miComet - if   作:TuT

2 / 2
おまけ

1.

 

午前十時、駅前。

休日の人混みの中、すいせいは背筋を伸ばして立っていた。青いキャップにデニムジャケット、その下は白いTシャツ。カジュアルなのに、すらりとした立ち姿が目を引く。

 

「──おまたせ」

 

背後から声がして振り向くと、みこちが小走りで近づいてくる。ピンク色のパーカーにふわっと広がるスカート。

少し息を切らせながら、笑顔を見せた。

 

「ん、おはよ。珍しいじゃん、みこが時間ぴったり」

 

「···すいちゃんは何分前に来たの?」

 

「30分前。···早くみこちに会いたかったから」

 

「っ!」

 

さらりと言うその声に、みこの足が一瞬止まる。

告白されてからまだ一週間。こういう直球が、まだ慣れない。

 

「はいはい、早く行こ」

 

「はいはいって何。待たせてごめんとか、言うことあるんじゃないの〜?」

 

「···ごめん」

 

口ではそっけなく言いながらも、横に並んで歩くみこの耳がほんのり赤い。すいせいはそれを見逃さない。

 

 

---

 

2.

 

駅前から商店街へ。

色とりどりののぼり旗や、店先の花が春の風に揺れている。

 

「この前テレビで見たんだけどさ、この通りの奥に新しいカフェできたんだって」

 

「へえ。また甘いの食べるの?太るよ」

 

「すいちゃんも甘いの好きなくせに」

 

「まあ嫌いじゃないけど」

 

歩きながら、すいせいは自然にみこの手を取った。指と指が絡む感覚。

みこは一瞬驚いたように視線を落とし──そのまま握り返した。

 

「···人、多いんだけど」

 

「人が多いから、離れないようにしてるんでしょ?」

 

「みこは幼稚園児じゃないんですけーど」

 

その言葉にすいせいはにやりと笑う。

恋人らしい仕草を自然に重ねていくのは、すいせいの方が一歩上手だ。

 

途中、屋台の前で立ち止まる。

 

「あ、たい焼きだって。しかも焼き立て」

 

「まだ昼ご飯食べてないのに···って買うの早っ」

 

「甘いのは別腹でしょ。ほら、あーん♡」

 

差し出されたたい焼きを、周囲の視線がある中で食べるのは少し恥ずかしい。

けれど──温かいあんこの甘さと、すいせいの得意げな笑顔を見たら、文句を言う気もなくなった。

 

 

---

 

3.

 

カフェは木目調の落ち着いた内装。

窓際の席に座ると、ちょうど陽の光がテーブルに差し込む。

 

「期間限定の苺パフェあるって」

 

「頼むの決まりじゃん」

 

「いや他のメニューも見るけど」

 

結局、みこは苺パフェ、すいせいはカフェラテとクロックムッシュを注文した。

 

料理が来るまでの間、ふいにすいせいが笑う。

 

「そういや、誕生日のとき──」

 

「やめろ、その話は」

 

「なんで? 照れてる?」

 

「···言わせないでよ」

 

「そういう所可愛いよなぁ···みこち」

 

そう言って、テーブル越しにみこの手を取った。

店内のざわめきに紛れても、その温もりはやけに鮮明だ。

 

「お店の中でやめてよ、恥ずかしい」

 

「私とずっと一緒にいるなら、慣れてもらわないとね」

 

「···もういいよ、好きにして」

 

視線を逸らしながらパフェのスプーンを手に取る。

ふわふわのホイップと苺の甘酸っぱさが口に広がった瞬間、胸の奥にふと温かい感覚が広がる。

 

(こういうの、悪くないかも)

 

 

---

 

「そういえばさ、配信のあと裏で『顔真っ赤だったよ』ってスタッフさんに言われたんだよね」

 

「知るか。そっちだって耳まで赤かったくせに」

 

「え、見てたの?」

 

「見えるわ。目の前にいたんだから」

 

すいせいはふっと目を細めた。

 

「じゃあ、次はもっと堂々とする?」

 

「···次って?」

 

「決まってるじゃん。次の記念日」

 

「気が早すぎ、勝手に計画立てんな」

 

そう言いながらも、胸の中で小さく笑っている自分に気づく。

すいせいのペースに乗せられるのは、案外嫌じゃない。

 

 

---

 

4.

