優しい霧雨。ところにより暴雨。   作:柚子餅

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向かう先はアルビオン④

 

 アルビオンが最も近づくというのと関係があるのか、二つあるうちの赤い月が白い月の影に隠れて、一つに見える。

 才人はその月に地球の空を思い起こしながら、日が暮れて暗くなった宿屋の中庭で、がむしゃらにデルフリンガーを振るっていた。

 ルイーズに手当てしてもらって傷のほとんどは癒えている。けれど胸ばかりはきゅう、と締め付けられていて、居ても立ってもいられなかったのだった。

 

 素振りをしながらも頭に浮かんでいるのは、ルイズと、ルイーズと、ワルドのこと。

 最後こそ仕切り直しになったものの、普通ならあのワルドとの立会いは才人の負けだった。

 

 ――君の甘さが原因でルイズを危険に晒してしまったら、君はどう責任を取るつもりなんだ?

 

 ワルドの言う甘さとは、弱さのことか。勝負が流れて、落ち着いた今更になって、ワルドの言葉が才人の胸に突き刺さっていた。

 

「ほとんど負けだったけどよ、相棒はよくやったと思うぜ。きっと、ありゃあスクウェアクラスだ。そんな奴に負けなかったんだからよ」

 

 デルフリンガーがかたかたと鍔を鳴らして、どうにも元気のない才人を慰めるように声を上げた。

 スクウェアクラス……つまりは、ワルドは相当な使い手らしい。それは、負けても恥にならないぐらいには強いという。才人も自覚こそしているが、現時点でワルドに勝てる目は低い。悔しいが、相手の強さ、そして自分の弱さを認めていた。

 

「負けなかったからってなんだっつーんだよ。そんなもん、何の慰めにもなりゃしねえ」

 

 素振りを続けながら、才人は口の中で呟いた。戦力差は歴然。だけれど、相手が格上だからって負けていい理由にはならない。

 それを認めてしまえば、もしもワルドと同程度ほどの奴がルイズを害しようとした時、才人は護れなかったとしても仕方がないとあきらめることになってしまう。

 そしていくらワルドが強い、勝ちの目が低いからといって、それは決してゼロではない筈だ。その時になってみないと、勝負はどう転ぶかわからない。

 ワルドにも勝てないと認めて、諦めてしまっては、才人はもうあの二人を護ろうとすることも出来なくなってしまう。

 

 強くなりたい。才人は真剣に思った。

 ルイズも、ルイーズも才人のことを必要としてくれている、らしい。それは嬉しい。応えてやりたいとも思う。けど、それを知ってしまったことが同時に情けなくもあった。

 もしも才人に力があったならば、そんなことをルイーズの口から聞くことはなかったのだ。しかしそうしない為には、あの手も足も出なかったワルドよりも才人は強くなければならない。堂々巡りであった。

 

 才人がどうにもならない苛立ちから歯噛みしていると、生まれ育った街や両親、クラスメイトの顔が脳裏をよぎっていく。

 帰りたい、と思う。思ってしまう。家に帰って、茶碗いっぱいの米と、味噌汁が飲みたい。おかずは、梅干でもいい。前は食べたいとも思わなかった焼き魚だけだっていい。

 そして風呂に入って、何にも考えず気が済むまで暖かい布団で眠りたい。

 

「はぁ、はぁっ、くそっ!」

 

 思い浮かべると、涙が出てきてしまった。素振りを止め、呼吸を荒くしながら袖で目元を拭う。

 普段は考えないようにしているが、不意に思い返してしまう。そして一度考え始めると、ちょっとやそっとじゃ止まらない。

 ホームシックだった。それは空に浮かんで今日に限り一つにしか見えない月の所為か。それとも、あまりに大きなワルドという壁の所為なのか。何にも考えずに過ごせていたあの頃が、無性に懐かしい。

 

「才人?」

 

 突然の声に驚いて、才人は声のかけられた方に振り向いた。そこには、ピンクブロンドの少女の姿があった。才人は反射的にその左手を確認する。ハンカチは巻かれていないし、その手の甲にルーンは見えない。

