機動戦士ガンダム 0087 Stardust melody 作:k-suke
サイド7 コロニー グリーンノア1
裏路地
「はぁ、はぁ、くそったれ… こんなことになっちまって、これからどうすんだよ俺…」
コロニーの裏路地に身をやつす日々を過ごしてはや数日。
先のコロニー内での騒動に紛れて脱走して以来、ジェリドは日々薄汚れていく中で自問自答を繰り返していた。
「しかし本当にどうする? 連邦に連絡を取る術はないし、コロニーを脱出するにもMSも何もなしじゃ…」
まだ軍警に残っていれば、連邦と話がつく可能性もあったかもしれない。
もしかしなくても普通に解放されたかもと、今更ながら脱走したことを後悔していた。
軍警の捜査に怯え、誰かが近づくごとに寿命が縮むような思いをしつつも、なんとかして連邦と連絡をつける方法はないかと必死にジェリドは考えを巡らせていた。
「スターダストを奪回する? いや軍警に戻ったらそれこそアウトだ。 そうだどっかでスマホを奪って… いやそれも通報されちまう。 くそ、こんなとこで終わってたまるか、俺は、俺は…」
サイド7 コロニー グリーンノア1
ハイスクール
シホとメグはどうも最近カミュの様子がなんか変だと感じていた。
三人で入学以来ずっとつるんでいたものの、何かちょっとズレが出てき始めたような気がしていた。
「ねぇカミュ、次教室移動だから早く行こ…」
いつもつるんでいるもの同士、休み時間の終わりにいつもの調子で声をかけたものの、隣の地味な黒髪メガネと一緒に何かに没頭しているようだった。
「ねぇ、ちょっとどうしたのよ…」
流石に奇妙に思い再び声をかけた瞬間、二人揃って息継ぎでもするかのように「ハウァッ!!」と奇声をあげた。
「はぁ、はぁ… あ、危なかった… 帰って来れた…」
「こ、この曲良すぎ… もうちょっとであっちの世界に行きっぱなしになるとこだった…」
別にヤバいものでもキメている訳ではなく、ただ音楽を聴いているだけということはわかるが、この二人こんなに仲が良かったかと気になって仕方がなかった。
新しく出たアルバムをカミュさんと聴いてみたのだが、想像以上に良かった。
一人で楽しんでいた時もあれはあれで良かったのだが、こうして分かり合える人と一緒に聴くというのが、なんとも言いようのない物凄いキラキラになっている。
それを含めて、最近何だかトリップしやすくなっている自分が怖いことがあるぐらいである。
どうにか現実に戻ってきたところで、カミュさんの友人達が話しかけてきていた。
「ねぇ、その音楽そんなにいいの?」
「一体何聴いてんのよ?」
その素朴な疑問に、カミュさんは待ってましたとばかりに熱い熱いトークを早口で行い始めた。
その熱量と内容にやっぱりわかっている人だと改めて嬉しくなったものだが、その内容と反比例するかのようにシホさんとメグさんの視線は冷めていくのが私にもはっきりとわかり、その視線に気づいたかカミュさんの表情もだんだんと強張り始めていった。
「そうなんです!! すごくいい曲です!! 違う世界に行けるというか、どーんと飛び出して行きたい時とかに聴く曲です!!」
自分の好きな曲が冷めた目で見られる、何よりカミュさんが冷めた目で見られるのが我慢ならず思わず自分の感想を熱く語ってしまった。
「ふっ、何それ」
「フィーナさんってどっか飛んで行きたい人なの?」
とりあえず空気は明るくなったが、あまり経験のない私はどう会話していいものやらあたふたしてしまった。
完全密閉状態のコロニー内では、税金がかかるほど空気とは貴重な存在である。
そのため大気汚染防止と酸素量の維持もあって、ごみを焼却処分するなどといったことができないため、収集したものを一括で廃棄コロニーへと運んでいくことになる。
それすなわち、必ずそういった業者はコロニーから外に出るということでもある。
