皆さま、いつも感想や反応など、多くの温かなお言葉ありがとうございます。
次話の構想はあったものの、生活に追われ筆もうまく進まないこともあり、
本話は完全な番外編としてお出しさせていただきます。
番外編です、タイころです。
タイころのノリでお読みいただけますと幸いです。
…PSPは、もはやアーティファクトかもしれませんが、どうか勢いでお読みください。
その日、ベリル・ガーデナントは朝から妙な高揚感に包まれていた。
目覚めは快適。
空気は澄み、陽射しも良い。
身体の調子も悪くない。
何より――理由は分からないが、今日は何か良いことが起きる気がした。
なお、その期待は盛大に裏切られる。
◇ ◇ ◇
◇第1話「その違和感、たぶん手遅れ」◇
「……ん?」
寝癖を適当に直しながら歩いている途中、ベリルは首を傾げた。
騎士団訓練場。
いつも通り朝稽古の時間帯だというのに、妙に熱気がある。
いや、熱気というより。
「……なんか今日は、みんな目が怖い気がするね?」
木剣を振る騎士たちの目が、妙にギラついている。
一段と気合いが入っている、と言えば聞こえはいい。
元々彼らは日々研鑽を怠らず、集った者たちは血気盛んに修練に励んでいるため、常に活気があることは間違いない。
だが、今日の彼らは殺気が立っているわけではなく、どちらかというと肉食獣が獲物を見つけた時の顔に近い。
「ベリル先生!!」
「おはようございます!!」
「今日もご指導お願いします!!」
「お、おう……?」
挨拶は元気だ。
元気すぎる。
ベリルは若干引きながら、近くの若手騎士へ声を掛けた。
「エミヤを見かけてないかな?」
「えぇ、エミヤさんなら今日は朝から食堂に呼ばれたそうです!」
「食堂?」
「はい!なんでも急遽人手が必要になったとかで。
あと何か、今日は雰囲気が違いましたね!」
「雰囲気?」
「ええ!
こう……少し鋭くなったというか!黒くなったというか!
イメチェンでしょうか?」
「イメチェン……?」
ベリルは眉を寄せた。
彼がイメチェン……想像できない。
というより、ちょっと想像したくない。
だがまあ、食堂なら後で会えるだろう。
俺も、彼の美味しい食事をご褒美に考えて、今日も彼らの稽古に励むとしようかな。
そう考え、ベリルは準備運動を始めた。
◇ ◇ ◇
◇第2話「ベリル先生、大人気」◇
十分後。
「ありがとうございましたッ!!」
「うん、いい踏み込みだったね。
この前の課題を意識した一手だったよ。あとは体幹にも注意しようか」
若手騎士が感激した顔で下がっていく。
序盤はいつものように彼らの型を見るだけのつもりだった。
だが、
「ベリル先生!自分もお願いします!」
「次、俺も!」
「ぜひご指導を!!」
「お願いしますっす!!」
気付けば若手騎士たちの列が出来ていた。
「……なんか皆、今日はいつも以上に積極的だね?」
だがベリルも頼られて悪い気はしない。
剣と向き合う若者たちには、同じ剣士としてできる限り応えてあげたいと思うのだ。
そのため、一人一人、丁寧に相手をする。
特にクルニなどは妙に気合いが入っていた。
「はぁぁぁっ!!」
「いい気迫だね」
「まだっすよ!!」
「いや、本当に元気だね今日!?」
普段より二割増しで飛び込んでくる。
若さって怖いなぁ、とベリルが思っていながらも、稽古の時間が続いた。
結果として集まっていた若手騎士たちを全て相手したベリルは小休憩を取り息を整える。
多少の余力はあるものの、後は対峙する形ではなく助言に徹するのも悪くないかと思い始めたころ――
「ベリル殿」
低い声が響いた。
ヘンブリッツである。
何故か目が据わっている。
「……えーと。ヘンブリッツ君、どうしたのかな?」
「是非、ご稽古を」
「いやちょっと、もう少し休憩――」
「是非」
圧が強い。
普段の彼の振る舞いとは考えられない。いや、圧が強い。
ベリルは嫌な予感を覚えた。
だが副団長直々の頼みを断るのもどうかと思い、渋々頷く。
もしかしたら彼には後の予定があるのかもしれない。
