本当にありがとうございます!!
前話の続きとなります。
一応模擬戦となりますので、皆殺傷能力のない戦い方をしてます。
…うまく表現できていないかもなので、補足です。
視界を塞ぐように、池が中央に広がっていた。
水面は風もなく穏やかに澄んでいるが、その静けさはむしろ異様である。
当然、元々水場があるような場所とは聞いていなかった。
つまりは、魔法によって作り出された場所だろう。
魔法師団長の私有地なのだから、そういった用意がされていても不思議ではない。
むしろ、この池は相手によって計画的に用意された、と考えるべきだ。
周囲には木製の小舟が数艘、こちらも用意されたかのように浮かんでいた。
そのどれもが妙に新しく、縄の結び目や板のつなぎ目に不自然な箇所が目立つ。
3班に分かれていた騎士団も合流を終えて、再度作戦会議をする形となった。
アリューシアは水辺に視線を走らせ、すぐに首を振った。
「船は……やはり罠ですね。あの状態で水に出れば、格好の的になります」
彼女の横で、ヘンブリッツも深くうなずく。
「そうでしょうね。水上で射撃を受ければ、逃げ場がない。
彼らが用意している以上、わざわざ嵌まりにいく必要はないでしょう」
騎士団は短く会議を交わし、結論を出した。
池の周囲を二手に分かれて進軍する。
アリューシアを先頭に8名の騎士が右へ、ヘンブリッツが指揮する残りの11名が左へ。
迂回路を分けて同時に進めば、敵の布陣を挟み込むようにして突破できると踏んだのだ。
配置を見届けたエミヤも、静かに動いた。
返却された"緑の外套"を翻し、フィッセルを伴ってアリューシア側が進んだ遠距離攻撃用の舞台へ向かう。
遠距離主体の戦闘を担うのは、彼らの班だ。
一方、反対側には当初の予定通り、ベリルが単騎で配置された。
彼には一人で12名を引き受けてもらう形になる。
無茶とも思える采配だが、あえてそうしたのは、戦況全体を見据えてのことだった。
それに地の利があるベリルであれば、この程度の数の差は問題ないだろう。
それが、エミヤやフィッセル、そしてベリル自身も同様に考えていた。
騎士団が進軍を開始する。池を挟んで二手に分かれた一団は、それぞれの緊張を背に進む。
◇ ◇ ◇
右側の小道。
木々が生い茂り、横幅が狭くなった箇所に差し掛かった瞬間、鋭い音が響いた。
「――来るぞッ!」
先頭の騎士が叫ぶと同時に、前方の空気を斬り裂くように光が走った。
フィッセルの剣魔法である。
放たれた斬撃が枝葉を切り裂き、土をえぐる。
進路を阻むような一閃に、騎士たちは一瞬足を止めざるを得なかった。
続けざまに二撃、三撃。
「構わず進みなさい!罠と魔法は承知の上です!」
アリューシアが号令を飛ばす。声は強く、迷いがない。
騎士たちは盾を掲げ、剣で魔力の残滓を払いつつ、一歩ずつ距離を詰める。
その瞬間。
矢が放たれた。
ただの矢ではない。音もなく、影のように忍び寄る矢だ。
アリューシアがとっさに狙われた騎士の前に立ち、剣を振り払って矢を撃ち落とす。
先端はゴム製であるにも関わらず、鋭い衝撃に腕が痺れる。
姿は見えない。だが確かに近い。
これはただの狙撃ではない。
狩人が獲物を狩るように、接近しての暗殺を狙う矢撃ち――。
間違いない、エミヤによる狙撃だ。
それも序盤の遠距離射撃時と比べて、距離も打ち方も異なる…恐らく、弓の種類も違うのだろう。
加えて、この気配の消え方は――
「消える魔装具か……!」
攻撃を受けた騎士団から情報は聞いていたが、アリューシア自身が対峙するのは初めてだった。
たしかに報告の通り、矢が放たれる一瞬以外、目視や音では気配を探すことが出来ない。
