溶鉄のスネジンカ   作:スペシャルティアイス

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#17

その基地の司令官は、緊急回線による通信にて連絡を取っていた。

 

「――あ、ありがとうござます!!そうですか、数日前にキャリアーで……――はい、追加の兵士を収容しましたので、早晩襲撃が――もちろんです!その際にはぜひ――……生かしたまま、ですか……?いいえ、とんでもないっ!――はっ!ありがとうございます」

 

電信が切れてからため息を吐く。そしてその問題の解決のために思索を開始する。

 

「やるしかないか。まさか鼠のために前線が崩壊するとは、閣下になんとお詫びすればよいか……もはや彼奴の生け捕り、それしかない」

 

顔を上げた司令官が部下に声をかける、各指揮官を集めるために。これからの作戦には餌が必要だが、幸いなことに今の基地には多くある。

 

 

 

夜半になって人気のない機械兵置き場に、逃げ出してきたうちの2人の兵士がいた。一息ついた片方が口を開く。

 

「……なあ、俺たちは一体何を相手にしているんだ?」

「何ってお前、カゾルミアの連中だろ」

「そうじゃねえ!相手は人間なのか?姿を見た奴は1人残らず死んで、いまだに正体がはっきりしねえ。もしかして亡霊が、お、俺たちをあの世に連れていこうと」

「馬鹿馬鹿しい。亡霊がなんで爆弾や銃を使うんだよアホらしい」

 

顔を顰めた兵士が、頭を抱え怯える兵士を宥める。

 

「き、きっとそうだっ、国のため戦争を終わらせるためって誤魔化してたけど、やっぱりまともじゃねえんだよ!この部隊は」

「おい、でかい声で喋るな。ただでさえ鼻つまみ扱いされてんのに」

「あああ、ごめんなさいごめんなさい。お願いだから助けてくだ――」

 

狂気に足を踏み出した同僚を正気に戻そうと手を振り上げた時、兵士は紅蓮の爆発に巻きこまれた。

膨大な熱エネルギーが夜闇を焦がし、そこにあった人間を、機械兵ごと破壊する。

それを確認し、火災に寄ってくるであろう敵兵を暗がりでスネジンカは待つ。

 

(警備が厳重でここしか爆弾をしかけられなかった。でも、これだけ機械兵を壊せれば、後は人間兵を何とか――)

 

すると機械兵が横列を敷いて集まってくるのが見えた。その動きに違和感を覚えながらも潜伏を続ける。壊してもキリのない機械兵よりも人間兵を目的としているからだ。

しかしそんな気持ちとは裏腹に、機械兵が何もない筈の火事の周りの建物に向かって銃撃を始める。まるでしらみつぶしに何かを追い立てるように。

 

「っ!?」

 

ミサイル兵のミサイルが隠れる場所に飛来し、たまらずスネジンカは抜け出てしまう。そこへスライダーが接近して銃撃を浴びせてきた。

 

(非殺傷弾?私の脳が欲しいか。反吐が出る)

 

それをアサルトライフルで撃ち抜き、そこで弾が切れた。舌打ちして放り投げ、軍用コートに忍ばせた銃剣を手に反対側へ走る。するとそこにも機械兵、それも装甲の厚い歩兵が行く手を塞いでいた。ここで疲労に鈍った頭でも気づけた。

 

(……囲まれた)

 

どうやら自分は誘い出されたようで、続々と集まる機械兵は手に余る数になっていた。

敵はこの基地そのものをスネジンカのための罠場としたようで、1人も人間兵が出てこないことから事前に示し合わされたものだと悟る。

 

(たかが1人に、大袈裟だな)

 

ならばこの場にいることは無駄になる。人間兵を減らさなければ機械兵などいくらでも湧いてくる。幸いこれだけの数ならいくらでも盾にして脱出を図れる、そう考えスネジンカは空いた片手にもう1本銃剣を手にする。

銃弾は複数回撃ち込まなければいけないし限りがあり、ナイフは刃渡りが短く脳部品まで届かない。ならば至近距離で銃剣による近接戦闘、それしかない。

 

「ちょうどよかった。もっともっと熱を溜めないとと思っていたところだ」

 

銃剣を両手に構え、姿が消えた。一直線に切り進むゴールは基地出口。何も眼下のすべてを破壊することはない。

夜闇に燃える火を反射して、銀光が機械兵の波を泳ぐ。その後には穿たれ、薙ぎ潰され、破壊された機械兵が残る。

その中で飛行兵が驟雨の如く弾丸を降らすが捉えることなどできず、助走もなしに飛び上がったスネジンカに貫かれ落とされた。

その隙間を縫って、地面を滑るように近づいたウォーラ―が障壁を展開する。

 

