世は不思議の縁起で紡がれている(ここで例のシャバダバBGMがはいる)
今、テトラポッド星人(トライポッド星人?)の中ではお台場がアツい。
そのブームの火付け役になったのがアイ・コーの歌であり、彼女が歌ったお台場の夕焼けの風景が妙にテトラポッド星人の中でバズった。砂浜に佇む2基(基、かな……)のテトラポッド星人。その顔をこの星の主星が優しく照らし、それが沈むと銀河の星々とその星の衛星が柔らかく照らす。
音楽雑誌でアイ・コーが絶賛したこの星唯一のホテルのピザがまた最高で……と、現世地球人類に分かりやすく書くとバリ島のアマンダリ(アマン・リゾートの高級リゾートホテル)のシーフードがサイコーみたいな事を書かれたのだ。
まぁ、アレです。セレブが自然溢れる銀河の片田舎で高級リゾートホテルでエコでロハスなセレブムーブ。インフルエンサーがそれに乗じて……みたいな。皆も偶にTikTokとかInstagramで見る奴だ。
その様にして銀河楼は港町の漁港じみたテトラポッド山盛りの景観となった。釣りキチ三平なら銀河楼2階からジギング始めそうな風景である。危ないからテトラポッドに乗って釣りしたらいかんやで。
「……え? ピザ焼き窯の増設が必要?」
ヤチヨが大気圏再突入を果たしてから3年。増え過ぎたテトラポッド星人がやたらピザを頼み、今や朝6時から9時の朝食会場終了までピザを焼くオーブンはフル稼働であった。焼きたてを提供したいという調理ロボの執念もあり、手隙の者までピザのトッピングを手伝い助けて来たが……
「……ふむ、ハエトリちゃんの意見に私も賛成。ピザをサイズアップして1/4サイズで提供したら提供速度かなり上がりそうね」
そこには見事に成長したポン子の姿があった。休職中のヤチヨ支配人代行の代行の更に代行として銀河楼を取り仕切る若女将の様な存在だ。
ヤチヨが目覚めぬ状況下で、彼女は意外な手腕を見せ始めていた。言ってしまえば銀河楼に客が増えたのは偶然の産物だったが、客を捌き仕事を効率化して銀河楼の銀河楼らしさ(但し、ポン子基準)は残す……今や銀河楼の客室稼働率は5割を超え、今の人数で捌ける人数の限界を迎えつつあった。
「採用します。ピザ焼き窯作りましょう……いや、修繕の大将は屋上の補強優先して。ピザ焼き窯の作成は外注しましょう。アウトソーシングしないとホテル回らないし……」
「おねえちゃんさぁ……(涙)」
アウトソーシング先はフグリ君であった。ポン子が示した図面を見ながら耐熱レンガを組み上げる。
「だってフグリ、泥細工好きじゃない。適材適所♪」
「いや確かにね、昔っから好きだったよ泥遊び。穴だって好きだよ。だからってさぁ……」
レンガを積んでセメントで隙間埋め。窯の中に入り込み光の漏れで小さな穴を見つけて塞ぐ。ただし作業をしているのは小学4年生ぐらいに見えるフグリである。まるで産業革命時の幼年労働者の様な絵面であり、ユニセフとか色々な機関が苦言を呈しそうな作業風景ではある。(実年齢は人間の平均寿命を数倍したぐらいなのだが)
「頑張ってるわね、フグリ」
「おねえちゃんも手伝ってよ……」
「私はヤチヨちゃん修理で忙しいからダメ。労働をして食べるご飯は美味しいよ☆」
「またタヌキ蕎麦ぁ……好きだけどさぁ……」ズルズル。
「銀河楼の賄い食べれるなんてお得ねー。さぁさぁ、午後も元気に頑張りましょう! 窯が出来たら次は薪の保管場所作るよっ!」
「えーっ!」
「何この狸耳?」
「僕が頑張った証」
フグリが作ったピザ焼き窯には、可愛らしい狸耳と狸尻尾(煙突を兼ねる)が付いていた。
「昔っから変な拘りあったよね、フグリ」
「別にいいでしょ。機能に問題ないんだから」
「結構レンガ余ったね……」
「だから言ったじゃん、こんなに要らないって。運ぶ
「修繕用に半分残して、あとはフグリにあげるわ。パン焼き窯なりピザ窯なり好きに使って良いわよ」
「えーっ……これまた運ぶのぉ……」
「最近あんた、秘密基地作ってるんでしょ? 基地に暖炉とか素敵じゃない?(提案のフリした強要)」
「んー……どうしようかな……」
「フグリっ! 食器作りなさい! あのレンガで焼き物の登り窯作るの! 急いで!」
「好きに使って良いって言ってたじゃん……(心底うんざり)」
「あんたの窯でピザ焼いたらデカ過ぎて銀河楼のお皿じゃ乗り切らなかったの!」
「窯の設計者おねぇちゃんなんだけど……」
「……些細な事だわ。問題があるならソリューションを探せば……クリエイターとして……コミット……」
ポン子は界隈でありがちなロクロを回すポーズで強弁するなどした。なんでも形から入るのはポン子の美点でもあり欠点でもあった。
「ちゃんと代金は支払うから!」
「あの紙の束は銀河楼でしか使えないんですが」
「銀河楼のお土産コーナーに焼き物置いてあげてもいい」
「他の星行けない僕には意味がない数字だよ……」
「じゃあ後でなんか一つフグリのお願い聞いてあげる。後払いという事で一つ……」
そんな約束したっけ?で無視される奴だ。姉を持つ弟ならみんな知ってる。しかしこの空手形をフグリは受け取ることにした。
「……こちらは現代陶芸家、フグリ ポン山の作品でして……」
ポン子には芸術が分からない。
分からないが、何故か工学知識とプロデュース能力はあった。後者が銀河楼を繁栄させた異能である。
「……ほぅ、温かみのあるいい造形だねぇ……」
「お分かりになりますか……当ホテルの食器は順次ポン山様の食器に切り替え中でして……」
嘘ではない。ポン子は一言も高名なとか大人気のとは言っていない。ただ銀河楼で採用しただけの話。しかし銀河楼は今や知る人ぞ知るホテルである。そのネームバリューを使っただけ、だ。
「ほう、このティーセットはいいねぇ。1セット貰おうか」
「はい、お支払いは……」
「カードで」
「かしこまりました」
銀河楼基本ルールでは宿泊費用は地球で有効な貨幣と規定されている。しかし土産物にはその規則が無い。
フグリ作品で得た外貨収入で、最近ポン子はヤチヨの修理用パーツを買い集めている。高出力コズミックモーターや光ファイバー通信ケーブル。回路全開の日は近い。
「……ダメか……」
バリン
フグリの秘密基地(予定)は陶芸工房になってしまった。今はムジナおばあちゃんに頼まれて羊羹食べる時のお皿作りに挑戦している。
ムジナ的には小さなちょっとしたお皿でありさえすれば良いのだが、フグリは妙に拘りを発揮して焼き物に没頭していた。
後に本当に宇宙に名を知られた陶芸家、フグリ ポン山の若き日の姿である。300年後──九星連絡会サミットでフグリの作品が好評を得るとはムジナばあちゃんですら予測は出来なかった。
フグリ君シリーズは3話を予定しております。