もしくは新しい技術を試したいのかもしれない。剣技を高めたい気持ちなら、よくわかる。
「……分かったよ、一手やろうか」
瞬間。
ヘンブリッツが振り返った。
「諸君!!ベリル殿から稽古許可が出た!!」
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
「待て待て待て待て待て」
何故増える。
何故ベテラン騎士まで集まる。
何故全員目が本気なのか。
「今日の騎士団どうなってんだ!?」
――悲しいことに、その叫びは、誰にも届かなかった。
◇ ◇ ◇
◇第3話「何故そうなる」◇
数十分後。
「……はぁ……はぁ……」
ベリルは壁に手を付きながら肩で息をしていた。
おかしい。
絶対おかしい。
騎士団全体が妙に好戦的だ。
「……ルーシーのところに行こう……」
こういう訳の分からない事態は、一人で悩んでも仕方ない。
あの魔法師団長であれば何か分かるかもしれない。
どうしても解決しないなら、ミュイを連れてきて事態が落ち着くまで匿ってもらおう。
ベリルは重い足を引きずりながら歩き出した。
そして。
「ベリル先生!」
「先生!?」
道中遭遇したのはアリューシアとスレナだった。
良かった、彼女らであれば相談できるし、事態解決にも協力してくれるかもしれない。
「丁度良かった。実はお願いしたいことがあって。
なんだか、今日はみんな変なんだけど――」
「……そうですか」
「……なるほど」
空気が変わった。
「先生は、"私"のことを頼っていただきました。リサンデラはすぐに立ち去ってください」
「いや、今のはどう考えても"私"を頼りにしていただいた。シトラスの方こそ、一刻も早く勤めに戻るべきだ」
「いや待って、俺は二人にお願いしたく――」
「邪魔しないでくださいリサンデラ」
「そっちこそ」
何故睨み合う。
「ベリル先生!」
「先生!」
「「どちらを選ぶのですか!?」」
「選ぶ!?」
その後、ベリルは盛大に巻き込まれた。
それも、なぜか乱戦で試合になるまで、ヒートアップしていったのだった。
なお詳細は省く。
本人が「思い出したくない」と言ったためである。
◇ ◇ ◇
◇第4話「魔術師は話を聞かない」◇
ぼろぼろになりながら、ベリルは学院へ辿り着いた。
「……ファウステスさん……ルーシーはどこですか……」
「おや、ガーデナント君。ひどい有様だな。
まるで爆発に巻き込まれたような様子だ」
「えぇ、まさしく爆発に巻き込まれた気分です……」
「学院長なら今の時間は自宅で研究中だ」
「ありがとうございます。助かった……」
そう言って去ろうとした瞬間。
「ところでガーデナント君」
「…………なんでしょう」
「ちょうど今、対剣士向きの魔術を閃いたところでね」
嫌な予感。
「そうですか、では後日にしましょう。
後日であれば剣士として私も協力させていただきたいですね」
だから、後日にしましょう、と念を押す言葉をかける瞬間だった。
「安心したまえ。我々もあの事件から教訓を得ている。今回は単騎で過信することない。
より精密な魔術連携を行うため――連携相手として、フィッセル君も呼んである。場所も押さえている」
「安心材料どこ?」
結果。
増えた。
◇ ◇ ◇
◇第5話「説明の後は実戦です」◇
「……助けて、本当に助けて、ルーシー……」
ルーシーの屋敷へ辿り着いた時には、ベリルは既に満身創痍だった。
そして藁にも縋る想いで頼りにしたルーシーは……呑気に紅茶を飲んでいた。
「む?おお、ベリルか」
「“おお”じゃないよ……大変なんだ……」
「うむ、大体全部分かっておるぞ」
何も説明していないのに、この返事。
流石魔法、いや魔術だったっけ。
なんにせよ魔法師団長ってすごいね。
「……お主の考えていることが手に取るように分かるのぉ。
別に魔術師だから分かるわけじゃないぞ?」
「すごいね、心まで読めるのか」
「お主の顔に書いてあるだけじゃ。
……あー、説明しても分からんと思うが。
