オラリオで好き勝手するのはまちがっているだろうか   作:JP_JK_Loling

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とりあえず10話までは自分のペースで書いてみます。


八話 壁(ロキではない)

リヴィラの街を半壊させた「ポケ〇ンバトル(自称)」騒動の後、俺は主神タナトスからこっ酷く…いや、心底呆れ果てた様子で説教を食らった。

 

「ねえ、トート君。君が面白いのは分かってるけど、さすがに街を一つ半壊させるのはやりすぎじゃないかな? 僕のファミリアが表沙汰になるのは、ちょっとマズいんだよねぇ」

 

タナトスは笑顔だったが、目は笑っていなかった。しばらくは地上やリヴィラで騒ぎを起こすな、と念を押された俺は仕方なく純粋にダンジョン攻略に専念することにした。まあ、新スキル【臨死臨界(ヘブン・ダイバー)】を試すには、ちょうどいい機会だ。

 

「傷つきゃ傷つくほど強くなるんだろ? なら、もっとヤベェ場所に行くしかねえよな!」

 

俺は意気揚々と、これまで足を踏み入れたことのない19階層へと降り立った。そこは、今までの岩肌の洞窟とは全く違う、巨大な樹木が生い茂る鬱蒼とした空間――『大樹の迷宮』だった。湿った空気と、奇妙な植物の匂いが立ち込めている。

 

「なんかジメジメしてて、気持ち悪ぃ場所だな…」

 

警戒しながら進んでいると、茂みの中から唸り声が聞こえた。現れたのは、熊みてえな図体だが、その動きは異様に素早いモンスター。バグベアーだ。

 

「オラァ!」

 

俺は先手必勝とばかりに戦斧を振りかざすが、バグベアーはその巨体に見合わぬ俊敏さで攻撃をかわし、逆に鋭い爪で反撃してきた。

 

「ぐっ…! 速えな、このクマ!」

 

ミノタウロス並みのパワーに加え、このスピード。厄介な相手だが、Lv.2の俺の敵じゃねえ。俺は【拒却死(タナトス・アンチ)】で傷を再生しながら、強引に距離を詰め、その首筋に斧を叩き込んだ。

 

だが、戦いはそれで終わりではなかった。

 

「――シュ!」

 

バグベアーを倒した直後、近くに生えていた巨大なキノコが蠢き、俺に向かって紫色の胞子を大量に噴射してきた。ダークファンガス。この階層特有の、毒を使うモンスターだ。

 

「げほっ! ごほっ…! なんだこれ…!?」

 

胞子を吸い込んだ瞬間、強烈な吐き気と目眩が襲ってきた。体が痺れ、視界が歪む。

 

(クソッ…! 毒か…!?)

 

【拒却死】のスキルで肉体の傷はすぐに治るが、この毒による体の不調はすぐには消えないらしい。傷の治癒と毒の分解は別物ってことか? それとも、この毒にも慣れが必要なのか。

 

「グルルルァ!」

 

視界が霞む中、新たなバグベアーが二体、そして遠くからはトンボ型のモンスター、ガン・リベルラが羽音を響かせて接近してくるのが見えた。ガン・リベルラは尻尾から毒針を飛ばしてくる。

 

「やべえ…数が多すぎる…!」

 

毒で動きが鈍った体に、次々と攻撃が襲いかかる。バグベアーの爪が俺の腹を裂き、ガン・リベルラの針が肩に突き刺さる。傷は再生するが、毒と出血で体力が削られていくのが分かる。

 

(クソ…! 死ぬ…いや、死なねえけど、キツすぎる…!)

 

絶体絶命のピンチ。その時だった。体の奥底から、カッと熱いものが込み上げてくるのを感じた。

 

臨死臨界(ヘブン・ダイバー)

それは負った傷の量に比例して効果が向上し、疲労耐性と体力・精神力の急速回復をもたらすスキル。

 

「おお…? なんか、力が湧いてきやがった…! 痛みも、毒の気持ち悪さも、まだ残ってるけど…体が軽ぃ!」

 

スキルが発動した瞬間、さっきまでの疲労感が嘘のように消え去り、代わりに凄まじい闘争本能と力が全身に漲ってきた。傷を負えば負うほど、俺は強くなる!

 

「ヒャッハハハ! これだよ、これ! これが俺の新しい力だ!」

 

俺は血塗れの顔で笑い、再び戦斧を握り直した。動きが鈍っていたはずの体が、嘘のようにキレを取り戻す。バグベアーの攻撃を紙一重でかわし、その胴体を真っ二つに両断する。飛来するガン・リベルラの針を叩き落とし、そのまま跳躍して本体を粉砕した。

 

だが、戦闘が終わっても、毒による不快感は完全には消えなかった。そして、モンスターの増援は次から次へとやってくる。この『大樹の迷宮』は、物量と状態異常のコンビネーションで冒険者を殺しにかかってくる、最悪の場所だった。

 

「…ハァ…ハァ…さすがに、キリがねえな…」

 

【臨死臨界】のおかげで戦闘能力は維持できているが、毒の蓄積と、無限に湧いてくる敵の数に、俺は次第に限界を感じ始めていた。ここで無理をして死んじまったら(死なねえかもしれねえが)、元も子もねえ。

 

「ちくしょう! 今日のところは、この辺で勘弁しといてやる!」

 

俺は悔しがりながらも、撤退を決意した。深層攻略は、思った以上に甘くねえ。自分のLv.2という力が、まだまだこのダンジョンにおいては「強者」ではないことを痛感させられた。

 

ボロボロになりながらも地上へ帰還した俺は、今回の戦いを振り返る。

(あの毒キノコ、マジで厄介だったな…【拒却死】でも完全には防げねえのか。それに、数で押されるといくら俺でもジリ貧だ)

