片田舎の剣聖 錬鉄の英霊   作:ナチュル志保

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読んでいただき、ありがとうございます。
また、感想も、非常に、嬉しいです!ありがとうございます!
ご助言いただいた書き方のコツなどは、どこか閑話などから少しずつ試して、
ちょっとでも読みやすくなれればと思います。

まだ未熟な身、学ばずに衝動で書いている文章ですが、目をつぶってくださると幸いです。


【壱章・第4話】『非才の剣』

 

訓練を終えた騎士たちの活気も落ち着いた午後。

湿気を孕んだ風が、修練場の開け放たれた戸口から吹き込む。

 

新しい職場とも呼べるレベリオ騎士団の修練場で、エミヤはベリルと共に騎士たちに稽古をつけていた。

 

先日のベリルとヘンブリッツの模擬戦後、皆に実力者と認められたベリルは

まずは日ごろの修練の姿を観察して、気付いたところがあれば騎士に近づきアドバイスを送り指導する。

 

元々一定の力量がある彼らは、ベースとなる体力や構えはできているため、

ベリルからは打ち合う際の間合いの測り方や目線の意識、踏み込み後の追撃の選択肢など、

より実践的な剣技を教えていった。

 

修練場に集う騎士たちもまた、自身の技量を伸ばしたいと努力するものばかりなため、

教えを素直に吸収して、練習に活かしている。その姿はクルニ曰く、より活気づいたものだった。

 

エミヤはというと、道場の頃と振る舞いは特に変わらず騎士たちの稽古相手を務めていた。

剣を教える技量がない自分は精々打ち込み相手にしかならない、などと本人は述べるが

驚くべきは扱う武器の種類の多様さだ。

 

オーソドックスなロングソードを模した木剣から、片手用、細身の剣、

木製の槍、棒、斧といった騎士団で用意していた物から、大剣、盾、短剣、ナイフ

薙刀や刀を模したものまで、いつの間にかあらゆる武器を木製で用意しており、

相手の希望に合わせて対峙していた。

 

エミヤとしても、完全な技術模倣まで行わなくても十分扱えており、騎士たちに稽古をつけるには丁度よいと考えていた。

騎士団は常に同じ騎士たちと対峙するわけではなく、野盗や暗殺者、傭兵と戦う可能性がある。

相手の得物も状況によって変わるのであれば、少しでも初見にならないよう事前に対峙できる経験は

騎士たちには得難いものだった。

 

こうして、2人はそれぞれの役割を意識しながら、特別指南の任を務めていた。

 

そんな、ある日の午後。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

木剣の並ぶ棚の前に、ひとつの影が立った。

武具棚の前で、エミヤは一本、そしてもう一本、木剣を手に取った。

 

「……変わらないな、手の馴染み具合は」

 

本来、剣士ではない彼にとって武器の種類に拘りはなく

生前も銃や弓を多用していたが、近接戦闘で一番頼りにしていたのは二刀の夫婦剣だった。

もちろん宝具に秘められた対魔術・対物理防御を得られる効果も十分大きいが、

自身の戦闘スタイルに合う投影武器として最後まで愛用し、共に死線を潜ってきた。

だからこそ、二刀のスタイルは彼に馴染んでいた。

 

「エミヤ殿」

 

後方から掛けられた声に、エミヤがわずかに振り返る。

 

「……副団長殿か。どうかしたか?」

 

歩み寄ってきたのは、騎士団副団長――ヘンブリッツ・ドラウト。

基礎練習後で身体が温まっているのだろうが、彼の纏う気配は、ただ声をかけに来た者ではなかった。

 

「お手合わせを願えませんか」

 

「……私にか?」

 

「えぇ、貴殿もベリル殿と同様に実力者だと伺ってます。

それに、その振る舞いからも熟練の戦士であると伝わってます。どうか、お付き合いいただきたい」

 

つまりは実践の気迫で模擬戦を行いたい、と。

ベリルの時のような品定めではなく、一人の剣士として、挑みたいと頼んでいるようだ。

 

エミヤが皮肉気に笑う。

 

「挑戦であれば応えよう。

しかし、私は先日の戦いを見ていた。君の手の内は分かっているつもりだが、構わないのか」

 

「お気遣いに感謝しますが、問題ありません。すでに私の名は世間にも知られている身です。

名を持つ者として、避けては通れぬものであり…なにより有利不利など気にするほど、未熟ではないつもりです」

 

「ふっ……生意気な若造だ」

 

わずかに熱を帯びるエミヤの眼差し。

二人は静かに、道場中央へと進む。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

アリューシアとクルニを含む数名の団員が、気配を察して道場の壁際に立った。

訓練とは明らかに違う空気――それは“真剣勝負”のそれだった。

 

「始めろ」

 

エミヤの静かな合図と同時に、空気が爆ぜた。

 

ヘンブリッツが踏み込む。

迎え撃つエミヤは初撃を難なく捌き、返すように切りつけるがヘンブリッツもまた、冷静に対処する。

幾つか打合いをするが決め手がかける状況となり、仕切り直しとしてヘンブリッツが距離を取ろうとする。

 

だが――

 

「(詰めてくるか)」

 

エミヤが自ら間合いを詰め、強引に懐へ潜る。

至近距離での剣戟。

 

二刀を活かし、一刀で受け、一刀で払う。あるいは両刀で斬り合う。

その動きに、“緩急”のリズムが混在している。

 

ヘンブリッツは相手の思惑に気づく。

この男、エミヤは“あえて”この距離を選んでいる。――自分の得意な、あの《回転斬り》を出させぬために。

 

息を吐きながら、それでもヘンブリッツは打ち合いに応じた。

後退せず、真正面から受ける選択――容易くない。だが逃げれば、リズムを失う。

 

鍔が激しく打ち合い、木剣と木剣が鋭く響く。

双方、互角。

 

「(強い……いや、“徹底している”)」

 

ヘンブリッツはエミヤの戦い方に内心、称賛する。

冷静な剣技であり、隙を伺いながらも精密な角度で切りつける。

剣そのものは技巧ではなく、戦術。

目的は勝つことではない、負けないことだ――そう語るような近接の構築。

 

 

 

十合、二十合。

じわりと流れが傾きかけたその瞬間だった。

 

「(……今!)」

 

エミヤの剣筋が、ほんの僅かに乱れる。

 

ヘンブリッツの目が鋭くなる。

踏み込む。狙いは脇――!