「よし、だいぶ溜まったことだしボツボツいくとするか」
作業用小型MSいわゆるプチモビに乗って廃棄物を運搬用宇宙艇に詰め込んでいたある個人業者がここにもいた。
満杯に詰め込んだ廃棄物を見て、一仕事終えたというようにプチモビから降りて宇宙艇に乗り換えたその男は気が付かなかった。
降りたはずの無人のプチモビが再び動き出し、発進した宇宙艇にこっそりと侵入していたことに。
「くそ、なんでこのエリートの俺がスペースノイドなんぞのゴミにしがみ付かなきゃ… 今に見ておけよ、宇宙の反逆者ども」
心底悔しそうに歯軋りしながら、プチモビ強奪犯は人知れず宇宙に出ることに成功した。
サイド7 コロニー グリーンノア1
ハイスクール
「えっ、ライブのチケット当たった!? しかも2枚!?」
「はい、ホントです。私も一瞬信じられませんでした。 おまけにほらこの番号」
「嘘… 最前列…」
カミュさんが驚くのもわかるほど、最近は本当に良いことづくめだった。
こないだのコロニー襲撃事件で活躍したとかで金一封までもらえたし、応募していたライブチケットは最前線が2枚も当たるしである。
私も嬉しかったが、誘ったカミュさんも相当なもののようだった。
「ねぇねぇ、ほんとに私行っていいの? 他に行く人いないの?」
「あ、はい。どうせ叔父さんぐらいしかいないから…」
言ってて少し悲しくなったが、すぐ隣でも半分引くぐらい喜んでいるカミュさんを見て、すぐにその感情は消し飛んだ。
「じゃ行こうね、これ絶対だよ!!」
「はい!! 私もバイトのシフト調整してもらってますから!!」
しばし二人して喜びに浸っていると、次の授業が体育だと思い出した。
「あ、いけない、すぐに着替えないと…」
だが、正気に戻った時には既に教室はがらんとしていた。
「もう、シホもメグも先行くなら声かけてよね」
いつも一緒だった友達のことをぶつくさ言いながら更衣室に向かっていくカミュさんを見て、私は改めてなんとなく最近感じていることが当たっている気がした。
(私、カミュさんから大切なものを奪いたいわけじゃない…)
「ねえシホ。いいのカミュのことほっといて…」
「いいんじゃない。最近アイツなんかズレてきてるし、フィーナさんといる時の方が楽しそうだし。趣味が合う奴の方が数年来の友達より大事なんじゃない」
「でも、ちょっと試しに聴いてみたけどあの二人の聴いてる曲結構いい曲だったよ…」
カミュを置いて更衣室で先に着替えていたシホとメグは、最近のカミュについて話していた。
別に喧嘩をしたわけじゃない。
元々微妙に趣味の合わない部分はお互いあった。
それでも皆派手好きで気が合う部分はあり、ずっとやっていけると思っていた。
ただ、二人とも特にシホはなんとなく疎外感を感じ始めていた。
数日後 ライブ当日
カミュは待ち合わせ場所に30分以上前に到着しており、何度も何度も手鏡を確認して変な部分がないか繰り返し確認していた。
「えっと、髪型ずれてない。化粧も大丈夫、ピアスも磨いてあると。 よし、美人美人って、だからこれから会うのは女!! ライブ行くだけ!!」
そして同じような自問自答を繰り返していたが、服はめちゃくちゃ気合いが入っており、完全にデートに行く女性のそれであった。
「ま、まぁちょっと特別な相手… 推しだけど。 これは友情、大体フィーナってば普段はあんな地味で…」
そう言えばと、ふとカミュは思い当たった。
(なんで学校じゃあんな地味な格好してるんだろう? 別に店にいるような格好でもいいのに? フィーナってばわかんない…)
するとカミュの目の前に誰かが訪れた。
「あっ、待ってた… よ…」
「そう、待たせてごめん」
そこにいたのは想像していなかった人物だった。
「なん…で… シホが…? フィーナ… は?」
「これ、昨日フィーナさんにもらった、というかバイトだからって押し付けられたんだけど。 あんた聞いてないの?」
