4月中旬の火曜日、この日の午後も1年B組はヒーロー基礎学の授業の時間だった。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺と他にも2人の教師の3人で見ることになった。そして今日は救助訓練をする。今回の授業はコスチューム着るかは各自任せる。活動を限定するコスチュームの場合もあるしな。今日の訓練場は徒歩で行くには距離があるからバス移動だ。着替えたらバス乗り場に集合しろ」
ブラドキングの指示に従って移動を開始するB組。夏油もコスチュームに着替えた。夏油のコスチュームは泳ぎずらそうだが呪霊がいれば問題ない。
バス乗り場に集合するB組一同。既に停まっていたバスに乗り込む。夏油の隣にはいつの間にか物間が座っていた。
「最近思っていたんだけどさ、物間ってなんでいつも私の近くにいるんだい?」
「ん?もしかして嫌なのかい?僕が隣にいるの、嫌なのかい⁉」
「嫌じゃないさ。でもどうして私なんだ?クラスには20人いるわけで」
「フィーリングが合うのと、君は気がついたらとんでもないことしてどっかに行っちゃいそうな気がするんだ。なんていうかな儚い?」
「私が儚い……初めて言われたよ。ここは初めてだらけのところだな。やはりB組に入れて良かった」
「俺もこの数日でB組好きになってるぜ!」
今日も元気がいいのは鉄哲だ。
「聞いた話だけどよ、A組は最初の訓練でやり過ぎてぶっ壊したり怪我させたり問題児多そうな印象らしいぞ」
「問題児か、それならB組にはいないね。我々の方が一歩進んでいるのでは?」
「物間氏、残念ながらさっきから拳藤氏に問題児としてマークされているようですぞ」
前の席から振り向いて拳藤がこちらをジト目で見ている。
「物間だけじゃない。鉄哲、夏油、宍田も立派な問題児だ」
「俺か⁉俺何もしてないぞ!」
「鉄哲は脳筋すぎるんだよ。もうちょっと考えることも覚えろ。この前なんか先生に荷物運ぶの手伝わされた時も一気に全部やろうとして崩壊させたよな」
「そんなこともあったな。すまん!」
「そんなことがあったのか。鉄哲らしくていいじゃないか」
夏油は鉄哲を庇う。すると拳藤が夏油に目線を送ってから物間に向き直る。
「次に物間。お前はA組のストーカーしたり情報収集するのをやめろ。A組にはバレてないみたいだけど、しつこいだの怪しいだの他から苦情が来てるぞ」
「それは仮想敵に対する備えだから仕方なくだね……」
「いいからやめろ」
「A組をそこまで意識するようなことあったか?A組が先にやる授業が多いこととか?」
「A組ばかり優遇されたカリキュラムじゃないかと調査しているのさ!」
「ならしょうがない、どんどんやろう」
物間をかばう夏油。夏油に対する拳藤の視線が鋭くなった。
「次に宍田。お前その辺で昼寝してるだろ」
「昼寝は私の趣味なので拳藤氏の言う通りしてますが何か?」
「寝言、いびき、寝相が悪くて苦情が来てる」
「そんなことでか?気にしすぎだろう。宍田はもっと自由に寝なさい」
「わかりましたぞ、夏油氏」
「いや周辺の被害も出てるんだけど……木を倒したとか壁がへこんだとか……」
拳藤の視線の鋭さを増している。
「そして最後、夏油!一番の問題点。物間たちを甘やかしすぎ!なんでも肯定してフォローするからどんどん被害が増えてるぞ。こいつらを止める私の身にもなってくれ。なんで皆問題児になっちゃうんだよ……」
「夏油のせい。夏油皆に甘いけど特にあの3人に甘い」
柳が端的にまとめる。
夏油は個性がB組に受け入れられたあの時からこの世界での新たな仲間、家族のように感じていた。その影響か人当たりも良くなり皆に甘く接するようになった。
