片田舎の剣聖 錬鉄の英霊   作:ナチュル志保

12 / 36
ここでの前書きがいつも同じような内容になってしまいますが、
それでも、毎回同じ気持ちです。

読んでくださり、感想、ここ好き、など頂けること、本当に嬉しいです!
そして、毎回誤字修正を直してくださる皆さま。本当にありがとうございます!
引き続き、温かい目で見守ってください。


【壱章・第6.5話】『回想_最初の模擬戦』

人気のなくなった騎士団食堂の一角。

昼の喧騒にはまだ間がある時間帯に、ぽつんと突っ伏すベリルの姿があった。

額をテーブルにつけたまま、小さく呻いている。

 

「……だるい、しんどい、無理……」

 

疲れの正体は明白だ。

明朝、ルーシー・ダイアモンドに“腕試し”と称して絡まれて、朝から試練じみた模擬戦をこなした結果である。

 

魔術師相手の対人戦など、数えるほどしか経験のないベリルにとって、ルーシーは完全な天災だった。

そもそもエミヤが正当な魔術師なのかと考えると、この世界の常識で見ると、かけ離れているのだろう。

つまりは、ベリルの生涯における対魔術師経験は、ほぼない状態だった。

 

そんな中、突然身に襲い掛かった魔法師団長による品定めイベント。それもハードモード。

彼女はエミヤとは異なる熟練度の高い剣士を相手にして、それは楽しそうに、そして容赦なくベリルを翻弄し続けた。

 

 

 

「お疲れのようだな」

 

静かな声と共に、鼻先にやわらかな香りが届いた。

はっと顔を上げると、そこにはトレイを持ったエミヤがいた。

 

トレイの上には、湯気の立つスープと、薄く焼かれたパンと卵のサンド。それに小さなフルーツの盛り合わせ。

 

「貧血になりそうな顔をしていた。空腹もあるだろうと思ってな」

 

「……さては神様かな、エミヤ」

 

目を潤ませるベリルに、エミヤは苦笑する。

 

「まだ明るい時間だというのに見知った者が一人疲れ切っている様子が目についただけだ。

そもそも、君は無宗教者じゃないかね」

 

パンを千切りながら、ベリルが弱々しく呟いた。

 

「魔法師団の師団長に…声をかけられてね……突然、腕試しってことになったけど…さすがに疲れたね…」

 

「なるほど、君も彼女に吹っ掛けられたわけか…それは、心中お察しするよ」

 

「……あの日、君がなんとも言えない表情でお守りを渡してきたけど…このことだったんだね」

 

「口止めされていてな。あれは人災だったと思い諦めるべきだ。

……ただ、その様子なら、彼女の期待にも応えられたのだろう」

 

小さく笑ったところで、背後からコツコツと響く軽やかな足音が聞こえた。

 

「おや、褒めてくれとるようじゃのう?」

 

聞き覚えのある声と共に、ルーシー・ダイアモンドが食堂に入ってきた。

その隣には、彼女に付き従うように一人の少女がいた。

 

涼しげな眼差しに、精緻な制服姿。同じ魔法師団の付き人だろうか。

 

「ふむ、元凶のお出ましか。

まだお昼時ではないが、今度こそ食堂の利用かね?」

 

エミヤがルーシーを見る。

 

「お主、本当に食堂で料理してるのじゃな、そっちの方が驚きじゃよ」

 

「ただの手伝いだ。私は組織に属していない分、空いた時間を活用しているだけに過ぎない。

君たちは…その様子、騎士団に寄ってきた帰りかね。空腹であれば用意しよう…隣の彼女は?」

 

「うむ、紹介しよう。わしの自慢の弟子であり、魔法師団の若き実力者――フィスじゃ」

 

「いや、ちゃんと名前言ってあげてよ。

エミヤ、彼女はフィッセル・ハーべラー。俺の弟子でもあるよ」

 

と、ルーシーとベリルが彼女、フィッセルのことを紹介すると、彼女は軽く一礼した。

 

「エミヤさん、ですね。噂はクルニからも聞いてる。よろしく」

 

「そうか、クルニとも縁があるのだな。こちらこそよろしく」

 

エミヤも静かに頭を下げる。

ベリルはというと、半眼のままルーシーを見ていた。

 

「……何食わぬ顔して隣に座るのね、いいけどさ」

 

「ベリル、お主はなかなか面白い反応をするから、ついからかいたくなるのじゃ」

 

