片田舎の剣聖 錬鉄の英霊   作:ナチュル志保

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いつも感想や誤字修正、ここすき、何より読んでいただきありがとうございます!
前後編で一度区切り書かせていただきます。
オリジナルの話が続いており、恐縮です。


【弐章・第2話】『組織力を高める(前編)』

「いやいやいや、さすがに無茶でしょ…」

 

騎士団修練場で今日の鍛錬がひと段落した頃にアリューシアから言われた依頼内容は、

隣のベリルが驚きのあまり思わず渋い顔で否定してしまうものだった。

 

「ふむ、君の話をまとめると、騎士団の連携訓練を目的にした模擬戦の相手を、

私とベリルに引き受けてほしいと、そういうことかね」

 

「はい、仰る通りです。

日々お二人に鍛錬にご指導いただいていることで個々の力量は少しずつ向上しています。

これを機会に騎士団同士の連携という観点でも、ぜひ成長の機会をいただきたいと考えたお願いになります。」

 

エミヤの確認にアリューシアが答える。

騎士団でも時期を測り、キャンプ訓練といった集団対応や護衛任務の訓練を行っているとは聞いたが、

まさかその訓練に我々が関わるとは予想していなかった。

それにしても、いささか急な話とも感じる。

 

「それは、あれかい?

さっきヘンブリッツ君とも話してたけど、最近物騒な話が増えていることも関連してるの?」

 

「えぇ、職務に関する詳細はお伝え出来ませんが、先生のお話の件も無関係ではありません」

 

直前までヘンブリッツ、クルニと話していた事件、"宵闇の魔手"と呼ばれる盗賊団による被害のことだ。

未だ近くにいる二人も、話に加わってきた。

 

「私としても、騎士団の戦力向上は急務と捉えているため、ぜひ、お二人には今回の訓練にご協力いただきたいです」

 

「先生とエミヤさん相手に挑みかかるなんて、すごい練習になりそうっす」

 

クルニは模擬戦の機会にワクワクしている様子だった。

ベリルの助言で武器を両手剣ツヴァイヘンダーに替えた後、一層鍛錬に励んでいるため

実践に近い環境で試したいのだろう。向上心があることは大変好ましい。

 

「訓練の必要性は分かったけどね。アリューシア、その内容は無茶じゃないかな」

 

ベリルが再度懸念をぶつける。彼の話も無理はない。

依頼内容を端的に言えば、騎士団30人を我々で相手しろ、といったものだ。

しかも、その中にはアリューシア、ヘンブリッツといった騎士団主戦力も混じるとのこと。

ベリルとしても面倒ごとへの拒否感よりも、騎士団側の訓練にならないのではと懸念しているようだ。

 

なお、隣のベリルの内心は、このようなものだった。

 

(騎士団30人、しかもアリューシアたちもいるの、無理でしょ。

さすがにエミヤが居るからと言っても2人じゃ…いや、まぁエミヤとならギリギリいける、か?

いや、だめだ、模擬戦の環境ならエミヤも魔術を目立って使えない。

魔術が自由に使えない魔術師ってのは、例えるなら剣が欠けた剣士、もしくは弓を使わない弓兵。

…弓を使わない弓兵ってなんだ?

とにかく、やっぱり無理だぁ)

 

コロコロと表情を変えていたのベリルを横目に、益体のないことを考えているのだろうと放っておくエミヤ。

アリューシアもまた、ベリルの懸念を予想していたようで、困った様子で話し出した。

 

「えぇ…私も当初は私が先生の隣に立って稽古をしようと考えていたのですが、たまたま出会ったルーシーさんが…」

 

彼女の名前を聞いた途端、怪訝な表情をするエミヤとベリル。

示し合わせたかのような2人の仕草に、ヘンブリッツやクルニも驚く。

 

「『その訓練なら騎士団長も騎士側で指示を出すべきじゃろ。

ベリルとエミヤなら問題ないと思うが、戦力差が気になるなら魔法師団からも精鋭を1名送ろうかの。

場所はわしの私有地を使うといいから、思う存分やるといい』と話されまして」

 

なるほど、この非常識な戦力差は、彼女の差し金か。

アリューシアから言い出すには無理がある提案だったので、

いよいよ彼女のベリルに対する尊敬が一線を越えてしまったのかと内心訝しんでいた程だった。

 

しかし、これで依頼内容と背景に関する大まかな情報を得られた。

3対30。普通はまともな練習にならない人数差だが、場所がルーシーの森で

仕込みを済ませた環境であれば、やりようもあるだろう。

ルーシーが言い出したことなのだから、フィールド作りにも協力してもらおう。

 

