機動戦士ガンダム 0087 Stardust melody   作:k-suke

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第9話 賽は投げられた

 

ジオン軍 極東駐屯地

 

 

「ふう、電波障害もやっと一段落つきそうだし、宇宙に上がるのもなんとかなりそうだ。 こういうのはやっぱり直接連絡を取らせてあげたほうがいいだろう」

 

 

先日のコロニーパーツの落下事件の影響による地球全土の電波障害と成層圏を漂うスペースデブリの影響もほぼほぼ目処が立った。

 

そのため短時間だが、軍設備使用の手続きをすればコロニーに連絡を入れられる状態になっていた。

 

 

それを聞いたエグザベはフィーナにそれを伝えようと、民間人用住込寮を訪ねていた。

 

 

「えっと、この部屋か。喜んでくれるといいが… ん?」

 

フィーナがいる部屋の前に来たエグザベだが、妙に隣の部屋が騒がしいことに気が付いた。

 

 

「おい!! どうした?」

 

少し開いた扉から漏れてくるどこか悲鳴じみた声に驚き、ノックもなしに部屋に飛び込んだ瞬間、目の前の光景に絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪ 真っ逆さまに… 重力midnight 逃避行… 余すことなく人生謳歌…」

 

 

「イエーイ!! いいぞいいぞ、すっごいカッコいい!!」

 

テーブルの上でギターを弾いて熱唱しているフィーナと、完全にノリノリで大騒ぎしているマチュ、静かながらもマラカスを曲に合わせて鳴らして満面の笑みでリズムをとっているニャアン。

 

微妙に薄暗い部屋の中、天井にはミラーボールが煌めくなど、寮の一室は完全にライブステージのそれになっていた。

 

 

常識外れの光景に唖然となったエグザベだが、気を取り直して叫んだ。

 

「何をやってんだ!! 何を!!」

 

 

 

 

 

 

 

ニャアンさんとマチュさんの部屋にギターがあったことに気がついた私は、軽く弾かせてもらった。

 

私としては軽いつもりだったのだが、禁断症状が出かかっていたためか結構ガッツリ弾いてしまった様だった。

 

そしたらマチュさんがノリノリになって来て、久しぶりのキラキラに乗せられたこともあり、つい思いっきりやってしまった。

 

こっちも音楽に飢えていたこともあったが、周りに人も住んでいる寮で流石に騒ぎすぎたと反省している。

 

 

 

「全く、突拍子もないことをやるのは相変わらずだなお前達は。 一体何を考えてるんだ」

 

マチュさんとニャアンさんを見てため息をついたエグザベさんだったが、この二人は堪えた様子がなかった。

 

 

「だって、すっごい上手くてカッコよかったし」

 

「それにあのギター使ってもらえるならその方がいい。 マチュが弾けもしないのにノリで買った最大の無駄遣いだから」

 

「ビックリするほど何も考えてないな…」

 

 

 

そんな三人を見て知り合いだったのかと思い静かに手を挙げた。

 

 

「あのエグザベさん、お知り合いみたいですし邪魔なら出て行きますけど」

 

「あ、いや、用があるのはフィーナ=ビーダル、君だ」

 

キョトンとして自分を指差した私に、エグザベさんが笑顔で続けた。

 

 

「なんとかコロニーと一時的にだが通信ができる様になってな、短時間だが君も連絡をとっていい。 それを伝えにきた」

 

 

その言葉に私は目を見開いた。

 

「ほ、本当ですか?」

 

「ああ、ただ軍の設備を使うから俺も同席することになるし、家族とだけ、軍警経由でだけどな」

 

それで十分だとばかりに私は頬が緩んだ。

 

そんな私を見てマチュさんが静かに尋ねてきた。

 

 

「…家族と連絡取れるのそんなに嬉しい?」

 

「はい。 叔父はたった一人の身内ですし、独立戦争の時からずっとお世話になってる人ですから」

 

 

私としてはごくごく普通の回答をしたつもりだったのだが、マチュさんの表情が曇った。

 

「なんか… あんた普通なんだね…」

 

「? え、あ…」

 

 

なぜか空気が重くなったことで、マチュさんの家族に関することがなんとなくわかってしまった私は何か声をかけようとしたが、言葉が出てこなかった。

 

 

「あ… ちょっと手続きが必要なんだ。 フィーナ、一緒に来てくれるかな」

 

