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……あの、エクストラレコード発売PV、ひ、ひぇ(遺言)
あぁ、アニメ剣聖で美味しそうなご飯食べてる、楽しい(蘇生音)
魔術学院地下での騒動から、およそ十日。
レベリス王国の一角に建つルーシー・ダイアモンドの屋敷には、普段ならまず一堂に会することのない顔ぶれが集まっていた。
広めの応接室。
中央に置かれた長机を囲むように、九人が席に着いている。
騎士団からは、アリューシア、ヘンブリッツ、クルニ、そして特別指南役のベリル。
魔術学院からは、この屋敷の主でもあるルーシーを始め、ファウステス、キネラ、フィッセル。
冒険者ギルドからはスレナ。
「……随分と大人数になったのう」
ルーシーが部屋を見渡しながら呟く。
「学院の会議室を使えばよかったのでは?」
キネラの素朴な指摘に、ルーシーは愉快な顔をする。
「今回の件でまだ慌ただしい学院に、これ以上人を集めてどうする。
それに、ここなら茶も菓子も用意させることが出来るからのぉ」
ルーシーの最後の言葉に皆が不思議に思う中、当の本人が手元のベルを鳴らす。
部屋に入るのは、彼女の使用人であるハルウィ――そして、なぜかエミヤ。しかも執事服で登場ときた。
誰もが一瞬、心の中で突っ込みを入れた。
だが、ハルウィの洗練された所作にぴたりと合わせ、何食わぬ顔で茶菓子を配るエミヤを見ているうちに、指摘するタイミングを逃してしまう。
ただ一人、ルーシーだけが満足そうに頷き、何食わぬ顔で紅茶へ口をつけていた。
「…………いやいや、何してるのさエミヤ」
「見ての通り、だが?」
「皆、見て戸惑ってるから聞いてるんだよ」
皆の疑問を代弁したベリルの問いに、何食わぬ顔で返事をするエミヤ。
とはいえ、これもルーシーの思い付きに付き合わされているのだと分かると、ため息交じりに目の前の紅茶に口をつけた。
相変わらず、どれも美味しい。
「これでお主の店の宣伝になったかのぉ」
「君が飲みたかっただけだろう。もっとも彼女のお手並みがあれば、私への注文など不要だと思うがね」
そのやり取りに、張り詰めていた室内の空気が僅かに緩む。
皆への配膳を終えると、ハルウィは部屋の外に出る。
そしてエミヤは、騎士団や魔術学院とは離れ、スレナの後方に座り、腕を組んでいた。
「あれ、エミヤは騎士団側じゃないの?」
「いえ、先生は国王からの任命という形で、無事所属に成功……いえ、任命いただきましたが、エミヤさんは厳密に任命などは受けておりませんので」
エミヤの立ち位置に疑問を感じたベリルのつぶやきに、アリューシアが応える。
そういえば、エミヤが指導に当たることに誰も疑問を持たなくなったが、正式な役職があるわけではないようだ。
つまり、日常的に訓練へ顔を出してはいても、エミヤに正式な役職はない。
ルーシーは一度咳払いをすると、椅子へ深く座り直した。
「さて。始める前に、まずは学院側から礼を言わせてもらう」
先ほどまでの飄々とした声音が消える。
アリューシアたち騎士団。
スレナ。
そしてベリルへ。
一人ずつ視線を向けながら、ルーシーは続けた。
「此度の地下で起きた異常事態。本来ならば、魔術学院が管理すべき案件じゃった」
誰も口を挟まない。
「それを、急な要請にもかかわらず騎士団は即座に戦力を送ってくれた。ギルドも同様じゃ。そして……」
ルーシーの視線がベリルで止まる。
「最後まで残った脅威を止めたのは、お主じゃ」
ベリルは困ったように頭を掻いた。
「俺一人でやったことじゃないよ」
「分かっとる」
即答だった。
「だから今から全員に礼を言うのじゃ。途中で口を挟むでない」
「はい」
素直に引き下がる。
遠くからエミヤが、どこか呆れたようにベリルを見ていた。
ルーシーは視線を戻す。
「結果だけを言えば、死者は出なかった。じゃが、一歩間違えれば地下にいた者の大半が死んでもおかしくない状況じゃった」
続いて、ファウステスが静かに頭を下げる。