にっこりと笑ってルーシーは席に着く。

その様子にエミヤが軽く肩をすくめると、すぐに厨房の奥へ引っ込み、すぐさま全員分の紅茶と軽食を並べて戻ってきた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

談笑の中、話題は自然と今朝の模擬戦――そして、ルーシーとエミヤの対決の話題へと移っていく。

ルーシーはエミヤが最後に使った“紅の長槍“について尋ねていた。

 

始めはまともに答える気がなかったエミヤだったが、答えなければ離さんぞという気迫のルーシーと

そんなエミヤに同情はしているが内心武器や戦い方に気になっている剣士二人の視線がエミヤを逃がさなかった。

エミヤはしばし口を閉じていたが、ついと視線を落とし、やがて小さく吐息をついた。

 

「……やれやれ。観念したよ。

あのとき使ったのは、私の魔術で英霊の武具を再現したに過ぎない。

あの魔槍が持つ魔術を打ち消す力を借りただけだ」

 

「ふむ、それは、またずいぶんと特殊な魔術じゃな。

しかし、それほど強力な槍の使い手で、おまけに英雄と言うからには有名じゃと思うが、

わしに心当たりはないのう」

 

「ふむ、こちらの地方では話が通ってないか…英雄、ディルムット・オディナに聞き覚えは?」

 

彼の名前を出すが、ルーシー、フィッセル共に聞いたことがない様子だった。

ルーシー程の人物が知らないとなると、やはり元の世界の伝承や逸話はないのかもしれないな。

そのように考えているエミヤの隣で、不意にベリルが呟いた。

 

「英雄ディルムットの槍捌き、懐かしいね。

エミヤがその槍を初めて使った時のこと。ビデンの山奥でやった、初めての模擬戦だろ」

 

ルーシーの目が輝いた。フィッセルも興味深そうに槍を見つめている。

 

「たしかに」

 

エミヤが小さく頷く。

 

「まさか、あの時の双槍の一槍にそんな力があったなんてね」

 

その言葉に、ルーシーがぴたりと動きを止めた。

そして、にやりと悪戯っぽく笑う。嫌な予感がした。

 

「のうベリル?双槍と聞こえたのじゃが?」

 

「え、うん。双槍なんて初めてだったなぁ。あれはもう、嵐みたいだった」

 

「その話、面白そうじゃな……エミヤ。わしとお主の戦いでは、片方しか出してなかったじゃろ」

 

しまった、研究者の興味を刺激してしまったか。

ちらりと非難を交えた目でベリルを見ると、彼も事態に気づいて申し訳なさそうにしていた。

 

「もちろん、私の戦い方は状況に合わせて使用するだけだ。

君が何を考えているか知らないが、決して手を抜いたわけではない」

 

「わかっとる、わかっとる。わしとの戦闘の話は一旦置くとして。

本来の使い方は双槍なのじゃろ?であれば、今ここにおるフィス相手に再現してみせてはどうじゃ?」

 

「師団長?」

 

「うむ。お主の戦技、まだまだ未知が多い。それにフィスも気になるじゃろ?」

 

「それはたしかに、そう」

 

横で静かに頷いたフィッセルの目に、わずかに闘志が宿る。

エミヤは肩を落とし、ベリルをチラリと見る。

 

「……恨めしいな。君が余計なことを言うからこうなった」

 

「ごめんって……でも、俺もちょっと見たい」

 

エミヤが嘆息する。

 

「……仕方ない。昼のピークが終わってからなら、いいだろう」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

(ベリル)side

 

場面は、騎士団の修練場へと移る。

当初、ルーシーの管轄の場所まで移動するつもりだったが、

お昼の時間でアリューシアと話をつけて修練場の使用許可をもらったようだ。

 

白砂の広がる訓練場の中央、エミヤとフィッセルが対峙している。

その端で、俺は腰を下ろして、彼らの対峙を見守る。

 

「……あの時も無茶だったよな」

 

先ほどまで話していたからか、ふと、あの頃を思い出す。

 

彼との初めての模擬戦。

 

ベリルの視線が、遠い記憶の中へと沈んでいく。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

――エミヤさんがビデン村に来て、一月が経過した。

 

山間にある、ビデン村の奥地。

そこで、俺はエミヤさんと対峙していた。

 

 

 

事の発端は、おやじ殿の思い付きみたいなものだ。

その日は道場の稽古を早めに閉じたから、この後の予定を何しようか決めかねてた。

そこで、エミヤさんと道場の片づけをしていたところに、おやじ殿が珍しく現れた。

 