空気を変えようとしたのであろうエグザベさんに私は心底感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、マチュさんってやっぱり身内が…」

 

エグザベさんに連れられて手続きに向かう中、どうしても気になってしまったことを口にした。

 

 

「まぁ… な。 うん、彼女も色々あったんだよ」

 

プライベートな事でかなりややこしそうな事だとはわかったので、それについては深く聞かなったが他に気になることがあった。

 

 

「あの、ニャアンさんやマチュさんが言ってましたけど、本物ってなんですか?」

 

 

その質問にエグザベさんはもっと困った様な顔をして、頭をクシャクシャと掻いた。

 

 

「えーっと、な…  ニュータイプって知ってるか」

 

「はぁ、噂ぐらいは… バイト先で結構聞きますけど」

 

独立戦争の時にガンダムに乗ってたジオンのエースの人がそう呼ばれてたぐらいのことはなんとなく知ってる。

 

そしてそれにあやかったMS乗りへの褒め言葉

 

私にすればその程度だ。

 

 

「まぁ、世の中自称他称含めニュータイプってやつもいる。 かくいう俺もそれっぽいと言われたことはある。 だけどな、あの二人は間違いなく本物、人の革新だって言われてる」

 

「え… じゃあ本物って…」

 

戸惑っている私に、コクリと首が縦に振られた。

 

 

 

「いやいや、私そんなのないですって。ちょっと人よりMS乗るのがうまいってだけですよ。 まさかガンダム乗ってるからだって言うんですか」

 

私みたいなのがそんな大層なもののはずがない。

 

あまりにも冗談が過ぎると笑い飛ばした。

 

 

「本音を言えば君にもきちんと検査を受けて欲しい。 さっきも言ったがニュータイプは人の革新、新しい時代を切り拓いていけるはずだから」

 

だが真剣な顔を見て、冗談ではないとなんとなくわかった。

 

 

 

でも、それを聞いて私は疑問が湧いた。

 

「ニュータイプって人の革新なんですか?」

 

「?ああ」

 

「新しい時代を切り拓くと?」

 

「ああ、そう言われている」

 

 

その答えに私は悲しくなった。

 

「そんなの酷いですよ… ニュータイプでなくても一生懸命頑張って生きてる人たちもいるのに… それが無駄だって言ってるみたいじゃないですか」

 

カミュさんもその友達のシホさんもメグさんもよっぽど私より先のことを考えて生きている。それを認めない、無駄だと言われている様な気分になってしまった。

 

 

「う… それは…」

 

図星をつかれた様な表情になったエグザベさんはそれ以上何も言ってこなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

兎にも角にも通信室に連れてこられた私は、手続きと言っていくつかの誓約書類にサインさせられた。

 

「すまないな。軍設備を民間用に使うとなると手続きが面倒でな」

 

「いえ、軍警でのバイトの時も色々書類書かされましたし」

 

当然書類の中身はきちんと熟読し、変なものはないと確認した上でのことだった。

 

 

「よし、もうすぐ準備もできる。 時間は5分、俺も立ち合うし変なことを言わない様に気を付けてくれ」

 

 

まぁ当然だと思いつつ、目の前のモニターが繋がるのを待っていたら、多少ノイズが走りつつも通信が繋がり叔父さんの顔が映った。

 

 

「あ、叔父さ…」

 

久しぶりに見た叔父さんの顔にホッとしたのも束の間

 

 

『フィーナァァァァ!!!!』

 

叔父さんの嗚咽混じりの叫びが一面に響いた。

 

 

「お、叔父さん、ちょっと落ち着いて…」

 

『フィーナ!! フィーナ!! 本物だな!? 無事なんだな!?』

 

「う、うん、大丈夫。元気だよ」

 

必死に呼び掛けてくる叔父さんに無事を知らせていると、私の顔を見て止まらなくなったのか、叔父さんはさらに号泣し始めた。

 

 

『うぉおおおお!! よかった!! よかったよぉおおお!!』

 

話してるこっちが恥ずかしくなってきたが、目の下にクマがあり少しやつれたような叔父さんの顔に気がつくと申し訳ない気持ちの方が大きくなってきた。

 

 

 

「心配かけてごめん。まだしばらく帰れそうもないけど、元気にしてるから」

 

『そうか、そうか。無事なら何よりだった。 地球に落ちて行方不明って聞いた時は俺もそうだがカミュちゃんなんか血の気が引いてぶっ倒れたんだぞ』

 

