オラリオで好き勝手するのはまちがっているだろうか   作:JP_JK_Loling

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五話 おにゃの子どこの子元気な子

Lv.2になった俺――トートは、新たな力と野望、そして何より健全な男子としての欲望を胸に、意気揚々とオラリオの歓楽街へと足を踏み入れていた。目的はただ一つ。そう、お姉ちゃんとのむふふな体験だ! 特に、アニメ知識でなんとなく高貴で美しいイメージのあるエルフのお姉さんがいる店があれば最高だ。金は闇派閥どもから巻き上げた分と、タナトスからの気まぐれな小遣いでそこそこある。Lv.2になった今の俺なら、きっとモテモテのはずだ!

 

「…ねえ。エルフのお姉さんがいる店、どこにもねえじゃねえか…クソが…」

 

しかし、期待に胸を膨らませて歓楽街のネオン街を小一時間ほど練り歩いた結果、俺は通りの隅でうなだれていた。どの店もヒューマンか獣人のお姉さんばかりで、肝心のエルフの「エ」の字も見当たらない。Lv.2になった高揚感はすっかり萎み、代わりに腹の虫の居所が悪くなっていた。14歳の俺の純粋な夢は、かくも容易く打ち砕かれるのか…。

 

「どうしたんだ、小僧。そんなところで項垂れて。何か悩み事か?」

 

不意に、頭上から気の良さそうだが、どこか飄々とした爺さんの声が降ってきた。見上げると、白髪に白い髭を蓄え、人の良さそうな笑顔を浮かべた小柄な爺さんが立っていた。ただのジジイに見えるが、なぜか不思議な威圧感もある。

 

「なんだぁ~ジジィ。俺はエルフの女がいる店がなくて虫の居所がわりぃんだよ。ほっといてくれ」

 

俺は八つ当たり気味に吐き捨てた。

 

「ホッホッホ。エルフか。そりゃあ難儀な話じゃな。エルフは種族として肌を他者に触れ合わせるのを極端に嫌うからのう。基本的に歓楽街では働いておらんぞ」

 

「な…なんだと…!? じゃあ俺の夢は…!?」

 

衝撃の事実に、俺は膝から崩れ落ちそうになった。そんな…エルフのお姉さんとイチャイチャする夢が…。

 

「まあまあ、そう落ち込むな。これも何かの縁じゃ。これから儂は、エルフのお姉ちゃんは居らんが、なかなか良い店に行くところなんじゃが…一緒に来るか? きっと気に入ると思うぞ」

 

ジジイは悪戯っぽく笑いながら俺に手を差し伸べてきた。

 

「まじで!? エルフはいねえのか…残念だが、ジジイが良いって言うなら間違いねえだろ! 当然行くぜ!」

 

俺は単純なので、すぐに立ち直ってジジイの手を取った。タダ酒にありつけるかもしれねえしな!

 

ジジイに連れられて、歓楽街の少し奥まった、高級そうなエリアへと歩を進める。

 

「なぁジジイ、その店はどんな店なんだ? 高そうだけど、大丈夫か?」

 

「なに、心配するな。一見様お断りの、知る人ぞ知る名店じゃよ。儂もな、今日、一番人気の看板娘の予約がやっとこさ取れたんじゃ。お主も運がいいぞ」

 

「い、一番人気!? それって、抜きありの店か? まさかホームラン打てちまうのか!?」

 

俺の期待は再び最高潮に達した。

 

「フォッフォッフォ。まあ、いわゆるイチャキャバの店じゃからな。お主の腕と度胸次第では、あるいは…じゃな」

 

ジジイが意味深に笑う。その説明の最中だった。

 

「やぁ、ゼウス。ずいぶんと楽しそうだね。おや? その少年はどこの子だい?」

 

軽薄そうな、それでいてどこか人を食ったような声と共に、一人の男が俺たちの前にひょっこり現れた。旅人のような格好をしているが、やけに洒落ていて、胡散臭いオーラがプンプンしている。

 

「なんだぁ、この胡散臭そうなやつはよぉ。ジジイの知り合いか?」

 

「おお、ヘルメスか。丁度良いところに来た。こいつはヘルメスじゃ。今回の店の予約も、こいつが骨を折ってくれたんじゃよ」

 

ゼウスと名乗ったジジイが紹介する。ヘルメス…? なんか聞いたことある名前だな。アニメで見たような気もするが…思い出せねえ。まあいい。

 

「へえ、あんたが予約取ってくれたのか! よく見たら誠実そうでカッケェ男じゃねぇか! さすがジジイの友達だな!」

 

俺は光の速さで手のひらを返した。だって、この男のおかげで良い思いができるかもしれねえんだからな!

