オラリオで好き勝手するのはまちがっているだろうか 作:JP_JK_Loling
歓楽街での一件から数日後。俺――トート、14歳は、Lv.2になった新たな力と、いまだ満たされぬ「お姉ちゃん」への渇望を胸に(主に前者)、再びオラリオ・ダンジョンへと足を運んでいた。タナトスから小遣いは時々もらえるが、基本的には自分の食い扶持と、来るべき「決戦」(主にアルフィアとの、そしていつかのお姉ちゃんとの)に備えるための資金は自分で稼がねばならない。何より、Lv.2になったこの力を試したくてウズウズしていた。
今日の目的地は12階層。武器は、前に闇派閥のリーダー格からブン捕った、血と脂で薄汚れた戦斧だ。
「Lv.2の俺なら、この辺の雑魚は瞬殺だろ!」
12階層に到達すると、早速アルマジロみてえな硬い甲羅を持つ「ハードアーマード」がゴロゴロと転がりながら突進してきた。以前は多少手こずった相手だが、今の俺の戦斧の一撃は、奴の甲羅をバターのように断ち割り、中身をぶちまけさせた。続いて現れたのは、デカい図体でやたらと腕力のある大猿「シルバーバック」の群れ。こいつらも、スキル【
「へへっ、Lv.2ってのは伊達じゃねえな! この調子なら、もっと奥も余裕だぜ!」
返り血と獣の脂でギトギトになりながらも、俺は満足げに笑い、獲物を求めてさらに奥へと進んだ。
そして、広大な地下空洞に出た時、そいつはいた。
「グルルルルルルル…」
全長5メートルはあろうかという、赤い鱗に覆われた四足獣。鋭い爪と牙、そして背中にはまだ小さいが確かな翼。インファントドラゴン。希少種のモンスターだ。その瞳は明確な敵意と知性を宿し、俺を睨みつけている。
「へえ…ドラゴンか。小さめとはいえ、なかなか強そうじゃねえか。こいつを倒せば、経験値もドロップアイテムも期待できそうだぜ!」
俺は戦斧を握り直し、ニヤリと笑った。Lv.2の力を試すには、申し分ない相手だ。
「いくぜ、トカゲ野郎!」
俺が雄叫びを上げて突進すると同時に、インファントドラゴンも咆哮を上げ、鋭い爪を振りかざして襲い掛かってきた。ガギン!と鈍い音が響き、戦斧とドラゴンの爪が火花を散らす。重い! Lv.2の力をもってしても、こいつのパワーは侮れねえ。
だが、俺にはスキルがある!
「なめるなよ、コラァ!」
ドラゴンの爪が俺の肩を浅く引き裂くが、痛みを感じる間もなく傷は塞がる。その隙に、俺は戦斧をドラゴンの脇腹に叩き込んだ。
「ギャウッ!」
ドラゴンが苦悶の声を上げる。よし、効いてる! だが、こいつもしぶとい。すぐに体勢を立て直し、今度は炎のブレスを吐きかけてきた。
「うおっ、熱ちぃ!」
咄嗟に横っ飛びで回避するが、服の一部が焦げちまった。クソ、厄介な攻撃しやがる。
その後も、一進一退の攻防が続いた。俺はダメージを負っては即座に再生し、斧でドラゴンに傷を負わせる。ドラゴンもまた、鋭い爪や牙、そしてブレスで俺を攻め立てる。なかなかタフな野郎だ。こいつを倒すのは骨が折れそうだぜ…。
…ん? 待てよ?
戦いの最中、俺の頭に一つの
「ヒャハハハ! そうか、その手があったか!」
俺はドラゴンの攻撃を避けながら、ニヤニヤと笑みを浮かべた。
「おい、トカゲ! ちょっと待て! お前に良い話がある!」
俺がそう叫ぶと、ドラゴンは警戒したように動きを止めた。まあ、言葉が通じるわけでもねえだろうが。
「今から俺が、テメェの傷を治してやる。その代わり、もう一回俺と戦え。どうだ? 悪い話じゃねえだろ?」
俺は魔法の第一位階の詠唱を始める。
「【我が身を捧ぐ、汝の盾とならん】!」
「【ペイン・サクリファイス】!」
俺の体から淡い光が溢れ、ドラゴンの体に負った傷に吸い込まれていく。次の瞬間、俺の全身に、ドラゴンが負っていたであろう無数の切り傷や打撲の痛みが一気に転移してきた。
「ぐっ…おおおお…! さすがにこれは…キツいぜ…!」
さすがの俺も顔を歪める。だが、即座に【拒却死】と「治力」がフル回転し、数秒後には全ての傷が綺麗サッパリ消え失せた。そして目の前のインファントドラゴンを見ると、さっきまで血を流していた傷口が塞がり、心なしか元気を取り戻しているように見える。肩代わりした結果、相手の傷が消えるなら、そりゃあもう「回復」させたってことだろ!
