miComet - if 作:TuT
1.
午前十時、駅前。
休日の人混みの中、すいせいは背筋を伸ばして立っていた。青いキャップにデニムジャケット、その下は白いTシャツ。カジュアルなのに、すらりとした立ち姿が目を引く。
「──おまたせ」
背後から声がして振り向くと、みこちが小走りで近づいてくる。ピンク色のパーカーにふわっと広がるスカート。
少し息を切らせながら、笑顔を見せた。
「ん、おはよ。珍しいじゃん、みこが時間ぴったり」
「···すいちゃんは何分前に来たの?」
「30分前。···早くみこちに会いたかったから」
「っ!」
さらりと言うその声に、みこの足が一瞬止まる。
告白されてからまだ一週間。こういう直球が、まだ慣れない。
「はいはい、早く行こ」
「はいはいって何。待たせてごめんとか、言うことあるんじゃないの〜?」
「···ごめん」
口ではそっけなく言いながらも、横に並んで歩くみこの耳がほんのり赤い。すいせいはそれを見逃さない。
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2.
駅前から商店街へ。
色とりどりののぼり旗や、店先の花が春の風に揺れている。
「この前テレビで見たんだけどさ、この通りの奥に新しいカフェできたんだって」
「へえ。また甘いの食べるの?太るよ」
「すいちゃんも甘いの好きなくせに」
「まあ嫌いじゃないけど」
歩きながら、すいせいは自然にみこの手を取った。指と指が絡む感覚。
みこは一瞬驚いたように視線を落とし──そのまま握り返した。
「···人、多いんだけど」
「人が多いから、離れないようにしてるんでしょ?」
「みこは幼稚園児じゃないんですけーど」
その言葉にすいせいはにやりと笑う。
恋人らしい仕草を自然に重ねていくのは、すいせいの方が一歩上手だ。
途中、屋台の前で立ち止まる。
「あ、たい焼きだって。しかも焼き立て」
「まだ昼ご飯食べてないのに···って買うの早っ」
「甘いのは別腹でしょ。ほら、あーん♡」
差し出されたたい焼きを、周囲の視線がある中で食べるのは少し恥ずかしい。
けれど──温かいあんこの甘さと、すいせいの得意げな笑顔を見たら、文句を言う気もなくなった。
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3.
カフェは木目調の落ち着いた内装。
窓際の席に座ると、ちょうど陽の光がテーブルに差し込む。
「期間限定の苺パフェあるって」
「頼むの決まりじゃん」
「いや他のメニューも見るけど」
結局、みこは苺パフェ、すいせいはカフェラテとクロックムッシュを注文した。
料理が来るまでの間、ふいにすいせいが笑う。
「そういや、誕生日のとき──」
「やめろ、その話は」
「なんで? 照れてる?」
「···言わせないでよ」
「そういう所可愛いよなぁ···みこち」
そう言って、テーブル越しにみこの手を取った。
店内のざわめきに紛れても、その温もりはやけに鮮明だ。
「お店の中でやめてよ、恥ずかしい」
「私とずっと一緒にいるなら、慣れてもらわないとね」
「···もういいよ、好きにして」
視線を逸らしながらパフェのスプーンを手に取る。
ふわふわのホイップと苺の甘酸っぱさが口に広がった瞬間、胸の奥にふと温かい感覚が広がる。
(こういうの、悪くないかも)
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「そういえばさ、配信のあと裏で『顔真っ赤だったよ』ってスタッフさんに言われたんだよね」
「知るか。そっちだって耳まで赤かったくせに」
「え、見てたの?」
「見えるわ。目の前にいたんだから」
すいせいはふっと目を細めた。
「じゃあ、次はもっと堂々とする?」
「···次って?」
「決まってるじゃん。次の記念日」
「気が早すぎ、勝手に計画立てんな」
そう言いながらも、胸の中で小さく笑っている自分に気づく。
すいせいのペースに乗せられるのは、案外嫌じゃない。
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4.