 

「なんだ……ルイズか。婚約者様のお相手はもういいのかよ」

 

 思わず顔を背ける。そして言ってから、才人は内心で自己嫌悪した。帰りたい、帰りたいと思っていた所為か、つい嫌味ったらしい言い方になってしまった。

 きっと機嫌を損ねただろうと、才人はゆっくりと振り返ってルイズを見やる。

 

「……」

 

 だが反して、ルイズは罰が悪そうな才人をじっと見て、黙したままだった。見詰め合って数秒、居心地の悪さから先に音を上げたのは才人だった。

 

「な、なんだよ。なんか用があるんじゃねえのかよ」

「別に。あんたがへこんでるんじゃないかって思って、見に来ただけ」

 

 一言で図星を突かれて、才人は頭の中が真っ白になった。それでも、今しがたまで泣いていたことをルイズに気づかれたくない一心で、喚くように声を上げる。

 

「はぁ!? 何で俺がへこまなきゃなんねーんだよ!」

「なんだ。元気じゃない。落ち込んでいたら、この機会に徹底的に主従の関係を叩き込んでやろうと思ってたのに」

 

 あまりにあんまりな物言いに、才人は怒りを覚えるより先に呆然としてしまった。言葉もない才人に構わず、ルイズは言葉を投げかけていく。

 

「それで、剣の素振りでもしてたの? あ、妙に目元が赤くなってるのは指摘しないどいてあげるから、感謝しなさいよね」

「お前なぁ、それ、もう言ってんのと変わらねえだろ……」

 

 悪びれなく笑っているルイズに、脱力した風な才人は弱弱しく声を返した。こんな言い方をされたならば喧嘩になっているだろうに、才人は今日は珍しくルイズの物言いに反感を覚えなかった。

 今のルイズの発言が全部、本心からのものではないとわかったからだった。もしかしたら、元気付けようとしてくれたのかもしれない。

 そして、才人には当然のように疑問が湧き上がる。才人の知っているルイズは、こんな風に才人に冗談を言ったりはしない。

 

「それより、お前、本当にルイズか?」

「私以外の誰が……って、一人しかいないわよね」

「実は、ルイズとルイーズが入れ替わってるとか……」

 

 そこまで言っておいて、才人はそれはないか、と思い直す。つい先ほど、目の前のルイズの手の甲にルーンがないのを確認しているのだ。

 

「ふん、ようやく気づいたわけ?」

 

 そんな風に考えていただけに、返ってきたルイズの言葉に才人は仰天した。まじまじとルイズを見やってしまう。呆れた様子で、その吊り目で才人を見下すルイズは、知っているそれと変わりない。

 

「え? ちょ、ま、マジかよ?」

「冗談よ」

「はぁ!? どっちだよ!」

 

 即撤回された事実に、才人は思わず叫んでいた。頭の中は大混乱である。

 

「ちょっと、あの子の真似をしてみただけ。それにしてもまったくこのバカ犬は……。あんたは一日に一回は言われないと忘れちゃうわけ? ほら、使い魔のルーンがないでしょう」

 

 しょうがないといった様子で言って、ルイズが才人に左手を差し出してくる。才人はその手を取ってまじまじと眺めた。

 才人の手とは違って、ほっそりとしていて白く綺麗な手だった。才人の左手にあるような、痣のようなルーンはどこにも見えない。それにしても小さい手だな。そんなことを考えながらルイズの手を離した。

 

「これでわかったでしょ?」

「あ、うん」

 

 それでも妙な違和感を覚えていたが、目の前に確たる証拠を出されて才人は頷いていた。そこで、かたかたと才人の左手から音が鳴り始めた。遅れて声が聞こえてくる。

 

「なぁ、えーっと……娘っ子」

「なによ」

「俺は、黙ってたほうがいいんかね? 俺は剣だからな。それがどうなってんのかわかんねーけど、なんつーか、わかっちまうんだ」

「そうね。うるさいからちょっと黙ってなさい」

 