 

ヘルメスは俺の変わり身の速さに目を丸くした後、面白そうに笑った。

「ハハハ、これはこれは。とても面白い子を連れてきたじゃないか、ゼウス」

 

「うむ。こいつはトートと言うんじゃ。エルフのお姉ちゃんがいる店を探して途方に暮れておったところを、儂が拾ってやったんじゃよ」

 

「へぇ…エルフを、ね。…君、もしかしてだけど…童貞かい?」

 

ヘルメスの目が、値踏みするように俺の股間を一瞥した。

 

「どどど、童貞じゃねぇよ! なんだその目は! 失礼な奴だな!」

 

図星だったが、ここで認めるわけにはいかねえ!

 

「ハハハ、やぁ兄弟! そんなにムキになるなよ。童貞なんて恥ずかしいことじゃないさ。それより、そんな初々しい君のために、このヘルメス兄さんが一肌脱いで、今日が最高の思い出になるように上手く取り持ってあげようじゃないか!」

 

ヘルメスは馴れ馴れしく俺の肩を抱き、ウインクしてきた。

 

「あ、兄貴! マジか!? 一生ついていくぜ!」

 

俺は再び光の速さでヘルメスに懐いた。

 

こうして、俺とゼウスジジイ、そしてヘルメス兄貴という奇妙な三人組は、目的の店へと到着した。そこは、外観からして明らかに高級で、いかがわしい雰囲気を微塵も感じさせない、むしろ料亭のような佇まいの店だった。

 

「ようこそおいでくださいました。ゼウス様、ヘルメス様、そしてお連れ様。お部屋の準備が整っております」

 

上品な着物を着た女将さんらしき女性が出迎えてくれた。店内は薄暗く、高級な香が焚かれている。まずは受付で簡単な説明を受け、うがい薬でのうがいと、念入りな手の消毒を促された。おいおい、そんなにガード固いのかよ。

 

「さあ、ワクワクしてきたぜ! どんなお姉ちゃんが出てくんだ!?」

 

俺はやる気満々で、案内の女性についていこうとした。その時だった。

 

ドガァァァン!!!

 

店の外から、何かが爆発したような轟音が響き渡った。続いて、地響きと共に、何者かの怒号が段々と近づいてくる。

 

「ゼウゥゥゥゥスッ! どこにおるか! 出てこい、この浮気者のクソジジイがァァァァ!!」

 

地獄の底から響くような、それでいて妙に艶のある女の声。その声が近づくにつれ、ゼウスジジイの顔がみるみる青ざめていく。

 

「ひぃぃぃ! ヘ、ヘラか!? なぜこの場所が…!?」

 

次の瞬間、店の入り口の引き戸が蹴破られんばかりの勢いで開き、そこに立っていたのは、見上げるような長身の、とんでもねえ美女だった。黒曜石のような長い髪、燃えるような赤い瞳、そして何より、その体から発せられる圧倒的なプレッシャー。この女、タナトスやアルフィアとはまた違う種類の、神々しいまでの怒りを纏っている。

 

「ゼウス! これはどういうことだ! またこんな破廉恥な店で若い娘を侍らせようという魂胆か!」

 

ヘラと呼ばれた美女は、ゼウスジジイを指さし、雷のような声で詰問した。

 

「ま、待てヘラ! 誤解じゃ! 儂は決して浮気をしようとしたわけではなくてだな! この純粋な少年トート君に、大人の世界の経験を積ませてやろうとして、それで、その…付き添いでおっただけじゃ! なあ、ヘルメス! トート君!」

 

