機動戦士ガンダム 0087 Stardust melody   作:k-suke

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最終話 もうどうなってもいいや

プチライブの様相を呈した私の疑似慰問演奏会だったが、鳴り響く警戒警報をもって完全に終了した。

 

ジオンの人たちはさすがというかすぐに軍人の顔になり、非戦闘要員は誘導を受けて速やかに避難を開始した。

 

私もひとまずとばかりにスターダストガンダムのコックピットにもぐりこんだが、直後極太のビーム砲が駐屯地に直撃し大爆発を起こした。

 

「な、何!? 何なの!? いきなり攻撃なんて!?」

 

そんな私の混乱などかわいいものであり、周囲はシェルターが一部破壊されただの、MS格納庫にも被害が出ただのと怒号が飛び交う大混乱に陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!! まさかここに直接仕掛けてくるか!?  連邦はここまで馬鹿だったのか?」

 

駐屯地の常駐MSとは別に離れた場所で整備保管されていたG-100に乗り込んだエグザベは、あまりにも非常識極まりないこの状況に愚痴っていた。

 

ただ、それで現状が変わるでもないことは重々承知しており冷静にMSを起動させていた。

 

『エグザベ大尉。今のビーム砲の一撃で、MS格納庫に一部被害が出て発進、迎撃には時間がかかります。 申し訳ありませんが』

 

「わかっている、こちらで敵MAの迎撃にあたる。迎撃準備を急いでくれ!!」

 

(敵の狙いはおそらく… 俺が囮になるしかない!!)

 

連邦がこのタイミングで極東駐屯地を襲撃してきた理由、コロニー落下事件の証拠をジオン本国に転送される前に破壊してしまおうという魂胆だと判断したエグザベは腹をくくった。

 

「40m級の巨大MA。イズマコロニーを襲撃した奴の後継機か!! 見たところ未完成らしいが、手加減できる相手じゃない!!」

コンソールに転送されてきた敵MAの機影を確認しつつエグザベは叫んだ。

 

「エグザベ=オリベ、G-100出るぞ!!」

 

 

 

 

 

「え、あれって…」

 

シェルターへ避難する最中だったニャアンだったが、接近してくるMAを見て足が震えてしまった。

 

「ニャアン!! どうしたの、早く逃げないと」

 

マチュが必死に促すも、ニャアンは頭を抱えてガタガタと震え出してしまった。

 

 

「あれ… あれは… イズマコロニーの中でのクラバで襲ってきたやつ…」

 

「えっ?」

 

 

驚く間もなくMAが発射してきたミサイルが近くに着弾し、二人は完全に逃げ遅れ爆炎に囲まれてしまった。

 

「キャアアアア!!」

 

「くっ、ジークアクスがあればあんなサイコロ…」

 

 

炎がじりじりと迫ってくる中、一機のMSの手が二人をかばうように伸びてきた。

 

「赤いガンダム?…」

 

「シュウジ!?」

 

 

炎の色もあって一瞬「赤」に見間違えたか、そこにいたのは「青い」ガンダムだった。

 

『…なんかすみません。 助けに来たのがこんなんで』

 

 

 

 

 

 

「フィーナ!!」

 

「ありがとう。助かった」

 

 

爆炎に囲まれてしまっていた二人を見つけて、大慌てでスターダストで救出に向かった所、とりあえず無事だったみたいでホッとした。

 

「安全な場所まで運びます。捕まっててください」

 

 

こういう避難誘導や救助は普段のバイトで手慣れた物であり、いつもの様にジャンプしようとしたが、妙に機体が重かった。

 

 

「え? スラスターに異常? 違う、思ったより下に引っ張られてる!!」

 

予想以上に強い地球の重力に戸惑い、若干姿勢を崩し半ば不時着の様な格好になったが、なんとかシェルター付近まで退避することができた。

 

 

「さあ、早く中に…」

 

二人に避難を促したが、さらにミサイルやらビーム砲があちこちに飛び交い、駐屯地中で爆発が起こり、辺り一面が揺れていた。

 

 

 

 

「くぅぅ!! これあのサイコロみたいなMA1機が?」

 