 わからないのに、わかる。それこそよくわからないことをしゃべりだしたデルフリンガーに、才人は辟易とした。この剣はいっつもこうだ。

 そうしているうちにルイズが才人の左手に握られているデルフリンガーを奪い取り、鞘に戻そうと才人の背中に回って背伸びする。

 だが、届かない。一所懸命に爪先立ちになって鞘に戻そうとするが、長剣のデルフリンガーはルイズの背丈ほどもあり思うように入らない。

 

「ちょっと! ご主人様が苦労してるのに、何ぼーっと突っ立ってんのよ!」

「ああ、何がしたいのかわかったから貸せよ。なんだか知らねーけど、こいつを戻せばいいんだろ」

 

 ルイズからデルフリンガーを受け取って、背の鞘に収める。かちゃり、と金属の音が響いた。

 その間、鞘に収められてしまっては話せなくなるというのに、剣の癖に饒舌なデルフリンガーは珍しく一言も言葉を発することはなかった。

 

 

「なんだ?」

 

 どうにもおかしな雰囲気のまま、とにかく才人とルイズが酒場に戻ろうとした時、周囲からけたたましく足音が聞こえてきた。

 武装した男どもが駆けている。見回してみれば、結構な人数が『女神の杵』の入り口へと集結しているようだった。

 

「才人、あれ見て!」

 

 ルイズの緊迫した声に目を向けてみれば、ちょうど才人たち男三人が寝泊りしている部屋のベランダあたりに、岩でできたゴーレムがそびえ立っていた。

 部屋の中から青銅のゴーレム――ワルキューレの一体が飛び出して、岩のゴーレムの腕の一振りでぐしゃぐしゃになぎ払われていった。「戦略的撤退だ!」部屋の中からギーシュの声が響く。遅れて、岩のゴーレムの拳が才人たちの部屋に突き刺さった。

 

「あれは……フーケ?」

「ルイズ、こっちだ」

 

 壁材が舞い散る中、記憶に新しい、つい先日に牢獄に送られ囚われている筈のフーケの姿がゴーレムの肩に見えた。それを視認しながら才人はルイズの手を引いて引き返し、気づかれないよう、静かに裏口から一階の酒場に進入した。

 

「ダーリン! 無事だったのね!」

 

 厨房の勝手口から酒場へと抜けると、まずキュルケの黄色い声が上がった。

 どうやら酒場もまた襲撃されているらしい。先ほど入り口に集まっていたのはどうやら傭兵たちのようで、外から店内へと矢を放ってきている。それを、ワルド、ルイーズ、キュルケ、タバサは石の机を盾にして応戦していたようだった。

 

「おおう、あれが噂に聞いたフーケか。君たちが捕縛できたというからあるいはと思ったけど、僕一人では手も足も出なかったよ」

 

 客室のある二階から転がり下りてきたギーシュが、一仕事やり終えたようないい顔で身を寄せてくる。才人とルイズも倣って、机の陰に身を隠した。

 全員が揃ったことを確認して、机を背にワルドが口を開いた。

 

「さて、どこで情報を掴んだかは知らないが、まず奴らの狙いは我々だろう。優先すべきは任務の達成。ここは二手に別れようと思うのだが」

「そうなると、事情を知らない私たちはこっちに残ったほうがいいみたいね」

 

 ワルドの意図を理解したキュルケが、妖艶な笑みを浮かべる。隣でいつもどおりに本を開いていたタバサが、キュルケの言葉に同意するようにこくり、と頷いた。

 

「ここで足止めするのなら、僕も残ろうか。口惜しいけど、【土】のメイジとしてはフーケに劣っているかもしれない。だけど、同じ【土】として一矢報いてやらないと気がすまない。それに、あの傭兵たちが相手ならワルキューレが有効なはずだ」

「ギーシュ、あんたのワルキューレじゃ精々相手できて一個小隊程度でしょうに」

 

 キュルケが呆れた様子で、いきり立っているギーシュに声をかけた。

 

「以前の僕ならば、確かにそうだろうね。けれど、僕も日々成長しているのさ。グラモン家がトリステイン有数の軍人の家系であることを、卑しき傭兵どもに教えてやる!」

 