「あ〜… それについては、とりあえず謝っといて。帰ってからしっかり謝るから」

 

多少は落ち着いたのか、叔父さんの話した近況報告 特にカミュさんの状況に心底申し訳ない気持ちがあったものの、今どうすることも出来ないのでそう頼むしかなかった。

 

『うんうんわかったわかった。 カミュちゃんやカンナにはきちんと俺から伝えておく、早く帰って来いよ』

 

「うん。心配しないでって伝えておいて。 叔父さんもカンナさんにあんまり心配かけちゃダメだよ。 私のスカウトだけが目的じゃないってわかってるでしょ」

 

「余計なお世話だ。 お前がそんなこと言うか?」

 

 

時間が来たこともあり、簡単な会話をしただけに終わったが、とりあえず心配事は無くなったことと、やはり帰れる場所や待ってる人達がいてくれるとはいい物だと改めて感じてホッとした。

 

 

 

「エグザベさん。ありがとうございました」

 

「気にするな、これも仕事だ。 後は帰る目処が着くまで静かに過ごしててくれればいい。静かにな」

 

定例的な挨拶をかわしたものの、さっきのこともあって当然の如くしっかりと念は押された。

 

 

まぁ結果的には静かに過ごすとはいかなくなったのだが。

 

 

 

 

 

 

地球連邦軍

 

 

 

「何? 脱走?」

 

「はい。ご存知の通り現在勾留中だったのですが、昨夜何者かの手引きによって脱走をしたと。 タカ派だったこともあり良かれ悪しかれ軍内にはシンパがおりますので」

 

 

報告を受けたジャミトフはこめかみを押さえたが、すぐに引き締まった表情で指示を出した。

 

「すぐに反逆者として手配をかけろ。 これ以上余計な事をされれば立場が完全になくなる」

 

 

指示を受けた兵もわかっていたかの様に了承すると、敬礼と共に執務室を出て行った。

 

 

「…発言力を高めるための毒だったが、これ以上は周りや組織すら腐らせる。限界だな」

 

 

静かにごちたジャミトフを彼の側近は冷めた目で見やると、携帯端末を取り出しながら退出した。

 

(フン…どうやら、限界なのはこっちも同じだな。 さて、一つだけ心残りはあるが、どうしたものか…)

 

 

 

 

 

 

一方 当の脱走した男 バスクはゴーグルの下で血走った目をして車を運転していた。

 

「証拠… そうだ証拠さえなくなってしまえば、なんの問題もない… スペースノイドなど何人消してもなんの問題もない愚かな生き物だ… それを邪魔するものは全て…」

 

実際、その車内には彼を止めようとしたのか何人かの連邦兵も同乗していたが、皆物言わぬ存在と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド3 ジオン公国 ズムシティ

 

 

 

「さて、軍事法廷での言い訳の前に一応話は聞いておいてやろう。 連邦と通じてコロニーパーツを地球へ落下させて戦争を始めよう再開しようとした理由はなんだ」

 

元灰色の幽霊ことレーツェル=バールト中佐及びラシット艦長率いる強襲揚陸艦ソドンにあっさりと確保された連邦のサラミス。

 

その小物じみた連邦軍の艦長が手のひらを返したように口にした陰謀で、これまたあっけなく拘束に成功したジオン内部の反乱分子。

 

拘束されているそこそこの数のジオン兵を前にマ=クベが冷たい目で見降ろしながら告げた。

 

だがそんな目に気づいていないのか、拘束された兵のリーダー格の男が必死に訴えるように叫んだ。

 

「マ=クベ中将、キシリア様の右腕だったあなたならわかるはずだ!! 連邦との戦争はまだ終わっていないんだぞ。 それなのにあの連邦兵がトップになって以降、ジオンはどんどんと腑抜けになっているじゃないか」

 

それを聞いたマ=クベはうんうんというように頷いた。

 

「うむ、確かに連邦とは休戦状態なだけだ。 キシリア様もイオマグヌッソ事変で本当は何をなされようとしていたかはよく知っているよ」

 

「だったら!!」

 

その言葉に希望が見えたか、男はさらに続けた。

 

「アクシズからミネバ様が来られている今、あの方にトップに立っていただき、真なるジオンの勝利を勝ち取るんだ!! MSの改良や刷新も独立戦争時からろくにできていないのに戦力差の自覚もない連邦相手に、今のジオンなら完全に叩き潰せる!!」