それに、とエミヤは思考する。

この人数の動員、そしてルーシーも判断する程のことだ。

恐らく直近の盗賊被害が影響しているのではなく、その先に集団での軍事行動があるのかもしれない。

騎士たちに訓練してもらうのであれば、行事の直前ではなく今の時期に行いたいというのも騎士団長の本音だろう。

 

「ベリル、この話、私は受けても構わないと考えている」

 

エミヤの了承にベリルも少し悩み、答える。

 

「わかった。かわいい弟子の頼みだからね。

俺もどこまで役立てられるか分からないけど尽力を尽くすよ」

 

ベリルの承諾を聞き、喜ぶヘンブリッツとクルニ。

そして、かわいい弟子と言われたことでショート気味な騎士団長。

 

「と、なると、モチベーション向上のために何か褒美が必要か。

…私で用意できるとしたら、食堂が許せば鍛錬終わりに食事を振舞う、か」

 

アリューシアたちに向けた言葉だったが、いつの間にか近場の騎士たちも聞いていたらしい。

エミヤの言葉に、喜びながら他の騎士たちに伝えに行き、気付けば騒がしくなっていた。

 

彼らの様子を見て、思わぬ期待に苦笑しながら、エミヤは改めて3人に向ける。

 

「さて、君たちにも別途褒美を用意しなければな」

 

「エミヤ殿、とても嬉しいご提案ですが、私は構いません。

常日頃ベリル殿やエミヤ殿に鍛えていただけることが、何よりの喜びですので」

 

無論、エミヤ殿の料理は楽しみですがね、と言いながら辞退するヘンブリッツ。

その姿勢に倣ってクルニも辞退しようとするが、その言葉の前にエミヤから

クルニにはデザートを用意するか、と言い出したところ目の色を変えて首を縦に振っていた。

 

「さて、それではアリューシアには…」

 

「エミヤさん、私も構いませんよ。

デスクワーク中にも差し入れを届けてくださること、本当に感謝してます。

既に十分すぎる配慮をいただけてますので、お気遣いは不要です」

 

「そうか……では、君への報酬はベリルにしてもらおう。

買い物の付き合いにでもなるだろう」

 

「エミヤ、俺は構わないけどそれじゃアリューシアの報酬にならな「お願いします」…アリューシアさん?」

 

食い気味のアリューシアに気圧されるベリル。

その後、模擬戦の話を騎士団に伝えていたアリューシアは、実に、生き生きとしていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

試合当日。場所はルーシーの私有地である森。

快晴ではあるものの、木々が広がり視界は悪い。

 

十分な広さがある私有地内で行われる今回の模擬戦では、事前に以下のルールを決めている。

 

・騎士団側はスタートラインからゴールに向かって森の中を進む。

・奥には旗が立てられており、それを奪えれば騎士団の勝利となる。

・制限時間は午前中いっぱい。

・脱落条件は細かく決めていないが、動けない負傷をしたと個人で判断した者から脱落となる。

 

また、具体的に決めているわけではないが、アリューシアたちはこの模擬戦を人質救出作戦とした位置づけで決めており、

罠を巡らせ待ち構える敵の根城に突入するといった状況をイメージしている。

そのため地の利がある少数精鋭の相手に対して、騎士団内で協力しながら迅速に進むこと、

動けなくなった者は深追いせずに撤退することを参加者たちに告げていた。

 

その中、対峙する相手は――

騎士団内の誰よりも強いと皆が理解している剣術師範ベリル・ガーデナント。

誰も図ることが出来ない未知の実力を持つエミヤ。

そして、魔法師団の若きエース、剣魔法の使い手、フィッセル・ハーベラー。

 

30対3の戦いで負けるわけがない、などとは参加している騎士たち誰も考えていない。

慎重に、迅速に、連携をしながら進んでいくこと、言われるまでもなく皆が一丸となり感じていた。

 

「それでは、具体的な作戦を指示する。皆、聞くように」

 

開始宣言の後、この任務を攻略するために

アリューシアの指示の元、皆が用意を進めた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「…とのことで、彼らは3班体制に分かれて進軍するようだ。

各班リーダーが指揮を執り、定期的に伝令役を他の班に走らせながら情報共有を図るようだな」

 

ゴール前、旗の近くで準備をしていたベリルとフィッセルの前に

高台から降りてきたエミヤが合流し、先ほどまでの騎士団の作戦内容を正確に共有した。

 

