溶鉄のスネジンカ   作:スペシャルティアイス

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#13

規模の大きい都市はほぼ内門を持っている。これは上級等民の居住スペースであったり政府関係者の執務機関が置かれることが多い。

この東部都市もまたそれに倣い、内門の内側は上級等民が多く住む区画なのである。

その防衛任務に就いたスネジンカは、胡乱げなものを見るように門を眺めた。

 

「どう考えても上級の連中の逃げる時間稼ぎ」

 

結末を知っているだけでなく、初日であるにも係らず自爆兵がここまで来ている事実がそれを物語っていた。

幸いなことに人の被害はまだ出ていない、時間の問題だろうが。

前線の反対側である西側の防衛ならどれくらい脱出しているかが分かっただろうが、あそこは軍の中でも等級が高いか、要人の子息が配属されていると聞く。

 

(でもアリビナやフェリセットさんが外側の配属なのは腑に落ちない。しかも2等級の人間を)

 

ライカが部内で唯一、丁寧語で話すフェリセットが2等級であることを知っていたため、どうにも理屈の合わない状況にもやもやする。

そんなことを考えながらも飛来してきた自爆兵を撃ち落とす。昼間にこんな銃撃音が響く中は、流石に住民も外を歩かず建物の中でじっとしているのだろう。内心は引っ越したいのだろうが、先立つものがなければどうしようもない。

そろそろ交代の時間であったので、設置していた廃材バリケードも撤去したほうがよさそうだ。ただでさえ人が減ったので、こうした工夫でしのがなければならない。

簡易バリケードを設置してもいいのだが、費用効果を考えると廃材バリケードのほうがいい。

 

「お疲れ様、マルフーシャ」

「ライカさん……東の防衛なんですか?」

 

交代人員はライカだったようだ。2本の電熱線とコンデンサーを装備し、その手には上級ショットガンが握られていた。スネジンカの予想では西の防衛だと思っていたのだが。

 

「ええ。状況を教えて」

「朝方から散発的に自爆兵の襲撃を確認。これをすべて撃破し、門への被害は0です」

「そう……。北側が破られたわ。ここに来ているのはその取りこぼしでしょうね。だから以前から実戦経験を積む重要性を上申していたのにっ」

「北側が。東側はどうなのでしょうか?」

「そっちは大丈夫。ビオンが頑張ってくれてるわ」

 

東側が破られていないことにひとまず息を吐く。しかし初日でこれでは、以前から内門への襲撃はあったのではないだろうか。

 

「内側の脱出者が増えてそうですね」

「……窮地にこそ、私たち軍人は奮起して国へ忠誠を示さなくてはいけないわ」

 

回答がないことが答えだった。今のスネジンカにとってはどうでもいいことだったが。

 

「ところでライカさん。勤務外の門扉警備については可能なものなのでしょうか?」

「うん?どういうこと?」

「夜間の外側の門兵業務に入りたいのです」

「はぁ!?だってあなた、内門の担当でしょう?それなのに外もやるなんて」

「勤務時間はあくまで日中、ならそれ以外の時間を警備に充てても問題はないのではないでしょうか」

 

その言葉にライカは開いた口が塞がらなかった。つまりスネジンカは36時間働けますか?と言っているのだ。

 

「な、なに考えてるのよ!?無理、無理よそんなの!」

「別に毎日やるわけじゃないんです。それに現状ではどこも人手が欲しい筈です。監査官の許可があればすぐに可能だと思われるのですが」

「仮にそうだとしても、それをあんたがやる必要性がないでしょう!たかが1日2日入ったとして、この現状が改善するの!?」

「実は私に考えがありまして――」

「却下よ。同じ手を2度は聞かないから」

 