木々の影のどこかに、確かにいる。
矢は殺傷力を抑えられているはずなのに、放たれるたびに全身が危険を警告する。
受けたアリューシアが悟る。
この矢全てを振り払うとしたら、相応の疲労蓄積が伴うだろう。
また、いつ踏み込まれるかわからない緊張感が、騎士たちの足を鈍らせていた。
「下がるな!彼らは時間を稼いでいるだけです。もう片方が押し切れば、状況は変わります!」
アリューシアが再び号令を飛ばす。
その言葉は正しい。だからこそ、誰一人退かない。
罠と矢に晒されながらも、彼らは進み続けた。
しかし、犠牲は出た。
罠にかかり、網に絡め取られて動きを封じられた者。
矢を弾ききれず、軽く打ち倒された者。
最終的に、"こちらの"脱落者は2名に達した。
それでも、残りは前進を止めない。
アリューシアはヘンブリッツ班の成功を信じながら、これ以上被害が出ないように努めて指揮を取った。
◇ ◇ ◇
池を挟んだ反対側。
そこには、エミヤが仕掛けた仕組みが待っていた。
木々の合間には板や布が張り巡らされ、光の反射を利用して周囲と同化するような「壁」が林立している。
鏡面のように周囲を映し、実際の道筋を紛らわせるその配置は、まるで迷路だ。
騎士たちは即座に察し、二人一組で警戒を保ちながら進み始める。
だが、迷路の出口近くで待つ者がいた。
ベリルだ。
影の奥から現れるや、鋭い斬撃がひとりを襲う。
反応が遅れた騎士が剣ごと弾き飛ばされ、一本を取られる。
もう一人の騎士が体勢を整え果敢に攻めるが、ベリルも軽くいなして一本を取る。
次の組は正面から対峙した。二人を相手に、堂々と剣を振るう。
交差する刃を体さばきで流し、互いの動きをぶつけ合わせるように誘導し、一瞬で隙を作って二人をまとめて叩き伏せる。
「くっ――!」
「まだだ、構えを崩すな!」
対する騎士たちも必死だった。
だがベリルは、先手で不意を突くこともあれば、二対一をものともせず制圧する。
剣筋は鋭いが、無駄は少ない。
力で押すのではなく、相手の動きを読み取り、刃と体捌きで確実に崩していく。
3組、6名の騎士を脱落させた後、現れた騎士は…クルニのペアだった。
すぐそばに息を潜め待ち伏せていたベリルは、2人が踏み込む瞬間に角から飛び出て切り込む。
咄嗟の出来事に反応できなかったクルニが狙われるが、片側の騎士の青年、クルニと同期の青年が間に入り剣戟を防ぐ。
(…今のは入ったと思ったけど、やるね)
ベリルは内心称賛しながら青年と打ち合う。
元々真面目で練習熱心な彼だったが、少し前に心境の変化があったのか
彼なりの覚悟を持ちながら取り組むようになっていた。
特に今のような仲間を守るときの思い切りの良さと判断力は適格だ。
この模擬戦が終わった後に伝えようと、ベリルは考えながらも剣を振るう。
数度の打合いの後、自分一人では攻めきれないことを悟った青年は離脱を測る。
しかし振り払いが十分でなかった分、離れることが出来ず、ベリルの木剣が青年の頭の上に止まる。
一本取られ、離脱となる。
「中途半端な剣筋では離れることもできないからね。次からは守った後も考えて訓練しよう」
「……ご指導、ありがとうございます!」
青年が端に移るところを見届けたベリルはクルニを正面に見据えた。
もちろんクルニも打合いに参加しようとしたものの、ベリルの立ち回りが上手く
手を出せない距離を保ったまま決着がついていた。
それほどの差。
先生との差、一矢報いるには力量の差が明白。
そして、仮に踵を返して仲間と合流を測ろうとするなら、即座に距離を詰められると、肌で感じる。
残されたクルニは、一瞬で判断する。
――攻めるのは悪手だ。この状況で先輩たちならどう動くっす?