 

ゼイゼイと息切れするほどにまくし立てた男とは対照的にマ=クベは静かに返した。

 

「で、ミネバ様をトップにしつつ事実上の実権はすべてお前が握ろうという腹か。 連邦のタカ派を巻き込んでまで、まぁ随分と小物臭いクーデターだな」

 

うっと言葉に詰まる男をよそにマ=クベはさらに続けた。

 

 

「考えればわかる。わずか7歳の子供に誰が何の指導力を期待している?  貴様が権力を握りたいだけなのは明白だ。 そもそもジオンをはじめスペースノイドはすでに連邦から事実上独立できている。 地球の荒廃もあって賠償金など期待できまいに、これ以上何を連邦に期待できる?」

 

 

「だ、だが… 我々は… そ、それに、中将だって今のトップには不満があるはずだろ!! だからあの連邦兵と対立しているんじゃ…」

 

必死に反論を続けるも、マ=クベはため息を漏らすだけだった。

 

 

「まぁ、不満はあるがアルテイシア様を排除する気は全くないね。 今あの方にいなくなられたら、それこそジオンは終わる。 多少なりとも学のある人間ならわかりそうなものだがね」

 

その皮肉めいた言葉に拘束されているジオン兵はみな絶句した。

 

「な、何故だ!? あなたはキシリア様に心酔されていたはず、それにいつもあの連邦兵とぶつかっているじゃないか!!」

 

まったくわけがわからないというような言葉を絞り出した兵たちに、もうかける言葉もないと判断したマ=クベは引き連れていた部下たちに静かに指示だけを出した。

 

 

連行されていく兵達を冷めた目で見ながら、マ=クベはつぶやいた。

 

「グレミー=トト、私はザビ家はもちろんキシリア様に忠誠を誓っていたのではないよ。  ジオンをまとめるのに当たって、ギレン閣下よりは人心が理解できる方だと思って仕えていただけだ。  アルテイシア様に逐一苦言を呈しているのもしっかりとしてもらわないとジオンのためにも困るからだ。 そんなこともわからん奴に政治は無理だな」

 

ただ、今回の件で連邦の宇宙への影響はさらに排除できるだろうし、ジオンの膿出しも少しは進むだろうとマ=クベは考えていた。

 

アルテイシア一人にいつまでも負担をかけ続けるのはやはり無理があるため、アクシズと連携しつつボツボツ議会制せめて合議制に政治システムを移行することを進言してみるかとも。

 

 

 

 

 

 

 

ジオン軍 極東駐屯地

 

 

 

 

(なんで私こんなことやってんのかなぁ…)

 

 

スターダストガンダムの掌の上に乗り、ため息をつきながらギターの調整をやっている私の目の前にはジオンの軍人さんや駐屯地で働いている人達がひしめき合っていた。

 

 

なんでもマチュさん達の部屋で演奏していたのが、やっぱり隣近所に漏れ聞こえたらしい。

 

おまけにそれが声か何かで、最近ネットでバズっている謎のミュージシャンだというのが特定されてしまったらしい。

 

で、あっという間に駐屯地中に広まってしまい、演奏を聞いてみたいと言う声があれよあれよと大きくなった結果、慰問という形で演奏する羽目になってしまった。

 

 

(人前で歌うの得意じゃないって言ってんのに聞いてくれないんだもんなぁ… そもそもあの動画、サイド3どころか地球にまで拡散してんの? まさかと思うけど木星とかまでいってないよね)

 

 

ただ、眼下で私の演奏を聴きたいと集まってくれている人達を見て悪くないと思っていると、人混みの端っこでこちらを見ているマチュさんとニャアンさんを見つけた。

 

(マチュさん、ニャアンさん、どんな力があっても何を望んでも、人は人と生きていくんですよ。 家で商売やってるからよくわかります)

 

じっとこちらを見つめる二人を見て、ギターを借りに行ったときに話した事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「あんた、結構な有名人だったんだ」

 

「いや、全然そんな自覚ないんですけど… あれだって友達と仲直りしようって時にやったのが勝手に拡散されたみたいで…」

 

 

ソファに座ってクッションを抱き抱えつつジト目で見てくるマチュさんに、なぜか言い訳じみたことをしていると、今度はニャアンさんもジト目になりつつ話に入ってきた。

 

