咲坂高校冒険部活動報告書   作:ホエール

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最終章 14.

 

   14.

「マネージャーいける?」  「問題ない」

「Pは?」  「そっちもGOサインが出た」

「あの娘たちは?」

第2防衛線よりさらに奥地。『代々木ダンジョン村』の本土側の入り口。日本本土、九州方面より人が入ってくる入り口のあたりで一団が車両から降りる。

この辺まではまだモンスターの大群は押し寄せてきていない。

ちょっとした城塞都市の姿かたちをしている『代々木ダンジョン村』の城門と呼ぶべきか、ゲートを彼らは超えていく。

そんな彼ら彼女らの後ろにはまだまだ車両と2人乗り計量バギーの群れ。

 

「頑張ります!! ぜひ使ってください!」

5人の女の子。全員が色違いで魔女帽を被った季節違いのハロウィンをモチーフにしたと想像させるアイドル風衣装を着けている。

しかし、その5人組とは1メートルほど離れたところにいる1人の美少女はこれまた季節違い、鬼娘を連想させるアイドル風衣装に身を包んでいる。

 

「しかし、本当にやるのな? まだ大陸勢力が持ち込んだ『妨害装置』とやらが動いてて、安全とは言い難いぞ。どんなことになるかわからんぞ」

「何を言うんですか。私のゲリラライブって、元々100%の安全なんて元々なかったじゃないですか。だからこれで良いんです。『ちーきたん』はそういうアイドルなんです。

元々ライブの予定はあった。それを少しだけ繰り上げた。単にそれだけに過ぎない。

けれど、熱意溢れるファンはついてくる。迷惑ととらえるか、それともダンジョンと呼ばれる世界が生んだ狂気の産物ととらえるかは人それぞれ。

彼女たちのライブの機材が次々と運ばれる。すなわち、シンセサイザーやスピーカー、6連式グレネードランチャーや軽迫撃砲とその砲弾。

大量のバッテリーに発電機。魔女の箒そのまんまな姿かたちをしている『ダンジョン式∴G.D.様式機械化兵装』とかいうカテゴリの特殊武器まで、色々と取り揃えている。

演出用のARプロジェクターに無数の照明機材。フルトラッキング用のアクセサリー型のセンサーの詰まった宝石箱から取り出す腕輪を女の子たちは身に着けていく。

 

「さぁ、予告通り『ちーきたん』のライブを始めるよ! ただし、日程がちょっと早まったゲリラライブだけどね!」

 

 

 

「頭おかしいだろ」

『村井』の口から出てくるのはそんな言葉。ダンジョン系バーチャルアイドルの『ちーきたん』はダンジョンでの活動を主とする連中の中では有名人だ。

熱心なファンとアンチを同時に山ほど持ち、しかしダンジョン――正確にはディープ・フロンティアスペース――内部での活動の必須であるアバター機能を用いて正体不明の大人気美少女アイドルをやってる奴として。

 

「でも有名ですよ! 『ちーきたん』のゲリラライブのオタ芸統制射撃!!」

「何その言葉の組み合わせ、頭悪いの? ゲリラライブで、オタ芸で、統制射撃って」

そこに爆音が鳴り響く。

典型的なアイドルソングにも聞こえる爆音の正体は、シンセサイザーが奏でる音楽を拡大したもの。

そして時折混じる野太い声の咆哮。

 

―― 「ずっきゅん、ずっきゅん、ばっきゅん、ばっきゅん、ウー、ドーン!」 ――

―― 『『『ずっきゅん、ずっきゅん、ばっきゅん、ばっきゅん、ウー、ドーン!!!』』』 ――

そして落ちてくる軽迫撃砲の砲弾。掛け声に合わせて親衛隊(TO共)の連中が放ったものだ。

アイドルソングの掛け声に合わせて軽迫撃砲やらグレネードランチャーやらが砲弾を解き放つ。

着弾点のぶれはあるが、きれいな同時砲撃。結果として同時着弾。ド派手な攻撃だった。

 

「とにかく、これで何とかなるんですよね!?」

今までの強いストレスから逃れたと感じた『加西』の表情が無駄に明るい。

 

