お姉ちゃんを自称する年下の幼馴染にお世話される事になった~甘やかされ過ぎて、俺はもう弟で良いやと思えてきた~   作:138ネコ

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第8話「(もしかしたら、今日は『アレ』が出来るかもしれない!)」

「ただいま」

 

「お帰りなさい」

 

 帰宅し、玄関で靴を脱ぐ。

 綺麗に揃えて置かれた靴は彩音のものだろう。

 それ以外の靴がない事から、遥はまだ来ていないのかなどと思いながら、リビングへ向かう。

 

 夕食の準備をしているのだろう。リビングに向かう前から良い匂いが漂ってくる。

 先ほどまではなかった空腹感が、おいしそうな匂いがするたびに「早く食べたい」とお腹を伝って主張し始める。

 

「彩姉、今日のご飯は何?」

 

「優斗君。帰って来たら、まずはちゃんと手を洗わないとダメだよ」

 

「はいはい」

 

「はいは一回で良いの!」

 

「はーい」

 

 どこの家庭でも見られるようなやり取りをしながら、2人して笑う。

 もはや定例となったいつものやり取り。

 だが、彩音は微妙な違和感を覚え、その違和感が何か分からず、下唇に手を当て首をかしげる。 

 そんな疑問は、優斗が声をかけると益々膨れ上がっていく。

 

「おっ、今日はハンバーグか」

 

「うん。お姉ちゃん特製ハンバーグだよ。優斗君ハンバーグ好きだったよね」

 

「えっマジ!? 彩姉のハンバーグとか何年ぶりだろ!」

 

「もう少ししたら遥ちゃんも来るから。それまでに着替えてきてね」

 

 彩音の言葉に、素直に返事をして優斗は自分の部屋へ向かう。

 その後ろ姿を見て、彼女の中で確信めいたものが生まれる。

 

(今日の優斗君。なんか弟っぽい!)

 

 初めて彩音が家に来た時は、数年ぶりの再会でどこか恥ずかしそうにしていた。

 それからしばらくして、慣れてきた頃には彩音が年下だと知り、どこか遠慮がちだった。

 それが今日はどうだ。どこか自然体なのだ。彩姉と自然な感じで優斗が言っているのだ。

 具体的にどこがと言われたら返事に困るが。

 

(もしかしたら、今日は『アレ』が出来るかもしれない!)

 

 フンスと、気合を入れると、見計らったタイミングで廊下から優斗の足音が聞こえてくる。

 足音と共に、彩音の鼓動の音も大きくなっていく。

 

「優斗君。ハンバーグを焼くのは遥ちゃんが来てからで良いかな?」

 

「ん。そうだな」

 

 時計を見ると、時刻は18時前。

 夕食の時間ではあるが、まだ早いと言えば早い時間である。

 とはいえ、普段は遥が居なくても料理を作ってしまう事が多い。遥が時間にルーズな性格なので。

 彩音にしては珍しい提案だが、優斗が特に疑問に思う事なかった。多分皆で一緒の夕飯を食べたいのだろう程度に考えて。

 

「ところで、優斗君」

 

 冷蔵庫からジュースを取り出した優斗が、彩音に話しかけられる。

 

「今日は遅かったね」

 

 思わずビクつく優斗。

 今日遅くなったのは、田中に彩音の事を話していたから。

 別にやましい事をしていたわけではないが、そのまま説明するべきかどうか判断しかねる。

 

 チラリと彩音を見ると、少しだけ硬い表情をしている。別に彩音が怒っているわけではない。彼女はただ緊張しているだけだ。

 そんな彩音に対し「もしかして、俺何かやっちゃいました?」などとくだらない事を思い浮かべながら、返事に迷うこと約1秒。

 

「友達に図書室で勉強教えて貰ってたんだよ」

 

「そうだったんだ」

 

 図書室に行ったのは嘘ではない。

 とはいえ、勉強を教えてもらっていたで済ませれば良いものを、わざわざ図書室で借りた本のタイトルまで言ってしまう辺り、逆に怪しさが増していく。

 自らアリバイを次々と話してしまう辺り、優斗は嘘をつくのが苦手なのだろう。

 だが、そんな怪しいアリバイ話を彩音は疑問に思わない。そもそも彼女にそんな事はどうでも良かった。

 

「そっか。お勉強してたんだ」

 

 優斗にゆっくり近づくと、顔を上げてゆっくりと手を上げる。

 

「えらいえらい」

 

 彼女がしたかったのは、そう。なでなでである。

 優斗が何をしていたかはどうでも良い。とりあえず褒める理由が欲しかったのだ。

 遊びに行っていたなら、まっすぐ帰って来れて偉い。夕飯までに帰って来れて偉い。そんな感じで。

 

 初めて佐藤家に来た頃は、数年ぶりの再会でまだぎこちなくて出来なかった。

 優斗が年上と分かってからは、遠慮してする事が出来なかった。

 だけど、今日はどこか自然体の昔のような弟感があった。だからなでなで出来るのではないだろうか。

 その為の理由作りである。

 

「あっ、私の方が年下なのになでなでとかは、優斗君嫌だったかな」

 

「そんな事ないぜ。彩姉に撫でられるのは、その、好きだったし」

 

「そっか、お姉ちゃんのなでなで好きだったんだ」

 

 気恥ずかしさから、弟になってあげるのも年上としての役目なんて言葉は完全に頭から吹き飛んでいた。

 それでも優斗の口から出たのは、彩姉に撫でられるのは好きだったである。

 顔を赤らめ、目線を下に逸らしながらも、撫でる手を止めない彩音。

 

「彩音ちゃん。ハンバーグ出来てる!?」

 

 バンとデカい音を立て、玄関のドアが開かれる。

 音に反応し、ビクっと離れた二人が、示し合わせたように回れ右をして反対方向を向く。

 

「は、遥ちゃん。ハンバーグ今焼くから待っててね」

 

「遥。外から帰って来たらまずは手洗いだろ」

 

「はーい」

 

 何故か顔を赤らめあたふたしている彩音と優斗に、少しだけ疑問に持ち首をかしげる。

 だが、そんな疑問は、肉の焼ける音と匂い共にかき消されていく。

 

(優斗君、また頭を撫でさせてくれるかな?) 

 

(弟なんだから、彩姉に頭撫でられるのは普通だよな)

 

 胸のドキドキはいまだに止まらない。

 そのドキドキの理由が何か、優斗も彩音もまだ知らない。




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