ゼウスジジイは必死の形相で俺たちに助けを求めてきた。

 

俺とヘルメスは顔を見合わせ、そして同時に口を開いた。

 

「「いや、ゼウス(ジジイ)もめちゃくちゃ乗り気だったよ(ぜ)」」

 

「お、お前ら…儂を裏切るんか!?」

 

ゼウスジジイが絶望の声を上げる。

 

「だってよぉ、ジジイがいなくなったら、あんたが予約してた一番人気の子は空くってことだろ? じゃあ、俺にとってはむしろ好都合じゃねえか」

俺は正直な気持ちを述べた。

 

「お、お前には…! 儂がお主を誘ってやった恩というものがないのか!?」

 

「真っすぐチンコは曲げねぇ、それが俺のチン道だ! 邪魔する奴は神でも許さねえ!」

 

俺がそう言い放つと、ゼウスジジイはなぜか感極まったような顔で俺を見た。

「お主…なかなか、やるな…。その心意気、気に入ったぞ。名前は、トートと言ったか…」

 

「ああ。トート、オラリオで一番モテモテになるカッケェ男の名前だ。覚えとけよ、ジジイ」

 

「そうか、お前はい「今日という今日は許さんぞゼウス! 問答無用!」ちょ、ちょっと待ってくれヘラ! 今、すごくかっこいい場面だったのに! 儂のセリフが! アノ、スミマセン。モウチョットヤサシクモッテ、、肩カタカタ、アーーーーー」

 

ゼウスジジイは、ヘラによって有無を言わさず首根っこを掴まれ、店から引きずり出されていった。最後まで何か言いたそうだったが、後の祭りだ。

 

「じゃあトート君、僕らも行こうか。ゼウスの予約はキャンセルになっただろうし、今ならフリーで良い子がいるかもしれないよ」

 

ヘルメスが、何事もなかったかのように俺に微笑みかける。ここからはもう「ヘルメス」だ。

 

「おう! さすがヘルメス、話が分かるぜ! お姉さんの待つ夢の地へ、レッツゴーだ!」

 

俺たちが意気揚々と店の奥へ進もうとした、その時。

 

「――さて、トート君。楽しい時間はここまで、かな?」

 

ヘルメスの声のトーンが変わり、その目が俺を射抜いた。同時に、店の入り口や周囲の物陰から、屈強な、いかにも「武人」といった風体の男たちがヌッと姿を現し、俺の周囲を瞬く間に取り囲んだ。象の仮面をつけた、一際デカい図体の男もいる。こいつら…ガネーシャ・ファミリアの連中か!

 

「な、なんだよヘルメス! どういうこった! テメェ、ハメやがったのか!」

俺は即座に警戒態勢を取り、いつでも動けるように身構えた。Lv.2になった俺を、そう簡単に出し抜けると思うなよ。

 

ヘルメスは肩をすくめてみせる。

「いやなに、ギルドからの依頼でね。ダンジョンで最近、闇派閥を狩りまくっている『血まみれの掃除屋』…君のことだろう? 君にはガネーシャ・ファミリアまでご同行願うよ。私が事前に手配しておいたんだ。抵抗はしない方が賢明だ。彼らはオラリオでも指折りの武闘派ファミリアだからね。特に、あの団長さんは怒らせない方がいい」

その言葉と共に、ガネーシャ・ファミリアの団員たちが一斉に俺との距離を詰めてくる。その中には、明らかに俺より格上と思われる練達の冒険者も混じっている。多勢に無勢、か。

 

「…チッ、クソが! 俺のお姉ちゃんとの夢がぁぁぁぁ!!!!」

俺は悪態をつきながらも、状況を判断し、無駄な抵抗はひとまず諦めることにした。ここで暴れても、目的の店で遊べなくなるだけかもしれねえしな。

 

こうして俺は、ガネーシャ・ファミリアの屈強な団員たちによって、あっけなくファミリア本部へと連行された。

 

そして俺は、ガネーシャ・ファミリアの厳つい建物の一室、いかにもな尋問室に通された。鉄の机と椅子がポツンと置かれ、壁にはよく分からない紋章が飾ってある。

 