「いや、かなり難しいだろうな」

『長谷川』が警察2人組の会話に加わってくる。曰く

 

『所詮はアイドルとその親衛隊。アイドルの動員力が万単位だったとしてもゲリラライブの時点で集結には時間がかかる。

またこういうイベントごとにはそれを統制するスタッフのサポートが必要だが、今回は単なるイベントではなく一種の軍事行動を含んでいる。

それどころか、代々木ダンジョン村を救援するために動いているのは様々な武装した企業、警察組織、自衛隊関係者も動いており』

 

「後方でこれらが渋滞を始めたら、やはり主力の到着は遅れる」

別にアイドルは悪いことをしてはいない。むしろ救世主だ。

ただ、言ってみればその立ち位置は『義勇兵(ボランティア)』であり、正規兵じゃないので無理な扱いは出来ない。

おまけにまだボランティア用の事務局などは立ち上がっていない。つまるところ善良な市民の自発的な協力なのだ。

 

「悩ましいわね」

―― 「ずっきゅん、ずっきゅん、ばっきゅん、ばっきゅん、ウー、ドーン!」 ――

―― 『『『ずっきゅん、ずっきゅん、ばっきゅん、ばっきゅん、ウー、ドーン!!!』』』 ――

会話を遮るように聞こえてきた歌と地響き。統制された砲撃によりモンスターたちの群れが文字通り吹き飛んでいく。

すっかり救援のインフレスーツの影が薄い。なんだか手持無沙汰で居心地が悪そうだ。

バックダンサーのウィッカガールズなるアイドルグループが魔女の箒に乗って空を飛ぶ。

そういう『スキル』の類なのだろう。インカムマイクに向けて何やらコーラスを歌いながらレーザー誘導兵器のレーザーをモンスターの群れの各所に向けていく。

 

「『加西』いくわよ」  「えっ、どこに?」

「ここでドンパチするより警察官としてまともな仕事が出来る場所に行くわ」

すなわち、アイドルのライブ会場へ。

 

「混雑整理に行くわよ!」

 

 

 

「やれやれ、警察さんはたくましいねぇ」

『長谷川』と疲れ果てた顔してもはや一言もしゃべれない『川上』は県警2人組と連行されていく『女子寮』3人娘を見送りながらその場に座り込んでいた。

元をたどればダンジョンを悪用しているブラック企業の摘発の為に労働基準監督署はもちろん国税だの麻取だのそういう色々な行政庁役人連合で

押しかけて、ドンパチが始まり、気づけば大陸の傭兵と戦い、そして今大陸の傭兵がやけくそで仕掛けたモンスタートレインに巻き込まれたという状態だ。

 

「公務員としてはもう十分な気がするな」

『長谷川』の素直な感想。しかしその手つきは足りない手持ちの弾薬を補充する。

 

「『川上』。お前は非常勤職員だし、もう帰っていいぞ」  「えっ!?」

「俺はもうちょっと残業するわ」  「いや、どうやって帰るんですか!?」

「あの女刑事さんたちの後についていけばいい。救護所的な場所で休んでいればそのうち帰りのバスみたいなものがくるさ。たぶんな」

唐突に告げられた言葉に『川上』の心がついていけない。

今更!? そう脳内が叫んでいるが口が動かない。

代わりに手が動いた。『長谷川』の『現代化刀剣類』のレイピアに使われているバッテリーを手に取って『長谷川』に渡すのだ。

 

「俺はそんな薄情な人間じゃないです」

そんな2人のやり取りを見ている赤色のゴスロリに身を包んだ『赤井』が何やら数学の問題を解いてる視線を向けているが、それはそれとして『春日の警備隊長』もまた

無線機とタブレット端末を用いて各所と連絡を取り合い、指揮権の再掌握に努める。

 

「『赤井』さん、あんたはどうします?」  

「村の幹部の1人って言っても、正式な行政組織なんて無いから、私に出来るのは関係者への呼びかけくらいよ。下手したらアイドルのちーきたんのいうことにみんな従うかもね」

自虐の笑み。けれど、『赤井』の瞳に諦めなし。

 

