ご感想、反応いただけること、本当に嬉しいですー!
皆様の感想や反応から、物語に追加したい部分を思いつくことがあり、本当に貴重な体験をさせていただいております。
当初自己満足のつもりでしたが、皆さまに見ていただけることで学びとなります。
よろしければ周回のお供にでも、なんて気持ちです。
ベリルの新居が引き渡されたその夜。
夕暮れの橙が街を染め終えるころ、整理された家の食卓には温かな湯気が立ち上り、豪勢な料理がずらりと並んでいた。
エミヤが腕によりをかけて用意した、夕食会だ。
新しい住まいは少女と二人で過ごすには不自由ない広さであり、日当たりも良い。
そして、これまで借宿だったベリルにとっては落ち着ける場所となる。
もっともベリル曰く、まさか片田舎で生涯を過ごすと思っていた自分が、都市で家を持つなんて信じられないと語っていた。
また、ミュイの小さな生活スペースも丁寧に準備されており、家具の配置は彼女自身が決めたらしい。
そして今――。
エミヤ、ベリル、ミュイ、アリューシア、ヘンブリッツ、クルニ、フィッセル、スレナ。
総勢八名が囲む食卓は、和やかな笑い声に満ちていた。
「エミヤさんの料理って、本当にすごいっす……!
どれも味が整っているというか、こう……贅沢な気持ちになるっす!」
クルニが頬をほころばせながら感想を述べる。
見れば、フィッセルも頷きながら目の前の料理に夢中になっていた。
若者二人が喜んでいる姿を横目に確認しつつ、エミヤは主役の様子を伺っていた。
「……すげぇ…アタシ、こんなに美味いの、初めてだ…」
具たくさんのスープから口につけたミュイは、数口食べた後、思わず固まり小さく呟く。
そして、その後は周りを気にしない様子で一生懸命食べ進めた。
机の上に並べられた色とりどりの料理が気になり、待ちきれないのだろう。
事情を知らない者が見れば、マナーとして少し落ち着くように、と咎めるべきかもしれない。
しかし、此処に集う大人は、皆微笑ましく少女を見ていた。
少女のそれまでの境遇では、十分に食べれないこともあっただろう。
ましてや、温かな場所で食事を取れることは少なかったはずだ。
日中を共に過ごしたとはいえ、まだ詳しく知らない大人に囲まれて緊張を残していた少女は、
今、年相応の姿を取り戻していた。
その様子に、目的を果たせたことを密かに喜ぶエミヤ。
皆も自然とミュイの分に配慮をしつつ、心温まる料理を堪能した。
その後、お腹も満たされ、食後のデザートや紅茶を堪能しながらも温かな時間は続く。
その中でヘンブリッツは、料理の感想を述べつつエミヤに話を振る。
「やはりエミヤ殿の料理は素晴らしい。さすがです。
先日の食事会の後、後輩たちが食堂で食べる時間を密かに楽しみしてると話してましたよ」
「それは嬉しい報告だが、今後私が食堂で勤める時間は少なくなるだろう」
ヘンブリッツの称賛に対し、エミヤは返事をする。
初耳だったクルニやフィッセルが驚く中、エミヤは事情を説明した。
「私は元々、一時的に不足していた職員の代役に過ぎない。
無論、今後も定期的に手助けをするつもりだが、彼らが復帰してきた今となっては、人員が余る状態だ」
「それはショックっす…」
「なに、あの食堂の味は十分質が高い。
僅かばかり気になった味付けも既に改良済みだから、今後も利用するといい」
肩を落とすクルニに声をかけるエミヤ。
隣のフィッセルもエミヤに尋ねる。
「エミヤさんの料理を食べる機会、減る?」
「君たちであれば、声を掛けてくれた時に手が空いていれば振舞うのだがね」