「何にもないとマチュみたくなるから、取り柄があるのっていい事だと思う。 あの歌もすごく上手だったし、あなた見た目もカッコいいじゃない。 歌手か何かになるの?」

 

 

その突拍子もないセリフに私はパタパタと手を振って否定した。

 

「いやいや、そんな烏滸がましい。 私ただの地味な陰キャですし、目立ちたくないです。  ただ音楽聞いてるとキラキラな世界にいけるというか、趣味でやってるだけですよ」

 

 

「ふーん。ただの趣味? その割にスカウトとかされてるじゃん?」

 

なんでわかるんだと言いたくなったが、それについては何も言わなかった。

 

 

「…やれることと、やりたいことは別ですよ。 私は自分が楽しむだけに音楽をやってるんです」

 

「でも勿体無い。 あなたの歌、聴いててすごく楽しい気分になれた。 もっと多くの人に聴かせてあげてもいいのにって思う」

 

ニャアンさんの言ってることは、カミュさんもどこかで言いたかったことだというのはわかる。

 

でも元々カンナさんが持ってきたその話は受ける気はなかったし、何より今となっては地球に来た時に大気圏で燃え尽きたあの連邦の人のことがどうしても頭にチラついてしまう。

 

 

「…無茶に夢追いかけて、ダメになった人を間近で見ました。 やっぱり分相応って物があるんです、私はそんな大それたものなんて…」

 

そんな私にマチュさんが突っかかってきた。

 

 

「別にそのダメになったって人はともかく、あなたは歌歌ったからって死ぬわけじゃないんでしょう。 せっかくやれるならやってみたら?」

 

「簡単に言ってくれますけど、失敗したらリセットってわけにいかないんですよ…  それに死なないって言いますけど、音楽は私の世界の全部だったんです…  そんな世界で失敗して、音楽が嫌いになっちゃったら…  私死んだも同然ですよ…」

 

 

ボソボソと意見を言っていると、マチュさんがイライラした様に言い放った。

 

 

「あーもう、あんまりあれこれ考えないでさ!! 頭空っぽにしてやりたいことやりたい様にやってみなよ!! 人間なんて毎日進化していくもんだよ!!」

 

当の本人はいいこと言ったつもりだったのかもしれないけど、その言葉に私はカチンときた。

 

 

「…あなたの場合、その結果が今なんですよね」

 

「!!」

 

 

「これもニュータイプ?ってやつの力なのかも知れませんね。 ただあなたが何を経験して、何を望んでいるのかもなんとなくはわかります。 私にだって会いたい人はいますから」

 

「…」

 

「…」

 

マチュさんもニャアンさんも押し黙ってしまったが、私の世界について軽く見られているのが我慢ならず、珍しく口が動いた。

 

「でもやりたいことがあっても、どうすれば出来るのかもわからないんじゃ、どんなに進歩したって何もしてないのと大差ないじゃないですか」

 

 

 

「やっぱり… あんた普通だね…」

 

「十分ズレてるって自覚はありますけどね、父親が死んでもあまり感じませんでしたし。  でもお世話になってる人に会えなくなったり、故郷に帰れなくなっても後悔しないのが普通じゃないなら、私は普通の方がいいですよ。  自分の分相応ってやつだけをやる普通の人間で」

 

 

 

 

 

 

 

スターダストの手の上でギターの調整を終えた私が軽く掻き鳴らすと、眼下でざわついていたジオンの人達が徐々に静かになっていった。

 

皆が待ち侘びる様にしてこちらを見ていることに、緊張して汗が出てきたが、大きく深呼吸すると覚悟を決めたように演奏を始めた。

 

 

 

そもそも私の歌は人前で披露することを前提にしていない自己満足の趣味だったが、思っていたよりは好評のようであり曲が進むにつれて歓声が大きくなっていった。

 

 

その熱気にあてられたか私もトランス状態に入っていき、周りがキラキラに包まれ始めた。

 

 

 

(これがあんたのキラキラ… きれいじゃん)

 

そんな中、私の中にマチュさんの声が響いてきた。

 

 

(ええ。 私はずっと音楽の世界、このキラキラと生きてきました。絶対になくしたくないとても大切なものです)

 

(そっか、あんたは自分一人だけで好きな時にここに行けたんだ。それが私との違いか)

 

納得したようなマチュさんだったが、私も理解していた。

 