「学院を代表して感謝する。貴方たちの助力がなければ、我々だけでは対処できなかった」
キネラも続く。
「本当に、ありがとうございました」
フィッセルも僅かに緊張した様子で頭を下げた。
「……ありがとう、ございました」
騎士団側では、アリューシアが代表するように姿勢を正した。
「感謝は受け取ります。ですが、騎士団として当然のことをしたまでです」
一拍置き。
「それに、こちらこそ礼を申し上げなければなりません」
アリューシアの視線がルーシーへ向く。
「戦闘後、私たちの治療へ尽力していただきました。特に先生とヘンブリッツは、学院の治療がなければ今こうして座っていられなかったでしょう」
「私からも」
ヘンブリッツが頭を下げる。
「感謝申し上げます」
「気にするでない。わしは治せるものを治しただけじゃ」
ルーシーは軽く手を振った。
続くスレナからも、アリューシアと似たような言葉が出ていた。
そして、一通りの挨拶が終わると、クルニがおずおずと手を上げた。
「あ、あの!」
視線が一斉に集まる。
「その……今更っすけど」
クルニは少し居心地悪そうに周囲を見回した。
「自分、ここに居ていいっすか?」
「何故じゃ?」
ルーシーが首を傾げる。
「だって自分、地下の戦いには参加してないっす」
クルニの言葉に、一同が僅かに静かになる。
「結構大事な話をするって聞いたっす。本当に自分まで聞いていいのかなって」
「ああ、そのことか」
ルーシーは何でもないことのように言った。
「エミヤが呼べと言った」
「……え?」
クルニが固まる。
そしてゆっくりと、エミヤを見る。
「エ、エミヤさんっすか?」
「そうだが」
エミヤは表情を変えない。
「な、何でっす?」
「何故と言われてもな」
エミヤは腕を組んだまま、少しだけ考える。
「今日の話では、私自身について触れる可能性が高い」
「はい」
「そして君は、既に私やベリルたちと浅からぬ関わりがある」
「……はいっす?」
クルニには、まだ話の先が見えないらしい。
エミヤは僅かに肩を竦めた。
「フィッセルも含め、近しい者たちの多くが事情を知ることになる。その中で君一人だけ何も知らないというのも、妙な話だろう」
クルニは目を瞬いた。
「……自分だけ仲間外れにするのは良くない、ってことっすか?」
「そう言われると些か幼稚に聞こえるな」
「いや、でもそういうことっすよね?」
「概ねは」
「…………」
クルニの顔が、少しだけ赤くなる。
隣に座るフィッセルが、僅かに口元を緩めた。
「良かったね、クルニ」
「そっすね!居心地の悪さも少しなくなったっす!」
「そろそろ本題に戻してもいいかの?」
ルーシーの一言で二人は揃って背筋を伸ばした。
◇ ◇ ◇
「皆には了承済みだが改めて伝えると、ここで聞いたことについては会議後に全員へ口外防止の術を施す」
ファウステスが机の上へ数枚の資料を置いた。
「まず、今回の発端となった存在から確認する」
資料の中央には、一つの名が記されている。
特別討伐指定個体――ロノ・アンブロシア。
「魔術学院地下で訓練用として管理している魔生物だ」
そして、ファウステスの説明により、ロノ・アンブロシアに関する情報が共有される。
「つまり、元々は魔術学院の学生や教員の訓練対象ということですね。
そして封印方法も確立されていて、今までは大きな事故も起きていない、と」
アリューシアの整理を受け、スレナが静かに続けた。
「それが今回は、エミヤの姿を取った」
「ああ」
ファウステスの表情が僅かに険しくなる。
「当時、地下にエミヤはいなかった。
アンブロシアが対峙者を模倣する存在なら、何故その場にいなかったエミヤを選べた?」
スレナが腕を組む。
答えたのはキネラだった。
「完全に無関係というわけではなかったのです」
「どういう意味だ?」
「以前、エミヤさんが学院へ来た際、結界に異常な反応がありました」
スレナが眉を寄せる。
「異常?」
「はい。害意や危険人物を検知した反応ではありません」
キネラは言葉を選ぶ。
「例えるなら……結界が、エミヤさんという存在をどう扱えばいいのか判断できずにいた、と言う方が近いでしょうか」