ちなみに、この高台はエミヤがルーシーに用意してもらったものだ。

旗から少し離れた場所へ設置された高台は、動向の監視や射撃場を目的にしていた。

今回ルーシーに準備してもらったのはこの高台と、中央のギミックの二つ。

そして、その他のフィールド内至る場所に、エミヤお手製の罠を張り巡らせている。

 

「まさか一緒に戦ってくれる仲間がフィッセルなんてね。心強いよ」

 

「私も、二人と一緒に戦えるのは嬉しい。頑張る」

 

喜ぶベリルにフィッセルも照れながら、期待に応えたいと気合十分な様子。

勝負事である以上、適度なやる気は大切だからこそ、この二人には心配不要なようだ。

 

「それにしても、エミヤさん。なんで相手の行動が分かるの?魔法?」

 

不思議と驚くフィッセルに、エミヤは当然のように答える。

 

「あぁ。彼女らの口の動きを視ただけだ。読唇術と捉えて構わない」

 

「いや、どれだけ離れてると思ってるの。エミヤ以外出来ないって」

 

固まるフィッセルの代わりに呆れながら答えるベリル。

あり得ない手段ではあるが、情報アドバンテージまで入手できた彼らは作戦を考えていく。

 

「俺はただの剣士だからね、基本的な作戦はエミヤに任せてもいいかな?」

 

「わかった。では、まずは彼女らが中央にたどり着くまでは、この作戦だ」

 

エミヤが語る作戦は騎士団の進軍距離を3段階に分けたうえで、大まかな流れを説明する。

細かな内容を話しても戦況によってすぐに変わると身に染みているエミヤは、要所要所で

臨機応変に進めたいと話しており、2人も頷いていた。

 

「いいか、私たちの利点は地の利、そして少数による機動力だ」

 

「そうだね。そして最初はここから離れた場所だから、遊撃は体力ある子の方がいい、と。

たしかに俺は合図があるまで今は待機した方がよさそうだ」

 

エミヤの作戦では、序盤は待機役となるベリルだが、不満もなく応じていた。

 

「なに、君には大きな役割が待っているさ。我々に任せて座して待つといい」

 

「2人が頑張ってると思うと気が引けちゃうけどね。でも体力や役割の観点でも納得だよ」

 

「その分、私が頑張るね、先生」

 

自信満々なフィッセル。

彼女はあらかじめ配置を聞いた罠の森を駆け抜け、騎士団へ一撃離脱を行う遊撃役となる。

 

「あぁ、私の貸し与えるモノを活用しながら、班から離れた者や伝令役を叩いてくれ。

私は高台から適度に狙撃を行う」

 

「任せてよ、全員倒してくる」

 

「……わかっていると思うが、程々にな」

 

「もちろん冗談、大丈夫」

 

軽口を交わす2人だが、実際のところはやや手を抜く算段である。

これは彼らの訓練の一環なのだ。狙撃による制圧も、罠による壊滅も目的にしていない為、

最初のフェイズで半数、とまでは言わなくても、10人程度落とせばよいと考えていた。

 

いざ出発前の2人に、ベリルは声をかける。

 

「フィッセル、伝えておきたいのだけどね」

 

「?なに、先生?」

 

「エミヤもさっき言ってたけど、今回は深追いしなくていいから、適宜離脱を意識するようにね」

 

ベリルは続ける。

 

「俺たちはたった3人だ。1人欠けるだけで戦い方が難しくなるし、相手もそれを狙ってる。

心配はしてないけど、ちゃんと無事に戻るようにね」

 

「…うん、ありがとう。気を付けるよ」

 

あらためて方針も決まったところで、それぞれ持ち場に向かう。

 

さて、それでは騎士団の力を見せてもらおう。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

開始の合図と共に、30名の騎士たちは3班に分かれ進軍を開始する。

それぞれを率いるのはアリューシア、ヘンブリッツ、そして熟練の騎士。

 

「各班、一層慎重に、迅速に進むように…進軍開始!」

 

そう言って、アリューシアは前線に立つ。

彼女の鋭い視線は森の奥を見ていた。

 

——その様子を、はるか高台からエミヤが眺めていた。

 

黒弓を握り、森全体を支配する狩人の眼差しで。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

森の入口付近で、最初の罠が牙を剥いた。

足を踏み入れた瞬間、仕掛けられた縄が弾け、騎士たちが足を取られる。

木の枝から吊るされた袋が落ち、中から煙と絵の具が飛び散った。

 

「くっ、視界が……!」

 

罠にかかり気を取られる騎士に、遥か遠方から放たれた矢が届いた。

ゴム製ではあるものの、急所に当たっており、脱落となる。

 

