オラリオで好き勝手するのはまちがっているだろうか   作:JP_JK_Loling

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九話 お勉強

「どうじゃ、儂のファミリアの者と、一度手合わせでもしてみるかの?」

 

「…は? あんたのファミリアの奴と…?」

 

このジジイ、何を考えてやがる。俺は闇派閥(タナトス・ファミリア)の一員だぞ。まあ、そっちはバレてねえみてえだが。

 

「何、心配するな。ただの模擬戦じゃよ。お主のその『壁』を壊す、良いきっかけになるやもしれんぞ?」

ゼウスは悪戯っぽく笑う。その目には、俺の実力を試したいという好奇心と、何か面白いことを企んでいる光が見えた。

 

「…飯、食わせてくれるなら、考えてやってもいいぜ」

「ホッホッホ、無論じゃ。オラリオで一番うまい飯を食わせてやろう」

 

その言葉に、俺は釣られた。

 

翌日、俺はゼウスに連れられて、ゼウス・ファミリアのホームへと足を踏み入れた。そこは、俺が根城にしているタナトス・ファミリアの薄暗いアジトとはまるで違う、活気と熱気に満ち溢れた場所だった。すれ違う団員たちの誰もが、自信に満ちた顔をしている。こいつら、全員強えんだろうな…。

 

「さあ、ここが訓練場じゃ。早速だが、相手を紹介しよう」

 

ゼウスに案内された広大な訓練場で待っていたのは、人の良さそうな顔つきだが、その体つきは歴戦の戦士そのものである、一人の男だった。

 

「こいつはうちの団員でな、Lv.3の剣士じゃ。まあ、小手調べには丁度よかろう」

「よろしくな、坊主。手加減はできん性分でな」

モブ、もとい剣士の男は、そう言って木剣を構えた。

 

「へっ、Lv.3か。まあ、この前ぶっ殺した闇派閥の隊長と同じLv.1差か。余裕だろ」

俺は愛用の戦斧を肩に担ぎ、ニヤリと笑った。

 

だが、その余裕は、模擬戦が始まった瞬間に消え失せた。

 

「オラァ!」

 

俺は【拒却死(タナトス・アンチ)】の再生能力を頼りに、真正面から猛攻を仕掛けた。しかし、男は俺の荒々しい斧の攻撃を、最小限の動きと巧みな剣さばきで的確にいなし、捌き、受け流す。そして、俺の体の隙間に、的確に木剣のカウンターを叩き込んでくる。

 

「ぐっ…!」「おわっ!?」

 

派手さはない。だが、その一撃一撃が重く、的確だ。傷はすぐに再生するが、体勢を崩され、攻撃のリズムを掴めない。俺がどれだけ無茶苦茶な攻撃を仕掛けても、男は冷静に防御を固め、俺の体力を削ってくる。

 

俺が斬り込み、男が防ぐ。俺が再生し、また斬り込む。それを延々と繰り返す、完全な膠着状態。

 

「――そこまで!」

 

しばらく続いたその不毛な打ち合いを、ゼウスの声が止めた。

 

「はあ…はあ…なんで当たらねえんだよ、クソが…!」

「お前の力と再生能力は確かに凄まじいが、それだけだ。戦いがあまりにも雑すぎる。技術や駆け引きというものが、全く足りておらん」

 

男は木剣を下ろし、冷静に俺の弱点を指摘した。悔しいが、その通りだった。俺はただ、自分のスキルに頼ってゴリ押ししていただけだ。

 

「まあまあ、そう落ち込むな。これから学んでいけば良いことじゃ。それより、腹も減ったじゃろう。お待ちかねの食事の時間じゃ」

ゼウスはそう言って、俺の肩を叩いた。

 

案内された食堂は、訓練場以上に活気に満ちていた。そして、俺の前に並べられた料理を見て、俺は言葉を失った。

 

こんがりと焼かれた巨大な肉塊からは、食欲をそそる香りが立ち上り、添えられた野菜は宝石のように艶々している。シチューは、これまで嗅いだことのないような複雑で深い香りを放ち、焼きたてのパンは、小麦の甘い匂いがした。

 

俺は夢中で料理をかき込んだ。うまい。うまいなんてもんじゃねえ。人生で食ったどんなモンよりも、圧倒的にうめえ! 肉は柔らかく、噛むほどに旨味の洪水が口の中に広がる。シチューは、様々な具材の味が完璧に調和していて、一口ごとに新しい発見があった。

 

「うおおおお! なんだこれ! クソうめええええええ!!」

俺は涙を流しながら叫んだ。

「おい、モブのおっさん! これ作ったの誰だ!? 神か!? 料理の神様でもいるのか!?」

 

「ハハハ、落ち着け。作ったのは、神様じゃなくて、あそこにいる男だ」

 

俺が勢いよく振り返ると、厨房には、屈強な体つきの大男が一人、腕を組んで満足げにこちらを見ていた。無骨な武人といった風貌だが、その表情はどこか人の良さを感じさせる。

 

「あれが、うちのファミリアのエース、【暴喰】のザルドだ。Lv.5のな」

 

「ざるど…?」

 

「ああ。戦闘じゃあ敵に一切容赦のねえ男だが、普段はあんな感じの好漢でな。それに、あいつの作る飯はオラリオ1 美味いと評判なんだ。もっとも、あいつ自身の食生活はメチャクチャで、モンスターだろうが人の死肉だろうが何でも喰っちまう『悪食』だがな。」

 

Lv.5…オラリオ最強クラスの冒険者か。だが、今の俺にはそんなこと、どうでもよかった。

 

(この人が…あの神みてえな飯を…!)