「エミヤだけ?」
「ああ」
ファウステスが頷く。
「他の魔術師では確認されていない」
スレナの視線がエミヤへ向く。
「何故だ?」
当然の疑問だった。
「エミヤが魔術学院に所属していない魔術師だから、というわけではないのだろう?」
「そうですね、ご認識の通りです」
キネラが答える。
だが、続く言葉を前に、僅かに口を閉じた。
どう説明すべきか迷っている。
その様子を見て。
「私から話そう」
エミヤが口を開いた。
室内が静かになる。
既に知っているルーシーもファウステスも、止めなかった。
エミヤは腕を解き、椅子へ背を預ける。
「先に断っておく」
ベリルが僅かに視線を向ける。
普段と変わらない声。
だが、それがいつもより少しだけ慎重であることは、付き合いの長いベリルには分かった。
「今から話す内容は、君たちの常識からすれば受け入れ難いものだろう」
一同を見渡す。
「信じろとは言わん。まずは事実として聞いてほしい」
誰も口を挟まない。
そして――エミヤは、淡々と告げた。
「私は、この世界の人間ではない」
沈黙。
最初に反応したのはクルニだった。
「……はいっす?」
「正確に言えば、私が生まれた世界はここではない」
「えっと」
彼の言葉は、まさしく魔術に関わらない彼女には受け入れがたい話だったのだろう。
クルニは口を開けたまま固まった。
他を見れば、ヘンブリッツも目を見開いている。
魔術師であるフィッセルも同様だった。
異世界という話は、魔術の知識だけで簡単に受け入れられるものでもないらしい。
一方、アリューシアとスレナは驚きこそ見せたが、これまでの不可解な出来事から、どこか納得も混じっているようだった。
ベリルだけは。
「……うん」
静かに頷く。
以前から断片的には聞いていた。
それでも、こうして本人が他者へ明言するのを聞くのは初めてだった。
エミヤは続ける。
「そして、もう一つ」
一拍。
「元の世界において、私は既に一度死んでいる」
今度こそ。
部屋から、完全に音が消えた。
◇ ◇ ◇
「……え?」
フィッセルの声が、小さく漏れた。
エミヤは何でもないことのように言う。
「生前はただの魔術師だったが、とある理由から英霊と呼ばれる存在となった」
「英霊……?」
「過去に生きた人間の中で、功績や伝承、あるいは別の事情によって、世界に記録された存在。
そしてその情報を使用して呼び出される使い魔、兵器の類だと思えばいい」
ファウステスの目が鋭くなる。
完全に魔術師としての興味を刺激されている顔だった。
「つまり、死者の魂を保存しているのか?」
「厳密には違うが、今はその理解で構わん」
エミヤは僅かに目を伏せる。
「我々の世界には、そうした英霊を現世へ召喚する術式が存在する」
「召喚……」
「英霊そのものを完全に降ろすわけではない。用途に応じた器へ情報を写し取り、現世で活動可能な使い魔として呼び出す」
そして。
「その召喚された存在を――サーヴァントと呼ぶ」
誰も言葉を挟めなかった。
「使い魔と聞けば、普通は動物、上位存在として精霊も考えられますが……」
キネラが困惑を隠せない様子で呟く。
「エミヤさんの場合は、どう見ても人間ですよね」
「生前は間違いなく人間だ、君たちの使い魔とは成り立ちが違う」
エミヤは平然と答えた。
死者。
英雄。
召喚。
使い魔。
一つ一つならば、この世界にも似た概念は存在する。
死者の魂へ干渉する魔術も。
魔物や精霊を使役する術も。
過去の記録から、かつて存在した術式を再現する試みもある。
だが。
それら全てを組み合わせたものを、まるで当然の技術体系であるかのように語るエミヤの世界は、彼らの常識から大きく外れていた。
「確認したいことがある」
ファウステスが口を開く。
先ほどまで以上に、その目には魔術師としての好奇心が宿っていた。
「何かね」
「君の世界では、そのサーヴァントと呼ばれる存在は珍しいのか?」
「存在自体は珍しい。日常的に街を歩いているようなものではないからな」