ふんっ、とそっぽを向くライカは取り付く島もない。今は無理かとスネジンカも退くことに決める。

了解の意を示してライカと門番の交代を行い、ひとまず今日は自分の宿舎に戻る、振りをして外門を見て回ることにした。

東門では他部隊の門兵が立っており、どうやらビオンはすでに交代した後のようだった。日中にずいぶん敵が来たようで門も無事に済まず、今は補修作業も行われている。

 

(やっぱり自爆兵の数が多いんだ)

 

前線側の襲撃は激しいようで、夜間にも関わらず増員された体制だ。見るべきものはないようなので破られたという北側に移動する。

果たしてそこは門扉に派手な穴が開いており、その規模から大型自爆兵にやられたことが一目瞭然だった。

 

(小型の処理に手間取って近づいてきた大型自爆兵でドカン、ってところか。うん?あれは――)

 

ふと目にしたのはビオンの件で喧嘩をした兵士たち。どうやら彼らの配属はこちらであったようで、これから夜間防衛に入るようだった。夜間は当然人気のない業務であり、昼間ほどではないが襲撃もあるので気の抜けない任務である。しかし誰かしらが行わなければいけないために、必然ヒエラルキーの低い兵士が当たることが多い。

 

(これは、使えるか……?まずは奴らの監査官を探さないと)

 

ひとつ絵図を思いついたので、物は試しとスネジンカは早速行動する。

その2日後、夕方に内門防衛を交代したスネジンカは兵舎へ向かっていた。そして入口には待ってましたと言わんばかりに厳めしい顔をしたライカが立っていた。スネジンカに気づくと、私は怒っています!と言わんばかりに肩を怒らせて近づいてきた。

 

「あんたって奴はァ!そこまでして私を怒らせたいわけ!?」

「落ち着いてください監査官(・・・)

「やっぱり!?あんたの差し金ね、このタヌキ!」

 

そう言って投げつけられた書類を掴み内容を見れば、北門の夜間防衛の参加要請書であった。あの後、件の監査官とコンタクトを取り以前の喧嘩騒動を持ち出し、個人的なお詫びも兼ねて防衛に参加させてほしいと話をしたのだ。

ただでさえ人手も少なく、外門も破られてしまった状態で先方も何とか防衛構想を考えていたようで、渡りに船と了承を取り付けるのに成功した。

しかし他部隊の人員を動かすには当然、相手方の監査官に話を通すか、より上の上官に動いてもらう必要がある。

 

「ライカさん。この要請に応えれば相手に貸しが作れ、上からの評価も上げることができます。逆に断れば、明らかなマイナスしかありません」

「~~!!本当、あんたって性格悪いわ。よっぽど私を部下を使い潰して出世を図る外道に見せたいようね」

「すいません」

 

何も堪えていないスネジンカの謝罪に地団駄を踏んで、ついに諦めたようにライカは了承した。

 

「いいこと!本来の内門の防衛を疎かにしないようにっ!そしてなにより、体調を崩さないで!休むことも業務のうちなんだからね!」

 

そう言って去っていった彼女に頭を下げ、どうやら明日らしい夜間防衛に向け準備をする。

部屋に戻りバックパックから必要となるものを出し、一回り小さいサブバックに詰めていく。

明くる日、要請通りに北門へ向かい交代要員へ要請書を見せると何事もなく任務に入れた。門の修復は6割といったところで、ガワはともかく防御能力は修復できておらず、まさに張子の虎といった状態であった。

共に夜間防衛に入るのは喧嘩でボコボコにした1人であり、相手は怯えたようにスネジンカを見ていた。

 

「本日の防衛に際し、私が前に出て敵の殲滅を行わせてほしいです。あなたはバックアップとして門の前で撃ち漏らしに備えてもらえないでしょうか?」

 

そう言って握った拳を見せれば、相手は何度も縦に首を振ってくれた。

サブパックを背負いアサルトライフルを手にして、夜間ライトを背中に日の落ちた荒野へ分け入る。

本来は暗視ゴーグルを装備するものだが、スネジンカの目は暗視も兼ねた機械眼であるので不要だ。

門から距離が出たところで、物陰に入ってサブバックの中身を取り出す。

 