――時間を稼ぐ。援軍を待つ。それが最善っす。
両手剣ツヴァイヘンダーを構えるクルニだが、両手の間隔は狭い。
あえて持ち手を短くし、小回りを利かせるための工夫だった。
ベリルもまた、クルニの判断に感心しながら、踏み込み剣を振るう。
クルニは即座に剣を傾け、軌道を逸らす。
鋭い一撃を受け流した瞬間、横合いから迫った刃に両手剣を盾として防ぐ。
大振りな武器を振るうのではなく、最小限の動きで凌ぐ。
ベリルは攻め続ける。
右からの袈裟斬り。受けられる。
踏み込みの突き。剣を寝かされて逸らされる。
さらに回転して横薙ぎ。クルニが剣を滑らせ、体をひねって避ける。
互いの剣が打ち鳴らす音は鋭く、迷路の中に響き渡る。
ベリルもまた、訓練であることを意識しているため、徐々に速さを上げながら攻め立てる。
クルニが剣を防ぐたび、体勢は崩れかける。だが、まだ完全には崩れない。
「――まだ、やれるっす!」
短く息を吐きながら、クルニは立ち続けた。
ベリルもまた、一息入れて、次の打合いで倒すと柄を握り直した時、遠くから壁を砕く轟音が響いた。
ヘンブリッツだ。力任せに鏡の障害を打ち破りながら、一直線に駆けてくる。
剣戟の音を頼りに、他の罠がある可能性よりも真っすぐ駆けつけることを選んだのだ。
そしてヘンブリッツと共に現れた騎士がすぐにクルニの下に駆けつけた。
ヘンブリッツはベリルと向き合ったまま、クルニに投げかける。
「クルニ!まだ戦えるな!?」
「もちろんっす!」
短く、しかし威勢のある返答。
合流の瞬間、戦況は変わった。
ヘンブリッツの剛剣が加わり、さらにクルニ含めた騎士が二人、追随する。
三対一の連携で、ベリルを追い詰める形となった。
だがベリルは慌てない。
剣を交え、後退しながらも冷静に捌き続ける。
押されはしても、刃を弾き、体を滑らせ、決して決定的な隙を見せない。
しかし、後方からさらに二人の騎士が駆けつけるのを見て、彼は判断した。
――ここまでだ。
腰の笛を吹く。鋭い音が林に響いた。
その直後、無理に追い込んできた一人を返しの一閃で弾き飛ばす。
一本を奪い、残りを牽制しつつ素早く後方へ下がった。
ヘンブリッツは駆けつける騎士たちを認識したうえで、ベリルへの追撃を試みる。
だが、走り出すベリルと同時に、何かが迫る音が聞こえた。
つい先ほどまでヘンブリッツが出していたような、壁を壊しながら迫る音。転がる音。
大きな岩だ。
壁を壊しながら先ほど打ち合っていた場所目掛けて迫っていた。
無論、回避は容易だが、追撃は諦めるしかない。
そのように判断したヘンブリッツは周囲の騎士に指示を出した。
◇ ◇ ◇
笛の鋭い音が木立に響いた。
その瞬間、エミヤは罠のために用いていた投影剣を即座に解除した。
仕掛けていた罠が一斉に解かれ、道が開く。
「フィッセル、先に向かいたまえ!」
エミヤの声に応えるようにフィッセルは身軽に飛び出し、駆け抜けるようにベリルの元へと先行する。
声を出したエミヤは姿を現し、弓を構えたままの敢えて中距離を維持し、矢の連射で牽制を続けていた。
アリューシアはそれを見て、唇の端をわずかに吊り上げる。
「――好機っ!」
神速の異名を裏切らぬ疾駆。草木を裂き、風そのものとなって一気に肉薄する。
逃げる弓兵を相手に、一瞬で距離を詰めて落とす。
矢が至近で放たれた瞬間には、すでに体を捻って避けていた。
だが。
次の瞬間、アリューシアの視界に鋭い影が割り込む。
矢の軌道に合わせて自ら踏み込み、間合いを潰してきたのはエミヤだった。
「――ッ!」
読み違えたと気づくより早く、腹部に硬い衝撃。
エミヤの蹴りが、弓を引き終えた体勢のまま滑らかに繋がり、アリューシアの重心を完璧に捉えていた。
空気を裂くように吹き飛ばされ、アリューシアは地を滑る。
だが、膝を沈めてすぐに受け身を取り、滑らかな動きで再び構えを整える。
追撃はすでに始まっていた。
矢が三本、立て続けに襲いかかる。