どうも頭の悪い魔力に感染した者たちが、やたら好戦的になるようでの」
それだけ聞くと、十分危険な話に聞こえる。
そんな俺の考えもくみ取ったルーシーは、首を振りながら呆れたように説明を続ける。
「なんじゃったかの……虎聖杯、だったか?」
「トラ……何?」
「それとも、エイプリルフール、だったか?」
全然分からない。
「なんにせよ午後になれば落ち着くじゃろ。今日は大人しくしておるのが正解じゃな」
「もっと早く言え!!」
既に散々揉めた後である。
ベリルは肩を落とした。
「じゃ、帰――」
「おっと待つのじゃ」
ルーシーが立ち上がる。
嫌な予感しかしない。
「曲がりなりにも客人をただで返すのは無礼じゃろ」
嘘つけ、普段からそんなこと気にしないやつだし、何より顔に書いてある。
「儂も少々昂揚しておっての、当然付き合ってもらうのじゃ!」
「帰らせろ!!」
なお帰れなかった。
◇ ◇ ◇
◇第6話「英霊召喚!?」◇
昼過ぎ。
ルーシーの大魔術パレードを意地と根性だけで乗り越えたベリルは、
満身創痍のまま食堂へ辿り着き、絶句した。
「なんだこの人だかり……」
騎士、冒険者、学生。
全員妙にテンションが高い。
「今日は食堂の気合いが凄ぇんだ!」
「エミヤ殿が二人いるぞ!!」
「……は?」
意味が分からない。
列に並び、ようやくカウンターへ辿り着く。
そこで。
「随分酷い顔だなベリル」
鍋を振るうエミヤ。
そして。
「…………」
その隣に、もう一人。
少し鋭い目をしたエミヤがいた。
「えっ」
「話は後だ」
「いや説明してよ!?」
「次の注文だ」
流された。
人だかりが落ち着いた後。
ベリルたちは再びルーシーの屋敷へ集められていた。
「つまりじゃ」
ルーシーが咳払いする。
「試しに召喚したら、何故か出てきた」
「何で?」
「しかももうすぐ消えるのじゃ」
「何で?」
「暇そうだったから食堂手伝わせた」
「何で!?」
「……案外悪くなかった」
「君も順応早いね!?」
誰も理解できなかった。
そして、似合わない返事をした"召喚された"エミヤは腕を組みながら話す……いや、紛らわしいね。
同じ人物が二人居ると、なんて呼ぼう。
「どうせ、すぐに消える。私のことはクラス名……アーチャーでいい」
「もしかして、そんなに俺って分かりやすい?」
「「「顔に書いてある(のじゃ)」」」
口をそろえて告げられる。
この年齢になって、そんなことばかり言われると、普段気にしない俺でも少し恥ずかしいな。
すると。
アーチャーがふっと笑った。
「さて。最後に一つ」
その視線がベリルへ向く。
「勝負といこうか」
「……は?」
「面白そうじゃの!」
「待て待て、ルーシーはさっき戦ったろ!?」
「あのなベリルよ。マスターはサーヴァントと共に闘うものじゃよ」
「いや当然みたいな顔されても分からないし、エミヤたちも頷かないでよ!?」
そんなこんなで、意気揚々とルーシーに連れられて再び屋敷の外に出た俺は、
ルーシー&アーチャーと対峙することになった。
連戦による連戦、体力どころか精神力なんて残るわけがない。
まぁ、此処は2対2、連携であればどうにかできるだろう、そう思いながらエミヤを見ると
彼は後方に控えたまま、弓を構え――ない、なんなら踵を返して掃除道具を手にしてるし!?
「アノ、エミヤサン??」
「生憎と理由もなく自分と戦う体験は遠慮願いたいのでな、頑張ってくれ剣聖」
「見捨てる気かぁぁぁぁ!!!」
見捨てられた。
なお。
午後には本当に全員元へ戻った。
◇ ◇ ◇
◇第7話「あの夜の続きを」◇
「…………っは!?、此処は!?」
目を覚ました俺が居たのは、不思議な空間だった。
全く知らない場所、特別俺の人生にも、月にも、剣の墓標とも関わりのない。
それはコロシアム。
緊張感が足りないものの、戦闘するために用意された謎空間。
「ふっふっふ、挑戦者が目を覚ましたにゃ」
「師匠!その語尾は流行らないっす!」
突如として降り注ぐ謎の声。
目を向けると、そこには……えぇと、見知らぬ女性と、少女??