「うーん。そんなに意識していなかったけどやっぱり仲間意識が芽生えたのが大きいのかな?察している人もいるだろうけど今まで私は独りぼっちだったからね」
そう言うと皆しんみりしだす。
「でも今は俺たちがいるだろ⁉クラス替えないから3年間一緒だぜ!」
「そうそう。だからこそ序盤でA組と差をつけられないためにも調査しなければ」
また空気が元に戻る。
「そういえば夏油、君は苦手なこととかないの?個性強い、成績優秀、フィジカルある、イケメンってもう怖いもんなしだろう?だから苦手なものとかないのかと思ったんだけどどうだ?」
「猿。猿だけはいなくなって欲しいね」
「猿?猿苦手なのか?へー、意外だ。猿ねぇ……」
「じゃあ好きなものは?」
「蕎麦だ。ざる蕎麦」
「あー、よく蕎麦食べてるよな!それに美味いし!」
「しかしこんなくだらない話をしていて良いのですかな?もうすぐ訓練ですが……」
宍田はこれからの訓練に向けて気を引き締め始めているようだ。
「じゃあ馬鹿話をやめて真面目な話、レスキューって苦手でね。私が行くと怖がらせそうだ」
「虫系は見た目いかついからなぁ。俺もスティールじゃレスキューには向かねえな。そういう意味では物間はぴったりだぜ」
「僕は皆の個性が正直羨ましいと思うこともあるけどね。一人じゃ個性使えないし」
「皆ないものねだりですな。私も暴走の危険がありますからな」
結局のところ隣の芝生は青く見えるということのようである。
「考え方によるだろう。鉄哲は金属なら熱に耐性があるから火災現場なんかでは有用だ。物間は何者にもなれる真っ白なキャンパスといったところか。宍田は暴走と理性の紙一重をコントロールできれば幅が一気に広がる。ほら、皆いい個性じゃないか」
夏油がそう言うと3人の顔が明るくなる。
「おー!たしかに熱さには強いな。なるほどそういう方向もありか」
「真っ白なキャンパス……そう言われると照れるね」
「コントロールは夏油氏にも手伝って欲しいですぞ。私を真正面から止められる人は限られるので」
「もちろんさ。だが話の続きはまた今度だ。そろそろ着くみたいだね」
話が盛り上がっている間に今日の訓練施設に到着したようだった。B組はバスを降り施設に入っていく。
正面入り口を入ったところに宇宙服のようなコスチュームを身に纏ったプロヒーローがいた。
「水難事故、土砂災害、火事……その他あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場がここです。その名も……ウソの災害や事故ルーム、通称USJ!」
そう説明するのはスペースヒーロー13号。そしてもう一人、二足歩行の犬のような風貌をした人物がいた。
「俺も見ることにはなっているがおまけだ。基本的には13号が進める」
それは猟犬ヒーロー、ハウンドドッグだった。
夏油はハウンドドッグがいることを訝しんだ。あまりこの訓練で必要には思えなかったからである。
「えー始める前にお小言を一つ、二つ、三つ、四つ……皆さんご存じとは思いますが、僕の個性はブラックホール、どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます。これは簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう……」
そこからの13号の話は個性は使い方によっては危ないが救けるためにあるんだと心得ましょうという話であった。
前世では戦いにしか使ってこなかった力だから夏油にはいまいち理解できなかったが、ヒーローになるためには仕方ないと割り切った。
「じゃあまずは山岳救助訓練から。山岳ゾーンに移動しましょう!」
山岳ゾーンにやって来たB組。そこから訓練に関する説明を受ける。谷底に要救助者が3名。内1名が意識不明、2名が足を骨折している設定で、4人で救助する。