「ところでエミヤ。ベリルとの打合いはどうだ?」

 

「あぁ、胸を借りている思いさ。さすが剣術道場の師範、君の息子は十分強いな」

 

そんな話が聞こえて、内心少し嬉しくなる。

実のところ、エミヤさんは、こう、近寄りがたいというか、少しだけ苦手だ。

 

彼が非常にまじめで、根がいい人物なのも分かる。

それに俺はこんな田舎の道場だけど一応師範をやってるから、

それなりにいろんな人と交流するから、あまり人に対して苦手意識とかないのだけど、

ほら、彼、すごく仏頂面じゃん。初回の印象もあって、まだ少し怖いんだよねぇ。

 

と、そんな思いを勝手に持ってる俺だが、彼に評価してもらえてると聞けると、やっぱり嬉しい。

剣を凌ぎ合うものとして、力量の近い相手に認めてもらえるのは、喜んじゃうね。

 

なんて思ってるところ、おやじ殿はそんな俺の細やかな自己肯定感を打ち消した。

 

「でもよぉ、それはお前、本気でやってないだろ?」

 

本気でやってない、まじか…

いや、確かに初めて会った時の彼は、凄腕の弓兵だったし、

剣を飛ばすなんて、すごいことをしてたけどさ。たしか、魔術だったかな。

 

「それは違うぞモルデア。私とて手を抜いているつもりなど微塵もない」

 

「あー、いやいや、違う。お前の力を十分に出してないだろって意味で」

 

そう言いながら、頭をかいたおやじ殿は、突然俺たちに山に行くぞって声をかけた。

いや、俺、ぜんぜんわかってないんだけど?

 

 

 

なんて流れなので、俺は実のところ、よくわかっていないまま、エミヤさんと向かい合っていた。

おやじ殿曰く、刃を潰した剣で戦ってみろ、なんて話のようで

そんな用意ないぞおやじって文句を言うと、エミヤさんはため息交じりに剣を渡してきた。

しかも、俺が普段愛用として使っているものと、まったく同じ刃の長さ、質量だ。

 

試しに何度か振ってみるが、普段と全く変わらない。すごいな。

これが彼の魔術というものらしい。鍛冶屋が泣くね。

 

そんな俺の様子を見て、エミヤさんは準備が整ったと思ったらしい。

彼の手元には長さの異なる二つの槍。順番に試合するのかな。

 

長さが違うと間合いを測り直さないといけないから大変そうだ、と思っていると

あろうことか、エミヤさんは二本の槍をそのまま片手ずつで持って、構えた。…構えた?

槍を?片手ずつ??

 

 

 

「――いくぞ」

 

彼の言葉、その真剣さを帯びた声色に、俺も剣士としてのスイッチが入る。

まるで冗談のような構えだけど、伝わる気迫は冗談なんて欠片も含まれていなかった。

彼のことは驚くことばかりだけと、それでも剣士として競い合うのなら、いつもと変わらない。

 

「……ああ。よろしく頼みます。」

 

そして、戦端は切って落とされた。

 

 

 

『この時のことを、振り返った今だから思うことがある。

きっと俺は、心のどこかでエミヤのことを、どこか対等に見ていなかった。

 

あれほどの技術を持つ者でも、道場での稽古は互角。

いや、事実として俺の方が僅かに上回っていた。

 

それに彼は、剣士ではない。

もし俺より強いのなら、きっと太刀打ちできないような未知の何か、だと。

 

だから、きっとこの時が、彼との最初の模擬戦だったんだ』

 

(ベリル)sideout

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

ベリルが踏み込むと、すかさず長槍が襲いかかる。

ベリルの斬撃を、長槍が払う。

振るうのではない、突きの嵐だ。

 

距離の有利を保ちつつ、鋭く鋭く狙いを絞ってくる。

 

(まずい、槍の間合いだと……!)

 

剣なら届く距離でも、槍の間合いはそれより一歩遠い。

その上、二本の槍が左右から独立して動く。

 

ベリルは一撃ごとに剣をぶつけて弾くが、

追い立てるような連撃に、体の軸が揺らぎ始める。

 

長槍で押し込み、短槍で刺しにくる。

あるいは逆に、短槍で牽制しておいて、長槍の重い一撃を叩き込む。

 

(早い……っ!)

