12.
51口径の機銃弾丸が飛び回る。さすがにその銃弾を受けて無事で済む存在はない。
だから『部長』も『オキタ』も隠れることにした。ただしただでは隠れない。発砲。2人の5.56ミリライフルの銃口の向きは、少し遠く離れた場所で暴れるモンスターたち。群れを刺激した。刺激された群れは押し寄せてくる。
『 邪魔だァァア!!』
銃口の矛先をそこに向けた。その一瞬を狙って『部長』は構えたライフルの銃口を『大尉』のインファイト・フレームの頭部センサーへ。
50口径の直撃に耐えうるボディ・アーマーが行き着いた結果の4メートルほどの軍用パワードスーツ、中国製第3世代インファイト・フレームQE-N303。
当然単なるライフル弾に壊されるセンサーではない。だとしてもそれが繰り返されれば無事で済む話でもない。
『 クソがっ!』
気づいて、こちらに改めて銃口を向けようとしてゴブリンが、トロールが、スライムが、なだれ込むようにインフレスーツ――インファイト・フレームをめんどくさがってそう呼ぶ風潮は強い――に襲い掛かる。
埒が明かないと判断した彼はインフレスーツの格闘機能を起動したらしい。全身の各所より飛び出すのは高振動ブレードの刃先。
手足腕に胴体から生えた複数の10センチほどの刃先とは別に右腕から射出されるように現れる1本の直刀。
薙ぎ払い、トロールにはタックルして7.62ミリのライフル弾を左腕に内蔵された水平二連式の銃身から叩き込む。
接近戦用であり、セミオートで10発しか装填されていない機構。
『 撃てッ!!』
『大尉』は命令する。すなわち部下たちへ。彼らの銃口は当然のようにこの事態を引き起こした『部長』と『オキタ』のコンビ。
ダンジョンにおいて強者とは強力なスキルやアーツが使えるものではない。銃火器で大量の銃弾を使うものや狙い打てるスナイパーではない。
もちろん剣豪が強いわけでもない。
むしろ武術の粋を極めようとする武術家ほど、こう答える。「銃も剣も地形も環境もあらゆるものを使いこなせ」と。
それはダンジョンで活動するプロの人間ほど同意するものだ。
どんなものでも使いこなす奴が一番恐ろしい。恐ろしいって事は単純な強弱ではない。だが、侮れば絶対的な弱者に落とされる。
例えば、
(なんだ?)
大陸の兵士の1人は小さな音を聞いた。すぐさま散弾銃に持ち替えて頭上を見る。この手の音の正体がドローンなんてよくある事だ。
何もない。
(気のせいか?)
そう思った次の瞬間、足元からスライムが広がった。
超低空飛行のカメラドローンによるスライム輸送は成功した。
スマホを操作していた『オキタ』はそう判断し、ドローンを遠ざける。ドローンが撃墜されたら財布に大打撃でヤバい。
兵隊どもよりカメラドローンにかかる費用を本気で心配する『オキタ』だが、そんなカメラドローンを一種の牽制武器として使用することには疑問が無いようである。
敵兵がスライムに文字通り体温を吸われて動きが鈍くなりどんどん体が凍死していく状況をカメラは全国に配信しながらこの後のアクロバット飛行に突入する。
Tips:『スライム』……繰り返すが、ダンジョン内部のモンスターは極論何かしらの物質や物理法則をそういう怪物としてアバター越しに観測した結果の代物だ。
スライムは主にアンモニアの冷媒としての性質などをそう観測したものだと考えられている。
アンモニアに限らず何かしらの冷媒をスライムとして定義しているので、熱量に反応して増殖する現象が確認されている。おそらく熱の拡散をそういうものとして受け取っている。受け取らざる得ないのだろう。結果として体温さえ急速に奪う恐るべき怪物としてのスライムがいる。
『 ドローンかッ!? だったら、こうするまで!』
データリンクが映し出すのはこの周辺の詳細なマップとそれに光点で表される動体目標の数々。
すなわちレーダーや各種センサー系をAIによる情報統合分析によって得られる代物。『大尉』が組織だからこそ出来る物。
そして、後方の移動拠点に一つの命令文を送り込む。すなわち対空レーザーを稼働し、すべての飛行目標を迎撃せよ。
隠して巻き込まれるように県警のドローン部隊が撃墜されるがそれを知るものはこの場にいない。
なおカメラドローンはすでに着地している。そんなものを迎撃できる対空レーザーなんて存在しない。
走り出す。
『オキタ』と『部長』の2人はそれぞれ別方向に走り出す。
スライムによる混乱、対空レーザーの乱舞による頭上から放たれる無数の衝撃波。
その中を走る2人にインフレスーツのF.C.S.はちゃんととらえる。銃口を2人に向ける。
ポンと軽快な音。そしてインフレスーツ直上での大爆発。
(アクティブ防御が発動!? 何処から!?)