ミサイルやビーム砲が飛んで来た方を確認してみると、サイコロのような四角い胴体にガンダムの頭部だけがついた奇妙なMAとエグザベさんの金ピカMSが戦闘を行なっていた。

 

とはいえ、エグザベさんはMAのミサイルやビームを回避するだけで精一杯の様であり、たまに仕掛けるビームライフルの攻撃もあまり効果がない様だった。

 

 

「あいつすごく強い!!  でもなんでここに…」

 

そこまで考えてハッとなった。

 

連邦がこの駐屯地に攻めてくる理由は一つしかない。

 

コロニー落下事件の主犯と黒幕についての証拠隠滅だということに。

 

 

「危険だけど、私が逃げたら余計被害が大きくなる… そうなったら…」

 

何度もMSに乗っていたし、クラバの取締で戦闘もやったことはある。

 

だが今回はそれとは明らかに危険が段違いだった。

 

 

それでも

 

 

「ここの人たちに死んでほしくない。私の曲を聴いて褒めてくれた、喜んでくれた人たちを!!」

 

 

私は意を決して、スターダストガンダムを発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!! こいつ手足もない未完成品のくせに、火力だけは半端じゃないし防御力も相当だ!!」

 

幸い腹部のメガ粒子砲は連射できないようだが、背部からその隙を補うがごとく連射されてくるミサイルに回避行動をとらざるを得ないエグザベは手を焼いていた。

 

おまけに浮上用のバーニアも若干不安定なのか、不規則に機体が上下しており、それが却って動きの読みにくさにつながっている始末である。

 

 

「生半可な攻撃は通じない。手はあるにはあるが俺一人でその戦法は自殺行為だ。せめて一機でいい、早く出てきてくれ」

 

隊長機であるG-100の火力や性能はジオン軍最強ともいえるが、所詮はMS一機。

巨大なMA相手では、ほとんど効果がないビームライフルで牽制しつつ、援軍を待つしかできることがほぼなかった。

 

 

 

そんな膠着状態にイライラしているのは相手も同じであった。

 

「おのれ!! ウジ虫どもが、目のチカチカするような色のMSに乗りおって!! 目障りだ落ちろ!!」

 

半ば八つ当たりのようにミサイルを乱射するも、すべて回避されるか撃ち落されるかしてしまうため、バスクはさらに苛立つという悪循環に陥っていた。

 

「何故だ!? 何故だ!? 何故だ!? 何故だ!? たかが一機のウジ虫のMSに!?」

 

その苛立ちから、さらに過剰に特殊薬物を注入したバスクは完全に目が血走り、全身からは嫌な汗が噴き出すなど、危険な状態に陥っていた。

 

 

そんな状態でコックピットでもある頭部に瓦礫が次々投擲されてきた結果は推して知るべしである。

 

 

 

 

 

『青いガンダム!? フィーナ=ビーダルか? 何をやっている、民間人の君は下がってろ!!』

 

金ぴかMSに乗ったエグザベさんから当然ともいう通信が飛んできたが、珍しく私は引かなかった。

 

 

「この状況で指咥えて見てられません。 軍の人たちが出られるまで簡単なお手伝いはします!!」

 

そんなことを話している間にもできるだけ大きな瓦礫を拾い上げては、サイコロMAの頭めがけて投げつけていた。

 

スターダストガンダムにはライフルもマシンガンもないし、こっちの倍近いサイズのMAに肩部バルカン砲が通用するはずもない。

 

ビームサーベル一本で接近戦を挑むほど無謀なことはできないとなれば、正直できることがこれぐらいしかなかったというのはある。

 

 

 

「なんとか注意を引きつけます。だから…」

 

私の作った隙にエグザベさんが攻撃してくれればなんとかなると思っていたのだが、サイコロMAがこっちを捉えたというアラートが鳴り響いた。

 

 

 

「か、回避!! くっ、機体が重い!!」

 

発射されたメガ粒子砲をなんとか回避した私だったが、いつもと違う勝手で回避しにくかったこともあり、片腕が余波で溶解してしまった。

 

 

『言わんこっちゃない!! 大丈夫…  いや、回避しろ!!』

 