「エミヤ、それはさすがに遠慮する気持ちが出るぞ?」
フィッセルへの回答にスレナが皆の気持ちを代弁して言う。
たしかに、自分のために時間を使ってくれとは依頼し難いと思いなおす。
「ふむ、そうだな。
今後のことも少し考えてはいるが、まだ明確ではない。
具体的に決まれば私から話そう」
エミヤの言葉に、事情を知るアリューシアとヘンブリッツは黙秘をし、
その様子を見ていたベリルとスレナは、彼らに何か考えがあることを察した。
そして別の話へ話題が移るタイミングで、スレナがエミヤに尋ねた。
「エミヤ。前から聞きたいことがあったんだが、いいか?」
「改まって、どうしたのかね?」
「いや、これは剣士としての個人の興味になるのだが…
貴方が今まで戦ってきた中で、いちばん強かった剣士って、どんな人なんだ?」
その瞬間、食卓の空気がすっと静まった。
好奇心、期待、畏れ……さまざまな視線がエミヤへと向けられる。
エミヤは少しだけ目を伏せ、手にしていたカップを置いた。
「……剣士として、か」
「あぁ。貴方の戦い方は格上と戦う手段に感じたからな。
きっと先日の特別討伐指定個体のような怪物もいるとは思うが、純粋に剣で戦う人もいたのか?」
その問いに、エミヤの脳裏に一人の金髪の少女が浮かぶ。
凛とした背、気高さと優しさを兼ね備えた横顔。
すべてを切り抜ける剣速と、誰よりも麗しい剣筋。
何より、エミヤが――〇〇〇〇が、彼女の記憶が薄らぐことなど、決してない。
その姿は、例え擦り切れたこの身であっても、鮮明に思い返せる。
エミヤはゆっくりと口を開いた。
「――セイバー、私が知る最も強い剣士だ。
強者集う円卓の騎士達の王、騎士王。
星の聖剣を扱い、どんな敵も切り伏せる。
剣の技術が非常に高い者は多くいるが、私の知る中で“最強の剣士”と言えば彼女だ」
言葉に偽りはなかった。
どんな英雄よりも、彼は彼女を尊敬している。
食卓の全員が、ごくりと息を飲む。
「騎士王…ですか。私は聞いたことがありませんね。どのような方なのでしょうか?」
現役の騎士団長として、騎士の名前が出てきたことに興味が引かれるアリューシア。
ヘンブリッツやクルニも、興味深そうに聞いていた。
「私の地方で語られる伝承のようなものだ。
人物像か…民を想い、いかなる外敵も退けた誇り高き王であり、伝説的な君主。
清廉潔白、滅私奉公を貫いた王。律儀で丁寧だが…まぁ、なんだ。負けず嫌いだよ、彼女は」
そのエミヤの言葉に皆、声を失う。
伝説と話した彼女と、まるで会ったことがあるような話し方に驚いたのではない。
普段、感情を表に出さないエミヤから初めて聴こえた、尊敬と共に親愛が含まれるその温かな声色に、驚いたのだ。
そして、スレナは内心、いつかの洞窟で彼が教えてくれた、
主への想いに含まれていた温かさと同じ質量であると一人感じた。
鎮まる空気を誤魔化す様にエミヤは咳ばらいをしつつ、いつもの調子に戻り話を逸らす。
「戦い方を分析しても、一撃の重さ、剣速、判断力。
どれを取っても常人の域を超える人物だ……あれを完璧に模倣することは、私でも難しい」
エミヤの言葉に、ベリルがふと身を乗り出した。
「……なあエミヤ。
君なら、魔術でそのセイバーさんの再現はできるのかい?」
本人の興味も含まれる質問だが、何より気遣って返答したベリルに内心感謝しつつ返答する。
「完全再現は不可能だ。
だが……剣筋、間合いぐらいなら“ある程度”模倣はできる」
その言葉に反応したのは、剣士たちだ。
ミュイを除く全員の視線が、エミヤへと突き刺さる。
「それはぜひ一度闘いたいな!エミヤ、頼めないか?」
