溶鉄のスネジンカ   作:スペシャルティアイス

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#10

門兵として今日も今日とて機械兵を撃つ、撃つ、撃つ。撃滅するのに複数回のリロードが必要な数になっていた。

 

「ビオンちゃん、調子いいね~」

「い、いえいえ!そんな、まだまだです」

 

昨今の機械兵の増加を受けて、今日は門兵の数を増やす運びとなり、スネジンカとビオンに加えアリビナも参加していた。

スネジンカが前に出て敵を減らし、漏れた敵をアリビナが、サポートをビオンが行う陣形だった。

 

「それにしても初めてフーシャちゃんのやり方見たんだけど、いっつも前に出るの?」

「さ、最近はそうです。中型の機械兵が増えて、門の前で迎え撃つんだと処理が追い付かなくて」

「なんかやだね~数が増えてきて。あんな機械兵相手に怪我したら、全国のアリビナちゃんのファンが悲しんじゃうもん」

「あはは……」

 

余裕を見せるのは緊張している自分を気遣ってくれているのか、いや素なんだろうなあとビオンは苦笑する。

それにしても、と思う。

 

(さすが上流国民。武器が上級だし、射撃もそつがない。参考にしなきゃ)

 

アリビナの武器は上級ライフルであり、いわばビオンの武器の上位互換である。つまりアリビナの攻撃スタイルはビオンの武器種の発展系ともいえる。

あらかじめどこに敵がいるのかを広く見定め、相手がどう動いてくるのかを頭の中でシミュレートしているかのように、スネジンカの漏らす敵を撃破していく。

ビオンはアリビナの動きを真似ようとする。思考を、狙い定め方を。そんな視線に気づいたのか、ビオンの目の前で彼女は身をくねらせた。

 

「やだ~ビオンちゃん。そんな熱視線でアタシを見つめて、もしかしてファンになっちゃった?」

「あ、いえ、ごめんなさい!全然違います!」

「えぇー……そんなはっきり否定しなくても」

 

そんなことを話していると敵を倒し終えたスネジンカが戻ってきた。

 

「あらかた排除しましたが。やはり手数でショットガンは厳しくなってきました。だいぶ敵を漏らしてしまって」

「何言ってるのフーシャちゃん!そのためにチームプレイなんだから気にしないのっ」

「そ、そうです!私も、実践してもっとお役にたって見せます」

「おぉ、ビオンちゃんやる気だね~。よーし、この調子で頑張ろうっ!」

「はい!が、頑張ります!」

 

気合を入れて門兵業務に戻るがその後の襲撃はなく、引継ぎをして普段なら解散するところでアリビナが声を上げた。

 

「そうだっ、よければこれから一緒にご飯食べない?私、フーシャちゃんと一緒にまだご飯食べてないや!」

「ご飯、ですか……別に構いませんが」

「よし、決まり!じゃあビオンちゃんも一緒で、私の宿舎に行こっ」

「えぇ!?わ、私もよろしいんですか?」

「?そんなの当たり前じゃん。私たち友達でしょ!」

 

そう言って、2人はアリビナに引っ張られるようにして連れていかれる。スネジンカとは別の棟であり、部屋のつくりは同じでも私物のせいか少し雰囲気が異なる。

 

「それじゃ入って入っ「むぎゅう」て……フェリセットちゃん!?ごめんね踏んじゃったねっ」

 

ドアを開けた1歩目にはなぜか床に転がっているフェリセットがいた。自分が踏んでしまった所を撫でながら、アリビナがフェリセットを立たせる。

 

「お願いだからベッドで眠ってよお」

「眠いのではなくて、お腹が空いて眠るしかなかったんです」

「……いやいや目の前に配給機あるでしょ!?」

「手が、届きませんでした」

 

距離はわずか30センチほどだっただろうか。その距離を前にフェリセットは諦めたらしい。

そんな姿に、ビオンはどういうリアクションをすればと戸惑っていた。

 

「えっと、お2人は同室だったんですね」

「うーん。まあ最初に組んで、それから流れでね。本当はお世話焼きなベルカちゃんがいいんだろうけど、その時にはエノスちゃんと一緒だったから」

「そうなんですね」

 

初めて知る情報にスネジンカが頷く。

配給機から食事を取り出し、アリビナが奥から折り畳み机をもってきて床のラグの上に据える。そしてフェリセットも加えてささやかな食事会が始まった。

 

「ビオンちゃん、ストレルカちゃんと一緒だよね?あの子、持ち込む本の量がすごいけど大丈夫なの?」

「ええとー……たまに、埋まっちゃいます。で、でもストレルカさん、私の読めない文字を教えてくれるので、すごく助かっちゃってます」

「あはは!そうなんだ。頭いいもんねストレルカちゃん」

「アリビナさん、喉がかわきました……」

「はいはい、どうぞ。こぼさないでね」

 

アリビナは会話を途切らせないままフェリセットに水を手渡す。その手慣れた様子にスネジンカは感心する。

しかしまるで介助されているかのようなフェリセットだが、なぜこんなにもされるがままなのか。

 

