片田舎の剣聖 錬鉄の英霊   作:ナチュル志保

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すごく励みになります。
このお話のエミヤさんは、ベリル先生や弟子たち、育成する者たちと会話することが多いので、穏やかめな会話が多いのですが、私は皮肉マシマシの会話シーンも大好きです。
表現できる実力がないのが悔しい、、。


【壱章・第6話】『交差する理(ことわり)』

 

ルーシー・ダイアモンド。

 

レベリス王国魔法師団の師団長。すなわち王国最強の魔術師。

少女の見た目をしているが魔法で若く見せているため、年齢不詳。

魔術力・魔力量共に図抜けており、この世界の魔術に関しては比肩する者がいない人物。

 

以上が、エミヤが事前に騎士たちから得ていた彼女に関する情報であった。

 

食堂から指名で呼ばれたエミヤは、休憩中の騎士たちに事情を話し、抜けさせてもらった。

元々助っ人として呼ばれており、ピークタイムも過ぎていたので抜けるのは問題ないとのことで、

むしろ魔法師団長から呼ばれたことについて、騎士たちから心配されていた。

エミヤとしても、どのような展開になるか予想出来なかったが、不安にさせたままなのも良くないと思い

軽く話してくるだけだ、どうと言うことはないと伝え、食堂を後にした。

 

そして彼女に言われるままに付いていくと、小さな森の外れにたどり着いた。

 

昼の熱を残した土と、ほのかに湿り気を含む草の匂いが混じり合い、夕暮れの空気はしんと静まり返っていた。

そこはルーシー・ダイアモンドが“個人的に”管理する魔術実験用の私有地であり、周囲には誰もいない。

踏み込む際、軽く周囲を解析したところ、防音や認識阻害の類の結界が張られていたが、

害のある結界は感じなかった。無論、自身の知る魔術とは性質が異なるため、確信までは得られないが

そもそも相手も私が魔術師だと分かっているのだから、あからさまな場所には来れないだろう。

 

エミヤは距離を開けたまま静かに立ち、振り返るルーシーに対して言葉をかけた。

 

「さて、いい加減目的を話してもらいたいものだ。

それとも君たち魔法師団は研究の一環で人攫いをする連中なのかね」

 

「そうカッカとするでない。

たしかに説明もなしに連れてきたのは悪かったと思っとるが、短気は損じゃぞ」

 

まったく悪びれる様子もないルーシーに、呆れた仕草をしながら、エミヤは続きを促す。

 

――無論、出会った時から、常に油断することはなく、警戒した状態で彼女の挙動を視続ける。

 

「初めは個人的な興味じゃよ。“轟剣“を破った剣士が二人、急に現れたなんて噂を聞いての。

実力を視に来たのじゃ。」

 

“轟剣“――ヘンブリッツのことだろう。

まさか騎士団内の模擬戦結果が、外の組織に伝わっているとは。

 

「それにしても、その相手が魔術師だったなんて驚いたのぉ。もう一人の、ベリルとやらもお主と同じかの?」

 

「その質問に素直に答える義務はないのだがね。少なくとも彼は魔術師ではないさ。

それで、まさか申請をしていない魔術師はすべて国家の外敵とみなす、なんて言い出す気かね?」

 

「お主も分かってて言っておるのう。もちろん申請の義務なんかありゃせん。

有望な魔術師を育てるため惜しみなく援助する環境は用意しとるが、そもそも本人の意思を優先しとるからのう。

魔術を悪用しなければ、基本的に干渉はせんよ」

 

そこで区切ったルーシーの雰囲気は一変した。

 

「じゃが…その魔術が未知のものなら、やはり危険性はわしが判断せねば、のう」

 

視線も敵意を増したものに変わっていく。

呼応するように辺りの空気が僅かに震えたのは決して視線だけではない。

魔術の前兆があることは、異邦の魔術師であるエミヤでも分かった。

 