「リサンデラはギルドの者でしょう。ここは特別指南役としても、ぜひ稽古をつけていただきたく!」
「最強の剣士と聞くと私も気になります。エミヤ殿、何卒!」
スレナが身を乗り出し、アリューシアがスレナに牽制しつつ手を上げる。
そして、ヘンブリッツやクルニ、フィッセルがエミヤに集う後ろで、小競り合いが始まる二人。
「あ??騎士団長ともあろう人物が器の小さい。同じ先生の下で学んだとは思えんな?」
「は??私は当然の権利を主張しているだけです。そもそもエミヤさんも多忙なのです、引っ込んでください」
威圧しながら睨み合う騎士団長とブラックランク冒険者。
全く止める役にならないベリル。
関わりたくないのか、エミヤに集まる若者(とヘンブリッツ)たち。
そして、困惑するミュイ。
…混沌と化してきたな。
エミヤはわずかに肩をすくめた。
「本来、魔術は秘匿するものだ。己の戦術を簡単に晒すわけにはいかない、のだが…」
反対の言葉を口にしているはずなのに、その声音はどこか弱い。
剣士たちの目の輝きが、あまりにも真正面すぎたからだ。
エミヤは、ふ、と短く笑った。
「……分かったよ。
明日の稽古で“少しだけ”見せてやる。あくまで模倣だがな。
アリューシア。騎士達の邪魔はしないから、スレナやフィッセルの立ち入りを許可してくれないかね。
除け者にでもしたら、私が後で怖い」
「「「やったぁ(っす)!!!」」」
食卓がどっと沸き立つ。
ベリルは期待にそわそわしつつ、自制するかのようにエールを煽り、
アリューシアは渋々といった様子で彼女らの立ち入りを了承する。
と言っても、その口ぶりでは始めから除け者にするつもりはなかったのだろう。
皆の様子にミュイは少し驚きながらも、楽しそうに笑う。
「……エミヤ…さんが、一番楽しそう……」
「楽しそう、か。
……そう見えるなら、まあ悪くない」
エミヤは、ほんのわずか──本当にわずかにだけ、表情を緩めた。
それは誰にも気づかれないような、静かな微笑みだった。
◇ ◇ ◇
正午を告げる鐘の音が、澄んだ空に響き渡った。
騎士団訓練場は、午前の稽古を終えた団員たちが休憩へと散り、昼の一時的な静けさに包まれている。
その片隅、温かな日差しが落ちる模擬戦用スペースに、ぽつりぽつりとエミヤと仲間たちが集まっていた。
「エミヤ!準備できてるよ!」
いつもより元気の良い声を響かせ、ベリルがエミヤを呼ぶ。
先ほどまで共に指導に当たっていたから疲労はある様子だが、十分余力があるようだ。
その隣ではスレナがストレッチをしながら片手を上げ、ヘンブリッツも既に臨戦態勢で淡い期待の目を向けていた。
彼らの後ろで、ミュイが不慣れながら小さく会釈し立っている。
剣士ではない彼女は、勧められて見学に来たようだ。
「……アリューシアとフィッセルは来られなかったか」
「団長は書類仕事に追われてる様子だったっす。
あとフィスちゃんは魔法科の授業準備で泣いてたっす」
ミュイの近くにいるクルニが肩をすくめながら説明した。
彼女は午前中の稽古で十分体力を使っており、身体を冷やしながらミュイの近くで見学するようだ。
「まあ、仕方ないな」
エミヤは短く息を吐き、気を引き締める。
今から行う稽古は騎士団とは関係ない。
昨日の食卓での“あの話”――セイバーの剣技を模倣して見せてほしいという、剣士組の熱望による特別なものだ。
「さーてエミヤ!誰から相手するんだ?」
ベリルが意気込む。
しかしエミヤは、彼に向けてゆっくりと手のひらを向けた。
「――ベリル。悪いが、今日は君とはやらない」