 

しかし――

 

「……甘いな」

 

エミヤの足運びが崩れから転じて、誘導に変わる。

ヘンブリッツの剣が滑るように弾かれ、次の瞬間――

 

「っ!」

 

エミヤの二刀の片方が、彼の肩を制するように止まっていた。

 

一本。

誘われ、見誤った刹那。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「……すごい。あの隙は、完全に副団長が制したと思ったっす…」

 

ぽつりと呟いたクルニに、アリューシアは頷く。

 

「ええ。……あれは、“命を餌にした戦術”。普通なら怖くて、できないものですね」

 

アリューシアの言葉に驚くクルニ。

あの隙は、たまたまエミヤが防いだのではなく、わざと隙を見せて誘導したのだという。

あまりにリスクのある戦い方。

 

「どうして、そんな危険な戦い方をするっすか?」

 

「理由は簡単。――エミヤさんには、剣の才がないのよ」

 

クルニの目が丸くなる。

信じられるわけがない、様々な武器を扱えるだけでなく

あの豪剣と呼ばれる副団長に正面から一本を取れる人に、才能がない、なんて。

 

「でも、その“非才”を覆すだけの経験がある。

どんな強敵とも渡り合うために、あの人は“死地”を踏み台にする覚悟を持ってるの」

 

クルニは沈黙する。

道場の中央、構え直す二人に視線を戻しながら。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「……さすがですね、エミヤ殿」

 

「そちらこそ。では、もう一本」

 

両者、再び向き合う。

打ち合う中でヘンブリッツもまたアリューシアと同様に、エミヤに剣の才能がないことは看破していた。

看破していたが、あの鉄壁の守りを崩せず、その上誘われて一本取られた。

 

彼はおそらく剣士ではない。

だが、超一流の戦士なのだろう。

そのような人物と対峙できる喜びを剣士として嚙み締めるヘンブリッツは、敬意と共に再度エミヤに挑む。

 

今度はヘンブリッツが連撃の末、意図的に距離を取った。

何かが変わった――エミヤは瞬時に察する。

 

「(来る……!)」

 

間合いが遠くなった次の瞬間、ヘンブリッツの足運びが切り替わった。

連続の踏み込み。鋭い連携で、エミヤを後退させ――

 

回転。

木刀が円を描き、風を裂いた。

 

《回転斬り》。防ぐも退くも困難な、圧倒的な一撃。

この距離ではベリルが見せた躱し方は不可能。

 

逃げられない――

 

ならば。

 

「……チッ」

 

エミヤはその瞬間、木刀に魔力を流す。

強化。柄と刀身を、“折れぬ”ように。

 

そして正面から受ける。

 

ガァンッ!

 

衝撃が全身を走る。木刀が悲鳴を上げる。

だが、砕けない。折れない。

 

エミヤの手が、勝利をつかんでいた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「そこまで!」

 

アリューシアの制止が響く。

 

静寂。

エミヤは木刀を下ろし、息を整えた。

 

「さすが、噂に違わぬレベリオ騎士の副団長。先に明かすが最後の一撃、あれは……ズルして防がせてもらった」

 

苦笑しながらヘンブリッツへ言う。

 

「だが、あの技は強い。素直に賞賛するよ」

 

ヘンブリッツも微笑み、礼を返した。

 

「こちらこそ。無敗の一撃も防がれることがあると知ることができました

……このような機会をくださり、感謝します。今後も、教えを賜れれば」

 

互いに頭を下げる二人に、静かだった道場から拍手が湧いた。

ヘンブリッツの眼差しに、敗北の悔しさよりも、戦いを経た者の清々しさが滲んでいた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

その夜、エミヤとベリルは、アリューシア、クルニ、ヘンブリッツの三人に誘われ、都市の居酒屋に足を運んだ。

 

木の香りが心地よい、騎士団御用達の静かな酒場。

互いの剣の話から、日々の訓練、そして出身地に至るまで、話題は尽きなかった。

 

「ベリル殿、そしてエミヤ殿が来てから、騎士たちの実践経験の質が上がりました。

しかし、本当に夢のようです。まさか“片田舎の剣聖“が稽古をつけてくださるなんて」

 

「剣聖……?」

 

エミヤがふと眉を上げた。

ベリルも初めて聞いたのか、固まっていたようだが

お酒の席ということもあり、次の話題に流れていった。

 

楽し気な会話の中、エミヤは考える。

彼の剣は確かだった。

 

「……なるほど。妙に納得がいくな」

 

剣聖。

その言葉は非常に重いものだろう。

剣士たちにとって、遥か遠き夢だろう。

 

恐らく噂の出所は、彼の隣に座る騎士団長様か、

はたまた酒場で出てきた与太話なのかもしれないが。

 

それでもエミヤは、いつの日か剣聖と呼ばれるベリルを見たいと、そう思った。




1話分の文章量が長いのかも、ちょっとわかっておらず、、。
次回は閑話のようなお話にしたいと思ってます。
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