(まさか、またこの格好になるとは)

 

溶鉄部隊特殊作戦装備、そのマスクと軍用コートを身に着け今日は専用ブーツも履いている。そしてこの時代にはまだ開発されていない合金製の銃剣をライフルに取り付け、準備を終える。

これから行うことで、敵に正体を知られることは避けたかったからだ。

 

(まず今日は見つけられないだろうけど、機械兵を壊しながら探すか)

 

そう考えながら辺りを見回し、東に機械兵の小隊を確認できたので駆けだす。

接敵するやいなや、スネジンカは手にしたライフル、その銃剣で素早く小型歩兵を貫く。機械の脚と腕を協働させた突きは、まるでダンボールのような手ごたえで機械兵を破壊した。

相手が攻撃してこないためそれは戦闘ではなく作業だ。銃撃も含めて3分程度で敵を全滅させ、次の獲物を探して見回す。

 

「……嘘、今日はツイてる」

 

スネジンカの視線の先、そこにはカメラに車輪を付けたかのような小さな機械兵、通称“TipTap”と呼ばれるものがいた。

まれに戦地で見かけるこれを当初、カゾルミア軍は重要視していなかった。なにせ戦闘能力もなく、場合によっては転倒してしまう何の意味があるのか不明な機械兵だったからだ。

しかし現物を分解して解析したところ、敵軍の偵察カメラの役目をもった機械兵であることが判明した。戦闘風景や敵情視察を特殊な電波によって送信でき、これによって敵国兵士は前線に出なくともリアルタイムの状況を把握できていたのだ。

スネジンカの探していたものだったが、まさか1日目で見つけられるとはと自分の幸運に感謝した。

 

「――」

 

瞬時に機械兵との距離を詰め、転ばす。そしてもがいている間にサブバックからジャミング装置に似た機械を取り出し、機械兵を押さえつけながら電源を入れた。

すると機械兵の出す電波の送信先、その大まかな方向が表示された。

先の話にあったTipTapの視察能力は厄介であったが、逆探知による敵兵の位置を探っての襲撃が可能となるのだ。未来では新型の偵察機械兵が出るまで戦線を有利にすることができた歴史があった。

 

「ふふっ」

 

スネジンカが艶やかに嗤う。どうやら今夜は、薬以外で久しぶりに欲求を解消できそうだ。その方向を見据えながらTipTapをそのままに、逸る気持ちに逆らわず彼女は疾駆した。

 

 

 

カゾルミアから見て敵国である周辺国、言い換えれば連合国の前線基地は、数日前から機械兵の大量投入を図り東部都市の陥落の前準備に入っていた。威力偵察を兼ねた襲撃により敵戦力の把握はあらかた終わり、現状は詳細な作戦を詰めている段階にある。

その日の夜、歩哨や通信員などを除き多くの兵士が休息を取っていた。

連合国の前線はカゾルミアとまるで違う。戦闘は機械兵が行うので多くの兵士に戦闘がなく、しかもカゾルミアからの襲撃もほぼないため弛緩した空気が生じるのは仕方がなかった。

夜間の見回りであったその兵士も例に漏れず、いつも通りの退屈な夜が早く終わらないかと欠伸をしていた。

 

「んえあ?」

 

欠伸をして目を開いた瞬間、世界が360度回転しそのまま地面に倒れてしまう。そこで彼の意識は永遠に途絶えた。

首をねじられ倒れた兵士の背後にはマスクで素顔が見えぬ兵士が1人、スネジンカである。出血させず始末した兵士を手早く物陰に隠す。マスクの中で細まった赤い瞳は、次の生贄を求めて闇を見透かした。