『大尉』のその疑問は、『オキタ』と『部長』の双方から聞こえてくる軽快な音をセンサーが捕らえて答えを教えてくれた。
擲弾。すなわちグレネード。アドオングレネード。
『日本製最新:5.56ミリアサルトライフル』は日本製小銃の特徴というべく、ライフルグレネードが使用できる。
それとは別にアドオングレネードのアクセサリーも付けられる。結果出来上がるのは2発の擲弾を立て続けに射撃できるライフル。
おまけにライフルグレネードには一つの特性がある。アドオングレネードより威力も射程もデカい。
つまり、センサーが答えを教えてくれる頃には次の擲弾攻撃が目の前に迫っていて、アクティブ防御機構が迎撃の短針を射撃しインフレスーツの目の前で派手に爆発する。
爆発に紛れて落ちてきたものをアクティブ防御機構は反応しない。それは低速すぎた。
布を振り回す原始的な投石による手榴弾が2個。
「「よしっ!!」」
『オキタ』と『部長』の声が重なる。それとは別に2人はすでに薙刀片手にインファイトフレームの目の前に左右から迫っている。
Tips:『インファイト・フレーム』……何度も繰り返すようだが、素材工学の発展は50口径の直撃にも耐えうるボディアーマーを実現させてしまった。
結果として対歩兵兵器の火力が引き上げられ、今度はそれに対抗するべくボディアーマーはパワードスーツ化していく。
それがインファイトフレームだ。インフレスーツとも言われたりする。
Tips:『現代化刀剣類』……やはり以前にも説明した通り、インフレスーツを安い手段で確実に撃破する方法を模索した結果、高振動ブレードだの
アーク雷撃サーベルだのそういう刀剣類のSF武器化が進行した。
皮肉なことに現代化刀剣類は正規軍の戦場よりダンジョンの内部での使用の方が多い。ダンジョンでは銃弾より安く手入れの楽なこれらの武器の方が経済的なのだ。
つまり、理論上はインフレスーツをこいつを装備した人間で倒せるということである。理論上は
『 舐めるなぁぁあああああああああああ――――!!』
駆動系が唸り声をあげ、『大尉』の動きの動作拡大は51口径とも称される中国製の重機関銃を文字通りぶん投げさせた。
投げた先にいる『部長』は小さく笑う。
『 !?』
重機関銃が空中に消える。『部長』が笑いながら薙刀の刃を突き付けてくる。
甲高い音と共にインフレスーツの装甲版と薙刀の刃がぶつかった。刃筋を立てるその動きは装甲版を切り開いていくが、インフレスーツは人の形をしている。
2本の腕で抵抗することが出来る。
けれど、2本しかないともいえる。『部長』の方角から反対側を切りつけるのは『オキタ』の薙刀。
(クソがッ!!)
スーツの内側、手先は操縦桿を握っている。いかにパワードスーツと言えど、指先まで追従操作させてはセンサー系統を始めとする色々な操作に支障をきたす。
だから操縦桿を握り、引き金状のスイッチやフロントブレーキレバーのようなものを握ることで色々な操作が出来るようにされている。
インファイト・フレームの指先はどうなっているのか? 事前に設定された複数のマクロに従って握ったり手放す動作をする。
引き金を引いた。設定されたマクロが機械で出来た指、すなわちマニュピレーターを特定の形に変貌させる。
すなわち目潰しの形状に。放たれるのは目潰しの形をした右腕。
「!?」
本能的な行動は肉体を制限する。目が潰せなくても別に良い。ひるませることが目的だ。
右腕の先にいる『オキタ』は見事に反応した。やはり、微妙な腕前の違いは反応の違いでもある。
「バカっ!」
『部長』が思わず叫んだ。それとは関係なく『部長』の体が動く。反射に等しい動き。薙刀の刃が相手に当たる寸前に手を放す。
勢いのまま、インフレスーツの懐に入り込む。
古武術、特に薙刀術の中には薙刀を手放して懐に入り込んで、相手の脇差を引き抜いて刺し殺すという殺し技がある。
これはその応用。懐に入り込んで引っ張るのはインフレスーツが使用する予定でぶら下げている手榴弾のピン。
『 !?』
それが一度状況をリセットする契機となった。
起爆する手榴弾。50口径の直撃にも耐えるといっても無敵ではない。大急ぎで起爆寸前の手榴弾を投げ捨てようとする。
それは立派な隙で、危険な状況に陥った『オキタ』とそれを強引に捻じ曲げた『部長』にとって距離をとって体勢を立て直すいい機会となる。
とはいえ、それで作れた隙は小さいものだ。
『――認証。照射します』
インフレスーツの試作兵装『雨傘』から放たれる自由電子のビームの本数は12本。曲射弾道軌道を描いて周辺一帯すべてを薙ぎ払う。
そして、突如膨れ上がった膨大なスライムの質量にインフレスーツが押しつぶされそうになった。
『 ば、バカな!?』
ビームの砲門寸前まで迫る。熱量がスライムを増殖させ、蒸発をさせる。その均衡点を超えて爆発的な増殖。
もちろん爆発的な増殖は最初のことで、増殖速度は時間を得るごとに下がっていき、均衡点以下へとなれば蒸発する量が増える。
だから、時間はビーム兵器を使う『大尉』の味方だ。でも、蒸発より増殖速度が一度は上回る量のスライムはいったいどこから来たのか?