 

俺は、畏敬の念を込めてザルドを見つめた。俺の中で、ザルドは「最強の冒険者」ではなく、「最高の料理人」として、神聖な存在になった。

 

それから数日間、俺はゼウス・ファミリアに滞在し、あの剣士の男から戦闘の基礎を叩き込まれた。そして何より、毎日ザルドの作る神の飯を腹いっぱい食った。これ以上ないほど幸せな数日間だった。

 

「じゃあな、ジジイ! それと、モブのおっさん! 飯、ごちそうさまだったぜ! また絶対食いに来るからな!」

 

俺は二人(とザルド)に別れを告げ、タナトス・ファミリアへと戻った。

 

「よう、神様。ステイタス更新、頼むわ」

 

俺は早速タナトスにイコルで背中を更新してもらう。模擬戦と訓練で得た経験値で、いくつかのアビリティが上昇していた。

 

「よし!」

 

新たな力を確認し、俺は決意を固める。ザルドの飯と、ゼウス・ファミリアで感じた本物の「強さ」。それらが、俺を新たなステージへと駆り立てていた。

 

「もっと強くならねえと、あの飯に釣り合う男になれねえからな! まずは、あのクソみてえな迷宮だ!」

 

俺は再び、ダンジョンへと挑む決意を固めた。

 

 

_______________________________________________________

 

 

俺は再び、19階層『大樹の迷宮』の入り口に立っていた。以前はただ不気味に感じたこの場所も、今の俺には絶好の狩り場にしか見えない。

 

「待ってやがれ、毒キノコども! 今度は前回みてえにはいかねえぜ!」

 

迷宮に足を踏み入れると、早速バグベアーの群れが唸り声を上げて襲い掛かってきた。以前の俺なら、真正面から突っ込んで、再生能力任せに暴れ回っていただろう。だが、今の俺は違う。

 

(まずは囲まれねえように、壁を背にする…!)

 

俺はすぐさま近くの巨大な樹の幹を背にするように位置取り、敵を正面に集中させる。そして、一匹のバグベアーに狙いを定めるが、深追いはしない。

 

(一人の相手にこだわらない…!)

 

戦斧で一撃くれてやると、すぐに次の相手へとターゲットを切り替える。足を止めず、常に動き回りながら、敵の位置関係を把握する。敵の一体を、別の敵の盾にするように動き、攻撃の射線を限定させる。

 

「オラオラオラァ!」

 

再生能力があるからといって、無駄な攻撃は食らわない。守りに入り過ぎず、しかし的確に敵の攻撃をいなし、弾き、最小限の動きでカウンターを叩き込む。地面に倒されても、即座に受け身を取って立ち上がる。蹴り技のような大きな隙を生む動きは、極力使わない。

 

劇的に戦闘スタイルが変わったわけじゃねえ。俺の戦いは、相変わらず荒々しく、血に飢えた獣のようだ。だが、その動きには、以前にはなかった「技術」と「駆け引き」の片鱗が確かに宿っていた。

 

「――シュ!」

 

戦闘の最中、またしてもダークファンガスが紫色の毒胞子を噴射してきた。

 

「またテメェかよ!」

 

完全に避けることはできず、いくらか吸い込んでしまう。以前と同じように吐き気と目眩が襲ってくるが、どこか違和感があった。

 

(ん…? 前より、毒の回復が早えな…体が慣れてきたのか? )

 

完全に平気になるわけではないが、明らかに体の不調が引くまでの時間が短縮されている。これはデカいアドバンテージだ。

 

毒の影響が軽微になったことで、俺の動きはさらに洗練されていく。以前は手も足も出ずに撤退させられた、バグベアーとダークファンガス、そしてガン・リベルラの連携攻撃にも、なんとか対応できるようになった。

 

「ヒャッハハハ! どうだ! これが今の俺だぜ!」

 

気づけば、周囲にはモンスターの死体が山のように転がっていた。息は上がっているし、体もボロボロだが、心は妙にスッキリしていた。

 

「なるほどな…ただ再生して殴るだけじゃ、ダメだったってことか。ちょっとだけ、あのモブのおっさんに感謝してやるか」

 

俺は自分の成長を確かに実感していた。以前は恐怖の対象でしかなかったこの19階層が、今の俺にとっては、最高の経験値を稼げる狩り場へと変わっていた。

 

「よし! この調子で、ここでステータスを上げまくってやる! あのオッドアイ女に追いつくには、これくらいじゃ全然足りねえからな!」

 

俺は戦斧を担ぎ直し、新たな決意を胸に、さらに迷宮の奥深く、次のモンスターの群れへと向かって歩き出した。




最強のファミリアならモブでも強いよね~
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