誤字修正についても、本当に助かります。ありがとうございます!
「ここすき」機能について、今まで知らなかったのですが、つい嬉しくなりますね。
――早朝。
今では慣れた道を歩き、騎士団庁舎に向かうエミヤ。
いつものように騎士たちの稽古相手を務めるため、一人歩いていた。
とはいえ、特別修練の内容を考えているわけではない。
ベリルのように指導しているわけではない為、正直、あまり忙しくない。
無論、道場の時に比べると相手の力量が格段に上がっているため、
相応の集中をして取り組むわけだが、こちらも元々英霊だったのだ。
決して歴戦の英雄たちと比べることはできないが、さすがに並みの騎士たちとは
到底追いつけない程の差があるのは事実だ。
力量の差、という話題から派生するが、ヘンブリッツとは、あの模擬戦以降も何度も打ち合っている。
さすがに他の騎士たちとは技量が異なるため気を抜くことはないが、明確な経験の差で十分対処できる。
何より命の奪い合いではないのだから、気持ちは軽いものだ。
怪我をしないように、怪我を負わせないようにと頭の隅で意識しているが、
便利なことで騎士団は訓練用にも質の高い治癒薬――ポーションを使用できる環境がある。
であれば、ある程度の怪我は許容できるのだ。痛い思いをして心が折れるものなどこの修練場には一人もいない。
話を戻すと、騎士団の力量として、やはり騎士団長アリューシアの話にも触れておこう。
彼女は大量の執務を抱えているため、ベリルが本格的に指南役として場をまとめられるようになった以降は
執務室で業務に励む時間が増えた。組織のトップである以上、書類絡みの仕事も多くあるのだろう。
ならば鍛錬が疎かになるのが通常ではあるのだが、アリューシアは僅かな時間を捻出して鍛えていた。
騎士団長だからこそ有事の際に国家の剣として最前線に立つ為、というのは理解できるが、
彼女の休息時間が足りているのか、常に私もベリルも心配している。
とはいえ、騎士とは部外者である我々に出来ることも少ない、今度スープでも水筒に用意するか。
鍛錬の時間が不定期であるため、その時に居合わせた私やベリルが相手をする。
その技量は“轟剣”ヘンブリッツとは方向性が異なりながら彼を上回る剣士、
“神速”の二つ名を持ち、ベリルの教えを習得した彼女の剣技は、非常に強かった。
私がよく知る最速の英雄、光の御子、クランの猛犬を彷彿とさせる速度の打ち込みには、
私も木剣を使用した模擬戦では防ぎ切ることで手一杯となる場面も珍しくない程だ。
もっとも、ランサーが相手であれば、そもそも剣技だけでは勝ちの目は見い出せないのだが、
彼女はヘンブリッツ同様、搦め手への耐性はまだ経験が足りず、私やベリルが一歩勝っている。
しかしながら。
冒頭の心情に戻るが、要は余力がある。
ビデン村の空気感に馴染みながら、狩りの手伝いをしていた時の方が、まだ計画的に時間を使えていた。
さて、どうしたものか。
と考え事をしながら、修練場にたどり着いたとき、騎士の一人から言伝を受けた。
どうやらアリューシアから話があるようだ。
心当たりはないが、いったい、何が待ち構えているものか…
騎士に礼を言い、エミヤはそのまま執務室に歩み出した。
◇ ◇ ◇
午後の陽射しが降り注ぐ都市の中央通り。
ベリルは、荷物を片手に一人、人混みを避けるように歩いていた。
普段は修練終わりにエミヤと稽古の振り返りや、夕食の話をすることが多いが
今日は珍しいことにエミヤに用があるとのことで、一人時間を過ごしていた。
毎日顔を合わせるわけではないものの、自然と一緒に行動することが多いエミヤがいないのは
少しだけ寂しい気もするが、せっかくなら一人時間を満喫してみようと、普段見ない商店に足を運んでみたのだ。
(それにしても、慣れないなぁ……やっぱり)
田舎育ちの身には、都市の喧騒は少しばかり息が詰まる。
見知った顔も少なく、道場の静けさが懐かしくなるような頃――
「……先生?」
不意にかけられた声に、ベリルは足を止めた。
振り向けば、見覚えのある少女が立っていた。
黒色の髪に端整な顔立ち、整った制服を着てるようだけど――もしかして。
「フィッセル?見違えたね」
思わず微笑みが浮かぶ。
「先生。お久しぶり」
都市に来てから、久しぶりの弟子たちに会えるなんて、師として幸せなことだろうか。
「フィッセルも、すっかり立派になったね」
ベリルの言葉に、フィッセルはわずかに顔をほころばせる。
「今は魔法師団のエース、たくさん頑張った」
その表情からは、自信と誇らしさが滲んでいた。
「先生こそ、都市に居たんだね。まさか再会できるなんて」
「ああ、今は騎士団の特別指南役になってね。こちらで剣を教えてるんだ」
「私もね。今も先生の教えを、ちゃんと活かせてるよ。“剣魔法”が得意なんだ」
「……剣魔法、か」
ベリルがその言葉を聞いた瞬間、ふとある人物の姿が脳裏をよぎった。
(エミヤも魔法を…いや、本人曰く、魔術を使って剣を展開してたけど。似たようなものか?)