「邪魔ァア!」

 

銃剣を振るうどころか、機械脚で踏み潰され撃破された。その踏み込みの強さをそのままに、スネジンカは足に溜めを作る。視線の先には大型歩兵の姿が。

解放された突撃のエネルギーが、空気の壁をぶち抜きながら大型歩兵と、その周りの機械兵もついでとばかりに蹂躙する。

 

「っ!?」

 

その場を飛びのく。それはわずかに耳に届いた独特の駆動音、嫌というくらいにかつての戦場で聞いたもの。

空から大型機械兵が降下してきたのだ。3対の機械脚で跳び上がり、尾翼の発射台から無数のミサイルを発射するタイプだ。

 

「ミサイル兵の大型。他のには非殺傷弾を使わせてるのに殺す気か?」

 

嘲笑して息を吐きだしながら、スネジンカは大型に突っ込む。すると大型ミサイル兵はその方向を捕捉し、尾翼から大量のミサイルを発射した。殺到するミサイルに表情を動かすことなくひきつけ躱し、背後の機械兵の大群が代わりに犠牲になった。

爆発のどさくさに紛れ突破を図るも、お構いなしに大型は跳び上がる。その目的はさらに先の道中を塞いで、攻撃を仕掛けるためか。

 

(離脱――!?そういうことかっ)

 

その先には別の大型機械兵。宙に浮かぶ直方体の形状が変形していき、展開された砲塔はスネジンカを捉えていた。ミサイル兵の跳躍は射線を確保するためのものと気づいて舌打ちする。

それに対してスネジンカは走り幅跳びの要領で、砲撃の瞬間に宙へ跳んだ。そして砲撃を躱しながら片手の銃剣を投擲。一直線に投げ降ろされた一閃は狙い誤らず、砲塔に斜めに突き刺さった。

 

「無駄に硬い敵は、嫌いだ」

 

突き刺さった銃剣の柄頭にむけ、スネジンカは全体重をかけて押し込む。これによって本体深くまで突き刺さった銃剣が発射経路をずたずたに破壊する。

火花を散らしながら大型機械兵が墜落し、そのまま動かなくなった。

 

(まずは1体……と言いたいところだけど、まだいるのか)

 

基地の出口に鎮座する大型機械兵、門を塞ぐように頭らしい部分を突っこんだ姿で、東洋でいうところの龍のような形状だ。

そしてさらに道中を塞ぐように、空から先ほどの大型ミサイル兵が降ってきた。

スネジンカは荒い息を吐きながらそれらを睨む。疲労ではない、電熱炉の熱で身体の負荷が増しているのだ。最後の目的のためには仕方のないことだが、これ以上の負荷は戦闘に支障が出る。

そう考えていた彼女の頭上に駆動音が迫る。

弾丸を避けながらそれに目を向けると、巨大なキャリアー機械兵が空に浮いていた。

 

「新手……!?」

 

ちょうど降下に入ったようで、キャリアーから切り離された球状のそれが、こちらへ向けて降ってきた。

衝撃で地面を揺らし、それは無数の副腕でスネジンカの後ろで着地を成功させる。

球体に目のように赤く光るのは電熱線だろうか。それから伸びる無数の副腕が、敵を捕えんと蠢く。AM-medusaE2、通称“メドゥーサ”。この時代では間違いなく最新の大型機械兵だろう。

3体の大型、無数の中型と小型の機械兵に囲まれた状況が、スネジンカの目の前に立ち塞がった。

これにスネジンカは攻撃の手を止め銃剣をしまう。

 

(……通常武装ではこれを打ち破るのは無理だ。ガジェットは――これは使えない、絶対に使わない。手榴弾は使い切った。同士討ちを狙う?これ以上の攻撃をさばきながらか)

 

自分が進撃を止めた途端に機械兵の攻撃が止んだことから、間違いなくTipTapで観測されていることがわかる。敵はこちらを捕獲することを諦めていないことを確認し、ここで使うかどうかを思案する。

 

(増援はあるのかな、考えたくないけど。でもこれ以上はジリ貧……ああ、この状況はあの時と同じだ)

 

