっていった。気味悪がられることには変わりねえが、少なくとも、以前よりは居心地がマシになったのは確かだ。

 

そんな魔法の練習と実益を兼ねた治療行為、そして日々のダンジョン探索を続けた結果、俺のステータスはついに、オールS999という、Lv.1としてはこれ以上ない状態にまで到達した。

 

「よし! タナトス! ステイタス更新だ! 今度こそカンストしてるはずだぜ!」

 

俺がファミリアの神室に乗り込むと、タナトスは待ってましたとばかりにニヤリと笑い、俺の背中にイコルを垂らした。

 

「アッハッハ! 見事だねぇ、トート君! 全てのアビリティがカンストだってさ! 君みたいな子は、僕も初めて見るよ。さあ、どうする? レベルアップしちゃうかい?」

 

「当たり前だろ! とっととLv.2にしてくれ!」

 

「いいとも! 君の新たな門出を、この僕がたーっぷり祝福してあげようじゃないか!」

 

タナトスの言葉と共に、俺の体に新たな力が流れ込んでくる。視界が白く染まり、全身の細胞が生まれ変わるような感覚。そして、確かな高揚感と共に、俺は自分が一つ上のステージに到達したことを理解した。

 

タナトスが再び俺の背中を読み上げる。

「おっと、Lv.2になったね! 発展アビリティには『治力』が現れたみたいだ。君のスキルと魔法にはうってつけじゃないか。よかったねぇ!」

 

【トート】

Lv.2

力: I 0

耐久: I 0

器用: I 0

敏捷: I 0

魔力: I 0

《発展アビリティ》

治力: I

《魔法》

【ペイン・サクリファイス】

《スキル》

拒却死(タナトス・アンチ)

 

「おお…! これがLv.2の力か…! なんか、すげえ漲ってくるぜ! 発展アビリティってのも手に入れたしな!」

 

俺は拳を握りしめ、新たな力の感触を確かめる。

 

タナトスが満足げに口を開いた。

「さてさて、晴れてLv.2になったわけだけど、これからどうするんだい? もっとダンジョンの奥深くを目指す? それとも、あのヘラ・ファミリアの小娘にリベンジでもしちゃう?」

 

俺はタナトスの言葉に、ニヤリと最高の笑みを浮かべた。

 

「へっへっへ…神様、甘えな。俺もLv.2になったんだ。強くなった男が行く場所なんて、一つしかねえだろうが!」

 

タナトスが興味深そうに片眉を上げる。

「ほう…?」

 

俺は高らかに宣言した。

 

「俺もLv2なったんだそろそろいくしかねぇ、風俗に!」

 

一瞬の沈黙の後、タナトスは腹を抱えて爆笑し始めた。

「アッハッハッハ! さすがは君だ、トート君! その発想はなかったなぁ! 最高だよ! 実にサイコーだ!」

 

周囲にいたファミリアの団員たちも、ある者は呆れ顔で、ある者は爆笑していた。

 

俺はそんな周囲の反応など気にせず、真剣な顔で腕を組む。

「まずは、オラリオの風俗街の情報収集からだな! どんな店があって、どんなサービスがあんのか、徹底的に調べねえと!」

 

Lv.2の冒険者、トート。彼の新たな冒険は、どうやら別の「深淵」へと向かおうとしていた。




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