 

見えてはいる。だが、剣で対処しきれない。

受けに回るほどに、こちらの手数は封じられていく。

 

ベリルが再び踏み込んだ瞬間、長槍が突きかかる。

前へ出ようとする意志をなぞるように、もう一方の短槍が横薙ぎに払ってくる。

 

防げば間に合わない。避けても狩られる。

 

思考より早く、体が動いていた。

 

立て続けの連撃。だが、ただ数が多いだけではない。

ベリルの目が、本質を捉え始めていた。

 

(おかしい……)

 

槍というのは、本来“間合いを制する”武器だ。

 

突き、払い、薙ぎ払い――

 

どれも一撃ごとに踏み込みや引きが必要になる。

つまり、振るえば振るほど、そこに隙が生まれる。

 

が――

 

「隙が、ない……?」

 

目の前のエミヤの動きには、連撃の“継ぎ目”がない。

 

まるで2本の槍を、一本の流体のように扱っている。

突けば払う。払えば薙ぐ。薙げば引き、また突く。

 

繋がっている。

打突と打突の間が、一つの“舞”のように流れているのだ。

 

「ッ!」

 

反射的に受けに回ったベリルの腕が、弾かれる。

短槍の一撃。浅く受けただけなのに、ずしりと重い衝撃が肩に残った。

 

(嘘だろ……片手で振ったとは思えない重さだ)

 

距離を詰めようとしても、双槍の壁がそれを拒む。

無理に踏み込めば、隙を突かれ、叩き伏せられる。

 

守れば、攻め続けられる。

 

「くっ……!」

 

さらに短槍で防御を押し崩されたベリルの体勢が僅かに歪んだ、その瞬間――

横腹に、重く、鋭い蹴りが入る。

 

「ぐ……ッ!」

 

体が吹き飛び、地面を数歩滑る。

呼吸が詰まり、右腕がわずかに痺れる。

 

エミヤの動きには無駄がない。

一振り、半歩、引きの動きすら攻撃の布石になっている。

 

(完全に、距離もリズムも……こっちの自由がない)

 

(稽古では受けに回ることが多いエミヤさんが、ここまで苛烈になるとは)

 

双槍は、圧倒的に攻め手が多い。

 

突きの軌道が狭く速く、避ければ次がくる。

防げば流され、反撃すれば届かない。

 

がむしゃらに切り込めば、すぐに読み切られ、足を掬われる。

だからこそ、今は冷静に“狙いどころ”を見極めるしかない。

 

続けざまに放たれる二連の突き。

上段の長槍で牽制しながら、下段の短槍が鋭く喉元を突きにくる。

 

(くっ、双槍ってこんなに……隙が無いのか!)

 

剣士としての経験があっても、この“槍”という武器種の圧に慣れていない。

まして、槍が二本となれば、リズムの変化に読み切れない。

 

しかも、黄の短槍――

一瞬触れそうになっただけで、背筋に冷たい感覚が走った。

 

(あれは……直感が告げてる。この槍は“食らっちゃいけない”)

 

刃を潰してあるのに、殺気だけは本物。

たとえ模擬戦でも、魂に届くような危険な“気配”があった。

 

一度距離をとる。

息を整えながら、ベリルは逆にエミヤの様子を観察する。

 

――だが、次の瞬間。

 

彼は、ふいに右手の黄の短槍を足元へと落とした。

 

「……?」

 

ベリルの目が細くなる。

 

エミヤは左手の紅槍だけを両手に持ち替え、深く腰を落とす構えに移行した。

 

槍を“両手”で扱うということは――範囲を捨て、威力と突破力に特化するということ。

まるで本気で仕留めに来る構えだ。

 

(……来る)

 

直感が告げた。

 

今、攻めなければ、押し切られる。

 

距離を詰める。慎重さを捨てて、全霊の踏み込み――

 

「――そこだ!」

 

ベリルの刃が振り抜かれる。

 

 

 

が。

 

「……甘いな」

 

それは、罠だった。

 

エミヤは、落とした短槍を――

足で拾い上げ、逆手でベリルの脇を狙った。

「な――ッ!」

 

目では追えていた。だが、その予想外の一撃に、身体が遅れた。

直撃は免れたが、反応の遅れから体勢が崩れる。

隙を突かれ、バランスを崩したベリルが僅かに地面を蹴ったその瞬間。

 

「――閉じろ」

 

エミヤの魔術が発動する。

 

空間に魔力が走り、彼の周囲に幾重もの“剣”が浮かび上がった。

それらは放射状に展開され、まるで鉄の柵のようにベリルの周囲を囲む。

 

