アポアポカリプスホテル   作:PureFighter00

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ワイのウィスキー知識が爆裂するぜ!
(白州蒸溜所見学と試飲に参加した事あるマン)



5.5話「チーフブレンダー」

銀河楼蒸溜所。

銀座の中心部に突如として現れたこの蒸溜所では銀座産の大麦栽培から、醸造・蒸留・樽詰め熟成・ブレンディングと瓶詰めまで全て自社で行う本格的蒸溜所である。

 

ウィスキーについて詳しくない方に少々説明が必要だろう。まず銀河楼蒸溜所で生産されるウィスキーは全てシングルモルトウィスキーである。

先ずはモルトの説明が必要か。モルトウィスキーとは大麦麦芽から作られたウィスキーの事である。ウィスキーは大麦麦芽だけではなくグレーンウィスキーというものがあり、こちらはトウモロコシや小麦、ライ麦などに大麦麦芽を糖化酵素として加えて生成される。人類がまだ地球にいた頃はモルトウィスキーにグレーンウィスキーを加えたブレンデッドウィスキーが市場流通の大半を占めており、「銀河」の様なシングルモルトウィスキーは高級嗜好品として流通していた。

 

基本、ウィスキーの味というものは樽ごとに異なる。同じ日に蒸留して2つ並んだ樽であっても何故か同じ味にはならないのだ。故にブランドもののウィスキーは均質なブランドの味になる様ブレンダーにより複数の樽の中身をブレンドして出荷される。銀河楼蒸溜所の「銀河」はチーフブレンダーであるタヌキ星人ブンブク氏によりブレンディングされているのだが──

 

「……深い味わいにピートの香りが強い。これをメインに軽い口当たりの樽を足して……」

「私はもう少し個性的な味わいを出した方がいいと思うわ」

「水割りで飲んでるからじゃないかな? ちょっと口濯いでストレートで飲んでみて?」

「あらやだ、これきっつい!」

「個性的な味わいが好きならストレートで行って貰えば……」

「ダメよ貴方。こんなの何杯も飲んだらまた【過ち】が……」

「違いますよかぁさん。これはお仕事! 銀河の品質管理に必要なティスティングなんですから。ほらこちらの樽のもぐーっと。はいグーッと!」

 

最終的な瓶詰めする際にティスティングとブレンディングをするのだが、仕事に熱心なブンブク氏は毎日の様に試飲する。元々樽ごとに試飲してティスティングメモを付けていたのだが、ブンブク氏は文字が下手でメモがメモの意味を成さず、ブレンディングの度に膨大な数の樽を試飲してグデングデンに酔っ払うとブレンディング作業まで進めず、ヤチヨが「こんな時こそITです!」とタッチパッド端末渡したらタヌキ星人の指が何故かタッチパッドに反応せず……ウィスキー「銀河」の誕生までは多数の困難があった。

 

ウィスキーには「天使の取り分」という言葉がある。樽での熟成過程で樽の中身が1割ほど目減りするのだ。

しかし銀河の場合、最終の瓶詰めまでに3割ほど目減りする。天使とタヌキが飲んでしまうのである。そりゃもう大宴会が毎夜毎夜繰り返されているのだろう。

 

が……

「結局、お酒の味に一番詳しいのがブンブクさんなんですよね……」

「ヤチヨちゃんの方が正確に分析出来ると思うんだけどなぁ。ロボなんだし」

「同じロボでも環境チェックロボさんの方が正確だし……」

「だぜちゃんよりお父さんの方が繊細なのには驚いた。ただの酒クズじゃなかった」

 

いや、いや。

永らく日本酒作りの世界でも、化学分析で美味い酒ができるもんかなんていう風潮はあった。あったが……仕込みの杜氏に逃げられて、気合いと根性と化学分析で美味い酒を作った会社もある。獺祭だ。

しかし、それだけではないというか、分析だけでは補えない部分があるのもまた然り。試しに環境チェックロボとブンブクでブレンディング勝負をして僅差ながら勝利をしたのはブンブクだった。

「ぬっはっは! お酒は生き物が愉しむものですからなぁっ!」

確かに間違いではない。

そもそもタヌキ星人はため糞で縄張りや個体認識する程度には鼻が良い。シラフだとタヌキ星人はかなり優秀なブレンダーなのだ。

 

シラフなら(意味深)

 

莫大な銀河楼蒸溜所の酒樽を片っ端から試飲したらどうなるかと言う話だ。ブレンディングする頃にはベロベロになり加水(樽に入っているウィスキーは60度以上のアルコール濃度なので加水して一定度数に薄める)の加減もいい加減だ。

よって、3回目のブレンディングから環境チェックロボがサブブレンダーとして大まかなブレンディングをして、最終的な仕上げをブンブクが担当する形に落ち着いた。タヌキと天使の取り分は2割にまで減少した。これがシングルモルト「銀河」である。

 

そしてここにもう一つのマスターピースがある。シングルカスクウィスキー「銀河」18年である。

シングルカスクとはその名の通り1つの樽から瓶詰めされたウィスキーである。無加水で一切の調整を排したこのボトル、ブンブク氏がシラフの時にたまたま熟成の結果として「凄く出来が良かった時だけ」瓶詰めされて、ホテル銀河楼酒類貯蔵庫で保管される。放っておくと全部飲み干されるからだ。

傾向としては、獣臭じみた強烈なインパクトから段々とナッツや花の香りが鼻腔に抜けて、アルコールが身体に柔らかく浸透していく。(宿泊宇宙人としては)異国情緒溢れて、大自然に抱かれた銀河楼らしい味であると絶賛されている。

 

ウィスキーは熟成年月が長ければ長いほど良いとされているが、それは半分正解で半分間違いだ。

中には長年の熟成に耐える樽もある。耐えられない樽もある。その個々の樽の個性が調和したシングルモルト「銀河」も銀河楼らしい味ではあるし、静かに(ブンブクに飲み干されず)年を重ねたシングルカスクウィスキー「銀河」18年もまた、銀河郎という老舗の味でもある。

 

「結局お父さんはウィスキー作りでも大黒柱という訳ですよ。グハハハハ!」

 

確かに重要要素ではある……良い意味でも、悪い意味でも。

 

 

ムジナ「人生もお酒も塞翁がタヌ、ですねぇ」




白州蒸溜所のティスティング、絶妙にいい感じで酔わせて、会場後にしたら目の前にレストラン。締めは小淵沢駅で駅蕎麦という満足コンボが味わえるのでお勧め。新宿駅から8時くらいのスーパーあずさで行くんやで。
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