「おふたりは仲が良いのですね。傍目から見るとアリビナさん、とても甲斐甲斐しく見えます」

「えぇ、そう?特に意識したことないけど、まあ同じ学校だったよしみなのもあるのかな」

「えっ?おふたりは同じ学校だったんですか!?」

 

どうやら初耳だったらしいビオンが驚く。

 

「うん、そうだよ!カテョーナク女子学院ってとこ」

「……それって、すっごいお嬢様学校ですよね!上流階級のお金持ちの方々の!」

「まあ、周りはそういう家の子が多かった、かな?」

 

こっくりこっくり舟を漕ぐフェリセットの頭を撫でながら、アリビナは懐かしそうに目を細める。

 

「お嬢様学校っていってもみんな普通の子たちばっかだよ。勉強して、訓練して、友達と遊んだり。でもこの子が入学してきたときは、少し話題になってたっけ。絵に描いたような令嬢って感じで」

「フェリセットさん綺麗ですからね」

「…ねむねむ」

「その時は話したりってこともなかったんだけどね、学年が違ったし。ただ軍からの招集で1年いたっけか?それっきりだったんだけど、ここで再会してからの付き合いなんだ。フェリセットちゃん、眠いなら先にシャワー浴びよ、ねっ?」

「んー……代わりに浴びてくださ~い」

「あなたが浴びなきゃ意味ないでしょ!」

 

そう言ってアリビナはフェリセットをシャワーまで引っ張っていき戻ってきた。

まったくもうっ、と言わんばかりに腰を下ろす。

 

「あの子も入学した当時はああじゃなかった筈なんだけどね。でもスカウトされた部隊からここに来るくらいだから何かあったのよ、きっと」

「が、学校の時は違ってたんですか?」

「うーん……少なくとも廊下で眠るなんて話は聞かなかったから、普通だったんじゃないかな?」

 

軍に入って真面目になる、というのはよく聞くが逆に自堕落になるというのは中々ないことだ。しかしそうなるだけの何かしらがあったと思うアリビナは、無理にそれを聞くことはしない。もしフェリセットから話してくれるのであればいつでも耳を傾けるつもりだった。

 

「まああんな感じだけど狙撃の腕はここで1番だから、組むことがあったら頼ればいいと思うよ!」

「すごいですもんね!遠くから一撃必殺って感じで!」

「私はまだ見たことがありませんが、機会があればぜひ」

 

そんなこんなで、取りとめのない話はシャワー室からアリビナを呼ぶ声でお開きとなった。宿舎に戻る2人に笑顔で手を振るアリビナと別れ、途中までスネジンカとビオンは一緒に宿舎に戻る。

 

「仲良かったね」

「は、はい。なんだかフェリセットさん、アリビナさんの妹さんみたいでした」

 

たしかに、手のかかる妹をお世話する姉に見えなくもない。アリビナはそうでもない物言いだったが、あれは義務感だけでやっているようには見えない。彼女なりにフェリセットを思いやっているのだろう。

そしてスネジンカは、かねてより気にかけていたことを口に出す。

 

「ビオンには妹や姉っているの?」

「……姉さんが、アブレックっていう 姉さんがいます」

 

そう静かに返す声には抑揚がない。

 

「頭がすごく良くて、父さんも姉さんには期待してて、今は大学に行って先生になるために勉強してます」

「そうなんだ。ビオンのお姉さんなら優しそうだね」

「……たしかに、姉さんは優しいです。でも」

 

言いかけた言葉は続かなかった。沈黙が終わらないのでスネジンカは続ける。

 

「あまり仲がよくないの?」

「どうしてそんなこと聞くんですか?」

 

つっけんどんな物言いは、これ以上踏み込んで欲しくない気持ちなのだろう。

 

「ごめんね。少し気になっちゃったんだ。姉妹の仲が良くないのってなんだか、気になって」

「あっ……ごめんなさい!マルフーシャさんに、軽率でした」

「ううん、そんなことない。これは私の自己満足だよ」

 

自己満足ですか?と問うビオンにスネジンカは続ける。

 

「人それぞれに都合があるのは当たり前なんだ。でもそれを無視して、世話を焼いたり助言したりしても結局は自己満足以外の何物でもない。でも、私はやりたいからからやる、私は()()に来てからそう決めたんだ」

 

茫漠とした目でスネジンカはどこかを見つめる。

 

「結論を言うとね、ビオンとお姉さんのこと知りたいんだ。仲が悪いならなんで悪いのか、どうしたらそうでなくなるかを考えたい」

「どうして、そんな……」

「もしビオンのお姉さんが今、死んでいたとしたらどう思う?」

 

その言葉にビオンは最初、意味を解せなかった。

 

「え、なに、なんで」

「伝えたいこと、やりたいことがあっても、それは2度と叶わない。止まっちゃうんだ、思い出がそこで。そうなると一生着いてくるの後悔と怒りが。それが苦しくて苦しくて憎くて憎くて、心が弾けそうになる。そうなって欲しくないんだビオンに」

 

虚ろに言葉を紡ぐスネジンカに、ビオンは視線を外せなかった。ただ、自分を案じてくれているんだろうということはわかる。姉が死んだらという言葉がたとえ話であるということも。