“剣の檻”。

 

すでにベリルは身動きの取れぬ状態となり、刃の壁が彼の動線すべてを封じていた。

 

「……お見事、だよ」

 

わずかな息の乱れと共に、ベリルがそう言った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

七門結界

 

英雄、ディルムッド・オディナが得意としたカウンターの技法。

その模倣により追い詰めたことで、模擬戦は区切りとなった。

投影した剣の檻を解除し、ベリルに投げかける。

 

「さて、普段とは異なる趣だったが、怖気づいたかね?」

 

「まさか」

 

エミヤの挑発とも取れる問いかけに、ベリルははっきり否定した。

挑発に激高したわけではない。

彼は今、格上の戦士と刃を交えた高揚感に包まれているようだった。

 

ちらりとモルデアを見る。

彼もエミヤの視線に、頷きで答えた。

恐らくモルデアの望みは、この結果だろう。

 

ベリル・ガーデナント。

なぜ、これほどの剣の使い手が、田舎に留まったままなのか。

理由のすべてを察することはできないが、原因の一つに彼は自分のゴールを自分で引いていた。

無論、それで良しとして穏やかに過ごす生き方も決して悪くはない。

 

だが、今の彼を見ると、剣士として頂を目指す夢は、確かに今も灯っていた。

モルデアは、その願いに自分で気づけるよう、刺激をしてあげたかったのだろう。

だからこそ、技量で圧倒する必要があった。

まだ、お前の近くには、お前より先を歩む者がいると。彼が、その背中を追いかけられるように。

 

 

 

「ベリル」

 

短く、彼を呼ぶ。

 

「今の私の技法は、あくまで本来の持ち主の模倣をしたに過ぎない」

 

「模倣、というからには」

 

「そうだ、君の考えている通りだ。真の持ち主の実力に、私の模倣は遠く及ばない」

 

「………そうなんだね」

 

考え込むベリル。

ここで事実を伝えることは、必要だと感じた。

それに、私では理解できないが。

 

――剣士とは、己が技量で、越えていきたい生き物なのだろう。

 

現に今のベリルの頭の中は、どうやら再戦のことばかり考えているようだ。

 

「ところで、他にも気になってたことがあって。

その黄色の短槍、もしかして何か特別な力とか、宿ってる?」

 

「よくわかったな。これは本来、癒えない傷を与える呪いを纏っているものだ」

 

「あぁぁ、やっぱりかぁ。俺の直感、間違ってなかったかぁ」

 

そう言いながらも、楽し気なベリル。

…これは、後何戦かは覚悟した方がいいな。

 

覚悟を決めたエミヤ。とはいえ、決して嫌がっているわけではない。

生前も、死後も、このような経験はなかった。

 

…あぁ、剣士の考え方は分からないが。

これはこれで…楽しい、な。

 

 

 

「エミヤさん、もう一回お願いできるかな?」

 

「ふむ。構わないが…いい加減、畏まる必要はないだろう」

 

「それもそうだね…これからも、よろしく頼むよ、エミヤ」

 

「あぁ、こちらこそ。ベリル」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

ベリルが懐かしんでいた間に、エミヤとフィッセルの模擬戦は終了していた。

もちろん、結果は彼の圧勝だった。

 

フィッセルがいかに優秀な魔法剣士になっていても、さすがにエミヤの出鱈目な闘い方には追いつけなかったみたいだ。

しかも、エミヤもベリルとの模擬戦の時に比べて出力を少し抑えめにしていたようで、

脚が出ることもなければ、カウンターなども行わなかった。

 

悔しそうに再戦を頼み込むフィッセルと、やんわり断り続けるエミヤ。

そもそも場所を借りているだけなので、騎士団の修練でもないのに何度も戦うわけには行かない。

そう説明すると、渋々といった表情で納得するフィッセルと満足そうなルーシー。

 

ベリルにはフィッセルの気持ちは痛いほど伝わる。悔しい。越えたい、と。

同時に、自分もまた、あの頃から変わらず、剣の頂に挑み続ける者だと自覚する。

もちろん若き頃のようにがむしゃらに修行するわけにはいかない。

ましてや、急激な成長を得られる年齢でもない。

酷なようだが、彼には、そのような時期は過ぎてしまっているのだ。

 

だから今は、未来ある若者を育てながら、彼らと共に学びを得て。

 

そうして、一歩ずつ、剣の道を歩んでゆくのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。