「それで、隔離された環境に連れ込み、魔法師団長直々に吹っ掛けてくるとは。ずいぶん物騒な品定めだな」

 

エミヤは肩をすくめ、小さくため息を漏らした。

 

「わしも魔道の研究者じゃ。未知の魔術に興味があっての。

……お主には付き合ってもらうぞ?」

 

その視線はまっすぐで、けれどどこか知的な残酷さも秘めている。

獲物を値踏みする獣のような目ではなく、純粋に未知を見定めようとする研究者のそれ。

 

「迷惑な話だ。では、こちらも正当防衛として迎撃するとしよう。

……好奇心は猫をも殺す。相応の覚悟はしてもらうぞ」

 

 

彼女の周囲には、すでに魔術式が浮かんでいた。

詠唱ではない、ただの“準備”だ。まるで呼吸のように自然な動作で、戦闘の構えを取っている。

 

もはや避けられぬ戦闘のようだ。

エミヤもまた、構える。呼吸を整え、心を静かに沈める。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

ここでエミヤのステータスについて、触れておこう。

英霊は、程度の差はあれど一般的には超人的な強さを持つ。

加えて、霊的な存在として、神秘を有さない攻撃はそもそも通らない存在。

 

だが、受肉して現界したことにより、一定の枷は存在した。

攻撃は通常の人のように通り、もちろん霊体化は出来ない。

筋力や耐久、敏捷といった各ステータスも、精々、生前の全盛期といった具合だ。

 

しかし、同時に受肉によるメリットも確かにある。

存在するだけで消費する魔力がないこと、ある程度であれば魔力の漏れを隠すことが出来ること。

 

そして。

 

この世界では魔力の変換が良いのか、魔力量に関して言えばサーヴァント時と同じ感覚で使用できるようだ。

過去、運命の夜を共に超えた彼女のサーヴァントの時と同様の感覚を持っていた。

それこそ、単独でも彼の“真の奥の手“を使うことも可能だろう。

そのため、自身に強化の魔術を施しながら闘えば、英霊時に近づけることは可能だった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

――トレース(投影)・オン(開始)

 

静かに詠唱すると、彼の左手に現れたのは一本の木刀。

同時に身体にも強化魔術を巡らせ、一瞬でルーシーとの距離を詰める。

急に現れた武器に目を奪われた隙に、制圧できれば楽だと判断したエミヤだったが――

 

ルーシーもまた、即座に目の前に土の壁を作り、エミヤの行く手を阻む。

同時に背後から2体の炎の精霊を呼び出し、土壁の隣からエミヤに襲い掛かる。

 

エミヤも奇襲は失敗したと判断し、そのまま襲い掛かる炎の精を木刀で両断する。

その間にルーシーから放たれた風属性の変則弾。斜めから追尾するような軌道。

視界の隅に捉えたエミヤは、木刀を盾のように斜めに掲げながら、片足で軽やかに跳ね退いた。

ルーシーを見ると、彼女も自身に魔術をかけた状態ですでに距離を開けていた。

 

 

 

互いに相手を注視しながら、刹那に思考する

 

(ふむ、彼奴の魔術、やはりわしの知るものに該当しないの)

 

ルーシーはエミヤの魔術を解析していく。

ただの木剣が魔術を斬ることは不可能だ。

鉄製の剣だとしても、そもそも魔力を宿していなければ斬れない。

つまり、彼は魔力を宿した武器を造り出すことが出来る。

 

そして、炎の精霊を切り伏せた瞬間、彼の纏う武具に余波が防がれていた。

何らかの対魔術の魔装具、もしくは同等のアイテムを所持している。

だが、それもレジストの範囲は決して広くないのじゃろ。

 

彼の素振りから、結界への解析、自身の身体強化に魔術を使用している。

加えて、先ほどの詠唱――投影――武器を出現させた魔術、恐らくこの魔術があやつの主戦力じゃ。

どれほどの武具を出現させられるかまでは分からんが、基本的には戦士タイプの闘い方じゃろ。

 

