13.
どれだけ最前線がボロボロでも撤退が許されないときというのは間違いなく今のような状況だろう。
押し寄せる大量のモンスターたち。すなわち西洋の
「隊長……砲弾が足りない。どうする?」 『――どうもしない。俺たちが逃げたらここはおしまいだ。撤退するにしても限界まで戦ってからだ』
『春日の警備隊長』は無線を通して全体に指示を出す。本社からも死守の命令が出ている。
たくさんの民間人がいる今の状態で崩れたらすべてが終わりだ。
「まもなく地雷原に突入する。多分、あっという間に溶けるぞ」 「どっちが?」
「地雷と電気柵の方が」
そんな軽口が応酬するのは対モンスターの最前線の一つ。様々な『傭兵企業』が境界線の哨戒任務を国から受注したりしてこの場所を守っている。
とはいえ、大陸勢力の介入やら警察VS女子寮やら労基VSブラック企業の傭兵やらのドンパチによって武器弾薬はもちろん全員が消耗している状況で押し寄せてくる万単位のモンスターたち。
60ミリ軽迫撃砲と81ミリ軽迫撃砲が共に軽快な音を立て、
そして、60ミリ、81ミリの砲弾が炸裂し40ミリの擲弾がモンスターたちをズタズタに引き裂いていく。
「陸戦ドローンを全部出すぞ。どうせ長くはもたない。使わずに壊されて大赤字を上から詰められるより使ってダメになる方がまだマシだ」
『――許可する。こっちもありったけのドローンを出す』
尤も焼け石に水なのは誰もがわかっている。
1本の巨大な塹壕、蛸壺、そして鉄条網に電気柵に地雷原。そして土嚢と水をたっぷり入れたドラム缶の組み合わせででっち上げた島嶼型陣地に重機関銃の銃座。
鍾乳洞を思わせる地下空間に出来た広大な水のない地底湖を連想させる広大なエリアの高台。
だからこそ、ここにはいつしかたくさんの人々が一夜の安全を求めて集まり、一種の城塞都市もどきとなった。
それが『代々木ダンジョン村』。ダンジョン――俗称、本当は異次元の世界――の地球規模の世界に出来た北九州最大のテント村。
弾性防御を起点に考えられた塹壕の戦線の第1線はすでに突破されている。本命の第2線についにモンスターの群れがたどり着く。砲兵たちの砲撃が弱くなったから。
「地雷の爆発を確認! 電気柵およびセントリーガンが動き出しました! 電気柵の電気消費量が増大化!」
「重機関銃を構えろ。接近戦チームは『現代化刀剣類』のスイッチを今のうちに入れろ!! 数に任せて塹壕の内部に入ってくるモンスターを高周波ブレードだのなんだの
ありったけの方法でぶった切って、ぶちのめして、塹壕を死守しろ!!」
『――そっちに増援が向かっている! 増援の数は2名! 近接擲弾兵だ! 遠慮なく死地に突っ込ませろ! 覚悟の上だ!』
「たった2人ですかよ!! それも近接? ありったけの擲弾をぶっ放した後、刀剣で突撃するタイプ!?」 『――その通り、使え!!』
「くそ! 隊長、恨みますよ!!」
そして、轟音と衝撃波で無線の声がまともに聞こえなくなった。戦闘が、激突が始まった。
『 というわけだ。当然俺たちにも民間企業連中の味方をする必要がある』
「でしょうね」
疲弊に疲弊を重ねた県警のダンジョン突入部隊だが、この状況下で尻尾を巻いて逃げるわけにもいかない。
けれど全体の第1線が崩壊した以上、その一員に過ぎない『村井』と『加西』の2人組は第1線の塹壕陣地の一つに過ぎないこの場所にいても死ぬだけだ。
「急いで後方の第2線に合流する」 『 援護するが、ドローンの数が少ない。大陸の連中に撃ち落された奴が多すぎる。爆撃用の手榴弾の数も少ない』
県警の嘱託部隊の一員に過ぎなかったはずのコールサイン『ドローンマスター』――なお、みんなから『マスドロ』と呼ばれる――は今回の事件の県警MVPに違いない。
彼がいなかったら県警はとっくに壊滅してただろう。
「県警さんも大変そうで。……国税庁から派遣された奴らから連絡が来ました。彼らも使えるすべてのドローンを県警さんに預けると決めたそうです」
『長谷川』と『川上』が県警に役人連合が合流しつつあることを報告する。
『 虎の子の「
「さっきもきいた!!」
『村井』と『加西』の女性刑事コンビは馬鹿ども――『女子寮』の3人娘、使えるかと思って一度は手錠を外してやったのに!! ――を抱えて塹壕陣地から抜け出ようと悪戦苦闘中。
「後から乱暴されたって訴えないでくれよ!」
『春日の警備隊長』が『女子寮』3人娘のうち2人を抱える。先ほどまでタブレット端末片手に色々と各所に指示を出していたが、第1線塹壕陣地に孤立している自分に出せる指示はもう終わったと判断した。
『村井』、『加西』、『春日の警備隊長』に『赤井』、そして色々あってこの面々と合流した労働基準監督署の『長谷川』と『川上』の男性コンビと『女子寮』3人娘。
つまり、女性が6人、男性3人。少し肩身が狭い。
『 3、2、1!』
『マスドロ』の無線越しの声と共に衝撃波と爆轟が吹き荒れる。出来上がるのはか細く、数秒しか続かない安全地帯。
『 走れッ!!』
4人+アルファは走る。『村井』が足元から嫌な感触を感じる。
(スライム――!)