ヒラヒラとチケットを見せてきたシホを見て、カミュは完全にフィーナという人間がわからなくなっていた。
軍警
「まぁ、酸素欠乏症の兆候はない様ですし、温かいものでも飲んで落ち着いてください。話はそれからです」
ノーマルスーツを着てガタガタと震えている男性に対して、婦警がやさしく対応していた。
「はぁ助かりました。強盗に襲われて漂流してたった二日ほどでしたが、酸素もだんだんなくなっていくし、もう駄目だと本気で思ってましたよ… 見つけてくれたあのガンダムには本気で感謝してます」
差し出された温かいスープを流し込み、ようやく一息ついて自分が生きていると再確認したか、男性は事情を話し始めた。
「いえ、私はしがない個人の廃品回収業者ですがね。 いつものように回収した廃棄物を宇宙艇に詰め込んでコロニーから出発したんですよ。 それでしばらくしたら突然後ろから動くなって締め上げられたんです。 で、そのまま宇宙艇をジャックされて外にたたき出されたんです。救助ビーコンも持ってなかったし、絶望しかなかったですよ」
改めてその時の状況を思い出したか、カタカタと震えだした男性に、そっとそれを抑えるようにしながら婦警はさらに質問を続けた。
「えっと、その強盗ですがどんなだったかわかりますか? あ、簡単な特徴だけでもけっこうです」
「ええ、ノーマルスーツも来てなかったしよく覚えてますよ。 金髪でリーゼントの若い男でした。20代前半ってとこでしょうか。 服もなんだかサイズがあってなかったみたいですし、目つきも悪いいかにも犯罪者って男でしたよ」
憎々しげに語った男同様、この取り調べの様子を別室で聞いていた軍警たちもこの犯人に心当たりがあり憎々しげな表情を浮かべていた。
「こないだのどさくさ紛れに脱走したジェリドとかいうやつだな」
「ええ、特徴からしてもまちがいなさそうですね。 ここまでやるとは連邦軍も質が落ちたもんですね」
「まぁなんにせよこれで完全な強盗として国際手配できる。 各コロニーに情報を回しておけ」
「はっ!!」
その命令の元バタバタと各自が業務に動く中、誰かがポツリとこぼした。
「でもあのガンダムのバイトの子、よくあの漂流者に気が付いたよな。 MAVは全然気が付かなかったんだろ」
「ああ、最近きな臭いからって本職の奴と一緒にやってたんだけどな。 レーダーに反応もなくてそいつは言われてもしばらくわからなかったそうだ」
「あのスターダストガンダム? そんなにセンサーの性能よかったでしたっけ?」
「さぁ、あの子が特別なのかねぇ。やっぱニュータイプってほんとにいるのかね」
急遽入れたバイトを終えて帰り道をトボトボと歩きながら大きくため息をついた。
「はぁ、ライブ行きたかったなぁ…」
カミュさんも相当楽しみにしていたようだったが、私もずっと楽しみにしていたライブだっただけに残念だった。
でも今回ばかりは仕方がないと思っていた。
「今頃仲直りして一緒に帰ってる頃か… これでよかったんだよね…」
確かに友達ができたことは嬉しかったが、人間関係まで壊したり友達を奪いたいわけじゃない。
不器用な私に思い付いたのはこれぐらいだった。
さっきのバイトのことを思い出しても、本職のパイロットの人とMAVを組んでも変なことが気になってしまい、調子を合わすことができずなんか上手くいかなかった。
まぁ、それでも人命が一つ助かったのだからそれはよしとしよう。
でもやっぱり私は一人で音楽を聴いているのがふさわしいんだと思う。
誰かと分かり合おうとするなんて、分不相応なんだと改めて思い、両耳から聞こえるせめてものキラキラの音量を上げた。
そうしてあっちの世界に入っていこうとしたが、なぜか今ひとつノリきれなかった。
ならばとばかりに音量を最大に上げてみたが、何かノイズのようなものが引っかかっていた。
(なんで? こんな時に限って!?)