 

(あなたもキラキラが欲しいのはわかります。 だけど私にしてみれば、あなたは周りの人の思いを無視して、キラキラ欲しさに何もかもを捨てられるただの自分勝手な人です)

 

(わかるよ。私にとっては、あんたはキラキラが自由に手に入るからってただ自分に言い訳ばっかりして何もしようとしない人だから)

 

キラキラの世界で憎まれ口をたたきながらも、お互いの言いたいことは理解していた。

 

 

(私、あなたほどの無茶はできなくても、ちょっとだけでも進んでみようと思います。 その先で失敗しても、私には大切に思ってくれる人も帰れる場所もありそうですから)

 

(そっか、アンタならきっと大丈夫だよ。 私もさ、次に進んでみる前には、あんたみたくちょっとだけでも先のこと考えてみるよ。 今の私にはなくしたくない大切なMAVがいるから)

 

 

 

 

 

そんなキラキラ世界での会話?が続いている間も、私は演奏とともに熱唱を続けており、MS格納庫内は興奮の坩堝と化していた。

 

そうして演奏がクライマックスに達すると、その興奮も最高に達し、終了とともに送られた拍手とアンコールは格納庫全体を揺らしているかのようだった。

 

その光景を見て、私は改めて考えていた。

 

(私は何かズレていると思ってた。 でも、こんな私を見て喜んでくれる人たちがいる。 私の歌でみんなが同じ感覚でつながって、世界がキラキラに包まれて一つになってる。 そっか、私は…)

 

 

 

 

 

 

 

(やれやれ、ちょっとしたお遊びイベントのつもりが本格的なライブコンサートみたいになったな。 まぁ彼女の気晴らしにもなったみたいだし、別にいいか)

 

ここがどこだか忘れて興奮している兵たちに呆れていたが、エグザベ自身も悪い気はしていなかった。

 

(じきにジオン本国とも通信が安定するし、そうなれば彼女と俺が聞いた連邦の陰謀のデータも証拠として送付できる。それで彼女もお役御免で価値はなくなる)

 

 

地球に降下してからこっちエグザベが忙しく動き、フィーナがコロニーと連絡を取る手続きに手間取ったのには理由がある。

 

フィーナは今一つ自覚していなかったようだが、エグザベとフィーナはコロニー落下事件の主犯と黒幕についての生き証人である。

 

さらに、ジオン公国の軍人であるエグザベと違い、立場上第三国の一民間人であるフィーナの証言には重要な意味がある。

 

そのため本人が知らないところで万が一に備えてしっかり警備がされていたりするし、変に通信が漏れたりしないよう彼女がコロニーと連絡を取るに当たっては細心の注意が払われていたのである。

 

(だがまぁもう大丈夫だろう。ここに証拠があるとはいえ、ある程度の事情はジオン連邦双方理解しているだろうし。いくら何でもそんなバカは…)

 

 

そんなエグザベをあざ笑うかのように、警戒警報が駐屯地中に鳴り響いたのはその直後だった。

 

 

 

 

 

「ふ、フハハ… ムラサメ研のやつらめ何が未完成品だ、あの無能どもが!! このパワー圧倒的じゃないか、さすがは地球連邦の技術力。 これがわからん連中とはな、馬鹿は死なねば治るまい」

 

 

巨大なMAを動かしつつバスクは一人悦に浸っていた。

 

ゴーグル越しのその目はかなり血走っており、足元には空になった注射が何本も落ちていたのだが、もはや彼にとってはどうでもよかった。

 

 

「ふふふ、所詮手足など飾りよ。サイコガンダムにとって必要なのは火力だ。胸部メガ粒子砲、背面のサイコ六連ミサイル。 これだけあれば性能は100%出せる。 サイコミュなどというオカルトに頼る必要もないわ!!」

 

 

自慢げに語るバスクだが、やはりどこか不安定なのかその巨大MAは空中を飛び跳ねる様にして移動しており、少し操作を誤れば墜落しそうな状態だった。

 

「全力で20分程度と言っていたが、地球に住まうウジ虫どもを証拠諸共に焼き尽くすには十分だ。 見ておれ、俺は決して貴様らスペースノイドに屈したりはせんぞ!!」

 

 

かくてサイコロのような四角い胴体にガンダムの頭部だけがついた奇妙なMAがジオンの極東駐屯地を襲撃したのだった。

 

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