エグザベさんの声が響いた次の瞬間、何発ものミサイルがこっちに向かって飛んできた。

 

 

「くっ!! 当たってたまるかぁ!!」

 

重い機体で回避行動を取りつつ、ビームサーベルを引き抜いてミサイルに斬りかかった。

 

 

 

 

 

『ミサイルを全弾切り落としただと!? フィーナのやつやっぱり本物か…』

 

「た、たまたまです…」

 

エグザベさんの驚いた様な声が聞こえたが、ただ単に必死になった結果だし、同じことをまたやれと言われても絶対無理だと言い切れる。

 

 

それでも一瞬だけ気を抜くことはでき、それを利用しほんのわずか距離を取った。

 

すると今度はサイコロMAが飛び跳ねる様な動きでこっちに向かって突っ込んできた。

 

 

「う、うわっ!!」

 

 

モニター一杯に映る巨体に度肝を抜かれたものの、潰されてたまるかとなんとか回避した。

 

だが、突撃してきたMAはまた一つ軍の施設を押し潰していたが。

 

 

 

「また… !! 来る!!」

 

目前の被害に憤る間も無く、サイコロMAはバーニアを利用してゆっくりと上昇すると今度は私を押し潰そうと落下してきた。

 

 

「な、なんの!!」

 

それはなんとか回避できたが、サイコロMAの落下の衝撃で地面が揺れて、バランスが崩れてしまった。

 

 

『なんてやつだ!! どうあってもこっちを潰す気か!!』

 

エクザベさんも今の振動でバランスを崩したらしく、地面に這いつくばる格好になってしまっており、身動きが取れなくなっていた。

 

 

 

動きが鈍った私とエグザベさんを見てか、サイコロMAは不安定に上昇しながら勝ち誇った様な声を外部スピーカーで流してきた。

 

 

『スターダストガンダム!! 金ピカ!!  貴様らさえいなくなればコロニー落としはジオンが行ったことになる!!  今こそ我々エリートたるアースノイドが、ウジ虫であるスペースノイドを管理してやるのだ!!』

 

その通信に全員が絶句していると、サイコロMAが底面スラスターを利用して加速をつけて私の方に突っ込んできた。

 

 

「まずい、あれは避けきれない!! フィーナ!!」

 

慣れていない地球上で、バランスを崩して倒れている状態で、加速のついた体当たりは避けきれない。

 

 

 

 

 

叫んでいたエグザベさんを含め、そう誰もが思っていたと思うが、私はどこか余裕があった。

 

なぜなら

 

 

サイコロMAの底面スラスターに実弾が命中して大きくバランスを崩したためであり、私はそれを予測できたからである。

 

 

「ありがとうございます。マチュさん」

 

そのお礼を言った先には、MS用のバズーカを発射した反動で吹っ飛ばされていたプチモビがあった。

 

 

「痛たた、これで貸しなしだかんね」

 

 

実際バランスを崩したサイコロMAは、近くの施設に斜めになった状態で突っ込んでおり、完全に身動き取れなくなっていた。

 

 

 

『くそ!! ミサイルは弾切れ。 動けサイコガンダム、動かんか!! ウジ虫を叩き潰せ!!』

 

 

焦っているのが丸わかりの声がサイコロMAから響いてきたが、それを聞いた私には怒りを通り越して哀れみの感情が湧いてきた。

 

「リズムが自分勝手でメチャクチャ… あのMAすら信じてないのが丸わかり… なんだか気の毒な人…」

 

 

「フィーナ!! 何やってる、来るぞ!!」

 

エグザベさんの声が響いてハッとして前を見てみると、サイコロMAが体勢を立て直そうとしている最中だった。

 

 

「今なら、いける!!」

 

 

リズムのテンポが完全に崩れている今ならばと、私はビームサーベルを抜きスラスターを吹かして斬りかかった。

 

 

 

『スターダスト!!』

 

だがサイコロMAにも意地があったようで、胸のメガ粒子砲を咄嗟に発射してきた。

 

 

 

「ぐっ!!」

 

狙いもつけていないビームだったこともあり、直撃は避けられたがスターダストガンダムの両足に命中してしまった。

 