続いて本隊にも届く矢の雨。

 

「総員、矢を凌げ。木の陰に隠れろ」

 

リーダーからの指示に、皆盾になる場所を探す。

しかしながら、ここでは騎士たちの経験の差が現れる。

盾と選んだ木の下が罠となり、落とし穴となり落下する若手騎士。

 

慌てて近くの騎士が助けに入ろうとしたところを、別の騎士が止める。

 

「あれなら、自分が矢を避けながら救出できますよ!?」

 

「待ちなさい…それも、計算済みのようだ」

 

先輩騎士の指摘に意味を理解できなかった騎士だったが、すぐに判明する。

矢の雨が止み、落とし穴へ駆けつける者がいないと考えたのか、次の一矢は

その木の上に隠れていた桶を落とし、中の水が穴とその付近に降り注ぐ。

 

無論、中身はただの水だが、もしあれが毒であれば…被害者は増えていただろう。

 

「ちゅ、忠告、ありがとうございます!」

 

「これは厳しいな。罠にかかった者を助けようとすると、被害が増えるとは。

伝令役、他の班へ今の情報を共有してくれ。

くれぐれも矢には気を付けて進め」

 

リーダーの指示に、伝令役が慎重に駆け出す。

その間、他の班員に罠の特徴を共有しながら、罠の解除と矢の雨に慎重に進むのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

その一方で、木陰を駆け抜ける小柄な影があった。

"緑の外套"に身を包んだフィッセル。

 

彼女は伝令役として走る騎士に気配無く近づき、近くから魔法で急襲する。

 

油断なく走る騎士たちも、突然の出現に気を取られ魔法を避けられないことや、

近場の罠に誘導されて、脱落する。

 

「ははっ、これは……楽しい!」

 

外套に紛れ、気配なく忍び寄る。

 

狙うは各班の伝令役。

または、後列の騎士たち。

 

騎士が単独であれば、脱落まで追い込み、2名以上いる場合は

攻撃だけしたうえで、すぐに離れるといった戦法を徹底していた。

 

恐るべきは、フィッセルの機動力や技術。

そして、ロビンフッドの宝具《顔のない王》を投影した外套を、エミヤから借り受けている。

投影品としてランクが落ちているものだが、森の中、罠の位置を知っているフィッセルが纏えば

十分森の狩人として猛威を振るった。

 

何より、見えない場所からの攻撃に備えなければいけないという騎士団への負荷。

歩みを遅くし、警戒する時間を増やす戦術。これもまた、エミヤの作戦である。

ここでは、罠や矢、そしてフィッセルの遊撃に備えなければいかないのだ。

 

自在に操る剣を飛ばし、柄部分を胸に当てる。

攻撃への回避を誘導し、罠に追い込む。

 

1人、2人、3人。

 

伝令が次々に潰され、班同士の情報共有が断たれていく。

 

 

 

「……伝令がやられている」

 

気づいたアリューシアが歯噛みした。

しかし次の瞬間には判断を切り替える。

 

「伝令をやめる!常に2名以上で動け、互いで注視しながら進むように!」

 

的確な判断に、騎士団は動揺を抑えつつ前進を続ける。

そして、この判断はヘンブリッツの班、もう一班も同じタイミングで決断していた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

高台のエミヤは静かに戦況を見つめていた。

視線の先には、警戒態勢の陣形を変えながら進む騎士団。

また、各班のリーダーはエミヤが口の動きを視ていることにも気づいたのだろう。

会話する際も、こちらに悟らせないように工夫している。

 

(なるほど、作戦を変更しながら前進を継続……判断が速いな)

 

序盤の脱落者は9名、矢と罠による追い込みで5名、フィッセルの遊撃で4名。

騎士団は最初こそは混乱していたが、それでも崩壊はしない。

学び、耐え、少しずつ罠への対応を早め、射線を読んで身を隠す。

若手も必死に動き、熟練の指揮を支えた。

 

もう少し削れると考えていたが、エミヤの想定よりも騎士団の立て直しが早かった。

この調子であれば、時間はかかれど数を減らさずに中央までたどり着くだろう。

 

(頃合いか)

 

エミヤはフィッセルに合図を送り、適度に矢を射ながらも次のフェイズを考えていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

そして、中央へたどり着いたヘンブリッツは、驚きを隠せなかった。

————目の前には、池が広がっていた。

 




破壊工作に本気を出してしまうと酷いことになってしまうので、
(エミヤ基準で)後で綺麗に片づけられる範囲にとどめてます。
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