お姉ちゃんを自称する年下の幼馴染にお世話される事になった~甘やかされ過ぎて、俺はもう弟で良いやと思えてきた~   作:138ネコ

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第4話「優斗君。彩音じゃなくて、あ・や・ね・ぇ……でしょ?」 

 優斗がその違和感に気が付いたのは、帰宅して彩音が夕飯の準備をしている時だった。

 リビングのソファに腰を掛け、隣で口を開けてバカ笑いをしている遥とTVを見ている時に、ふと気づく。

 

(そういえば彩姉、1年生の下駄箱から出てきた気が……)

 

「なあ、彩姉。それと遥も。ちょっと良いかな?」

 

「どうしたの?」

 

 彩音が調理の手を止め、優斗を見る。

 遥も「アンちゃん、なに?」とニコニコ笑いながら優斗を覗き見る。

 

「いや、さっき下校の時にさ、彩姉1年の下駄箱から出て来てなかった?」

 

 優斗の言葉に、彩音と遥が固まる。

 その沈黙で、優斗は察する。

 

「……彩姉ってもしかして、1年生?」

 

「そっか、そうだよね。優斗君、気づいちゃったか……」

 

 一瞬だけ暗い表情を見せた彩音だが、即座にニッコリと微笑む。 

 

「うん。そうだよ。でも、心はお姉ちゃんだから、大丈夫だよ!」

 

「彩姉、本当に1年!? マジで年下なの!?」

 

 そう言って、包丁片手にガッツポーズを見せる彩音。

 心はお姉ちゃんだから大丈夫。などという、ツッコミどころしかない言葉を口にしているが、優斗にはそんなツッコミを入れる余裕すらない。

 今まで姉と思っていた相手が年下だったのだから。

 

 驚き素っ頓狂な声を上げている優斗に、遥が「本当だよ?」と言っているが、耳には入っていないようだ。

 年下相手に姉呼びしてた事で頭を抱える優斗だが、驚きはそれだけでは終わらない。

 

 話を聞かない優斗に対し、ちょっと強めに肩を叩く遥。

 強めに肩を叩かれ、やっと気づいた優斗が遥の顔を見て、溜め息を吐く。

 これと彩音が同い年なのかと。

 

「あっ、それとボクは3年生だよ! お姉さん!」

 

「……へっ?」

 

 えっへんと、遥がない胸を張ってドヤ顔をする。

 対して、優斗はフリーズしている。

 完全に意識が宇宙へと飛び立ち、宇宙で猫と戯れてしまっている。

 

 意識を飛ばす事数秒。

 やっとの事で戻ってきた優斗が、はっとある事に気づく。

 

「いや、待て。じゃあなんで遥は俺の事を兄(あん)ちゃんって呼んでるんだよ!?」

 

「安藤だからアンちゃん!」

 

 遥の返事に、本格的に頭を抱える優斗。

 今の今まで、兄貴だからアンちゃん呼びされていたと思っていたので。

 

「あー、あれか。今朝のドッキリって奴だろ! なっ? なっ?」

 

 もしこれが事実なら、自分は年下の少女を「姉」呼びして甘えていた事になる。

 昨今では、年端も行かない少女を「ママ」と呼ぶやべぇ奴らが居る。

 だが、それはあくまで2次元の話。

 

 リアルで年下の少女に「姉」などと呼んでいたら通報待ったなし。

 いや、そんな法があろうがなかろうが関係ない。

 たとえ法が許しても常識が許してくれないので。

 

「もしもし母さん。ちょっと聞きたい事があるんだけど。彩姉って、もしかして俺より年下?」  

 

『あっ、やっと気づいたの?(笑)』

 

「ふざけんな!!」

 

 捨てセリフと共に通話を切り、スマホを投げ捨てる優斗。

 

「俺の事をアンちゃん呼びの遥が姉で、俺が姉呼びしてる彩姉が妹で、いかん。頭が痛くなってきた」

 