「え……?」
ベリルの顔が、露骨にしょんぼりと沈んだ。
エミヤは淡々と続ける。
「今日の模擬戦は“セイバーの剣技を再現する”という趣旨だ。
君と手合わせとなると……その目的とズレる」
ズレる――表向きはそう言っておいた。
本心はもっと幼稚なもので、口に出すほどのものではない。
(……完璧に再現できるわけじゃない。
それでも“彼女”を模した以上――負けたくはない)
子どもじみた意地だ。
だが、胸の奥でひっそり息づく誇りを、軽んじるつもりもなかった。
さて、とエミヤは視線を巡らせる。
「では、最初の相手は……」
「私がお願いしたい」
手を挙げたのはヘンブリッツ――ではなく、ひと足先にスレナの声が重なった。
「エミヤ、貴方と手合わせをさせてもらったのはギルドの依頼前だったが、あの結果は忘れていない。
リベンジの意味を含めて、最初にやらせてほしい」
きっぱりと言われ、エミヤは肩をひとつすくめた。
剣士の執念深さというのは扱いが難しい、と内心で苦笑する。
「……分かった。最初はスレナだ」
「よし!」
スレナが二本の短剣を手に取り、軽く跳ねるように距離を取る。
冒険者として研ぎ澄ませてきた足さばきが、既に臨戦態勢を告げていた。
エミヤは深く呼吸を整え、静かに目を閉じる。
「――投影、開始」
その呟きが風を震わせた。
しかし、今回の投影魔術はここでは終えない。
目を閉じたエミヤは、周りの空間と離れたかのように、独り意識を集中させる。
創造理念
基本骨子
構成材質
製作技術
憑依経験
蓄積年月
全ての過程を丁寧に魔力を通し、彼の描く最高の剣を創り上げる。
そして。
空気がわずかに震動し、エミヤの手に黄金の輝きが凝縮していく。
勝利すべき黄金の剣、カリバーン。
それは王の資格を持つ者にしか引き抜けない、彼女が生前使用していた"選定の剣"。
サーヴァントとしての彼女は所持しないが、セイバーの手に在った、あの気高い光の剣。
「…先に伝えるが、今日はこの剣一本。小細工は一切しない」
「へぇ……上等じゃないか!」
スレナは重心を低くし、二刀を逆手に構える。
その瞳は獲物を逃さぬ猛獣のそれだった。
風が止む。
訓練場の空気が、二人を中心に研ぎ澄まされていく。
「では、いくぞ」
「いつでも来い!」
一瞬、何も動かない。
次の瞬間――。
地を割るような踏み込みと共に、二人は激突した。
初速からして、常人では視認できない。
スレナの踏み込みは、今しがたまでその場に立っていたことを疑いたくなるほどの衝撃を伴った。
一瞬で間合いを詰め、右の刀が風を裂く。
「――ッ!」
エミヤの腕がしなり、黄金の剣がその軌道を捉えた。
火花が飛ぶ。
が、その火花が落ちきる前に――
スレナの左刀が、低い角度から喉元を狙っていた。
(やはり速い……!だが――)
カリバーンが、風のように発する魔力が巻く。
セイバーの突進力を借りた踏み込みが、スレナの刃を受け流し、同時に身体ごと押し返す。
後の先――
ベリルの持つ"眼"を活かしたものではない。
騎士王として駆けた時間、敵を滅ぼし、魔を退け、民を護った常勝の王。その歴史。
それら"戦いの王"としての力を、余すことなく模倣していく。
至近距離で数十合打ち合うが、スレナの双剣はエミヤに通らない。
手数や立ち回りのスピードはスレナが上であるにも関わらず、その悉くが捌かれる。
それどころか魔力を纏わせた剣から繰り出される剣筋は、受け止めることができず、
対峙者は常に完全回避に近い受け流しが求められる。
理解はしていたが生半可な攻撃は通らないと悟ったスレナは、地を蹴って後ろに跳ねる。
