お姉ちゃんを自称する年下の幼馴染にお世話される事になった~甘やかされ過ぎて、俺はもう弟で良いやと思えてきた~   作:138ネコ

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第21話「彩姉、今日スカートじゃん」

「ジェットコースター、楽しかったね!」

 

「そうだな!」

 

 ジェットコースターから降りた彩音が、興奮冷めやらぬ表情で楽しかったなどと感想を口にする横で、笑みを張り付けたまま肯定する優斗。

 今の彼には、彩音の言葉をただ肯定するしか出来ない。心の底から楽しいなどと思っていなかったので、楽しい感想など「終わって降りるときにほっとした」以外見当たらない。

 だが、隣で嬉しそうにしている彩音がいるのに、そんな態度を表に出すわけにはいかない。

 

 もし弱気なところを見せようものなら「本当は嫌だった?」と言って無理して付き合わせたことを気に病み、傷ついてしまうかもしれないから。

 なので、歩く際にちょっとだけフラフラしそうなのを、必死に耐えている辺り男の子である。

 

 それに、ギネス級のジェットコースターに乗ったんだから、もう満足なはずだ。

 次はゆっくりした、落ち着いた物を選ぼう。

 

「優斗君。お姉ちゃん次はあれに乗りたい!」

 

「おおう……」

 

 それはバベルの塔がごとく高くそびえ立っていた。

 その塔を、人を乗せた椅子が頂上まで登っていったと思ったら、一瞬の間の後に、高所から一気に落ちていく。

 聞こえてくる絶叫は、まるで神の怒りをかってしまった愚かな人類の悲鳴のようである。

 

「それとも、あっちの方が良いかな?」

 

 バベルの塔よりも遥かに高くそびえ立つ巨大な塔。

 人を乗せた椅子が、物凄い速度で頂上まで飛び上がったと思えば、今度は一気に落下する。

 あぁ、それはまさに人類の業、イカロスの翼である。

 

 彩音が指さすのは、神代の昔に人類が犯した2つの禁忌。

 なぜ人は罪を犯すのか、なぜ繰り返してしまうのか。

 

 そんな下らない妄想に逃げたところで、現実から逃げ出す事は出来ない。

 優斗君はどっちが良いと聞かれ、内心はどっちも嫌である。

 どっちも嫌だが、高所から降りるだけのバベルの方がまだマシである。イカロスと比べれば、バベルの方が遥かに低いので。 

 

 どう考えてもバベル一択の状況に見えるが、そう簡単に選べるほど甘くはない。

 彩音の目が、明らかにイカロスの翼を見てキラキラさせているから。言葉にしなくても分かる。あれに乗りたいと。

 

 どっちの選択肢も捨てがたい、というか捨てたい優斗。

 遠くから見る分には余裕そうに見えるが、そんな余裕はまやかしであることを先ほどのジェットコースターで嫌と言うほど分からされた。

 何か、何か言い訳はないか。

 

 ワクワクとした顔で見つめる彩音。

 心地のよい風が、ふわりと彩音の前髪をなびかせる。

 

「彩姉。俺としてはどっちにも乗りたい気持ちで山々なんだけど」

 

「山々なんだけど?」 

 

「彩姉、今日スカートじゃん」

 

「……あっ!」

 

 一瞬だけ「?」を頭に浮かべ、すぐにハッとなる。

 そう、風と共になびいた彩音のスカート。もしこれでむき出しの椅子に座り上下したらどうなるか。

 

「スカート抑えてれば、大丈夫じゃないかな?」

 

「そうか? あの人とか、見えちゃってるけど」

 

 そう言って指さす優斗。

 指さした先を、彩音が目を細め注視する。顔を少し前にやったり後ろに下げたり、必死に注視してみるが、スカートの中身が見えてるのかここからは分からない。

 それもそのはず。優斗の口から出まかせなので。

 

「見えてる?」

 

「見えてるよ。ほら、今とか」

 

「えぇ……」

 

 遠くだから良く分からない、だが弟は見えてるよと言って、何度も「ほら」と指さす。

 自信満々に言われれば、確かに見えている気がしなくもない。

 

「あー、確かに見えちゃってるかも」

 

「だろ?」

 

 心の中でガッツポーズを決める。

 

「だから、今日はやめといて、今度また一緒に来た時にしよう」

 

「うん。そうだね。その代わり絶対にまた一緒に来てよ」

 

 名残惜しそうにバベルとイカロスを見た彩音が、ちょっとだけ残念そうな声で、しかし、また一緒に来てよと嬉しそうな声で言う。

 

「……はい」

 

 結局問題を後回しにしただけではないかと疑問がよぎるが、今この場を切り抜けられた事をとりあえず喜ぶ事にする。

 が、彼は気づいていない。

 

「じゃあ、今日はジェットコースターを網羅しよっか!」

 

 ここは遊園地、絶叫マシーンはいくらでもあるという事を。

 なんなら、次も一緒に来て、今度はもっとやばいものに乗らないといけないという事に。

 

「アーッ!!!!!!!!」

 

 縦に横にとブンブン回され、気分はペースト状になったチーズである。

 彩音が満足するのは、昼を過ぎた頃だった。

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