――燃えていた。
紫色の炎が、闇夜に咲いていた。
それは幻想ではなく、記憶の中に確かに焼き付いた“現実”。炭のように崩れ落ちる家、倒れ伏す家族、鬼の嗤い声。炎に包まれたその場所で、ただひとり生き残った少年――それが霞瀬紫蓮だった。
あの夜、紫蓮は幼い妹を守ろうとして、何もできなかった。
炎のように熱く、それでいてどこか凍てついた怒りが、彼の剣に宿った。煉獄家に引き取られた彼は、炎の呼吸を学ぶ。しかし、炎の“まっすぐな熱さ”がどうしても自分には馴染まなかった。
「君は……その剣では人を守れないぞ」
そう言ったのは、煉獄杏寿郎だった。
優しい声だった。だが、その優しさが当時の紫蓮には眩しすぎた。
――なら、俺は俺の火を、俺の刃を、俺の戦い方で手に入れる。
そう決めて、紫蓮は煉獄家を離れ、自らの呼吸を生み出した。「紫炎の呼吸」――それは復讐と怒り、そして絶対にもう誰も失いたくないという願いの結晶だった。
***
「……なるほど、それが君の過去なのね」
蝶屋敷の縁側に座りながら、紫蓮はぽつりぽつりと語った。胡蝶カナエは静かに頷き、隣で聞いていた。
夜風に髪がなびく。紫蓮の瞳は、過去の闇から抜け出すように少しだけ穏やかだった。
「ずっと……誰かに話したことはなかった。でも、あなたには話してもいいような気がした」
「ふふ、それは光栄ね。でも、しのぶにも話してあげて。あの子、意地悪に見えるかもしれないけど……あなたのこと、ちゃんと心配してるのよ」
紫蓮は黙って空を見上げた。星がいくつも瞬いていた。
すると、どこからかふわりと蝶が舞い降りてくる。気がつけば、しのぶが立っていた。
「……勝手に、人の心を見透かすのはやめてほしいですね、姉さん」
そう言いながらもしのぶは、紫蓮の隣にすっと座る。手には、包帯と薬があった。
「さっきの任務で、右腕を少し切ってました。見せてください」
「別に……この程度」
「そうやって、いつも無理するんですね。だから柱になれないんです」
その一言に、紫蓮はぎょっとした。
「……柱になりたいなんて、一言も」
「ええ、でも本当はなりたいでしょう? あの夜、守れなかった自分をずっと許せずに、戦い続けてるんでしょう?」
しのぶの言葉は鋭く、それでいてどこか温かかった。紫蓮の心に刺さった棘が、少しだけ動いた気がした。
「……じゃあ、お前は?」
「私も同じです。許せてません。でも、だからこそ“笑って”いるんです。人を助けるたび、少しずつ前に進めるように」
紫蓮は黙って腕を差し出した。しのぶが器用な手つきで包帯を巻きながら、ふと目を細める。
「……意外と、素直ですね」
「……うるさい」
そのやり取りを見ながら、カナエは微笑んだ。蝶屋敷の夜は、少しだけ暖かくなっていた。