カフェを出ると、昼の街はさらに人で賑わっていた。
すいせいは何気なく「こっち」とみこの手を引く。
「どこ行くんだよ」
「ゲーセン。ほら、あそこ」
ネオンが光る入口。
入ると、クレーンゲームの景品に大きな35Pのぬいぐるみがあった。
「みこ、このぬいぐるみ欲しい?」
「いや別に···って、ちょ、やるの!?」
みこの返事を待たずに、すいせいは100円玉を投入していた。
真剣な顔でレバーを操作し──一発で猫型ぬいぐるみをゲット。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
「素直じゃん、珍しく」
「···でゃまれ」
抱きしめるとふわふわで、妙に温かい。
その感触が、さっきのカフェでの手のぬくもりと重なる。
(···やっぱり、悪くない)
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5.
ゲーセンを出た後、ショッピングモールの服屋へ。
「これ似合いそう」
すいせいが差し出したのは、淡いラベンダー色のワンピース。
「え、これ?可愛すぎない?それに結構高いし」
「似合うと思うよ。とりあえず着てみな」
試着室に押し込まれ、渋々袖を通す。
鏡に映る自分は、普段よりずっと柔らかい雰囲気だった。
「──どう?」
カーテンを開けると、すいせいの目が一瞬だけ見開かれる。
「·········」
「す、すいちゃん?無言が一番キツいんだけど」
「···うん、これ買おう」
「ゔぇ!?いやいやいや値札を見ろって」
結局、「デートの思い出」というよく分からない理由で半ば強引に購入される。
袋を受け取った手が、またすいせいに握られた。
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6.
茜色に染まった空の下、川沿いの遊歩道をふたり並んで歩く。
水面に映る夕日がキラキラ揺れている。
「···きれいだね」
みこはぽつりとつぶやく。すいせいはそれを聞いて、ふっと笑みを零した。
「みこちもね」
すいせいが軽く腕を回す。みこはびくっと肩を跳ねさせて、慌てて隣を見る。
「や、やめてよ──びっくりするから」
「そう? 甘えた声出てるよ」
すいせいは少しだけいたずらっぽく目を細め、みこの肩に顔を寄せた。
「恥ずかしいの、隠さなくていいんだよ」
みこは顔を背けるが、その頬はほんのり赤い。
そのまましばらく歩き続けた。
「──そろそろ駅だよ」
すいせいの声に、みこはほんの少し寂しげにうなずく。
「···今日、楽しかった」
「うん。私も」
手を繋ぎ直すその指先が、じんわり温かい。
駅の改札前で立ち止まる。
「ねえ」
すいせいがみこの腕をそっと引き寄せ、軽く抱きつく。
「···やめて、周りいるでしょ」
「大丈夫、誰も見てない」
「ほんとに?」
「周りなんてどうでもいいじゃん。···私だけ見てよ」
みこは苦笑しながらも、すいせいの胸に顔を埋めた。
「ん···こういうの、ちょっと慣れてきたかも」
「ようやく?」
すいせいは小さく笑い、みこの背中を撫でる。
「もう、離さないからね」
「重すぎるよ、すいちゃん」
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7.
改札を抜けて改札前の広場。夜風が冷たいけれど、ふたりの距離はぐっと近い。
「明日も早いし···」
みこが言うと、すいせいは少しだけ寂しそうな顔をした。
「じゃあ、また明日ね」
言いかけて、みこはすいせいの手をぎゅっと握る。
「ねぇ、もうちょっとだけ」
「え?」
「こういうの、もうちょっとだけ続けていい?」
すいせいは目を細めて頷いた。
そっとふたりは寄り添い合い、すいせいがそっとみこの背中に手を回す。
「どこにも行かせないよ」
みこはその言葉に、小さな声で笑った。
ふたりの顔が近づく。息遣いが交じり合う。
すいせいがそっとみこの髪を撫でる。
「好きだよ、みこち」
みこはじっとすいせいの目を見る。
「うん。私も好きだよ」
2人の距離はゼロになった。
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8.
家に帰ってからも、2人はメッセージのやり取りをした。
夜の静けさの中、それはいつまでも続き···気付けば2人は寝落ちしていた。
そして大寝坊した結果、みこちの朝活配信は11時に始まり、すいせいのレコーディングは翌日に持ち越しとなった。
このエピソードは多くの切り抜き師にすっぱ抜かれ、「てぇてぇ」コメントが乱舞する事になるのだが···それはまた、別の話。