アリューシアは刃を閃かせ、疾風の軌跡で全てを弾き落とす。
視線が交錯する。
既に追いつけない程、距離が離れていた。
残りの制限時間にも注意は必要だが、旗までの距離を考えると次の接敵が最後になるだろう。
アリューシアは高ぶっていた気持ちを落ち着かせ、各騎士の状況と作戦を考えるため、
残りの騎士と合流をして班の体制を整えることとした。
◇ ◇ ◇
旗の前の広場で集まったエミヤ、ベリル、フィッセルは最後の作戦会議をしていた。
「残りの騎士は11人…また、分かれて攻めてくる、よね」
フィッセルの言葉に頷くエミヤとベリル。
「あぁ、恐らく我々3人に対してそれぞれ戦力を配置したうえで、別部隊として旗の奪取を目的にするだろう。
彼らは我々を倒さなくても、旗を取れば勝利だからな」
「そうだね。残り時間も短いから、きっとその作戦だと思うよ。
…割り当てられる人員としては、恐らくヘンブリッツ君が俺、アリューシアがエミヤ、だね」
「あぁ、間違いないだろう。人数配分を考えても、アリューシアは単騎で私の元に来る。
ヘンブリッツはベリルを相手にするならば、3人は連れているだろう。
他の騎士4人をフィッセルに当てるとして、残り2人が旗の奪取と見ても大きな差はないだろう」
「うん、俺でも、この状況で騎士側で勝つためには、その配分だと思うよ」
実際、ここまでのエミヤたちの推測は、騎士側の作戦内容と一致していた。
アリューシア単騎による狙撃手(エミヤ)の封じ込み、予期せぬ戦法を使うエミヤ相手であれば
一番の実力者であるアリューシアが対峙することが相性としても適している。
ベリル相手はヘンブリッツ含め、熟練の騎士たちによる連携で抑える。
ベリル自身は非常に強い剣士だが、攻撃範囲に限りがあるといった弱点がある。
倒しきることは難しくても、耐え忍ぶことであれば可能だろう。
フィッセルの相手は、クルニを始めとした若手騎士で人数差を押し付ける形だ。
魔術師は剣士に対して非常に有利を取れる。
特にフィッセルは過去ヘンブリッツとの手合わせの際に、勝ち越すほどの実力者だ。
また、もしフィッセルが抑えられずにエミヤやベリルと合流してしまうと、
途端に挟撃となり今の配置では耐えることが出来ない。
だからこその配分だ。
そして、今までの罠がある以上、旗の奪取は2人以上が条件となる。
「さて、あとはこちらの配置だが、わざわざ相手の思惑通りに動く必要はない」
エミヤが思案する中、ベリルが少し遠慮気味に声をかける
「エミヤ、配置の話だけどさ。出来ればフィッセルにはこのまま若手騎士と戦わせてほしいな」
「先生、どうして?」
「フィッセル、今回の模擬戦ではずっと役割に徹底してたでしょ。
それにきっと、フィッセルを抑える騎士の中にはクルニも含まれてると思うんだ。
それなら、最後は思いっきりやってほしいなって」
ベリルの話を聞いて、エミヤも考える。
たしかに以前フィッセルがクルニと道場時代、同期だったと聞いていた。
それならば勝ち負けよりも、ここまで戦ってくれた彼女の想いを優先させるべきか。
「わかった。フィッセル、クルニたちを任せていいかね」
「うん!…先生、ありがとう」
フィッセルの配置と役割が決まる。
旗の周りは罠と防御用の柵を設置しているため、この時間であれば2人相手には保つだろう。
「では、私とベリルは、この配置でいこう」
◇ ◇ ◇
高台目掛けて、アリューシアが駆ける。
騎士側の作戦としても、まずは旗の前の広場を援護できる高台を制圧することが最初の一手だった。
──そして、アリューシアが単騎で高台へと駆け上がる。
高台付近に近づいた時に一度、仕掛けられた鈴がかすかに鳴り、矢が一本降る。
だがアリューシアはそれを弾き、警戒を解かずに前進する。
潜んでいるエミヤがどこで現れても対処できるよう、慎重に進む。
しかし、待ち構えていたたのは――エミヤではない。
「……先生……?」
高台の影から現れたのは、微笑みながらも油断せずに近づくベリルだった。