距離を稼ぎ、闘い方を変えるための思考を切り替える――そのような猶予を与える程、彼の王は甘くない。
エミヤは魔力放出を利用した突進により、スレナとの空いた距離を瞬時に詰める。
そして突進から行われる鮮やかな横薙ぎ、スレナが防げたのは無意識の防御に他ならない。
「うそでしょ……!」
「手加減しろとは言わなかったはずだ」
防いだばかりのスレナの息を吐かせぬうちに、再び打合いが始まる。
体力自慢のスレナであれど、重い連撃を受け流すうちに、腕の痺れが蓄積していく。
だが、この無慈悲な王は敵を逃がさない。
そこから、さらに数十合と打合いが続く。
道場には剣が打ち合うには到底聞こえない轟音が聞こえる。
見学する剣士たちも、固唾を呑んで二人の激闘を見守る。
そもそも、スレナでなければ、このような闘いにならないだろう。
それはレベリオ騎士が誇る騎士団長、副騎士団長と言えど、例外ではない。
そして、例えベリルであっても、正面からぶつかり合う戦闘を長く維持することはできない。
スレナだからこそ未だ決着が着かず、膝を屈しないのだ。
加えてエミヤの剣技は単純な攻めばかりでない。
突如軽やかな足さばきでスレナの攻撃を躱すと、そこから瞬時に距離を詰め高速の連撃を振るう。
その一撃一撃にも魔力が込められており、剣技を防ぐのではなく遥か大きな生物の攻撃を凌いでると思わせる。
そう、スレナには覚えがある。
この攻撃範囲、攻撃の重さ、人どころかおよそ生物を凌駕している。
竜がいる。
今、スレナの目の前に、ドラゴンがいる。
そのように錯覚してから、スレナは微かに笑う。
伝説のような強さに合点が付いた。
途端に正体不明の剣技の仕組みの一部を紐解けた感覚だ。
相手を竜だと認識して闘う。
当然、現実とのギャップはあるが、誤認しなければ戦える。そして、勝てる。
何より、この身は竜討伐を成し遂げた、ブラックランクの冒険者なのだから。
エミヤの眼は、対峙者のスレナが纏う空気感が変わったことを見逃さなかった。
何より、この打合いが続けば間もなく勝敗を決する――エミヤの敗北という結末だ。
"彼女"の戦い方の再現をしたとしても、当然竜の炉心を持ち合わせぬエミヤでは、魔力が明らかに足りない。
こちらの世界だからこそ、ここまで加減なく魔力放出を行ってきたが、それも残量が見えてきた。
顔に出さず、常に上回るように攻め続けたが、スレナを崩すことはできなかった。
そして、スレナが何を感じ取ったかは分からないが、あの眼には長期戦を行う覚悟が灯っている。
だからこそ、このまま続けばエミヤが敗北するのは必然だ。
――無論、敗北の必然を凌駕してこそ英雄――
仕掛け時と判断したエミヤは、瞬時に剣の魔力を解放する。
彼の王が持つ聖剣に宿る、星の光。
その魔力を束ね――瞬間、閃光として発生させる。
剣の変化を見落とさぬよう注視していたスレナは、大きく影響を受け動きが止まり、
その瞬間にエミヤが剣をスレナの首元の前に止めた。
スレナが片膝をつき、悔しさを滲ませて笑った。
「……っはぁ、勝てると思ったのに……!」
「君も強かった。素直に驚いたよ」
エミヤは息を整えながら、答えた。
◇ ◇ ◇
スレナとの戦闘が終わった直後――
観戦していたベリルたちから大きな拍手を受ける二人。
スレナは胸に残る悔しさと、何より格上の剣士と試合えた喜びを噛みしめながら、彼らの下に戻ろうとした。
しかし、一向に動かないエミヤを不思議に思い声を掛けると、思わぬ返答が来た。
「申し訳ないが、先に戻ってくれないかね?