「追加だよ!」
『部長』がそう叫ぶと追加のスライムが空中より流れ落ちていく。
Tips:『部長』……本名:
咲坂高校冒険部の部長を務めている。トリガーハッピー。近接反撃型99スコア。
薙刀の有段者であり射撃競技においても一定の結果を出しているアスリートもどき。
道場の娘であり、祖父母の代から続く自衛官一家でもある。
繰り返すが彼女は近接反撃型99スコアの指標を持っている。彼女を単純計算的に考える場合、彼女に勝つには機動防御型の99以上のスコアの持ち主と言う事になる。
主な武器は薙刀が2本と『日本製最新:5.56ミリアサルトライフル』、『アメリカ製:7.62ミリDB式アサルトライフル』。
近接反撃型99スコア。つまり、指標だけで彼女にタイマンで勝とうと思えば、機動防御型の99以上の持ち主を連れてくる必要がある。
使用するスキル、アーツは以下の通り
『アーツ:3セコンドアクション』……3秒後に手榴弾を起爆するなど、強制的に3秒後に機能を発動させる。消費SP2
『スキル:HEATブースター』……HEAT効果を増強させる。HEAT効果の無い弾丸の類いでも強制的にその効果を持たせるが、極めてエネルギーの無駄でもある。消費MP5
『スキル:収納箱』……消費MP10 『アメリカ製:S.A.式12.7ミリ対物ライフル』、『日本製:ライフル・グレネード』
『 クソが、スキルか!』 『――照射終了。強制冷却開始』
『 冷却中止! 照射しろ!!』 『――警告・非推奨。冷却終了、照射準備中』
『大尉』は叫びながら鞭を取り出す。鞭は場所をとらないから腕に巻き付けるように保持していた予備武器だ。
それは人力で音速を超える唯一の手段。
音速攻撃とは銃弾に匹敵するし、銃弾より応用が利く。切断攻撃も出来るし打撃も出来るし相手の動きを拘束することも出来る。扱いが難しいだけで万能武器だ。
ましてや、今時の『現代化刀剣類』として単分子素子が織り込まれているのでよく切れるし電撃攻撃も出来る。
『 こい、化け物ども!!』
すっかり化け物呼ばわりされてる『部長』が取り出すのは7.62ミリのダブルバレル。
いや、盛り上がっているところ悪いけど何で迎え撃つ気満々の奴の懐に突撃しなきゃいけないんだ。
銃口から飛び出す7.62ミリのフルサイズライフル弾はしかし50口径の直撃に耐える装甲版が音を鳴らすだけ。
本当にそれだけか? 50口径の直撃にも耐えるボディアーマーの開発はそれをいかに突破するかを考える事になった。銃弾の改良も入る。
多くの場合失敗した。ボディアーマーの突破は出来なかった。でも
『 センサーが!?』
数を重ねれば装甲じゃない物をぶっ壊すことは出来る。
『――出力40%にて実行。照射開始』
ビームが再び放出されるが、その本数はおよそ4本。明らかに射程も短くなっているが、人の目にそれは見えない。
ただし、空気中の塵に反応して一瞬だけ一筋の光が4本見える。それも光の一本線なのに曲がる。
ビームを曲げる仕組みにはドローンを使っている。支援ドローンが形成する磁気フィールドとセンサー系統のおかげで偏光ビームは実現させている。
ドローンが、撃ち落された。弾丸はバードショットと呼ばれる鳥撃ち散弾銃用のシェルショット。
撃ったのは『オキタ』。
明後日の方向に曲がったビームは『部長』に当たらずスライムの質量を増やすだけ。
『 照射中止!! 冷却もやめろ!! 3秒後に再照射ァ!!』
『大尉』が切り札を切る。すなわち、例の時間構造結晶体。すでに3度使われ、残る結晶は2つ。4度目の時間の引き延ばし。
1秒を10秒に引き延ばす。使用方法は結晶を破壊すること。破壊した当事者は1秒間が10秒に引き延ばされた空間を自在に行動し、破壊の瞬間を観測したものはその様子を観測することが出来る。観測しなかったものには見えない。