既視感を覚えたのだ。追い込まれたこの状況が東部戦地を思い出させたから。あの時には心強い相棒の存在があったが今の自分は独り。その選択に後悔はない。己の望みと、彼女たちを死なせないという自己満足のために、自分で決めてスネジンカはここに立っている。

しかしあの時と違うことが1つあった。それは今の自分は無力ではないこと。望まずに得たものだが、使えるものは怨敵から与えられたものであろうと使う。

 

「心はもう決まっているんだ」

 

懐から1本の瞬間注射器を取り出す。戦闘中でも素早く注入できるよう、首筋に直接打ち込むタイプだ。その中身は賦活剤とは名ばかりの覚醒剤。脳のリミッターを外し、戦闘不能になっても身体を動かせるようにする薬。炉から汲み上げたエネルギーを使う兵器のため、使用後に昏倒するのを防ぐためのものである。

迷いなく打ち込み、空になったそれを叩き割る。

次いで左腕の機構を解放、機械の手首が切り離されて地面に落ちた。がらんどうの手首は筒状になっており、その暗闇の中に火が灯る。

そして敵の大群にそれを向けた。

 

「まだやるべきことが残っている。負けるものか!」

 

熱線が奔る。敵国からすれば忌むべき兵器にして、カゾルミアの誇る『電熱砲』が敵軍に襲い掛かった。

スネジンカはそのまま身体を回転させ、周囲360度に電熱の洗礼をまんべんなく馳走する。

地平の先まで伸びるような長大なそれは、機械兵を貫通しその後ろの壁まで破壊していく。大型兵も例外ではなく、頑強さを誇る装甲もなす術なく焼却されつつあった。

電熱の暴虐の後に残ったのは、静寂だった。この戦場はもう終わったのだ。一瞬の蹂躙劇はあまりにあっけなく、連隊規模の敵機械兵群を全滅させた。

それをやってのけたスネジンカは、電熱砲の余波で溶けた機械腕を捥ぎ取る。

そしてこちらもダメになったマスクを放り投げ、襲いかかる吐き気を解放した。

 

「ゲボっ、ゲハァアッ!!」

 

咳き込みと同時に吐き出した夥しい血で地面を汚す。そして口元のそれを拭わぬままに、残った右腕に銃剣を握って走り出した。

 

「ふ、ふふ……アハっ、アハハっハハハ!!」

 

薬による高揚に顔を染め、スネジンカは哄笑をまき散らしながら残骸を飛び越える。門の先には、装甲車を盾にした簡易陣地が見えた。

 

「みぃぃつけたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

歓喜に支配されながら突貫する。当然銃弾がその身を襲うが、薬で強化された身体と反射神経の前では芋虫のように遅く見えた。避けられるものは避け、進むのに支障になるものは右腕で受け流す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

人外の速度で接近するスネジンカを前に、人間兵はまるで反応できなかった。

まず装甲車を飛び越えるように敵陣へ侵入し、着地点にいた敵兵が犠牲となる。なんの忖度もない全重量をかけた踏みつぶしに、その兵士は頭蓋骨をゴム風船のように破裂させられた。

そして驚き戸惑っているうちに4人の首を力任せに撫で斬り、その負担についに銃剣が折れる。

 

「ば、化け物がぁあああ!?」

 

別の銃剣を引き抜きながら弾丸を回避し、その勢いで兵士の眉間に銃剣を突き刺す。引き抜きざまに後ろに回し蹴りを放ち、腕ごとあばらを粉砕された別の兵士が血反吐を吐いて地に伏せた。

 

「勝てるはずない!こ、こんな奴にぃ」

「き、貴様ら!?逃げるなバカ者ォ!」

 

機械兵を殲滅され、残酷に殺されていく同僚についに逃亡する兵士が出始める。これに司令官が制止の声を上げるが、1人逃げればそれを追いかけるように増えていくことは必然であった。

 

「逃げるなというのが、聞こえ――」

 

逃亡兵に声をかけた形のまま首を切り飛ばされ、呆気なく司令官は死んだ。

それからの追撃戦は特筆することなく終わる。人の脚で逃れられるものは誰1人なく、名もなき死者として土に還ることが決定しただけだった。

すべてを終えたスネジンカは敵国の装甲車に乗り込み、息を吐く。薬が切れかけてきたので鎮痛剤を使って体を誤魔化す。

 

「まだだ。まだ、死ねない」

 

土気色の顔色のまま装甲車で走り出す。これで最後まではとても行けないが、可能な限り距離を稼ぐのだ。彼女の本懐は、カゾルミアの首都でこそ果たされるのだから。

 

 

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