「ならば、何のために召喚される?」
エミヤは僅かに目を細めた。
説明しようと思えば、いくらでも長くなる。
今は全てを話す必要はないだろう。
「私が経験した範囲で言えば、ある儀式のためだ」
「儀式?」
「複数の魔術師が、それぞれ英霊を使い魔として召喚する。そして互いに争う」
その言葉に、スレナが眉を寄せた。
「争奪戦か」
「察しがいいな」
「勝った者が何かを得る。そういう仕組みなのだろう?」
「ああ」
エミヤは短く頷いた。
「願いを叶える、とされる器を奪い合う」
「願いを?」
クルニが目を丸くする。
「何でも叶うっすか?」
「そう謳われてはいる」
「……その言い方、嫌な感じっすね」
「正しい感想だ」
あまりにも即答だった。
ルーシーが呆れたように鼻を鳴らす。
「英雄を呼び出して殺し合わせる時点で、碌でもない儀式じゃろ」
「否定はしない」
「否定せんのかい」
「願望器などという餌をぶら下げれば、碌でもない魔術師も集まる」
その一言に、魔術師であるファウステスやキネラまで僅かに顔を顰めた。
その中で一人、ヘンブリッツだけは先ほどから黙ったままエミヤを見つめていた。
ベリルがそれに気付く。
「ヘンブリッツ君?」
呼び掛けられ、彼は我に返ったように瞬きをした。
「……つまり」
慎重に言葉を選ぶ。
「エミヤ殿は、生前を終えた後も、世界から呼び出される存在となった」
「ああ」
「それはつまり」
ヘンブリッツの表情が、僅かに輝く。
「我々はこれまで、過去の英雄から直接稽古を付けていただいていた……ということでしょうか?」
「…………」
今度はエミヤが沈黙した。
「……君はそこに食いつくのかね」
「当然です!」
普段の落ち着いた様子からは珍しく、ヘンブリッツの声に熱が籠る。
「歴史に刻まれ、死後なお召喚されるほどの武人から、直接剣を学ぶ機会など普通であればあり得ません!」
「いや、まあ……」
ベリルが少しだけ困った顔をする。
ヘンブリッツの言っていること自体は間違っていない。
けれど。
夢の中で見たエミヤの生涯を知ってしまった今では、どうしても単純に“英雄”という一言で括ることに複雑なものを感じてしまう。
それは、当の本人も同じらしい。
エミヤは小さく息を吐いた。
「期待しているところ悪いが、私は君が想像しているような英雄ではないよ」
「と、仰いますと?」
「王だったわけでも、軍を率いたわけでもない。怪物を討ち取った伝説があるわけでもなければ、歴史書に名が残っているわけでもない」
一度言葉を切る。
「英霊としても、私は例外に近い出自だ」
「それでも」
ヘンブリッツは食い下がった。
「英霊として呼び出されるだけの理由があったのでしょう?」
エミヤは、一瞬だけ言葉に詰まった。
ほんの僅か。
付き合いの長いベリルでなければ気付かない程度の間。
「……さてな」
結局、肩を竦める。
「その話を始めれば、今回の本題から離れる。私個人については、また別の機会にしてくれ」
「……分かりました」
ヘンブリッツは少し残念そうだったが、素直に引き下がった。
ベリルはその様子を横から見ながら、小さく笑う。
(まあ、ヘンブリッツ君らしいか)
本人にとっては複雑でも。
剣を学ぶ者から見れば、目の前に過去の英雄がいるという事実だけで胸が躍るのだろう。
エミヤは一度紅茶へ手を伸ばした。
「話を戻そう」
一口飲み、カップを置く。
「今回重要なのは、私がこの世界の術式から見れば、極めて異質な存在だったということだ」
ファウステスが頷く。
「死者でありながら、生者として存在している」
「ああ。それに加えて、この世界とは異なる魔術体系を持つ」
キネラが、先ほどまでの話と照らし合わせる。
「だから学院の結界が、エミヤさんを正常に判別できなかった、ですね」
「可能性は高い」
ファウステスが答えた。
「結界は、本来この世界に存在する生命や魔力を基準として構築されている。
そこへ全く別の法則で成立している存在が入り込めば、誤作動を起こしても不思議ではない」
「そして」
スレナが腕を組む。
