アポアポカリプスホテル   作:PureFighter00

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アポカリプスが本格化する前のヤチヨさんの日常


0.012話 「ポンコツ」

「誠に申し訳ございませんでした」

型にはまったかの様に見事なお辞儀。

ヤチヨはお辞儀にだけは自信があった。誰よりもお辞儀をしてきたからだ。彼女こそお辞儀のスペシャリストと言ってもいい。銀河楼のお辞儀女王──まぁ、謝罪せねばならない事態を引き起こし過ぎたという事だ。

 

「同型なのに何でこんなにポンコツになっちゃったのかなぁ?」

給与明細を手渡しつつ、副支配人がため息をつく。

「私も大変不思議でして、先週頭部のフルメンテナンスを行いました。副支配人のご指摘通りネジが2本緩んでおりましたのでネジロックを塗布した上で締め直しておきました」

真顔のヤチヨ。

呆れる副支配人。

「あのさぁ。なら何で今日やらかしちゃったんだろうねぇ?」

「次回は回路のハンダ不良も疑ってみることにします」

自信満々のヤチヨである。

副支配人は週に4度くらい、ヤチヨのこれは逆に超高性能なAIのボケなのではないかと考えている。ハイブロー過ぎて笑えない。

 

 

「ねぇ、ヤチヨ。今日はエルメスで99%オフらしいよ! 行こうよ!」

「いえ、申し訳ありませんが明日着払いでA-10ユニットのドーターボードが到着しますのでその交換準備をしなければなりません」

「あんた自分の予備パーツ買うの好きねぇ……」

「皆さんにポンコツポンコツ言われてしまいますから、早く原因部品見つけて……」

「それ、本当に部品由来なのかなぁ? 私プログラミングのせいじゃないかと……」

 

 

ウィルス騒ぎが起こって以降、ハイブランドは投げ売りを始めた。

対策の一つとして挙げられた宇宙移民……可能な限り多くの人類を宇宙船に乗せる為、個人の荷物は持ち込めない──この頃はまだ、人類全てが宇宙に行けると皆信じていた。荷物を制限したら……それは錯覚であったし、宇宙移民は豪華客船による優雅な旅ではなくヨーロッパからアメリカを目指したメイフラワー号だった。しかし自由・平等・博愛を享受し続けた人々は歴史を忘れた。

 

 

「……っ、へくちっ!」

「あら、風邪ですか支配人?」

「誰か噂でもしてるのかな? ところで……ヤチヨはまだダメかい?」

「ダメも何も、ホテリエロボの個性発注欄に『ドジっ子』なんてオーダーする方初めて見ましたよ……」

そう、ヤチヨのドジっ子属性はいたずら心を発揮したオーナー自らがメーカーに発注した結果だったのだ!

オーナーも冗談半分で書いたコメントが開発陣の魂を燃え上がらせ、どこに出しても恥ずかしくない──それは見事なドジっ子キャラクターを生み出すとは考えてもおらず……

 

 

「……これは……挑戦だな」

「真面目なロボしか作れないと思われているな……」

「くっくっく……見せてやろうじゃないか、本物のドジっ子ホテリエというモノをっ!」

 

彼らの技術は確かだった。

本当に……本当に予想の2.4101423倍ぐらいドジなホテリエが爆誕した。

 

 

「せめて納品時にドジ過ぎるぐらい言っておけば……」

「最初の挨拶で勢い余って3点倒立する面白ロボなんて凄過ぎるだろ。笑い転げて指摘する余裕なんて無かったさ。それにあのエンジニアのドヤ顔! おっかしかったなぁ……」

「少しはお客様の気にもなってみてください!」

「いやいや、彼女はその内9星連絡会でも名の知られたホテリエになるよ」

「──そう言えば、本当に異星からお客様が来る様な日が?」

「知り合いの政府筋からの話では、条件もまとまり正式調印まで後少しだそうだ。案外気軽に立ち寄れるらしい」

「俄には信じられないですね……宇宙人ってもっと……グレイみたいな……」

「ドク・スミスがあの世でシャンパン開けてるだろうな。まさかトレゴンシーが当たりだとは思わないじゃないか!」

「リゲル人でしたしねぇ。今度レンズでもお贈りしては?」

 

 

9星連絡会。

外宇宙に到達した最初の9つの星で構成された国連の様なものである。互いの居住可能環境が違う為に領土紛争などが起きず、外宇宙に到達した星系の文明は居住可能環境が近い代表の下に就いて会議に参加する。

 

 

「ボイジャー見て来ました、だもんなぁ」

「レコードで言語研究してから来るとかマメですよね」

 

テクノロジーレベルが違い過ぎたので、彼らの間ではローテクに属する「ちょっと先進的な技術」は瞬く間に広まり、今ではホテリエロボの中枢近くにも異星人テクノロジーは採用されている。

 

「しかし……な……」

 

宇宙港の誘致に成功した南米から、ウィルスが漏れた。

いや、正確にはウィルスに似た物質らしい。パレイン系第7惑星人が地球人に気を回して彼ら側で検疫を徹底的に行い「彼らの星での病害虫」を持ち込まぬ様に配慮した結果、残留した薬が地球環境に大きな変化をもたらした。

 

「宇宙規模でポスト・ハーベスト問題が起きるとはなぁ」

「やはり軌道エレベーター建造先にして……」

「南米経済の立て直しを優先したのがね……」

 

パレイン系第7惑星人のバルサ◯は強力だった。強力過ぎた。過去地球においてこれほどまでに強力な生命駆除剤は一種類しかない。酸素だ。その時も多くの生命が死滅し、環境に適合できた好気性生物だけが地上を支配することになった(24億年前)

 

「何とかならないんでしょうか?」

「君はバルサ◯開発する時にバルサ◯無効化する薬剤を準備するのかい?

パレイン系第7惑星人も慌てて支援を申し入れているらしいね」

 

50億年もあれば色々あるさ。このドジに比べたらヤチヨのドジなんて誤差みたいなもんだ──オーナーは自分のやらかしを棚に上げて呑気な事を考えた。

 

 

一方、その頃ヤチヨは……

「終わりです……アリエ◯を信じるバカなロボットがどこにいるでしょうか……ここに居ました……3回連続で当たりを引いたからって……疑うべきでした……」

ヤチヨは次はTem◯にしようと心に誓った。




人類が地球脱出する前からヤチヨはポンコツで、何故ポンコツかは経営陣が明かさなかったのでヤチヨはハードウェア系の故障を疑い、部品通販で給与を溶かしまくっていた。

そう、その(変なもんも多数含まれるが)ヤチヨが「生きながらえた」理由の一つであるってハナシ。
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