とぼとぼと歩みを進める青年の背中を見据える、参道を囲む木々が青年を心配するように動いている。
頭上から三本足の烏が肩に降りてくる。
「……」
『本当に良いのか?』
「構わない」
環くんにとっては多分辛い時間が待ち受けてるだろうけど。
「本人が俺に近づきたいと言ったんだ。逆さトンネルに巣食う悪魔風情に負けてもらっちゃ困る」
『悪魔?中にいるのは悪魔なのか?』
「まーね、でも大事だやつじゃない。1級相当なだけだ」
『……環も苦労する、あやつはまだ2級だろうに』
ごぽりごぽり。音を立てながら銀色の液体は先程捕らえた獲物を砕くように動いていく。
バキ、ゴキ。耳を立てずとも聞こえるその大きな音は怪異だろうと耐えきれぬ負荷がかかっていることが分かる。
しかしその音が止まらず鳴り響いている。
「しぶといな、なにか逸話持ちか?」
耐久力はそこまででもないが驚異的な再生力を持つ存在だということである。
「……」
まぁ関係ないが。
外部からさらに銀色の液体で構成された剣を幾本も突き刺す、まるでかの有名な黒ひげ危機一髪の如く。そのまま周囲を回るように、ミキサーの刃のように超高速回転で粉微塵にしていく。
そこに雷鳴が轟く。参道の先、青年が立ち去った後の道に雷が落ちた。その音に、いや、その現象に心当たりがある故に顔が歪む。
「面倒なやつが来たな」
「失礼な、私が来てなにか不都合でもあるのですか」
『相も変わらず
シルクハットを被った紳士然とした存在。その顔は希薄でそこいらの群衆に紛れてしまえば気付かぬ程の特徴のなさ。服装も相まって顔を覚えることは不可能とも言えるその男。
「今回は何?」
「そこの怪異、買い取らせていただけないか、と」
「これに価値あるのか」
「何事も使いよう、ですのでね」
「相変わらず意味わからんことに金出すねぇ……」
もう既に肉塊になってるんだが、使えるのかね?
「幾ら出す?」
「八千万、でどうでしょう」
「あー」
「いや、貴方からしたらあんなの雑魚でしょうに」
「そういう事じゃなくて……もう原型が」
銀色の液体から中身を見えるように器状にすると中が肉・骨・内蔵・血のミックスジュースと化している。
もはや使えるレベルでは無いと思うが、買い取るのだろうか?
「あーあ、ここまで微塵にしてるとは……もはや液体ですね」
「でどうする?」
「ま、買い取りますよ。呪物として扱うなら問題ありませんし」
「漬けるのか」
「えぇまぁ、他にも加工して呪肉にしても宜しいですねぇ」
「美食界隈は理解できないこと多いんだよなぁ」
「で、取引成立というわけで?」
「ん、とっとと持ってってくれ」
「ありがとうございます!後程、おそらく五分ほどで業者が来るかと思いますので。はい」
そういうや否やどこかに行こうとする男。
「ソレ、まだ使うのか?」
「えぇまぁ、生命線ですのでね」
「いつか自我が無くなるとしても?」
「無くなりませんとも、私は私、ですのでね」
雷鳴一つ。男がいた所に残ったのは泥だけだった。
木々が動き出し、参道に残った泥を脇に寄せるのを眺める。少しばかり鏑木を見て思い出した事に浸る、それと同時にちょっとした悲しみが漏れる。
「もはやお前に自我はないのにな」
『お主のアーティファクトも恐ろしいが……あやつのアーティファクトは別の意味で末恐ろしい』
「【スワンプマン】はそういうもんだからな。分身を作る、だと聞こえはいいがそんな生半可なものではない」
『……』
「本質はオリジナルの複製品を作ること、決して分身ではない。いくらオリジナルの自我が強かろうと意味は無い。奴らは動くゾンビだ。昔の言葉で言えば……哲学的ゾンビか」
『再現しているだけのAIか、人間は時折意味不明なものを生み出すし定義する』
「だが面白いだろ?」
『見てて飽きはせんな』