その先にあった複数人が収容できる宿舎であろうテントへ、黒染めされたナイフを手に音もなく侵入する。

10分ほどだろうか。テントから出てきたスネジンカは小さく息を吐いて、次を探して闇に溶けていった。

しばらくして、そのテントに1人の兵士が入っていく。通信兵である彼は、当直の交代により仮眠をとるため寝床に来たのである。

暗いテントに入ると皆寝静まっているようで物音ひとつしない。もう1歩進んだ時、何かに躓いて倒れてしまう。

 

「いってぇ、誰だよこんなところに……はぁ?こんなところで寝てんのかオイ」

 

地面に伏した同僚に躓いたようで、悪態を吐きながらその身体を起こす。

 

“ピィン”

 

どこかで金属の栓が抜ける音がした。そう思った瞬間、彼は衝撃によってテントごと肉体を粉々に吹き飛ばされた。

倒れていた男はすでに事切れていた。そしてその死体にはブービートラップとして手榴弾が仕掛けられていたのだ。

夜間のその爆発と火事に、見回りのの兵士が泡を食って集まってくるのは当然だった。

 

「しょ、消火だ!火を消せぇ!消火剤を――」

 

言いかけた兵士の左胸から銃剣が生えた。何が起きたかまるでわからぬ顔をした兵士は、銃剣が引き抜かれると同時に脱力、地に倒れた。

その下手人を見た兵士らは最初、それが人間だと思えなかった。見慣れぬ軍用マスクと黒いコートを纏い、その手に握られたナイフと銃剣の刃先を伝った血が地面に落ちる。まるで死神だ。

 

「し、侵入――」

 

言い終える前に、斜めに腹部に突き込まれた銃剣は兵士の肝臓を正確に穿つ。引き抜かれると同時に倒れた兵士は致命傷であるが即死できず、苦しみもがき死んでいった。

 

「ひいぃ」

 

あっという間に2人を殺され、残った兵士たちが怯えながらも銃を構える。しかし犯人は忽然と消え、探して目線を外した瞬間にナイフで頸動脈を掻き切られる。

 

(残りもすぐに送ってあげる)

 

死体に囲まれたスネジンカは血の滴った銃剣を振って血を払う。そして近づいてくる足音に顔を向けた。どうやらまだ、彼女の夜は終わらないらしい。

 

 

 

夜が明けかけた時刻だった。緊急の電信を受け取った別の基地から来た敵国の兵士たちは、その惨状に言葉を失っていた。

いまだ煙が上がるその前線基地には無数の兵士の死体が転がっており、およそ生存者は見つからない。心臓を一突きにされた者がほとんどだったが、中には焼死体や首をねじ切られた者もおり、その姿に胃の中身をぶちまける兵士もいた。

そして待機されていた機械兵は軒並み爆発物で破壊されており、もはや基地としての機能は散々に破壊され尽くした状態であった。

 

「ひでえ、こんな……こんなこと」

 

そして彼らを待っていたのは、椅子に後ろ手に縛られた前線基地の司令官だった。その顔はすさまじい苦痛を味わったかのように歪み、首に文字が書かれた掛札が吊るされていた。

 

“安らかに眠れ、間抜けの脳食らい”

 

人の尊厳を踏みにじったその残酷な行為に、多くの兵士は改めてカゾルミアへの戦意を燃やし、最期まで戦ったであろう戦友を祖国で眠らせるため作業に入ろうとした。特に前線指揮官については複数人が丁重にその遺体に手をつけ、

 

“ピィン”

 

その音が彼らの聞いた最後の音だった。司令官の遺体に仕掛けられていた複数の手榴弾が一斉に起爆、多くの兵士がその悪意の牙にかかった。

それと同時に各所で同じような爆発が起こり、数を減らした兵士たちはついに撤退を決意。基地の処理を後日とし、戦闘を行っていないはずなのに多くの仲間を失い意気消沈。襲撃に怯えながら基地に戻る姿は、まさしく敗残兵のそれであった。

 

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