「あはは、アンちゃん、可愛い!」

 

 ゲラゲラ笑う遥の頭に、ゲンコツを落としたい優斗だが、相手は腐っても年上。

 そもそも勝手に自分が勘違いしていただけなのだから、それはただの八つ当たりにしかならないと必死に自分を宥める。

 が、数秒後に「やーい、勘違い。ザーコザーコ」と笑う遥を見て、一旦考える事をやめてゲンコツを落とす。

 

「そっか……それなら、彩姉の事も彩音って呼んだ方が良いよな。ごめんな彩音、無理に姉面させて」

 

 彩音が何故彩姉呼びを受け入れたのか優斗には分からない。

 もしかしたら、自分が甘えるせいで彩音に変なプレッシャーを与えてしまったのかもしれない。

 今までの行動を顧みて、優斗は自省の念に駆られる。

 

 今更かもしれないが、自分は年上の兄として振る舞おう。

 瞳に決意の色を宿し、彩音を見る優斗。

 そんな優斗に対し、彩音がニッコリと微笑む。

 

「優斗君……年下だからお姉ちゃんになっちゃいけないなんて、法律ないよね?」

 

「えっ……いや、でもほら、彩音だって嫌だろ?」

 

「優斗君。彩音じゃなくて、あ・や・ね・ぇ……でしょ?」 

 

「あっ……はい」

 

 彩音の圧に押され、思わず返事をする優斗。

 力では優斗の方が遥かに勝っているだろう。

 だが、長年染みついた「姉」と「弟」という関係のパワーバランスはそう簡単に崩す事が出来ない。

 例え相手が年下だとしても。

 

「優斗君。『はい』じゃなくて、彩姉でしょ?」

 

「え……っと、彩……姉……」

 

 優斗の返事に満足したのか。「ふふ、いい子ね」といつもの柔らかい笑顔を見せると彩音が夕飯の準備に戻る。

 脱力し、優斗がソファに崩れ落ちるように腰かける。

 

 TVから流れてくるバラエティ。

 普段ならバカみたいに笑える内容なはずなのに、それを見て優斗は乾いた笑いしか出せないでいた。

 

「アンちゃん。彩音ちゃんはお姉ちゃんって存在に憧れてるんだよ。付き合ってあげてね」

 

 遥が優斗の腕にくっ付くと、耳元でコッソリ囁く。

 そうかと、遠くを見つめながら軽く小さな返事を返す。

 

「確かにこんなのが姉だと、年下はしっかりしたお姉さんという存在に憧れちゃうよな」

 

「散々『あやねぇ』って呼んで甘えてたアンちゃんがそれ言うの?」

 

 皮肉に対し超ド級のブーメランで返され、何も言い返す事が出来ない。

 優斗がガックリと項垂れ、チラリと彩音を見る。

 鼻歌交じりに料理を作る彩音。

 

「彩姉。何か俺に手伝える事はないか!?」

 

「もう。お姉ちゃんに任せてれば良いの。めっ!」

 

「あっ、はい……」

 

 ちょっとくらいは年上らしいところを見せようと、名誉挽回をしようとするが、ただの恥の上塗りである。

 風呂場の掃除や、終わった後の皿洗いや片付けくらいはやると申し出てみるが、最終的に彩音に「めっ」をされてしまう。

 本人としては、少しでも年上としての威厳を見せるために提案しているつもりだが、傍から見ればお姉ちゃんのお手伝いをしたくて駄々をこねている弟にしか見えないのは、彼の名誉のために黙っていよう。

 

 そんな様子を見て遥がクスクスと笑い、やがてテレビを見てバカ笑いを再開する。

 少し凹んだのちに、仕方がない。明日から頑張ろうと無理やり気持ちを切り替え、優斗もTVを見て同じようにバカ笑いを始める。

 

 そんな2人を見て、満足そうに彩音が微笑む。

 

「優斗君、安心して。お姉ちゃんが、ちゃんとお世話してあげるから。ねっ?」




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