「これぐらい!! たかが足の装甲を持っていかれただけ!!」

 

明らかにチャージ不足だったこともあり、足の装甲が溶解しただけですみ、私はバランスを崩しつつもスラスターの勢いを利用してビームサーベルをサイコロMAの頭に直撃させた。

 

 

サイコロMAの強度は頭部も相当なもので、大きく傷つけて頭を半分ぐらいまで切り裂くぐらいでせいぜいだった。

 

それでも結構なダメージにはなったようで火花を散らし小さく爆発を始めた。

 

 

「やった… の…」

 

そう思ったのも束の間、頭部が半壊し、不気味なゾンビのような姿になったサイコロMAだが、さらに恨み言のような言葉と共にもう一度胸部メガ粒子砲をチャージしてきた。

 

『スターダスト、貴様だけでも!!』

 

 

こっちは着地の衝撃で装甲が溶解した両足が半壊し、スラスターも推進剤が尽きていたため身動き取れなかったが、特に怖いものは感じなかった。

 

 

 

「もう終わりだ、ここからいなくなれ!!」

 

サイコロMAの背後からエグザベさんの金ピカMSが極大のビームサーベルで斬りかかって来ているのが確認できていたからである。

 

そして極大ビームサーベルは私のそれとは比べるべくもないほどであり、サイコロMAを縦真っ二つに切り裂いた。

 

「はぁ… はぁ… この隊長機カラーは伊達じゃないんだ…」

 

 

 

 

「すご… って、え? ちょっ、待っ」

 

巨大なMAが真っ二つになった光景にはさすがに驚いたが、その残骸が身動き取れない私のほうに爆発もせずに倒れ掛かってきたことにはもっと驚いた。

 

そして当然私のスターダストガンダムはその残骸に轟音とともに押しつぶされることとなった。

 

 

 

 

 

「フィーナ=ビーダル!!  大丈夫か?」

 

ようやく発進できた駐屯地のゲルググ隊がMAの残骸に押しつぶされ歪んだスターダストガンダムのコックピットから私を救助した後、エグザベさんが心配するように駆け寄ってきた。

 

「あ、はい。無事です、無事」

 

とはいえ、スターダストガンダムはあちこちが潰れてひん曲がっており、素人目にも修理不能状態になっていた。

 

ただ、損壊がそっちに集中してくれたおかげでコックピット内の私はほぼ無傷で済んだのだが。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、だから無茶するなといったんだ。まぁ結果としてこっちの時間稼ぎにもなったわけだが…」

 

 

G-100の切り札でもあるハイパービームサーベルはチャージに時間がかかるという問題があった。

 

スターダストガンダムが出てきてくれたおかげでそのチャージ時間が稼げたので、エグザベとしてはまぁ結果オーライというところであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、サイコロMAの残骸から引きずり出されたパイロットが念入りに拘束されていくのが視界の端に映った。

 

かなり大柄な男性に加えて錯乱状態になっているみたいで苦労していたみたいだが、素朴な疑問がわいた。

 

「あの人、どうなるんですか?」

 

 

だがエグザベさんは真剣な顔でやや冷たい返事をした。

 

「君が深く知る必要はない。 まぁただでは済まないだろうがな」

 

 

まぁそうだろうとはわかっていたし、私も深く追及するつもりはなかったし、同情する気もなかった。

 

 

 

「まぁ、それより君は自分の心配をしろ。 しばらくこの件の事情聴取があるからな、コロニーに帰るのは当分伸びるぞ」

 

「へ?」

 

その言葉に思わず間抜けな声が出てしまった。

 

 

結局、一応とはいえサイド7の所有物であるスターダストガンダムを大破させたことと、ジオンの駐屯地で民間人なのに大立ち回りをやらかしたことが原因で、事情聴取やら手続きやらが山積みになってしまった。

 

本来コロニーに帰るのが通常運航可能になってすぐという話だったのに、たっぷりと1か月近くかかることとなった。

 

 

 

 

 

 

地球連邦軍

 

 

 

「…以上が今回の件の顛末です」

 