 

カフェを出ると、昼の街はさらに人で賑わっていた。

すいせいは何気なく「こっち」とみこの手を引く。

 

「どこ行くんだよ」

 

「ゲーセン。ほら、あそこ」

 

ネオンが光る入口。

入ると、クレーンゲームの景品に大きな35Pのぬいぐるみがあった。

 

「みこ、このぬいぐるみ欲しい?」

 

「いや別に···って、ちょ、やるの!?」

 

みこの返事を待たずに、すいせいは100円玉を投入していた。

真剣な顔でレバーを操作し──一発で猫型ぬいぐるみをゲット。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがと」

 

「素直じゃん、珍しく」

 

「···でゃまれ」

 

抱きしめるとふわふわで、妙に温かい。

その感触が、さっきのカフェでの手のぬくもりと重なる。

 

(···やっぱり、悪くない)

 

 

---

 

5.

 

ゲーセンを出た後、ショッピングモールの服屋へ。

 

「これ似合いそう」

 

すいせいが差し出したのは、淡いラベンダー色のワンピース。

 

「え、これ?可愛すぎない?それに結構高いし」

 

「似合うと思うよ。とりあえず着てみな」

 

試着室に押し込まれ、渋々袖を通す。

鏡に映る自分は、普段よりずっと柔らかい雰囲気だった。

 

「──どう?」

 

カーテンを開けると、すいせいの目が一瞬だけ見開かれる。

 

「·········」

 

「す、すいちゃん?無言が一番キツいんだけど」

 

「···うん、これ買おう」

 

「ゔぇ!?いやいやいや値札を見ろって」

 

結局、「デートの思い出」というよく分からない理由で半ば強引に購入される。

袋を受け取った手が、またすいせいに握られた。

 

 

---

 

6.

 

茜色に染まった空の下、川沿いの遊歩道をふたり並んで歩く。

水面に映る夕日がキラキラ揺れている。

 

「···きれいだね」

 

みこはぽつりとつぶやく。すいせいはそれを聞いて、ふっと笑みを零した。

 

「みこちもね」

 

すいせいが軽く腕を回す。みこはびくっと肩を跳ねさせて、慌てて隣を見る。

 

「や、やめてよ──びっくりするから」

 

「そう? 甘えた声出てるよ」

 

すいせいは少しだけいたずらっぽく目を細め、みこの肩に顔を寄せた。

 

「恥ずかしいの、隠さなくていいんだよ」

 

みこは顔を背けるが、その頬はほんのり赤い。

そのまましばらく歩き続けた。

 

「──そろそろ駅だよ」

 

すいせいの声に、みこはほんの少し寂しげにうなずく。

 

「···今日、楽しかった」

 

「うん。私も」

 

手を繋ぎ直すその指先が、じんわり温かい。

 

駅の改札前で立ち止まる。

 

「ねえ」

 

すいせいがみこの腕をそっと引き寄せ、軽く抱きつく。

 

「···やめて、周りいるでしょ」

 

「大丈夫、誰も見てない」

 

「ほんとに?」

 

「周りなんてどうでもいいじゃん。···私だけ見てよ」

 

みこは苦笑しながらも、すいせいの胸に顔を埋めた。

 

「ん···こういうの、ちょっと慣れてきたかも」

 

「ようやく?」

 

すいせいは小さく笑い、みこの背中を撫でる。

 

「もう、離さないからね」

 

「重すぎるよ、すいちゃん」

 

 

---

 

7.

 

改札を抜けて改札前の広場。夜風が冷たいけれど、ふたりの距離はぐっと近い。

 

「明日も早いし···」

 

みこが言うと、すいせいは少しだけ寂しそうな顔をした。

 

「じゃあ、また明日ね」

 

言いかけて、みこはすいせいの手をぎゅっと握る。

 

「ねぇ、もうちょっとだけ」

 

「え?」

 

「こういうの、もうちょっとだけ続けていい?」

 

すいせいは目を細めて頷いた。

 

そっとふたりは寄り添い合い、すいせいがそっとみこの背中に手を回す。

 

「どこにも行かせないよ」

 

みこはその言葉に、小さな声で笑った。

 

ふたりの顔が近づく。息遣いが交じり合う。

 

すいせいがそっとみこの髪を撫でる。

 

「好きだよ、みこち」

 

みこはじっとすいせいの目を見る。

 

「うん。私も好きだよ」

 

2人の距離はゼロになった。

 

 

---

 

8.

 

家に帰ってからも、2人はメッセージのやり取りをした。

夜の静けさの中、それはいつまでも続き···気付けば2人は寝落ちしていた。

 

そして大寝坊した結果、みこちの朝活配信は11時に始まり、すいせいのレコーディングは翌日に持ち越しとなった。

このエピソードは多くの切り抜き師にすっぱ抜かれ、「てぇてぇ」コメントが乱舞する事になるのだが···それはまた、別の話。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。