無視して走り抜ける。もしも今、立ち止まれば足先がものすごく冷たくなっていくのを感じる羽目になっただろう。
だが、かろうじてそうなる前に足が前に出る。
そして、職業病か。スライムに飲み込まれた奴がいないか周囲を見渡してしまう。
だから、そこら中にゴブリンだのイソギンチャクに鋼鉄の足がついた感じの怪物だのが跋扈し取り残された数少ない人間である自分たちに群がろうと走っている。
「走れ、走れ、はしれっ!!!」
叫んだ。走った。一目散に。
『 急げ、囲む速度が速すぎる!! もう一度爆撃する! このエリアに……見てる暇なんかないか!! 爆撃に注意! 3、2、1』
手榴弾とダイナマイトが投下される。だが、その数はせいぜい10発程度。枯渇はもう目の前だ。
状況は崩壊寸前。
「こっちだ急げ!」
誰かの声。第2防衛線の兵士の声。二連装の12.7ミリ重機関銃の銃座から声を張り上げている。
「クソッ! 当たっても許してくれよ!!」
1分で500発以上の12.7ミリ50口径フルサイズライフル弾を叩き込む重機関銃が2つ並んで稼働した結果がもたらすのは、一時の安全と脅威へと最優先で
殺到する化け物の群れ。
「早く、速く走れェェエ!!」
恐怖に震える声。弾切れ次第、あの兵士には終わりが訪れる。本来であればキルゾーンを形成して処理しなければならないのに、それが出来ない。
だって、そんなことをすればあの人間達もキルゾーンに沈むじゃないか。
ベルト給弾のリンクが兵士の足元に貯まる。薬莢と共に貯まる。ベルトの長さは、およそ2000発。それが2本。同時にたたき出される12.7ミリ
3分もあれば弾は尽きる。
間に合った。『村井』も『加西』も他の面々も塹壕に駆け込めた。
でも弾切れには間に合わなかった。モンスターの群れに銃座が襲われ、銃座は自爆する。
『――急ぎ、穴をふさげ! 突破されるな!!』
各所から聞こえてくる銃声と剣戟の音の中、塹壕に駆け込めた面々は荒い息を吐きながらそれぞれ銃を手に取って振り向く。
狙いもろくにつけずに引き金を引いて牽制。
非ニュートン流体、高分子ゲル状の表皮を持つ銀色河童にぶつかるライフル弾、拳銃弾は、だがしかし貫通も損傷を与えない。
内包した運動エネルギーが大きすぎて、高分子ゲル状の表皮物質による防弾効果。
かといって『村井』が引き抜いた日本刀は、非ニュートン流体、形状記憶複合高分子セラミックゲルの表皮を持つ白色林投姐という台湾妖怪に由来する
人型のモンスターに刃を突き立てる事が出来ない。
轟音。ジェットエンジンとロケットモーターの排気音。
『――近接擲弾兵、着弾……今!』
飛び込んでくるのはアメリカ製の第3世代インファイト・フレーム。
滑空できる程度の機能を有する翼と加速用のジェットエンジン、そして目標地点へ空中投下より巡航で戦域へと投入する目的のロケットモーターを有する
空飛ぶ爆撃機型の歩兵というコンセプト。インファイト・フレームの誕生経緯を考えると色々と本末転倒なバカげた代物。
無誘導のロケットポットより射出される12発のロケット弾。
40ミリのリボルバー機関砲が火を噴き、ライフル弾程度に耐える程度の防弾効果を貫いてモンスターの群れをズタズタに引き裂いていく。
「……アレ? あんなのうちにいたっけ?」
仮にも指揮官を先ほどまで勤めていた、『春日の警備隊長』の一言。
「「「……救援が来た?」」」
それが、あの謎のインフレスーツに対する全員のコメントであった。
そして、それは図らずもちょっとだけ当たっていた。援軍の先遣隊として1個小隊規模の人員が到着したのである。