セットされていた弓矢は、一度起動したまま残され、エミヤの存在を錯覚させる演出となっている。
アリューシアは間合いを詰め、剣を構える。
ベリルも同じく剣を握り返し、互いに間合いを探る。
「私たちの作戦は見抜かれてましたか、さすがです」
「俺でも同じ作戦を考えてたよ。だからこそ、今君を他に向かわせることはできないね」
「無論です。先生と対峙して、他に行けるなどと考えておりません。
それに……」
そこでアリューシアの言葉が切れる。
「それに、なんだい?」
「先生とこうした形で剣を交えることができる、貴重なお時間です。
先生、胸を借りるつもりで、挑ませていただきます」
「そこまで言われたら、俺も簡単には負けられないね」
互角の剣技がぶつかり合い、刃が空気を切る音が森に響いた。
お互い、口元に喜びを宿す。
強者と戦える、剣士としての喜び。
──こうして、高台にてベリルとアリューシアの剣技による一騎打ちは決着つかず、戦況は次のフェイズへと移っていく。
◇ ◇ ◇
旗前の広場に、ヘンブリッツと騎士たちが姿を現す。
彼らの狙いは明白で、旗の正面に潜むだろうベリルを4人がかりで抑える計算だった。
共に並ぶ騎士は、何度もヘンブリッツと共に任務に当たり、死線も潜り抜けた仲だ。
お互いに自身の実力も、相手の実力もよくわかっている。
アリューシアが高台で剣を交えているのを確認すると、タイミングを見計らい一斉に進軍を開始する。
「……やはり、あそこにいるか」
ヘンブリッツは低く呟き、周囲の騎士たちに合図を送る。
広場に近づく騎士たちの目に、ぼんやりと人影が見えた。
しかし距離を詰め、体勢を整えようとした瞬間、目の前にハリボテが置かれていたことに気づく。
警戒の隙を突き、煙玉が投げ込まれる。
白い煙が立ち上り、視界を遮る中で、エミヤは素早く複数のクナイを投げつける。
だが、騎士もヘンブリッツも慌てず、刃や盾で受け流しながら冷静に対処する。
煙が晴れぬうちに、鎖の音がするのをヘンブリッツは聞き取った。
瞬間、近くの騎士に向けて鎖鎌が飛んできた。
騎士が剣で防ぐが、その剣を鎖で絡め奪ったエミヤは反対の手に握った刀で切りかかる。
騎士の間合いを割り、攻撃を叩き込もうとしたその瞬間、ヘンブリッツが間に入り、剣を払いのける。
「引け、ここは私たちで受け持つ」
武器を取られた騎士は、ヘンブリッツの判断を即座に理解し、旗の奪取に向けて走り出す。
エミヤも追撃を試みるが、既にほかの騎士が壁となり、カバーに入る。
追撃を諦めたエミヤは、油断なくヘンブリッツたちと向き合う。
「これ以上抜かれるわけにはいかないからな。君たちはここで仕留めさせてもらおう。
なに、私の罠でここまで減らしてきた騎士団など、敵でもないさ」
挑発とも取れるエミヤの言動、しかし残りの騎士たちは誰も警戒を怠らない。
「エミヤ殿の安い挑発を受ける者はいませんよ。
いつもの修練と変わらず、敬意を持って挑ませていただく!」
「では、口だけでないことを、証明してもらおう」
その言葉が口火を切り、騎士たちが一斉に攻め始めた。
エミヤは鎖鎌と刀、クナイを自在に切り替えながら、ヘンブリッツの猛攻や騎士たちの連携を受け止める。
時折、事前に仕掛けていた罠が作動し、網や丸太が飛来するが、騎士たちも必死に避けつつ応戦する。
「なるほど……これは勉強になりますね」
ヘンブリッツは内心で微笑む。
剣の強者である団長殿との手合わせや、剣聖と捉えて相違ないベリル殿に相手をしていただく中で剣士としての上達を感じることは多々ある。
しかし、ここまで絡め手を駆使するエミヤ殿との戦いは、自分や騎士たちにとって貴重な経験の場でもあった。
煙幕やクナイの連射、鎖鎌の振り回しを使いながら、エミヤは絶え間なく動き、攻撃を捌きながら撹乱を重ねる。
その中、ヘンブリッツは自らの剣で攻撃を仕掛けつつも、エミヤの動きや罠を楽しむように観察する。