そして今、口にしていることは彼女の実体験であるのだろう。

 

「そうですね。きっと私は、後悔すると思います。……姉さんのことは、好きです。ただ、昔から比較されてきたのと、姉さんの大学への進学で、私は小学校を辞めさせられました。あくまで休学ですが。姉さんの学費のために」

 

父さんからすれば希望だったんだと思います。姉さんが出世すればそのおこぼれに預かれる。もしかしたら級等も上がるんじゃないかって、とビオンはこぼす。

 

「姉さんは、私がそうなったことを知りません。父さんが知らせないようにしてたし、私も伝えていません、邪魔をしたくないから。姉さんは今、大学で先生になれるかどうかで忙しいようで家に帰れてすらいない。そんな状態で伝えて、姉さんの夢を壊したくない」

 

俯くビオン。そのつま先に雫が落ちた。

 

「で、でも、本当はずっと、ずっと伝えたかった。つらいよ、助けておねえちゃん、って。でも迷惑を掛ければ、姉さんからも嫌われたら私は、本当の本当にひとりぼっちになっちゃうよぉ」

 

ビオンはついに歩みを止めて、静かに涙を流す。そんな彼女を、スネジンカは思わず抱きしめたくなった、がその手は宙を泳いでビオンの前にしゃがんで止まった。

 

「ビオン。前にも言ったけど姉はね、出来が悪かろうが妹のことは可愛いんだよ。迷惑だなんて思うはずない。だから躊躇なんてしなくていい。助けを求めて、甘えて、泣き落としてでもビオンがやりたいことをやるんだ」

 

『姉さん!そんな身体じゃ、もう限界だよ…!お願い、行かな――』

 

脳に焼き刻まれたかのようなこの記憶は、間違いなく自身の後悔だとスネジンカにはわかっていた。

この時に泣いてすがっていれば今とは別の形があったのかもしれない、状況はもっと悪くなったかもしれない。それでも、と考えてしまい一生ひきずっていくのだ。そして暗い思いが湧き出す。“憎い”と。

 

「今は会いに行けなくても、絶対に会いに行くの、1回でもいい。そして伝えたいことを伝えて、それだけでずっと楽になるから。それに」

 

スネジンカはビオンの顔を上げさせる。そこには涙で一杯になった瞳があった。

 

「さっきひとりぼっちって言ったけど、ビオンには仲間がいるよ。ライカ監査官と、今日ご飯を一緒に食べたアリビナさんとフェリセットさん。同室のストレルカさんはどうなの?それに心配してるベルカさんとエノスさんだっている」

 

ビオンの顔がくしゃりと歪み、涙がさらに決壊する。

 

「だからもしも、お姉さんと何かあっても、ひとりぼっちには絶対にならない」

「……そ、そこには、マルフーシャさんも、いますか?」

「私?」

 

ビオンが涙を拭ってから口を開く。

 

「マ、マルフーシャさんにとって、わ、わたしは、仲間ですか……?」

「……うん。ビオンは私の仲間、相棒だよ」

 

その言葉に、ビオンがスネジンカの胸に飛び込んでくる。そして声を殺して涙を流し始めた。

それに抱きしめようと腕を回して、少し躊躇してから優しく触れる。

 

「大丈夫、きっと大丈夫だから」

 

優しく、己の手の固さを悟られないよう撫でる。

 

(そうか。この子のことを放っておけないのは、アブレックさんの妹だからじゃない。私に少し似ていたんだ)

 

周りのために自分の意見を押し込め、姉に伝えたい思いを封じ込めて我慢していたところが似ていた。そしてその思いを封じ続けた結果を、スネジンカは既に識っている。

 

(そんなの、悲しすぎるよ)

 

ビオンを抱きとめながら、スネジンカは少しでもいい未来が彼女に訪れることを願わずにはいられなかった。

 

 

 

ストレルカはその日の夜、同室者のために時間を割いていた。姉に手紙を書きたいというビオンのため、書けない文字や手紙の内容について添削をしたのだ。

本当は本を読みたい。それこそ1日に3冊は本を読まねばストレルカは気が済まず、そのため銃を握る時間以外は極力、読書に時間を使うのが常である。

 

「お願いします、ストレルカさん!」

 

しかしビオンからの真摯な頼みを断るほど、彼女は人情に欠けていない。そもそも自分の本をこれでもかと積み上げるこの部屋にも文句を言わず、粗末に扱わないビオンの姿勢には好感を抱いていた。それに時々ではあるが、お互いの持つ本を取り替えっこして読んだりと、良好な関係を築いてきたのだ。

 

「…あまり戦況のことは書かないほうがいいよ。検閲されることを考えれば、余計なことは手紙に載せない」

「は、はいぃ」

「…それとここの所。これじゃあ文法があべこべだから、こう直して」

「な、なるほどですっ」

 

そうして書いた手紙は意外と早くできあがった。それにビオンは笑顔で彼女へ礼を述べ、それにストレルカは本を読みながら素っ気なく返事を返す。その耳はほんのり赤かった。

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