 

だが、収穫もあった。【臨死臨界】の効果は絶大だった。あのスキルがなけりゃ途中で力尽きていたかもしれねえ。

 

「次は絶対、あのクソみてえな迷宮を攻略してやる…! それと、毒に強くなる方法も、なんか考えねえとな…」

 

撤退はしたものの、俺の闘志は消えていなかった。更なる強さを求め、俺はまたダンジョンへと挑む決意を新たにするのだった。

 

 

____________________________________________________________________

 

 

19階層『大樹の迷宮』での死闘の末、俺はすごすごと18階層のリヴィラの街へと撤退してきた。新スキル【臨死臨界(ヘブン・ダイバー)】のおかげで死ぬことはなかったが、毒と物量に押し切られ、今のままじゃこれ以上進めねえことを思い知らされた。

 

「クソが…! あの毒キノコ、マジで許さねえ…!」

 

リヴィラの街は、俺が引き起こした「ポケ〇ンバトル」騒動の爪痕が生々しく残り、多くの冒険者たちが建物の修復や瓦礫の撤去作業に追われていた。その中に、見知った顔を見つける。

 

「よぉ、脳筋。まだこんなとこにいたのか」

 

汗だくで巨大な材木を運んでいたのは、あの時の脳筋、バファロだった。彼の周りでは、子分三人組も必死に働いている。どうやら、あの騒動の罰として、復興作業をさせられているらしい。

 

バファロは俺に気づくと、材木をドスンと下ろし、豪快に笑った。

「おう、トートか! お前も無事だったか! 見ての通り、俺たちはあのバトルの責任を取って、街の復興を手伝ってるのよ!」

 

「へっ、いい気味だぜ。…それよりよぉ、聞いてくれよ。19階層の奴ら、マジでイカれてやがる。毒の胞子吐いてくるキノコだの、クマみてえなくせにクソ速え奴だのがウジャウジャいやがんだ。一人じゃどうにもなんねえ」

 

俺が愚痴をこぼすと、バファロはいつになく真剣な顔で頷いた。

 

「だろうな。18階層から先は、世界が変わる。中層後半はそんなもんだ。ここから先は、信頼できる仲間とパーティーを組んでそれぞれの役割をこなすか、あるいは、たった一人で全てをなぎ倒せるほど圧倒的に強くなるか、そのどっちかしかねえ」

 

「仲間…か、圧倒的な強さ…か」

 

俺は腕を組み、バファロの言葉を反芻する。そして、一つの結論に達した。

 

「…なるほどな。やっぱり、ポチタと二人でパーティ組んで行くしかねえか!」

 

「あのウサギとか! いい加減にしろ!」

「まだ言ってるのか、お前!」

「そもそもお前が原因だろうが!」

 

俺のボケに、バファロと子分たちが綺麗にツッコミを入れてきた。ちぇっ、ノリの悪ぃ奴らだぜ。

 

その日から数日、俺はバファロのアドバイスを無視し、単独で何度も19階層に挑んだ。だが、結果は同じだった。【臨死臨界】で一時的に敵を圧倒できても、蓄積していく毒のダメージと、次から次へと湧いてくるモンスターの物量には対抗しきれず、深部への侵攻は果たせない。

 

無理な戦闘を繰り返したことでステータスは少しずつ上がっている実感はあったが、根本的な解決には至らない。

 

「くそっ…! アイツの言う通りかよ…」

 

消耗し、フラストレーションを溜めながら地上に戻ってきた俺は、ギルド近くの酒場で一人、エールを煽っていた。

 

「やっぱり仲間作るしかねぇのかな~。でも俺とパーティ組んでくれるような物好き、いるわけねえしな…。大体、俺はタナトス・ファミリアだし…」

 

そんなことをボソボソと呟いていた、その時だった。

 

「ホッホッホ。随分と悩んでおるようじゃな、トート」

 

隣の席に、いつの間にか見覚えのある小柄な爺さんが座っていた。

 

「うわっ、ジジイ! あんた、ゼウスか! いつからそこに!?」

 

「まあ、今来たところじゃよ。お主の顔に『悩み事があります』と書いてあったからのう。儂でよければ、話くらいは聞いてやろう」

 

ゼウスは人の良さそうな笑顔を浮かべている。このジジイ、ヘラに引きずられていった後、どうなったんだか知らねえが、相変わらず掴みどころがねえ。

 

「…別に。ちょっと、ダンジョンで壁にぶち当たってるだけだ」

 

「ほう、壁とな。して、どんな壁じゃ?」

 

俺は19階層の敵が強くて先に進めねえこと、パーティを組む必要性を感じているが組む相手もいねえこと、などをぶっきらぼうに話してやった。

 

「ふむふむ、なるほどのう。確かに、お主の戦い方は強力だがちと荒削りが過ぎる。何でも一人で解決しようとしすぎる癖もあるようじゃな」

 

ゼウスは楽しそうに頷くと、ニヤリと悪戯っぽく笑った。

 

「どうじゃ、儂のファミリアの者と一度手合わせでもしてみるかの? きっと良い経験になると思うぞ」

 

「…は? あんたのファミリアの奴と…?」

 

思いがけない提案に、俺は言葉を失った。このジジイ、一体何を考えてやがる…?

俺がその真意を測りかねていると、ゼウスはエールをぐいっと飲み干し、楽しそうに続けた。

 

「何、心配するな。ただの模擬戦じゃよ。お主のその『壁』を壊す、良いきっかけになるやもしれんぞ?」

 

ゼウスの瞳の奥が、キラリと輝いたように見えた。

 

「いや、それ俺の酒なんだけど。」

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