もう家に帰って思いっきり大声で歌うぐらいしかないと、何かを振り切るように全力で駆け出した。
息を切らしてようやく家に辿り着き、早くあっちの世界に行きたいと扉に手をかけた時、両耳のキラキラをぶち破って怒声が響いた。
「フィーナ=ビーダルゥゥゥ!!!」
驚いて振り返った先にはスマホ片手に同じように息急き切ったカミュさんがいて、同時に私のスマホに山のような着信が入っていたことにようやく気がついた。
音楽ショップ OLD CENTURY
フィーナ自室
今回こそ我慢の限界を超えてしまい、徹底的に言ってやるとばかりに突撃してきたカミュであったが、時間も遅いからと通されたフィーナの自室ですっかり縮こまってしまっていた。
「あ、あの突然なんなんでしょう…」
さっきの勢いは何処へやら急に大人しくなってしまったカミュさんに対して、おずおずと私は尋ねた。
「う、うるさい!! 私服のあんたが私物だらけの部屋にいて、つまり今推しの部屋に二人きりで… 違う!! あんた一体どういうつもりよ!!」
何を言いたいのかはっきりとわからなかったが、一つ確実にわかることがあった。
「あの… やっぱり怒って…」
「当然!! っていうか連絡なしでデー… じゃない、ドタキャンされたら誰でも怒るでしょ普通!!」
それはそうだと自分でも思いつつ、ボソボソぶつぶつと言い訳じみた言葉が口から出た。
「だ、だって… なんか私のせいで友達と雰囲気悪くなっちゃったみたいで… そういう経験全然ないから… どうしていいかわかんなくて… まぁこれできっかけになるのかなぁなんて… そうでなくても… その… そもそも…」
カミュさんが横でイライラし出しているのはわかったが、自分でも止まらなくなっていた。
「私に付き合ってもらってるのになんだか申し訳…」
そこまで言った時に、カミュさんの手元に水滴が落ち始めたのに気がついた。
「何それ… そんなふうに思ってたの… そりゃ、変な形で知り合ったし、まだそんなに仲良くないかもだけど… 私… あんたと一緒に… だって、友達でしょ!!」
嗚咽混じりの言葉に、さすがの私もカミュさんの気持ちがわかった。
「ごめん、カミュさんが友達なんてまだはっきり実感なくて… だから、泣かないで… ね」
ハンカチが見当たらなかったので、やむなく着ていたブラウスの袖口でカミュさんの涙を拭ったのだが、次の瞬間カミュさんは真っ赤になって怒鳴ってきた。
「キッサマ―!! 推しの分際で妙なキラキラ背負って、不意打ちイケメンムーブをかましおって!! いいか!! 「おにーさん」だったかもしれないが、実際あんたは女だし、私も女だ!! 忘れるな、私たちは友達だ!!」
一体何を言っているのかさっぱりわからなかったが、とりあえず仲直りはできたんだと思う。
ちなみにもう遅いし泊まっていったらと誘ったら、さらに真っ赤になって私をどんな世界に連れていく気だ、一体何を奪う気だと、叫び散らかしてカミュさんは帰って行った。
一体何を言っているのかまるで見当もつかなかったので叔父さんに尋ねてみたら、なんとも言えない表情で優しく肩を叩かれた。
一方、結局ライブ会場に入らなかったシホは、会場前で一人音楽をダウンロードして聴いていた。
(全く、フィーナさんってば、何が私のせいでカミュと仲悪くなるのが嫌よ。 自分が嫌われ者になればいいなんて…)
突然チケットを渡された時のことを思い出し、別にカミュもフィーナも悪くないということを反省していた。
(全く、それでもはっきり言わないフィーナさんが悪い!! 新しい友達出来たからってわたしたちに紹介しないカミュも悪い!! せめて喧嘩してしっかり仲直りしな!!)
ムカムカしながら、以前二人が聴いていたという曲を聴いていたのだが、それがまたいい曲で心奪われそうになったことで余計にムカムカしていた。
「あーもー!! 何もかもが腹立つ!! せめてこの曲思いっきり聴いてやる!!」
だが、不思議と悪い気分ではなかった。
自宅に帰り着いたカミュだったが、自室で奇行を続けており、母や弟が心配していた。
「何があったの? カミュったら友達とライブ行ったんじゃなかったの?」
「わかんない。 私はノーマルだってブツブツ言ってて、時々真っ赤になったかと思うと壁に頭ぶつけてる」