なにより、初手で木刀を選んだ。

これは明らかに手加減をしたことに他ならぬ。

わしを師団長と分かったうえで、じゃ。

 

「くく、ふはは、なるほど。お主、面白いのぉ。

そのつもりなら、わしも加減などせん。

せっかくじゃ、魔法師団長の実力を、たっぷり味わうのじゃ」

 

宣言する彼女の背後から、再び現れる炎の精霊を出現させる。今度は4体。

加えて、土のゴーレム、氷の兵、雷の猟犬も複数呼び出しながら、火炎球を用意する。

 

 

 

ルーシーの魔術を前に、エミヤも油断できない相手だと判断した。

木剣を破棄し、慣れた黒弓に替える。

涼し気に魔術を発動しているあたり、彼女の魔力量は噂通り膨大なのだろう。

加えて、属性や種類を見ると、非常に手数が多いことも予想できる。

 

さて、どのように戦うか。

エミヤも全力で迎撃に当たるつもりだが、そもそも殺すつもりはない。

そうなると彼自身、殺傷能力の高い手段は選べない為、いくらか制限のある戦い方になる。

もちろん、手札はできるだけ隠せるほうが良いが、この様子ではある程度は覚悟すべきだ。

 

 

 

雷の猟犬がエミヤ目掛けて奔る。数テンポずらして炎の精が弧を描いてエミヤに迫る。

すかさず矢を放ち、そのすべてを撃ち落とすエミヤは、牽制としてルーシーにも数矢射るが、魔力壁によって阻まれる。

音を立てて、ルーシーの前に展開された魔術障壁に衝突する。見た目には防げたはずのその一撃に、彼女の足が半歩だけ沈んだ。

 

返しとばかり打ち込まれる火炎球。どれも今の装備では完全にレジストできない威力で作られているため

エミヤは追撃を諦め、回避に専念する。

 

夫婦剣に切り替え、近づく氷の兵、土のゴーレムを切り伏せる。

通常の剣士ではあり得ぬ速度で対処していくも、わずかでもその場に拘束される。

土と氷が一瞬の目くらましになる瞬間、その隙にルーシーは魔力を練り上げながら空に浮かび、

滝のような水を、エミヤ目掛けて落とした。その質量は、それだけで人を圧死させることができる。

 

意思を持つ水の厄介さ、そしてその背後に見えた雷の危険性を瞬時に察したエミヤは、

夫婦剣を牽制としてルーシーに投擲をし、即座に魔力を込めて詠唱する。

既に武器の選択は完了し、頭に設計図は描いている。

 

「――トレース(投影)、オン(開始)」

「――――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)」

 

降り注ぐ水塊を前に、目を開けたエミヤの手に握られた、2メートル以上ある両手槍。

神霊アレーンを倒したとされる魔法の槍。彼のフィオナ騎士団、その騎士団長の一槍。

 

「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃……受けるがいい!『無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)』!」

 

宝具、その真名開放。

英霊、フィン・マックールの一槍は、激しい激流すらも操り相手に見舞う一撃。

投影品のため、本来の水流を発生させることは困難だが、既にこの場に水が用意されているのならば、

それらを操り相手に反撃するなど、造作もない。

 

「なんじゃと!?」

 

さすがのルーシーも、まさか自身の水魔法が防がれるのではなく相手に利用されるとは思わない。

すかさず回避に全力をかける。

 

コントロールの奪われた水流はルーシーの少し上に向けられていたため、思わず下に避けた後、

それが罠だったことを瞬時で悟るルーシー。

水はそのまま制御が失われたように、重力に従い落ちてきた。

塊のまま落ちていないのでダメージはないが、地面に落とされる

 

 

 

互いの視界が見えなくなった瞬間、双方、次の策を仕掛ける。

 

――ルーシーは魔術を2つ仕込む――

 