呆れかえったかのような口調での報告を受けたジャミトフだったが、天を仰ぎたくなる気持ちを必死に抑えて指示を飛ばした。

 

「報告ご苦労、下がってよい」

 

 

報告に来た士官が退出し、側近と二人になったところでジャミトフはため息とともにつぶやいた。

 

 

「完全に終わったな、もうここまで来てはどうにもならん」

 

「夢破れたりですか」

 

冷静さを崩さない側近を見やりつつ、すべてをあきらめた口調で話は続いた。

 

「今回の件で連邦内部のタカ派は一掃できたが、著しく連邦の権威は落ちた。ジオンからの報復戦争を受けぬように謝罪と賠償を行い、早急に講和条約を結ぶ方向になるだろう。 例の箱ももう開放するとの情報が入ったし、ジオンも資源衛星と連携して国力を高めつつ、公国制からの移行を検討しているらしいとの情報も入った」

 

「地球連邦は宇宙をあきらめるということですかな」

 

饒舌になったジャミトフは側近の言葉にうなずくと、さらに続けた。

 

 

「世論を敵に回した時点で連邦は現状維持で手一杯だ。 地球だけの政府として、宇宙の政府と共存していくほかはない」

 

「そして閣下もご引退ということですか?」

 

「あんな部下を抱えていた以上、ただではすまん。 こうなったら逃げるが勝ちだ。 幸か不幸か地上には海岸掃除の仕事が山ほどあるようでな。 シロッコよ、貴公はどうする?」

 

 

悟りきった表情のジャミトフを見て、側近 パプティマス=シロッコは静かに語った。

 

「私もこの地球圏に居場所はなさそうですな。いっそ恒星間旅行にでも行くとしますかな」

 

それだけ告げると側近は静かに敬礼をして執務室を後にした。

 

 

 

 

(世の中とは一握りの私のような天才が動かすもの。それがわからぬ愚者がああした暴走をするからこうなる。だが…)

 

廊下を歩きつつ携帯端末を取り出したシロッコは、ここしばらく何度となく見ている動画を改めて再生した。

 

(時代は私のような天才を必要としなかったということ。 今の世を動かすのはこのような天才ということか)

 

動画の中で熱唱している人物を見つめつつ、小さくつぶやいた。

 

 

「ニュータイプで、しかも女の天才が自覚なく動かした世界。 すばらしい歴史の転換点に立ち会えたものだ」

 

 

スモークと共に強制的に打ち切られた動画を見て、せめて旅立つ前にこの曲を最後まで聴いてみたいと改めて考えていた。

 

それだけがシロッコの地球圏最後の心残りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド7 グリーンノア 宇宙港

 

 

 

「じゃあ、元気でな」

 

「はい、色々とありがとうございました」

 

 

宇宙港にて、帰ることができて嬉しいという空気を隠すことなく、艦を降りていくフィーナの後ろ姿を見て、エグザベはふと思いを馳せた。

 

 

「一人のニュータイプはすべてを捨てて地球で、もう一人はすべてを抱えて宇宙で、どっちもより一回り強くなり新しい道を歩いていく、か…  それができるやつがニュータイプ。 いや」

 

ややあって、エグザベは首を横に振った。

 

宇宙に上がった後にすぐ、連邦政府とアナハイムとピスト財団の合同記者会見が行われたとの速報が入っていたからだった。

 

「ラプラスの箱が開かれた今、もうそれに縛られることもないか」

 

 

ラプラスの箱、宇宙世紀憲章を記した石碑のオリジナル。

 

そこに刻まれたレプリカにない、「未来」という条文の一つ

 

 

「将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者達を優先的に政治運営に参画させることとする」

 

 

 

それが明らかになったものの、ジオンが連邦から独立している今となっては連邦とアナハイムのスキャンダル以上の意味はほぼない。

 

多少の混乱は避けられないにしても、ジオンも地球もあとはもう何かに縛られることなく進んでいくしかない。

 

 

「俺もジオンもそして世界も変わっていく。その中で何ができるか、何をやるか改めて考えていくとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、一応都度都度ジオンの方から連絡は入れてもらってたみたいだけど、叔父さんもカミュさんも心配してるだろうなぁ…」