「さて、トート君だったかな? 早速だが、君はどこのファミリアに所属している? そして、何の目的でダンジョンに潜り、闇派閥を襲撃しているんだ?」

 

尋問してきたのは、ガネーシャ・ファミリアの古参団員であろう、象の仮面をつけたゴツイ男だった。その隣には、ヘルメスが腕を組んで座っている。どうやら、嘘を見抜くための立会人らしい。

 

「ファミリアぁ? 家族はいねえし、信仰しているのはおっぱいだよ。オラリオに来たのは、観光目的だ」

 

俺はタナトス・ファミリアの名前を出すわけにもいかず、適当にはぐらかした。

 

「観光目的でダンジョンに潜る馬鹿がどこにいる! それを置いといても、お前がダンジョンで殺しているのは闇派閥だけなんだろうな! 一体何が目的だ!」

 

団員が机を叩いて威嚇してくるが、そんなもんで俺がビビると思ったか。

 

「オラリオで一番有名なモンっつったら、ダンジョンだろうがよ。観光の目玉だろ。それに、観光中にたまたまゴミがウロチョロしてたからよぉ、親切にゴミ拾いしてやっただけだぜ。感謝してほしいね」

 

「き、貴様ぁ…! ふざけているのか!」

 

団員が顔を真っ赤にして怒鳴る。やれやれ、話の通じねえ奴だな。

 

「まあまあ、君も少し落ち着きなよ」

ヘルメスが団員をなだめる。

「確かに彼の所属は分からないままだが、どうやら彼は闇派閥にしか危害を加えていないようじゃないか。オラリオの治安維持に貢献している、とも言えなくもない。なぁ、トート君。君はこのオラリオに害を及ぼす気はあるかい?」

 

「ねえよ。うめえ飯食って、可愛いお姉ちゃんとイチャイチャできれば、それで満足だ」

 

俺が正直に答えると、ヘルメスは満足そうに頷いた。

 

「だ、そうだ。こういうことだから、彼は突然現れた正体不明のヒーローってことで、今回はいいんじゃないかな? ギルドへの報告は僕が上手くやっておくからさ」

 

「で、ですが、ヘルメス様…それでは…」

 

団員はまだ納得いかないようだったが、ヘルメスの言葉には逆らえないらしい。

 

「じゃ、帰っていいんだったら、俺は帰るぜ~」

 

俺はさっさと椅子から立ち上がった。

 

「お、おい! まだ話は…!」

 

「あ、ヘルメス」

 

俺は部屋を出る間際に、ヘルメスに声をかけた。

 

「なんだい、トート君?」

 

「次は絶対、お姉ちゃんのとこに連れてけよ! 約束だからな!」

 

「アッハッハ! もちろんだよ、トート君! 次こそは、ね!」

 

ヘルメスは楽しそうに笑っていた。

 

 

その夜。どこかの酒場で、ゼウスとヘルメスが酒を酌み交わしていた。ゼウスはヘラから解放されたものの、少しやつれているように見えた。

 

「しかしヘルメスよ、あのトートという小僧、ギルドが探していた『血まみれの掃除屋』じゃったとはのう」

 

「ええ。オレも驚いたよ。まさかあんな形で接触するとは。ギルドからは、素性も目的も不明なまま闇派閥を狩り続ける危険人物かもしれないと、捜索と身柄確保の依頼が出ていたんだ」

 

「ふむ。確かに危険な香りはしたが、それ以上に、清々しいまでの欲望と、妙なところで筋を通そうとする男気も感じたわい。あの『チン道』発言は、儂、少し感動したぞ」

 

「同感だね。彼なら、オラリオに新たな風を吹かせてくれるかもしれない。…もっとも、その風はとんでもない方向から吹いてきそうだが」

 

「「なかなかのエロガキじゃったな(だったな)」」

 

二柱の神は、そう言って楽しそうに笑い合った。オラリオの夜は、今日も騒がしく更けていく。




トートは冒険者ギルドに行かなくて別のルートから魔石を売っているという設定です。
あと、正直知識ないのに原作前の話書くのキツ過ぎるので何かネタがあったら何でもいいので欲しいです。
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