――エミヤは最後の水のコントロールでルーシーとの直線距離を確保しながら、次の宝具の投影を――

 

 

視界が僅かに晴れた瞬間、既にエミヤはルーシーの目の前に迫っていた。

その手には、一槍……先ほどとは異なる、“紅の長槍“。

 

ルーシーには、武器が変わったことによる影響は判断できない。

だが、近接戦を仕掛けてくることは予測できていた。

――故に、用意していたのは空間を歪める程の重力魔術。

 

エミヤには、ルーシーの魔力の流れ、所作から2つの魔術の発動を感知していた。

詳細は分からないが、それぞれの魔術の方向性は読めた。

――故に、迷うことなく真名を開放する。

 

「抉れ! 『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』」

 

エミヤの魔槍、その刃がルーシーの重力魔術に触れた瞬間、ルーシーの魔術を“打ち消した“。

驚愕するルーシーが声を上げることは叶わず……エミヤは躊躇いなく、その幼い身体を、貫いた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』

 

フィオナ騎士団の一番槍。

大英雄フィン・マックールが首領を務めた時代の最強と言われる筆頭騎士、

ディルムッド・オディナの二振りの魔槍のうちの一つ。

対象の魔力的効果を打ち消すことができる、魔術師の天敵である魔槍。

 

胸を貫かれて崩れ落ちるルーシー。

少女は血を吐きながら倒れ伏す…ことはなく、少女の形を持った土の塊が、その場で崩れていった。

 

その想定内の結果を確認したエミヤは、後方の林に向けて声をかけた。

 

「さて、これで終わりでいいのかね。相応の実力であれば見せたかと思うのだが?」

 

虚空に投げた声、楽し気な返事が返された。

 

「くふふふ、期待以上じゃ。まさか最後の変わり身までバレておったとはのう」

 

奥から歩いてきたのはルーシー本人。

刺突傷もなく、無傷の状態で現れた。

 

「なに、姿形はよく似ていたが、途中で入れ替わっていれば見抜ける。

加えて、君ほどの魔術師であれば、途中で保険をかけるのも当然だろう」

 

そう、ルーシーが2つ仕掛けた魔術、向かってくる敵への迎撃魔術の他に、

自身の変わり身を用意する魔術であることを推測していたエミヤは、

その目で確認し、仕留めるところまで進めたのだった。

 

「いやいや、これほどとは思わなかったのう。轟剣を下すのも納得じゃ。

いろいろと聞きたいことがあるのじゃが…その様子、素直には教えてくれないのじゃろ」

 

「無論だ。魔術師なら自身の手札を明かすものではないだろう」

 

「その考え方自体、お主は他とは違う地方の出自なのじゃろうな」

 

と話す彼女の姿を見て、エミヤも警戒を解くことにした。

戦闘の続きを、という流れにはなさなそうだ。

 

「とはいえ、わしも研究者じゃ。諦めないからの。

今度はこういった形じゃなくて、ちゃんと聞かせてもらおうかの」

 

「勘弁願いたいのだが。言って聞くようなタイプではないのだろう。

仕方あるまい、ちゃんと時間を確保したうえで誠実な申し出であれば、私も考慮しよう」

 

エミヤとしても、こちらの世界の魔法を知る伝手が出来たことは、良いことだと考えていた。

今は騎士団の関係者に所属している身でもあるため、有力者とのつながりは、もしもの時に役に立つ。

彼女自身、私への殺意を感じることもなかったからこそ、人柄についてはある程度許容できそうだ。

 

 

 

かくして、予期せぬ魔法師団長との戦闘は終結した。

 

「ところでエミヤ、このことはベリルには話すでないぞ?

今の戦闘でベリルにも興味を持ったからの。直接視ないとのう。くふふ」

 

 

 

後日、ベリルに対して手作りの対魔力アミュレットを用意したエミヤ。

細やかな意趣返しではあるのだが、その同情した目で渡してくるエミヤを見て、ベリルは首を傾げるのだった。

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