どちらもお転婆で元気が有り余っている様子だった。
「えぇと、君たちは?」
「おぉぉと、気になりますか?気になりますかなぁ??
この謎の美人教師、まだまだピチピチの冬木のナイスなレディの私が、気になりますかぁ??」
「よっ!ゴージャスタイガー!!」
「弟子よ!私をタイガーと呼ぶなぁーーー!!」
すごいな、収拾がつかない。
「……あの、帰り道はどちらかな?」
「お生憎、当生配信は耐久視聴必須となりますので、悪しからず。
推しVのアーカイブを全て網羅する勢いで行ってみよう!
あーでもでも、3倍速は、いけないゾ☆」
「それでもここを出たいと言うのなら、此処は私たちを倒すのだぁーー!」
どうやら戦うことになりそうだ。え、正気なのか??
とはいえ信じられないことに、本当に信じられないことだけど、
あの女性からは剣の才を感じるんだけど!?
しかも、かなり強い、何者なんだ??
「うーーん、本当は私がキミの技量を確かめたいのだけどねぇ。
剣の努力をしてきた者として、セイバーちゃんに挑む気持ちで当たりたかったけど、
今回は時間がないから、"特別ゲスト"に譲っちゃうのだ。まさに気配りの達人」
「ということで、本日のメインイベント!
剣聖さんが心のどこかで望んでいた、あの人とのスペシャルマッチ!
ゲストの登場です!!盛大な拍手でお迎えくださいーーー!!」
なにやら愉快な音が鳴り響く。
訳が分からないまま、突如として出てきた煙の奥より、一人の人物が歩いてきた。
――その姿を、忘れることはなかった。
――彼の剣筋は、それほどの腕前だった。
だからこそ、あの時。
――本当は殺し合いではなく、同じ剣士として、もっと語りたかった。
彼は目の前に立ち、剣を構える。
闘志に応じるように、俺も構えながら集中する。
今回の彼は、漆黒の団服もなければ、仮面やフードもない。
その素顔が、いつか酒場で共に語り合った男だったことが分かり、困惑よりも納得が勝った。
「シュプール・アイレンテール」
「ベリル・ガーデナント」
「いざ」
「尋常に」
「「――っ!」」
――共に、歓喜を胸に。
言葉は不要、言いたいことは幾らでもあるが、時間が惜しい。
我ら剣士であれば、あとは剣で語るのみ。
――願わくば、この奇跡のような時間が、続きますように
◇ ◇ ◇
ベリルが再び目を覚ますと自宅のベッドに眠っていた。
窓の外は、夕方の色に染まり始めていた。
「いけない、ミュイのご飯を用意しないと」
「心配すんな、もう出来てる」
思わず言葉にして体を起こそうとしたタイミングで、気付いたミュイが部屋の奥から声をかけてきた。
こんな時間に横になるなんて健康的な過ごし方ではないが、どうやら体力が持たなかったようだ。
今日一日を振り返ろうとすると、身体の疲労が一気に押し寄せ、呻き声を上げてしまう。
さすがに心配になったのかミュイが水を入れたコップを持ってきてくれたので、気遣いに礼を伝えつつ喉を潤す。
「……今日は……酷い日だったよ……」
そして再びベッドへ倒れ込む。
せっかく用意してくれたミュイのご飯にありつきたいが、酷使した身体がもう少し休憩を欲していた。
ふと、朝感じた妙な高揚感を、ベリルは思い出した。
今日は良い日になる。
そんな予感がした。
「……おっさん、なんだか楽しそうだな」
「あれ、本当かい?
その、顔に書いてた?」
尋ねるとミュイはこくんと頷く。
ついにはミュイにまで指摘されたが、今は恥ずかしさよりも胸に占める感情は別だった。
「そうだね……楽しかったよ」
瞼を閉じると、彼ら、彼女らと交えたあの剣が、闘志が、熱気が蘇るようだ。
それは疲れた身体に心地よく、隣のミュイも察してくれたように静かに居てくれた。
もうじき夜になる風は、賑やかだった一日の熱を連れ去って、温かさを残した。
「ベリルさん。士郎を、よろしくお願いします」
「シロウはすぐ無茶しちゃうものね。あの子のこと、お願いね。彼方の剣聖さん」