「ダンジョンの内部に定住するような変態の古参はこの程度では折れないって奴?」  「その通り」

『春日の隊長』と『赤井』はお互い最後の会話を交わし、笑いながら自分たちのスマホでどこかと連絡を取り合う。

少なくとも今日の即席『春日の隊長』と『赤井』のコンビはいったん解散だ。彼ら彼女らは自分たちの持ち場に戻るのだ。

その――ハズだった。

落ちるはずの軽迫撃砲弾が閃光とともに無力化される。

 

「「SEE!?」」

装甲化トロールがその数5体、そしてその後ろに控えるのは、もはや5メートルクラスのトロールとは比較にならない存在。

巨大なグレイ・カユブユアナ。台湾の民族伝承に伝わる人外と化した人食い民族。

その顔は一見すると普通のアジア人男性にも見えた。長い髪はアジア人女性にも見える。けれど口を開ければそこからは無数の目玉がこちらを覗いている。

耳からは蛇を思わせる細い舌が飛び出す。

腕は4本に増えたり2本に戻ったりを繰り返し、中国式の短甲らしき何かを身にまとっている。その黒い肌と猟犬のような何かに跨った姿は異形の騎士さえ思わせる。

当然、ダンジョンで見つけた怪物を妖怪伝承に沿って名付けているだけで、本物ではない。

だが、人食いの存在の名前を付けられる怪物がどれほどの脅威か語るまでもない。

 

「やばいぞヤバイぞっ!!」  「反撃がきちゃう!」

SEEで砲弾のエネルギーは閃光と熱量に変換された。そしてそれでも生じる余剰やそもそも膨大な熱量を捨てるために何をするか。

誰もが覚悟した。アイドルライブのど真ん中に着弾する熱戦のイメージを。

 

そして、気づけば大量のスライムの壁が再びの閃光とともに放たれた熱戦の熱量を食って食い止めていた。

 

「間に合ったァ――!」  「もったいないです。結晶使っちゃいましたね」

何処からスライムは来たのか。答えは、目の前の4人組がすべてだ。

 

「よくわかんないけど、アイドルがでかいイベントを開いているのなら、私たち以外のカメラドローンが飛びまくってる!! このままカメオ出演して出演料せしめるよ!」

「「「カメオ出演の意味わかってから言え」」」

『部長』と3人組はそんなコントを思わせる会話をしながら、トロールたちの群れに突撃していく。

手にした小さな石ころをひとつかみ、まずは1体目の装甲化トロールに投げる。

『スキル:HEATブースター』。小さなH.E.A.T.効果の群れが1体目のトロールに致命傷を与えて倒れ始める。

そんな1体目のトロールを足場に駆け上がり、2体目へと『部長』が薙刀をやり投げの要領で投げる。

装甲化しているトロールは普通なら刺さらない。だが、その矛先は見事に右目に飛び込んだ。

苦痛に叫びながら2体目のトロールが倒れ始める。そのトロールの体を上るように駆け上がりその後頭部に体重をかけるようにのしかかる。

前へ、仰向けに倒れて右目に突き立てられた薙刀がトロール自身の体重によって脳髄へと貫通する。

 

「イェイ! ピース! ピース!」

一連の様子を撮影するカメラドローンに向けて『部長』は精一杯のカワイイポーズを決めた。

彼女の後ろで3体目のトロールが『関西』によって倒されていく。

一連の作業は4秒とかからず、5体の装甲化トロールのうち3体はすでに倒された。

 

『 クソが、化け物どもめ』

『赤井』と『春日の隊長』の前にいるのはガムテープミイラ状態で拘束されている『大尉』だ。

いつの間にと2人は驚くが、あの4人組がここに置いていったのだろう。

と、気づけば残る2体のトロールも倒され、SEEによる銃弾無効が消失する。

その瞬間を見計らったように『いちちゃん』が吹き飛ばされた。彼女の左足は千切れ、宙に転がっていく。

 

『 ハハハッ! いいぞ! 狙撃しちまえ!!』

グレイ・カユブユアナという巨人型のモンスターが動き出す。おそらくはどこかに潜む大陸勢の狙撃兵とモンスターの組み合わせ。

 