だが、詳しく聞くうちに、その考えが違っていたことに気づく。
フィッセルは、剣を媒体とし魔力を纏わせることや斬撃を飛ばすといった剣魔法を用いるようだ。
一方、エミヤのそれは――
(……違う、よなぁ。俺は魔法も魔術もよく分からないけど。あれは、“造る”魔術だった)
剣を造る。矢を生む。
もちろん強度を上げる魔術や能力を向上させる魔術を使っていたが、
彼の一番の魔術は、まるでゼロから一を作り出しているような。
(たまに、あまりに自然に武器を出現させるから、まるで“取り出してる”ようにも感じるんだよなぁ)
「どうしたの?」
フィッセルが不思議そうに問いかける。
いかん、気付かないうちに、つい考え込んでしまったみたいだ。
「いや、少し思い出してね。……剣魔法ってのは、面白いな」
「そう?先生にも、もっと詳しく教えてあげよっか」
「気持ちは嬉しいけど、魔法はよく分からないからなぁ」
そんなベリルの返事は、昔から変わらない姿を思い出させてくれて、フィッセルも思わず笑みがこぼれていた。
◇ ◇ ◇
「次の注文で、肉料理のストックが切れます!!」
「任せたまえ!すでに一定量新しくできているとも!」
「エミヤさん!丼ものの用意をお願いできますか!?」
「無論、すでに作り始めている!君たちは配膳の用意をしてほしい!」
「「「はい!!!」」」
厨房で鍋を片手に、誰よりもテキパキと動き指示を出す料理人。
端的に言うならば、エミヤは食堂でアルバイトをしていた。
朝、執務室に呼ばれたエミヤは、アリューシアから相談を受けていた。
騎士団が運営している食堂があり、都市で暮らす人々にも開放している
それなりに大きい場所なのだが、中で運営している騎士や料理人が、それぞれ任務や体調不良で休んでおり、
人手が足りなくなっている、といった話だった。
もちろん理由が理由なだけに、臨時休業にしてもよいのだが
都市の人たち、特に所得が少ない市民たちも家族で利用する人たちが多いようで、
アリューシアとしても叶うなら代わりの者を手配したいと考えていた。
そこで真っ先に思い浮かべたのが、エミヤだったというわけだ。
騎士ではないが、エミヤであれば信用できる、とのこと。
なにより、一度彼の料理姿を見てしまうと頼まずにはいられなかった、などと話していた。
事前に共有していたヘンブリッツからも同様の回答があったらしい。
予期せぬ依頼だが、期待されたからには応えようと承諾したエミヤは
まずは早速厨房に行き、メニューを把握し、ピークタイムを若手たちと共に乗り越えていた。
食事に来た騎士たちも、まさか普段利用する食堂の厨房奥で、機敏な所作で鍋を振るう歴戦の料理人が
あの鬼のように強い戦士だとは想像できるわけがない。
後日、彼の噂は瞬く間に広がり、密かにファンもできたほどだった。
◇ ◇ ◇
波を乗り越えて、落ち着いた後、若手たちを休憩に行かせたエミヤは
まかない用の軽食を作って引き上げようとしていた時、カウンターから声がかかった。
「お主、すまんがこちらに来てもらえるかの?」
どうやら、小さなお嬢さんがカウンターに訪れたようだ。
他の者は休憩を取ってもらってるため、代わりに注文を受けることにした。
そうして返事をしながらカウンターに出たエミヤは、少し前の自身の軽率さを恨んだ。
油断していたとも思えるが、それでもただの食堂に、“王国最高位の魔術師”がふらりと訪れるなんて
身構えろという方が無理のある話だった。ふと自身の幸運値が低かったことを思い出す。
「そう、お主じゃお主。ようやく顔を出したの」
誤魔化そうかとも考えたが、相手を見ると既に自分が何者かバレている様子。
それも、どうやら私が通常の魔術師ではないことまで、見抜かれているようだ。
「急で済まんが、ちと今から付き合ってもらえるかの?
其方と“いろいろ”と、話がしたいのじゃ。構わんかの、エミヤとやら」
名まで伝わっているのであれば、観念するしかあるまい。
はたして、会話だけで済めばいいのだが…
内心の不安が悪い方向に当たるだろう確信をしたエミヤは、
表情に出さずに、彼女のお誘いに了承した。
その後の戦闘シーンまで入れようと考えてましたが
長くなってしまうかと思いまして、一度区切りとなります。
料理万能お兄さんの面を出しすぎてしまっている気もしますが、
直近読み返した作品が、FGO、えみご、CCCの無銘さんだったので、つい、、。