宗谷ましろは慌てない〜大胆に、しかし冷静に〜   作:エタノールの神様

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序章

 

「艦長!武蔵から緊急電です!」

私がその連絡をした後、武蔵からは短時間の通信がありました。超大型艦からの救援要請に、私たちは驚いたものです。しかし、そのときは私たちも緊急事態。濡れ衣ではないものの、ほぼ無実の罪で反乱扱いされていたのです。心配こそすれど、私たちは助けに行こうなどとは思いもしませんでした。

「助けに行かないと…」

艦長のその言葉に、みんな非難轟々でした。いろいろ事情を説いても、「海の仲間は家族だから」の一点張りでした。なんとか説得しなければ、そう思って私はずっと黙って懐中時計をみている宗谷副長に、頼み込みました。「副長も!なんとか言ってください!」と。

これがいけませんでした。いえ、こうなることは分かっていたのかもしれません。彼女のポリシーは、組織にナンバー2は不要、トップの命令実行のためすべての努力を惜しまないこと。帰ってきた答えは、必然ともいえる内容でした。

「素晴らしき判断です、艦長。それではただいまより武蔵救援作戦を立案致しますので、しばらく艦橋を離れます。」

 

 

春といえば桜…桜並木が横須賀にあったのは、遥か100年以上前だろうか。その頃はこの横須賀においても、咲き誇る桜が、散り乱れる桜が新生活を告げていたのだろうか。そんな事を思うほどに、桜とは無縁な春の横須賀を私は歩いていた。

そう、本日は横須賀女子海洋学校の入学式。誉れあるブルーマーメイドへの道を進むための第一歩、それを踏み出す名誉ある式典である。そして、その道を阻む生き物が一匹。

猫である。私はもとより動物が苦手であるが、この程度に怯えていては海の守護者たるブルーマーメイドには到底なれぬ。意を決して、この猫を超えて進もうとしたまさにその時だった。

「うわぁぅ!?」

なにかに躓いたのであろうか。小娘が私めがけて倒れてきたのである。私は運のよくないところがあるようで、このような事故は過去に何度もあった。ゆえに対処法を心得ている。

倒れてきた小娘が地面に落ちぬよう抱えてやるのだ。

「うぇっ?」

「お怪我はありませんか?」

「大丈夫だよ…。ありがとう!」

ふむ、小娘はお元気一杯のようである。しかしこの日が晴れの日であるからといって、気を抜いて転ぶようではブルーマーメイドの候補生としてよろしくない。

「お言葉ですが、前方ばかりでなく足元にも気を配るべきです。注意散漫な状態では思わぬ事故に遭いやすくなりますよ。」

小娘はおどろいたような顔をしたの、こちらを見てにこやかに答える。

「ありがとう!気をつけるよ!」と。

騒がしい小娘だ、そう思って歩き出したその時だった。小娘が落としたまま忘れていったバナナの皮を踏みつけ、気づいたときには海に落ちていた。私は運のよくないところがあるようで、このようなことは何度もあった。ゆえに制服の下に膨張式救命胴衣をつけている。別にカナヅチでも何でもないが、念の為だ。

着水と同時に下部のセンサーが反応し、ガス発生装置の栓が抜かれる。ブワッと膨らんだU字型の救命胴衣が私とセーラー服の間で窮屈そうにしている。少し膨らみが足りないが、長時間漂流するわけでもないし、大丈夫であろう。

「わぁっ!?大丈夫?」

大丈夫と問われても、元はこの小娘がバナナの皮を拾わなかったのが原因であろう。だが言葉にしたところで意味はない、無駄にこの小娘を萎縮させるだけだ。今私がすべきはすぐに岸に上がり、この小娘に無駄な心配をかけぬようなにか言ってやることだろう。

まったく、運がないのは昔から変わらぬようだ。

 

 

 

私が配属されたのは、晴風という陽炎型の航洋艦であった。機関が他の同型艦と異なり、高圧高温缶であるが、概ね代わりはない。可もなく不可もなくといった感じである。

名簿に目を通す。副長ではあるが、指揮官であることに変わりはないので人員を覚えておくに越したことはない。おや、朝に私に突っ込んできた小娘が艦長ではないか。先が思いやられはするが、組織にナンバー2は要らない、支えてやらねばならぬ。

「宗谷さん!元気出して!」

…別にしょげてなどいないが、彼女にはそう映ったのだろう。彼女の名は黒木洋美。彼女とは中学からの縁…というよりは、ブルーマーメイドフェスタや試験会場で目をつけられた…というか、私に憧れているようだ。少々思い込みの激しいところはあるが、別に操艦や作戦行動に支障が出るほどではないだろう。

「別に、気を落としている訳ではありません、万が一にも乗組員を覚えきれていなかったら副長失格ですので、見直しているのです。」

「さすが!宗谷さん真面目〜」

「機関科はどうですか?馴染めましたか?」

「もちろん!マロンも一緒だしバッチリよ!」

「それはよかった。お二人がいるなら頼もしいですね。」

そしてこの女、私が褒めてやると少し赤面して照れるのだ。まったく、可愛いものだ。

私たちが談笑していると、例のバナナの皮を拾い忘れた小娘が入ってきた。

「艦長、おはようございます。晴風で副長を務めさせていただく宗谷ましろです。」

「きっ機関助手を務めます、黒木です!」

「そんなかしこまらなくていいよ。私、岬明乃、この船の艦長だよ!」

まあ元気ハツラツな艦長殿である…。そう思いつつ、訓示の指導教官による時間が近づいてきたので移動を始めた。

なにはともあれ、これから海洋実習が始まる。期待に胸を膨らませているものも多かろう。

 

 

 




試作です。復帰してはみたものの、なかなか難しい。たぶん更新しない
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