 にやり、と不敵に笑ってみせるギーシュだったが、その顔は青く、足は震えている。もちろんキュルケがギーシュのそんな様子に気づかないはずがなく、今度は嫌味のない笑みを浮かべた。

 

「威勢ばっかりがいいのは、相変わらずじゃない。まぁでも、一応は頭数として数えられそうね」

 

 それを合図に、ぱたん、と今まで開いていた本を閉じるタバサ。胸ポケットからバラの造花を抜くギーシュ。髪をかき上げて杖を持ち替えるキュルケ。

 

「それでは、君たちが陽動を果たしている間、我々は一刻も早く桟橋へと向かおう。裏口からの脱出ならば、目に留まらないはずだ。僕が先行し、出口を確保してこよう」

 

 三人に頷いて返した後、ワルドはうろたえているルイズらに語りかけた。そして、素早く裏口へと通じる厨房へと身を滑らせていった。

 あれよあれよと話が決まっていく中、ルイズとルイーズは揃って顔を曇らせていた。

 

「でも、それじゃ」

「ツェルプストー、あなた……」

「いいから、さっさと行きなさいな。あんまりのんびりしていると、すぐにここを鎮圧して後ろから追いつくわよ」

「……行って」

 

 キュルケとタバサの後押しを受け、ルイズとルイーズは三人に向かって小さく頭を下げた。その間にも、今しがた才人とルイズが進入してきた裏口からワルドが顔を覗かせる。

 

「よし。まだ、こちらには傭兵どもは来ていないようだ。僕が先頭を行こう。……使い魔くん、君は殿(しんがり)を頼む」

 

 言葉少なに、ワルドは厨房を進んでいった。それに、身を屈めてルイズとルイーズが続く。

 才人は残ることになった三人を最後に見やってから念のためにデルフリンガーを抜き放ち、瓜二つの姿の少女たちの背を追いかけたのだった。

 

 

 ラ・ロシェールの街を駆け抜け、四人は階段を駆け上った先の丘の上に出ていた。

 大きな大きな、それこそ御伽噺でしかお目にかかれないまるで山のような大樹が聳え立っている。そこから伸びる太い枝には、飛空船がひっかかるようにして停泊していた。

 ルイーズから話にこそ聞いてはいたものの、見てみるのとではかなり印象が違う。「これが百聞は一見に如かずってやつか」才人はそんなことを考えて足を動かしている。

 

 先頭のワルドが木の幹へと駆け込んだ。大樹の中は空洞になっていて、通路となっている枝の入り口には金属プレートが掛けられてある。才人にはその文字を読むことは敵わなかったが、そこに行き先が書いてあることだけはわかった。

 

「アルビオン行きは、これか」

 

 ある枝へと続く階段でワルドが呟いた。そして、そのまま木製の階段を駆け上がっていく。続いてルイズと、ルイーズ、その後ろを才人が追う。

 

 

 誰も口を開かずに、ただただ駆け上っていく足音が響いていた。

 もう少しで階段を上りきる、そんな終わりが見えた頃に、一番後ろを駆けていた才人は、突然に、足音が一つ増えた気がしていた。しかもそれは、才人の背後から聞こえてくる。

 才人が振り向くのと、後ろの誰かが才人の頭上を飛び越え、ルイズの背後に着地するのは同時だった。

 

「ルイズ!」

 

 才人が怒鳴って、背の長剣を引き抜く。何だかわからないが、才人を無視したってことは狙いがルイズなのは明らかだ。駆け出す間もなく、ルイズへとその魔の手がせまった。

 

「きゃ!?」

 

 ルイズは才人の声を聞いてか、咄嗟にしゃがんで背後から迫った謎の人物の腕をかいくぐり、見事に避けてみせた。才人が謎の人物を視認して、僅か数秒の出来事だった。

 

「むっ!」

 

 真っ白い仮面を被った、男だろう人物から避けられたことへの驚愕の声が漏れる。しかしすぐさまに気を取り直し、組み易しと見たかルイズの隣にいたルイーズへと標的を変え、手を伸ばした。

 