ドラゴンは困惑したように首を傾げているが、敵意はまだ失っていない。よし、これはいける!
「ヒャッハハハハ! 見ろよトカゲ! テメエが俺に切られて! 俺がテメエの傷を回復して…! 経験値道場が完成しちまったなアア~! これでオラリオ最強は俺んモンだぜ~!!」
俺は高らかに宣言し、再び戦斧を構えた。ここからが本当の
それからの戦いは、まさに異常だった。俺はドラゴンを殴り、斬りつけ、ダメージを与える。そして、ドラゴンが弱ってきたら【ペイン・サクリファイス】で傷を肩代わりして「回復」させる。ドラゴンは最初こそ戸惑っていたが、次第にこの奇妙な状況に慣れたのか(あるいは諦めたのか)、ただひたすらに俺に抵抗を続けた。
「オラオラオラ! もっとだ! もっと俺を楽しませろ!」
俺は完全にハイになっていた。痛みは一瞬で消える。疲労もあまり感じない。ただ、目の前の敵をボコり続け、そして「回復」させる。こんなに効率のいい経験値稼ぎ、他にあるかよ!
しかし、そんな夢のような時間は、永遠には続かなかった。
どれくらいの時間、そんなデタラメな戦いを続けたのか。太陽のないダンジョンでは時間の感覚も曖昧になる。だが、明らかにインファントドラゴンの動きが鈍くなってきた。俺が傷を「回復」させても、その勢いは徐々に失われていく。どうやら、肉体的な傷は治せても、生命力そのものまでは回復できねえらしい。
「あれ…? おい、トカゲ…どうしたんだよ…?」
ついに、インファントドラゴンはぐったりと地面に横たわり、荒い息を繰り返すだけになった。その瞳からは、先ほどまでの闘志は消え失せ、ただ深い疲労の色だけが浮かんでいる。
「あ、やべ。やりすぎたか…?」
俺が慌てて駆け寄った時には、既に手遅れだった。インファントドラゴンは、最後に小さく一声悲しげな鳴き声を上げると、そのまま動かなくなった。その体はゆっくりと黒い灰へと変わり、魔石といくつかのドロップアイテムだけが残された。
「…あーあ。無限経験値道場、失敗かよ。まあ、結構稼げたみてえだし、いっか」
俺は少し残念だったが、気を取り直して魔石と
インファントドラゴンとの一件から数週間が経った。俺はあの経験値の味を忘れられず、さらなる強さを求めてダンジョンの中層エリア、13階層から17階層あたりをうろつき回っていた。この辺りになると、ヘルハウンドとかいう地獄の番犬みてえな奴や、アルミラージとかいうデカい角の生えたウサギ(これが意外と厄介)がウジャウジャいやがる。そいつらを日常的に狩り続け、少しずつだが確実にステータスを上げていった。
そしてある日、15階層あたりだったか、俺は複数のミノタウロスに遭遇した。牛頭人身の、いかにもなパワーファイターだ。こいつら、図体はデカいが、インファントドラゴンほど頭は良くねえ。
(…こいつら相手なら、もっと上手く経験値を稼げるんじゃねえか?)