『 今度こそ、お前らを――――』

「――つまり、撃ち放題!?」

何やら不穏な大声が響いてきた。

 

狙撃兵への対処法をご存じだろうか? 多くの正規軍は狙撃兵に対してロケット砲だの重機関銃だの場合によって戦闘攻撃機だの大砲だのでいそうな場所にありったけの火力で吹き飛ばして対処する。つまり

 

「OK! オープンセサミ!」  「『部長』をとめろぉぉおおおおお――――ッ!?」

取り出すのは先ほど『大尉』のインフレスーツから鹵獲してきた51口径という俗称を持つ中国製の重機関銃とスウェーデン製の無反動砲。

まずは駆けつけ一杯、無反動砲ぶちかます。1発50万円くらいするなり。

続いて鹵獲したばかりの重機関銃。銃弾も鹵獲したおかげで今のところは1発ゼロ円なり。

 

「早くあの馬鹿をとめるです!」

狙撃されたはずの『いちちゃん』が自分にポーションの注射器を突き立てながら叫ぶ。

 

「「「『部長』っ!! やめろぉぉおおおおお――――――ッ!!」」」

弾薬費で破産するバカにはなりたくないと3人の心は一つになった。

12.7ミリ、7.62ミリ、5.56ミリ、5.45ミリに5.8ミリ。84ミリのロケット弾から40ミリのロケット弾まで、ありったけの銃弾砲弾を『部長』1人で叩き込む。

それを止めようと彼女のもとに駆けよるが、その前に次々とモンスターの群れが立ちはだかる。

そりゃ、そうだ。装甲化トロールを倒すために敵中に飛び込んだのだから。

つまり、この群れをどうにかしないと、彼女の無駄遣いを止められない!!

 

 

 

―――― 同時刻、『通常の現実世界(レベルゼロ)』。九州地方東シナ海にて。

長崎沖EEZ、豪華客船『ライトニング流星号(光速流星号)』の船内は大騒動であった。本社からは撤退の指示が下っている。

現場は破綻したという認識だからだ。おまけに

 

『 急げ! 日本の海上保安庁が接近中!』

彼らの破綻は近い。

 

『 待ってくれ、大尉たちが!』  

『 後日中南海が交渉して開放されるにきまってるだろ! それより俺たちを心配するんだ! 人数が多ければ多いほど解放の見込みも帰国後の立場も悪くなるぞ!』

 

 

 

―――― やはり同時刻、23メートル型警備艇、17メートル型警備艇

日本警察の標準的な警察用船舶は主に23メートル、17メートル、12メートル、8メートル型の4機種。そのうちの2機種が集まっていた。

そしてその中央にあるのは海上保安庁第7管区所属の巡視船ふくえ、でじまの2隻。

さらにその後方1キロのあたりにあるのは海上自衛隊佐世保地方隊のミサイル艇とそれに護衛された民間フェリーとそれに乗せられた陸自と『傭兵企業』のオペレーターたち。ダイビングスポットと専用の電源を急遽無理やり乗せたそれらが代々木救援に走っている。

そう、局面はすでに終了しているのだ。日本側の勝利として。問題は、最前線の当事者たちにはその認識が無いということだ。

場合によってはそれどころではない。

 

 

 

「ヒィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

もはや理性が溶けた表情で引き金を引く少女がいた。

そして、『第1階層(レベル1)』のモンスターはよほどの例外でも無い限り、50口径の連射に耐えきる程硬くはない。

巨大な悲鳴を上げ、その悲鳴が空気を震わせ数多の生物たちの呼吸を奪うグレイ・カユブユアナだが、その程度で引き金を引く指がどうにかなるわけではない。

虎の子の対戦車ミサイル――なお、1発約1千万円越え――を取り出した少女とこれまた別の悲鳴を上げる3人の目の前で対戦車用の成形炸薬弾のトップアタックは

化け物、台湾の妖怪の名前が付いた化け物を吹き飛ばした。

 

なお、この場面は全部カメラドローンを通じて全部配信されていた。そして、そのコメント欄では爆笑の渦と大草原が広がっていた……。

 

 

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