「その情報を、アンブロシアが拾った」
「ああ」
今回、特別討伐指定個体ロノ・アンブロシアは、目の前にいる対象ではなく、その場にすら存在していなかったエミヤを模倣した。
それ自体が既に前例のない現象だった。
だが。
問題は、それだけではない。
「そこまでは、分かります」
アリューシアが静かに口を開く。
「ですが、それだけでは説明がつきません」
彼女の視線が、ベリルへ向く。
「私たちが戦った時、あの影に意思はありませんでした」
「そうだね」
ベリルが頷く。
エミヤの形を得た影、アンブロシアには人格はなかった。
命令された動作を繰り返し、ただ敵を排除するためだけに動く、生物とも呼び難い何かだった。
「けれど」
ベリルが続ける。
「俺が最後に戦った彼は違った」
一同の視線が集まる。
「彼は、自分をアーチャーと名乗った」
そうだ。
あの影は途中から、明らかにそれまでのアンブロシアとは異なる存在へ変わっていた。
そして、あの無数の剣が突き立つ世界で対峙した男。
「話もした。自分がどうして戦っているのかも教えてくれたよ」
エミヤへ視線を向ける。
「それに、君とは違う記憶を持っていた」
エミヤは、すぐには答えなかった。
「……そうだな」
少し考えるように目を伏せる。
「その点については、私にも確証はない」
「エミヤでも?」
「ああ」
あっさりと認める。
「むしろ、私自身が最も不可解に感じている部分だ」
ルーシーが眉を上げた。
「何かしら予想はあるんじゃろ?」
「推測ならば」
エミヤはそう前置きした。
「まず、確かなことは一つだ」
ベリルを見る。
「あの男は、私ではない」
「うん」
「姿も、力も、記憶の一部も同じだったかもしれん。
だが、君の話を聞く限り、少なくとも私の知らない経験を持っていた」
「……そうだね」
ベリルには、彼が口にした聖杯戦争や英霊にまつわる言葉の意味までは分からない。
それでも、彼が直前まで別の世界で聖杯戦争へ参加していたこと。
守ろうとした誰かがいたこと。
そして、その者を守れず、苛立ちを抱えていたこと。
それらは、今ここにいるエミヤからは聞いたことのない記憶だった。
「英霊という存在は、生前の本人そのものが、毎回全く同じ状態で召喚されるわけではない」
「違うっすか?」
クルニが首を傾げる。
「召喚される条件や、器によって、表に現れる側面が変化することがある」
「同じ人なのに?」
「同じ人間でも、十代と四十代では考え方が違うだろう」
「あー……」
「それに近いと思えばいい」
クルニは何となく納得したように頷いた。
エミヤは続ける。
「恐らくアンブロシアは、私を模倣しようとした過程で、本来触れるはずのない別の記録にまで手を伸ばした」
「別の、エミヤ?」
ベリルの問いに、エミヤは少しだけ考える。
「そう表現するのが、一番近いだろう」
「じゃあ、あのアーチャーは」
「私と同じ人間から派生した、別の可能性。
あるいは、異なる条件で呼び出された“私”だ」
部屋が静かになる。
ファウステスが興味深そうに顎へ手を当てる。
「同じ人物を元にしながら、異なる経験を持つ存在が成立する……」
「それ自体は、英霊召喚においてあり得ない話ではない」
「では、アンブロシアはエミヤ君の情報を辿るうちに、その別個体を呼び寄せた?」
「可能性は高い」
エミヤは頷く。
「ただし」
明確に付け加える。
「ここから先は推測だ」
ファウステスが顔を上げる。
「私自身、このような現象は見たことがない」
「英霊である君でも?」
「ああ」
エミヤは肩を竦めた。
「そもそも私は、この世界へ正常な召喚によって現れたわけではない」
「正常な召喚ではない?」
今度はキネラが反応する。
エミヤは言葉を選び、説明を続ける。
「召喚されたのではなく、送り込まれた、と表現する方が感覚として近い」
「誰かに?」
「恐らくは」
「誰に?」
「それも分からん」
あっさりと答える。
ルーシーが呆れたように笑った。
「お主、自分のことなのに分からぬことが多すぎんか?」
「私も好きで漂流してきたわけではないのでね」