 

マチュさんから餞別がわりにと譲ってもらったギターを背負い、少し軽くなった体と久しぶりのコロニーの空気を感じつつ、そんなことをつぶやきながらゲートから出たとたん大声で名前を呼ばれた。

 

「フィーナァァァァ!!!」

 

 

宇宙港中に響いたかと思われるその叫びに、私を含めて周囲が何事かと驚く中、その声の主が猛ダッシュで私に抱きついてきた。

 

 

「カ、カミュさん!?」

 

突然のことに戸惑う間もなく、カミュさんは泣きじゃくりながら怒涛のようにまくし立ててきた。

 

 

「フィーナだよね!?  生きてるよね!? こ、この馬鹿!!  地球に落っこちて行方不明になったって聞いて、頭ン中真っ白になって、生きてるって聞いた後も全然連絡取れないし、帰ってくるって聞いたのに全然帰ってこないし…」

 

「ご、ごめんなさい。 心配かけたうえ、色々あって帰るのが遅くなって全然連絡もできなくて」

 

「ほ、ホントに、生きた心地しなかったんだから。 ホントに無事なのかとか、もう帰ってこないんじゃないかとか」

 

泣きじゃくるカミュさんを宥めつつも、帰りを心配して、喜んで迎えてくれる人がいることのありがたみを心底感じていた。

 

 

「はいはい、無事に帰ってきましたよ。 カミュさんにはどうしても伝えたいものがありますから」

 

「えっ? 何? 何? ちょっ、ちょっと待って、心の準備…」

 

なぜか真っ赤になったカミュさんの手を握り、全力の笑みで伝えた。

 

 

 

「できたんです!! ずっと未完成だった曲が!! それでどうしても一番にカミュさんに聞いてもらいたくて!!」

 

 

その言葉になぜかカミュさんはガクッと気が抜けたような感じになったが、すぐに持ち直した。

 

 

「えぇい、紛らわしい態度取りおって!!  あんたはいっつも私のリズムを狂わせるんだから。 よーしわかった、全神経を集中して聴いてやる。 納得いかなかったら承知しないからね!!」

 

 

そんなカミュさんに私は自信満々に告げた。

 

「こっちだって1か月間特にやることない中、自分でも満足いくよう全力で作った曲です。 キラキラから戻ってこれなくなっても知りませんよ」

 

 

この曲を作ってキラキラの世界にトリップしている最中、何度か頭に浮かんだ光景があった。

 

カミュさんだけじゃない、叔父さんやカンナさん。 マチュさんやニャアンさん、エグザベさんやジオンの人、それ以上にもっと多くの人が、動画やライブ会場で私の歌を聴いてくれている光景。

 

所詮はただの妄想だと思うが、それぐらいの自信作である。

 

 

 

 

「じょ、上等!!  推しの全力曲、こっちも全力で堪能してやる!!」

 

そんな私たちを、叔父さんはじめ、シホさんにメグさん、カンナさんが微笑ましく見てくれていた。

 

納得のいく歌ができたこともそうだが、私はそれが一番うれしかった。

 

 

 

帰りを心配して待っていてくれる人がいる。

 

無事だったことを泣いて喜んでくれる人がいる。

 

ここに私の一番のファンがいる。

 

 

あの日、この宇宙港で声をかけなかったら、この人も私もここにいなかった。

 

進んで行った先で躓いても、地球に真っ逆さまに降りたとしても、宇宙の彼方まで飛び出してもきっとこの人は私を推してくれる。

 

それが理解できた今、怖いものはなかった。

 

 

(ああ、私の世界は絶対に壊れないんだなぁ。だったら…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうどうなってもいいや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙世紀0088

 

 

 

地球連邦政府及びジオン公国は一連の事件に関しての正式な謝罪を発表。

 

連邦、ジオンの間で講和条約が締結された。

 

 

そして同年、サイド3にて一人の女性シンガーソングライターがデビューした。

 

 

だがそれら全ては、長く続く宇宙世紀という歴史の中では、教科書の一文で事足りた出来事。

 

所詮、星屑の様な出来事である。

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