1秒が10秒になる空間でビーム兵器を振り回す。今までやってこなかった最悪の組み合わせ攻撃。
「2人とも!!」
『関西』の声だった。何かを投げる。正体はリボルバー。『オキタ』と『部長』に向けて投げられたリボルバー拳銃を2人は受け取りそして――――
――結晶が壊される。時間が引き延ばされる。カメラドローンはすべてを配信する。
――結晶が壊される。時間が引き延ばされる。その場にいた人々は見る。ビーム兵器の砲門から怪しげな光が漏れ出るのを。
――結晶が壊される。時間が引き延ばされる。そして、45APCの銃弾が12発、ビーム兵器の砲門やセンサーに叩き込まれた。
1秒を10秒に引き延ばそうが、そもそもインファイト・フレームが盛大に自爆すれば何の意味も無い。
(な……ぜ?)
『大尉』の疑問。インファイト・フレームが破損しHPが残り1、視界が歪み、意識レベルが低下する中で浮かぶ疑問。
それは彼だけのものではない。いったい何が起きたのか。わかるものは一握り。
【特命野郎Bチーム!】
クイックドロー
【地対艦ミサイルを撃ちたいさん】
えっ、世界記録今更新された?
【「ベンさんがいく」好き@推しキャラはCちゃん】
あの……なにがおきたの?
『オキタ』が持つスマホはカメラドローンを通して何が起きたのかすべてを配信していた。それでも理解が難しいものは難しいに決まっている。
『部長』と『オキタ』がその手に構えるのはリボルバー拳銃で、その姿勢は極めて独特。
ホルスターから取り出したわけではないので、特徴的な姿勢を省略したとはいえ、腰の独特の動きは必要だったのかもしれない。
【特命野郎Bチーム!】
日本人でクイックドローをダンジョンでする始めてみた
【地対艦ミサイルを撃ちたいさん】
いや、アバターだから世界記録ではないか
【「ベンさんがいく」好き@推しキャラはCちゃん】
知ってる人たちが勝手に納得を始めた
【Ko-no-za-ma】
アメリカの早打ちスポーツってやつ?
Tips:『クイックドロー』……主にアメリカで行われている拳銃の早打ち対決競技。
この手の競技は0.2秒で2つの的に合計6発の弾丸をあてたなどの記録が存在する。
1秒が10秒になったからどうした。0.2秒で6発の銃弾を狙った場所に叩き込む早業に関係あるんか?
「さて、とりあえず、この後どうします?」 「うーん。とりあえず大陸の傭兵たちの強そうな連中は手当たり次第殴ったし……」
「やってくるモンスタートレインまでは今更どうすることもできへんで」 「その通りです。『部長』、出来れば離れた方が……」
「とはいえ、この人たち私たち狙いも含めてモンスタートレインしたらしいじゃん」
ついに4人そろった『冒険部』4人組は、HP1の状態で生きている『大尉』をガムテープでミイラのようにぐるぐる巻きにしながらこれからの方針を話し合う。
すなわち
「つまり、『部長』。やれるところまでやる。それでいいんですね?」
「もちろん」
『 ば、バカな……』
4人組のこれからやろうとしていることに気づいた『大尉』は拘束されているにも関わらず、口を開く。純粋に意味が分からなかったから。
『 1万を超える規模のモンスターだ!! 装甲化トロールのような銃弾の通じない奴らだっていっぱいいる! それをお前ら4人でどうにか』
「なんで私たち4人だけって決めつけるの?」 「それに私たちはあなたたちから良いものを貰いましたです」
彼らの手にあるのは最後の1個の結晶体が収められた小さな箱。
「『時間構造結晶体』は私たちが今回のこのために使わせてもらいます」
「焼け石に水やろうけど、切り札は多いほどいいもんや」