…正直に言えば、魔力切れだ。まだ動けそうにない」
見ると、勝利したはずのエミヤの方が、自分よりも疲労色濃く出ている様子だ。
エミヤが戦闘中は悟らせないよう気合で隠し続けていたと分かり、その胆力に驚きを越して呆れてしまう。
思い返せば、あのゼノ・グレイブルとの激戦の後も、同じだった。
だが、何よりスレナの心にはエミヤへの感謝の気持ちが強く宿っていた。
恐らくあの奇襲は、もっと早く行うこともできたはずだ。
だが、ここまで魔力を使いながら、自分との試合に付き合ってくれたのだ。
その彼の真面目さに、改めて戦ってくれたことへの感謝を告げたスレナだった。
およそ10分後。
動けるようになったエミヤが、届けてもらった飲み水の礼を言いに見学者たちの元まで来た。
スレナが皆に事情を話していたため、気を使い近づかなかったのだ。
それも、模擬戦を見た後で興奮気味のヘンブリッツとスレナに対して、戦術の助言をするベリルを見ていると、
近くで騒がないよう配慮をしていたのだろう。
ある程度回復した様子のエミヤを見て、ベリルは気遣う声掛けをする。
ところが、問題ないとエミヤが答えると。
「エミヤ!なぁ、やっぱり俺とも――」
「断る」
食い気味に、しかし優しい声で断られたベリルは、見事に項垂れた。
だがエミヤはすぐに続けた。
「ベリル、スレナと稽古をするのはどうだ?
スレナは連戦となってしまうが、君の体力であれば問題ないだろう」
「たしかに、そうだね。
スレナ、もし君さえよければ、一戦付き合ってもらえるかな?」
「もちろんです先生!
先生と立ち会える時も、ずっと楽しみにしてました!」
スレナの了承に「俺の方こそ胸を借りるつもりでやらせてもらうよ」と返事するベリル。
スレナがベリルに対して成長した自分を見てもらいたい、と願っていると感じたエミヤは
2人が打ち合える機会が出来て、内心喜んでいた。
2人が奥で打合いの準備をするために向かった後、ひっそりとヘンブリッツが近づいた。
「――エミヤ殿。お疲れのところ申し訳ありませんが、もし叶うのであれば…」
「あぁ、分かっている。あと一戦分であれば可能だろう。
午後の訓練が始まる前に行える方がいい、早速君とも打ち合わせてもらおう」
普段であれば遠慮するヘンブリッツが、エミヤに疲労があってもお願いする姿に思わず苦笑を浮かべる。
剣士として、剣の熱に当てられたのだろう。
自分では理解できない感情だが、ベリルと共に過ごした中で"剣士の習性"を予想できるようになっていた。
気持ちを切り替え、ヘンブリッツとの模擬戦を準備するエミヤ。
その表情は、エミヤに自覚がなくても、楽し気な表情をしていた。
◇ ◇ ◇
「…すげぇ」
先ほどまでのエミヤとスレナの模擬戦。
そして、今目の前で行われているベリルとスレナ、そしてエミヤとヘンブリッツの模擬戦を見ながら驚くミュイ。
剣士と言う存在は、ベリルと出会うまで会ったことがなかった。
そして、彼らの試合を見ると、今まで見てきたならず者や盗賊たちが弱い生き物だったか、価値観が変わるようだった。
「すごいっすよね」
隣に座るクルニが声を掛けてくれる。
一人で見ていたら、気圧されて固まったままだったと思う。
「その、あんたも、あんなに強いのか?」
「私は全然っす」
あの人たちが特別強いっす、と否定するクルニに、ミュイは内心少し安心していた。
騎士達が皆あれほど強いのかと恐れていたところだった。
「………アタシも、成れるかな」
クルニの言葉に緊張が解けたミュイは、そう呟く。
目の前で人間離れをしている動きを見ると、正直、自信がなくなった。
そんなミュイに、クルニは優しい声色で声を掛ける。
「ミュイちゃんも、努力を続ければ必ず成れるっす。
私も、みんなを目指して頑張ってるっすから」
笑顔で迷いなく話すクルニに、眩しいものを感じるミュイ。
同時にミュイは感じた。
今までの人生と違って、これからは成りたい自分に成るよう、努力していいのか。
まだ先の夢とか分からない。
ただ、それでも、彼らのような剣士になりたい、と。
これから魔法学院で"剣魔法"を習おうと、改めて心に強く感じたミュイだった。