「させるかよっ!」

 

 それを阻むように、ルーンの力で一気に加速した才人が仮面の男へと肉薄していた。

 戦いではワルドに及ばなくても、身体能力だけならば負けてはいない。ワルドも認めていたその脅威的な速度を以って、才人は謎の男へと斬りかかる。

 

 仮面の男はデルフリンガーを大きく跳躍して避け、階段の手すりへとふわりと着地。そして、すぐさまに腰から黒塗りの杖を引き抜いた。

 

「才人っ!」

「やめろ、危険だ! ルイズ!」

 

 ルイズが杖を手に駆け寄ろうとして、身を入れ替えたワルドに抑えられている。同じく、ルイーズもまた階段を塞がれて動けずにいる。

 それを視界の端に収めて若干苛つきを覚えながらも、才人は正直なところ助かっていた。仮面の男の身のこなしは羽のように軽く、手ごたえがない。まるで柳を相手にしているようだ。しかも杖を手にしているということは、メイジでもあるようだった。

 こいつを相手に、誰かをかばいながらは手に余るだろう。それどころか、一対一だって難しいかもしれない。

 

「相棒、気をつけろ! やっこさん、仮面の下で呪文を唱えてやがるぞ!」

 

 相手を観察していた才人の耳に、デルフリンガーの声が届いた。それを証明するかのように、仮面の男の頭上からは冷気が下りてきていた。

 

「気をつけろって、デルフ、対処法は!?」

「ええと、たぶんだけどよ、こりゃあ『ライトニング・クラウド』だ! 発動しちまったら、こいつをよけることはまず無理だ! もう来るぞ、構えろ相棒!」

「チクショウ、相変わらず役にたたねえ!」

 

 才人がデルフリンガーを構えて、歯を食いしばるのと同時に、仮面の男の頭上から雷撃が放たれた。そして瞬きの間に、向けられていたデルフリンガーを伝って、才人の体に着弾した。

 

「ぐう! ううううううう!」

「才人!」

「サイト!」

 

 ルイズとルイーズの切迫した声が聞こえる中、才人は膝から崩れ落ちた。心構えをしていたから、無様に悲鳴を上げることは防げた。意識も何とか保っていられた。

 しかし、それでもダメージは大きい。デルフリンガーを握っていた左手から肩には焼き鏝を当てられような痛みと熱が走っていた。

 

「ふっ!」

 

 才人があまりの痛みに目を瞑って耐えていると、頭上からおそらくはワルドの声が聞こえてくる。

 びゅうびゅうと風が叫んでいる。才人が顔を上げると、ルイズとルイーズを背に庇ったワルドが杖を手に、【風】の魔法で仮面の男を吹き飛ばしたところだった。

 仮面の男は大きく体勢を崩し、階段から遥か下へと落ちていく。男の仮面は最後まで剥がれることはなかった。

 

「……『ライトニング・クラウド』。致死性のスペルだ。命が助かったのは幸運という他ない。それにしても、それほどの【風】の使い手が敵方にいようとは」

 

 才人の左腕を確認しながら、ワルドが声を漏らす。

 

「才人、大丈夫?」「サイト、大丈夫?」

 

 左右から異口同音に、声が届いた。二人ともが駆け寄って、酷く心配げに才人を覗き込んでいた。

 ずきずきと腕が痛む。まるで破裂してしまいそうだった。今まで感じたこともない傷み、いつもならきっと、泣いてわめき散らしているだろう。もちろんルイズたちが言うように、大丈夫なわけがない。

 

「だ、大丈夫」

 

 けれど、一刻も早く追っ手を振り切り、ルイズを危険に晒さない方が大切だった。狙いは、間違いなくルイズだった。ルイーズも狙われてはいたが、同じ姿だったからだろう。自分の為にここで時間を取られては、また刺客が迫ってくるかもしれない。

 

「行こう」

 

 才人は抑えていた左手からデルフリンガーを持ち替えて、背の鞘に挿して立ち上がる。

 膝をついて見上げる二人の少女に心配させないよう、気を張って声をかけたのだった。

 

 

 

 

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