俺はほくそ笑み、ミノタウロスの一体に狙いを定めた。戦斧を振るい、ギリギリ死なねえ程度に痛めつける。そして、弱ってきたところで【ペイン・サクリファイス】。俺が傷と痛みを引き受け、ミノタウロスは望んでないのに回復。そしてまたボコる。この繰り返しだ。
ミノタウロスはただ「モォォォ!」と怒りの声を上げるだけで、俺の意図など理解するはずもない。インファントドラゴンよりはるかにコントロールしやすく、まさにサンドバッグ…いや、経験値供給源としては最高だった。何度も何度も自身が傷を負い、それを再生し、さらに他者の傷まで肩代わりする。この無茶苦茶な鍛錬…いや、ほとんど自傷行為に近い何かが、俺の体に眠っていた何かを激しく揺り動かしているような、そんな予感があった。
そんなミノタウロス道場でかなりの経験値(と、さすがの俺も無視できないレベルの疲労)を稼いだ後、俺はタナトス・ファミリアの拠点に戻った。
「よう、神様。また稼いできたぜ。ステイタス更新、頼むわ」
ドロップアイテムを適当に放り出し、俺はタナトスに恩恵の更新を促した。
「やれやれ、君っていう子は本当に僕を飽きさせてくれないねぇ。その成長の仕方も、まったく常識外れだ。さあ、その背中を見せてごらんよ」
タナトスは面白そうに俺の背中にイコルを垂らした。神聖文字が浮かび上がり、タナトスがそれを読み上げる。
「おっと…これはすごい! Lv.2になってからまだそんなに経ってないのに、なかなかの上がりっぷりじゃないか。そしてそして…おやおや? スキルの欄に何か新しい輝きが見えるよ。これはまた、君にピッタリの
【トート】
Lv.2
力: E321
耐久: E315
器用: F288
敏捷: F295
魔力: D350
《発展アビリティ》
治力: I
《魔法》
【ペイン・サクリファイス】
《スキル》
【
【
早熟する。
負った傷の量に比例して効果向上。
疲労に対する高耐性
体力と精神力の急速回復
「【
説明を読む限り、まさに俺の無茶苦茶な戦い方を後押しするようなスキルだ。傷を負えば負うほど強くなるってことか? 最高じゃねえか!
「アハハ! 面白いスキルを手に入れたじゃないか、トート君! そのスキルと、君の【拒却死】を組み合わせれば、誰も考えつかないようなスピードで成長できるかもしれないねぇ。まさに『早熟』の極みってやつだ!」
タナトスは心底楽しそうに笑っている。俺も、この新しい力に興奮を隠せない。
「ヒャッハハ! やったぜ! これで、もっともっと強くなれる!」
俺が自分の成長に浮かれていると、タナトスがふと真顔になって釘を刺してきた。
「ねえ、トート君。君のその力と成長スピードは、ちょっとした諸刃の剣みたいなものだよ。見ていて面白いんだけど、少し目立ちすぎちゃってるかな。うちのファミリアは、表向きには穏健派を装ってるけど、その実態を知ってる人は少ないんだ。オラリオには、僕らみたいな『闇』に連なる者を快く思わない子たちも多いからねぇ。君があまり派手に騒ぎすぎると、ファミリアそのものに面倒な火の粉が飛んでくるかもしれない。今までは君が面白いから大目に見てたけど…これからは、もうちょっとだけ自重することを覚えてほしいな。使い方を間違えると、君だけじゃなくて、僕のファミリアにも災いが降りかかっちゃうかもしれないからね」
タナトスにしては珍しく真剣な口調だった。まあ、言ってることは分からんでもねえ。俺が暴れすぎて、ファミリアが潰されたら、俺の寝床も飯も無くなっちまうかもしれねえしな。
「へーへー、わーったよ。なるべく大人しくしてるぜ」
俺は適当に返事をしたが、頭の中はそれどころではなかった。新しいスキル! 更なる成長! そして…
(【臨死臨界】だぁ? 最高じゃねえか! これでガンガン傷負って、ガンガン強くなってやる! そんでアルフィアを倒してあいつを俺のもんにしてやるぜ~! あのカッケー魔法も、あのムカつくけど可愛いオッドアイも、全部俺のもんだ!)
タナトスの忠告など右から左へ聞き流し、俺の心は既に次なる目標へと向かっていた。打倒アルフィア、そして彼女を俺の嫁にする(という一方的な妄想)。
「よし! まずはもっと強くなって、うめえ飯食って、それからだな!」
タナトスが呆れたようなため息をついているのも気づかず、俺は新たな野望に胸を膨らませ、意気揚々と神室を後にした。オラリオ最強への道は、まだ始まったばかりだ。
タナトスが暗黒期を生き残れたのは目立たないようにしたからなんじゃないかな~という理由からこうなった