「難儀じゃのぉ」
「全くだ」
いつもの様子でやり取りをする二人の会話に、僅かな笑いが起きる。
だが。
ファウステスは笑っていなかった。
机の上に置かれた資料を整理しながら、静かに口を開く。
「整理しよう。アンブロシアは、学院の結界に残った異常な情報から、その場にいないエミヤ君を模倣した」
「そして最終的には、現在のエミヤ君とは異なる経験を持つ英霊――アーチャーへ変化した」
「その原因については、エミヤ君にも推測以上のことは言えない」
「ああ。その理解でいい」
「そして」
ファウステスは、ベリルを見る。
「戦闘の最終段階において、アンブロシアはただの模倣体ではなくなった」
ベリルが頷く。
「意思を持つ英霊――アーチャーと名乗る存在が現れ、ガーデナント君と交戦した」
「うん」
「そのアーチャーは、現在ここにいるエミヤ君とは異なる記憶を持っていた」
「ああ」
「エミヤ君の推測では、アンブロシアが模倣を続ける過程で、別の条件によって成立した“英霊エミヤ”へ接触した可能性がある」
エミヤは僅かに頷いた。
「ただし、その点に関しては確証がない、と」
「そうだ」
「なるほど」
ファウステスは腕を組む。
「少なくとも、現時点で我々が共有できる事実はそこまでか」
「その方がよかろう」
ルーシーも同意する。
「これ以上は仮説に仮説を重ねる話じゃ。答えが出ぬものを延々と考えても仕方あるまい」
「助かるよ」
ベリルが苦笑した。
「正直、途中から半分くらい分からなくなってたから」
「お主はもう少し考える努力をせい」
「してたよ。してたけど、途中から世界だとか死者だとか、話が大き過ぎてねえ」
隣ではクルニが力強く頷いていた。
フィッセルも、小さく苦笑した。
「わたしも、正直、途中からお手上げ」
少しだけ。
張り詰めていた空気が緩む。
ファウステスは、そこで資料を置いた。
まだ話は終わっていない。
むしろ――ここまでが、ようやく前提だった。
「では」
ファウステスの声が、先ほどまでより僅かに低くなる。
「ここからが、我々として確認しなければならない話だ」
エミヤが視線を向ける。
「何かね」
「エミヤ君」
ファウステスは、真っ直ぐに彼を見る。
そこに敵意はない。
疑っているわけでもない。
ただ。
魔術学院という組織の責任者として。
この国に生きる人間として。
当然確認しなければならないことだった。
「君は異世界から来た人物である」
「ああ」
「そして、生前を終えた後も戦闘用の使い魔として召喚される、英霊という存在だ」
「そうだ」
「君自身も、この世界へ来た原因を知らない」
「否定はしない」
一拍。
「来訪の原因が分からない以上、せめて我々は知っておかなければならない」
室内の空気が、再び静まる。
エミヤの目が僅かに細くなる。
「君がどういう人物で――これから何をするつもりなのか」
誰も声を発さなかった。
問いの意味は重い。
これまで共に過ごしてきた男。
その正体は、異世界から現れた英霊。
そして、目的も、来訪した理由も、誰が送り込んだのかも分からない。
ならば、国を守る立場にある者が、それを問いただすことは当然だった。
「ファウステス氏の懸念はもっともだ」
エミヤは静かに答えた。
「……では」
「ああ」
エミヤは手元の紅茶へ視線を落とした。
湯気は、もうほとんど残っていない。
「私自身についても、話そう」
それから。
僅かに周囲を見渡す。
「ただし」
エミヤは小さく息を吐いた。
「ここからの話も、少々長くなる」
「なら、小休憩にするかの」
家主であるルーシーが再びベルを鳴らし、使用人を呼ぶ。
各々、張り詰めていた肩の力を抜き、息を吐く。
全てを理解出来た者など、一人もいない。
それでも、それぞれが自分の経験と常識へ当てはめ、どうにか飲み込もうとしていた。
剣の達人も。
高位の魔術師も。
今ばかりは等しく、頭を使い果たしている。
誰からともなくカップへ手が伸びた。
――だが。
次に語られるのは。
これまで誰にも詳しく話されることのなかった、
紅い弓兵自身の話だった。