戦況はさらに過激さを増し、巨大手裏剣や風船爆弾、高圧水砲や火炎機など、さまざまな攻め手が投入される。
騎士二人とヘンブリッツは必死に食らいつき、防御と反撃を続ける。
エミヤは一瞬の隙も逃さず、煙と炎の中で動き回る。
敵の攻撃を交わしながら、状況を掌握する。
旗前の広場は、まさに戦術の応酬の場となり、誰一人として気を抜けない戦いが続いた。
◇ ◇ ◇
池の近くで、クルニは仲間の騎士と共にフィッセルを抑えていた。
騎士側の想定通り、魔術師として戦うフィッセルは非常に強かった。
4人がかりでも、有効打は与えられず、気を抜けばすぐに倒されてしまうだろう。
また、通常の魔術師とは異なり、フィッセルは接近による剣技も卓越している。
日々鍛えている騎士と言えど、倒すことはできない。
それは、彼女が日々の修練を怠らずに続けている力に他ならない。
剣を学び、騎士として鍛える彼らは、フィッセルの剣技は才ある者が努力により磨いてきたと伝わる。
そこに魔法も加わるのだ、それは普通の剣士からすれば反則と感じてしまうほどの恩恵。
魔法はごく一部のものしか使えない。そして、今目の前にいる魔術師は魔法も剣も懸命に鍛えている剣士。
だから、才ある人には勝てない。いくら努力しても、同じ以上に努力する彼女には勝てない。
そんな訳がない。
ここにいる騎士は全員、同じように考える。
いくら個人の力量差があっても、勝てないわけではない。
私たちは、日々ベリル先生に鍛えてもらえている。
未熟であれど、先生の指導の下、自分の弱点と向き合いながら成長している。
私たちは、日々エミヤさんの強さを見ている。
剣の才能がなくても強い戦士がいると知り、どんな獲物相手でも落ち着いて見極める心を育てている。
だからこそ、ここでの勝負は誰一人欠けることなく戦況を維持できる。
魔法師団の若きエースを相手に、倒れずに、考えながら立ち向かえる。
そして、その中でもクルニは、より好戦的な試みに移した。
「ここは3人、3人でいいっす!旗を取りに行ってほしいっす!!」
クルニの提案に驚く騎士たち、同時に頷きあう。
たしかに団長たちの作戦は一番の案だと思うが、より確かな作戦にしたい。
何より、私たちも勝利に貢献したい。
「クルニ、それは慢心。今の状況で一人減るなら突破できる」
フィッセルの言葉にクルニは笑顔で答える。
「慢心なんてしてないっす!
それに、フィスちゃん相手に、私も守ってばかりじゃなくて、全力で戦いたいっす!!」
フィッセルは一瞬悩む。
4人を抑える方が、エミヤたちの作戦に沿うだろう。
しかし、同時に彼らから自分の思う通りにやっていいと言われている。
ならば、ここはクルニの挑戦を受けたい。
全員倒したいと思うのが、今の自分の本心。
「わかった。やろう、クルニ」
◇ ◇ ◇
それぞれにそれぞれの駆け引きがあり、ドラマがあった。
なればこそ、模擬戦の決着もまた、彼らの奮闘によるものだった。
それは、若き騎士たちの英断。
彼らは、人数を減らした中でも互いに声を掛けながら挑み、最終的に1名の脱落で留めた。
それは、熟練騎士たちの機転。
彼らは、自身と仲間の経験を信じ闘い、最後にはヘンブリッツだけだが立ち続けることができた。
そして、剣聖を独りで抑えた、騎士団長の確固たる実力。
彼女は、修練場の模擬戦でも一度も勝てなかった師を相手に、最後まで負けずに立ち会ったのだ。
その結果、旗の下に想定よりも多く駆けつけた騎士たちは、
慎重に油断なく罠を解除し、柵を取り除き──終了時間寸前に、その手に勝利を掴んだのだ。
旗を手にした騎士たちの喜びの雄たけびが、離れた地で闘う彼らの耳にも届いた。
見れば、全員泥だらけであり、団長、副団長含め満身創痍だ。
だが、皆揃って勝利を喜び、肩をたたき合う姿を見れば、エミヤも思わず声を漏らした。
「君たちの勝ちだ。よくやったな」
今回のエミヤさんの投影による技量模倣、または参考にした戦い方ですが、
前半~中盤はロビンフッド、後半は風魔小太郎になります。