夏油は早速最初に救助をする組に入った。一緒にやるのは拳藤と黒色、鎌切だった。
「それじゃあ……黒色、影を辿って下に降りれる?夏油は飛べる呪霊いたよね?それで降りて欲しい。私と鎌切は要救助者を受け入れる準備をしよう」
拳藤がさっそく音頭を取って指示を出していく。その指示通りに夏油はエイを出して下に降りた。同時に黒色もやって来る。
下には意識不明役が回原で骨折役が鉄哲と小森だった。
「私が回原と鉄哲を上に運ぼう。黒色は小森を頼むよ」
「二人は重くないか?」
「大丈夫さ。こいつは人一人丸呑みできるし上に二人くらい乗っても問題ない」
「丸呑み⁉俺らそれに丸呑みされるの⁉」
回原がビビっているが夏油は気にしない。
「私自身で試したことあるから問題ないさ。それより君は意識不明だろ?ダメじゃないか、喋っちゃ……」
黒色が小森を運んでいき、夏油はエイに回原を飲み込ませた。鉄哲に関してはエイの上に夏油と一緒に乗せ、上まで飛ぶ。
上まで運びまずは鉄哲を下した。
「あれ?回原はどうした?」
「あぁ、今出すよ」
拳藤から問われた夏油はエイから回原を出す。
「回原⁉え、食べられてたの⁉大丈夫⁉」
「夏油ってクレイジーだぜぇ」
拳藤は純粋に心配しているが鎌切はちょっと興奮している。
「心外だな。このエイは回復能力があるんだ。重症には効き辛いが少しでも状態を改善させようとしただけなのに……」
「ちょっと待て夏油、回復能力あるって本当か?」
ブラドキングが口を挟む。
「はい、先生。とは言っても死にかけている人とか四肢や臓器の欠損には気休め程度ですが。あと怪我が複雑だと歪に治してしまう欠点もあります」
「個性届のデータにはそんな記載なかったはずだが……」
ブラドキングが書類を取り出す。それを夏油も覗き込む。
「見せてください。どれどれ……なんだこれ。ずいぶん省略して書かれてますね。何体か書かれていない呪霊があります」
「これは職員のミスか怠慢だな。報告を上げておこう。それより夏油。回復能力があるなら授業終わりにリカバリーガールのところ行くぞ」
「どうしてです?」
「希少な回復系個性は特殊な許可証が発行されれば個性の使用が認められるだろう?有用だと試験で証明されればすぐにでも発行されるはずだ。俺はそこら辺詳しくないのでな。リカバリーガールに相談しよう。それと回原、個性を受けた感触は?」
ブラドキングは回原に尋ねる。
「なんか気持ちいい感じでした。暖かいお風呂に入っているような……あと体の調子がいいです。違和感が有ったところも無くなってます」
「ならやはり使えそうだな。授業が終わったら俺のところに来てくれ」
「わかりました」
その後も授業は続いていく。夏油は暇になって志村に話しかける。
『菜奈さん、今日の訓練じゃあなたの出番は作れないかもしれない。すみません』
『別にいいさ。私は戦闘では役に立てるだろうけど救助は向いてないだろうし』
『火災の訓練の時はお願いしますね。菜奈さん、火に強い耐性があるみたいなので』
『今の体はそうだな。個性の性質上火には強い、任せておけ……!それより傑、訓練しっかり観察してなきゃダメじゃないか』
『ちゃんと見てますよ。ただ救助はあんまり好きじゃないですね。ヒーローとして大事な要素なのはわかりますが……』
『傑……考えすぎるなよ。君は考えすぎるきらいがある。もっと笑顔で行こう!』
『フッ、そうですね。笑顔で。あなたといると気分が上向きますよ』
『その意気だ』
山岳救助訓練の後は倒壊ゾーンに移動した。4人が捜索で16人が隠れるという遊びを取り入れた訓練だった。
夏油は早速捜索の組だったが、ガンちゃんを使い少しの時間で全員見つけてしまった。
「夏油くんは隠れる側ですね!他の子の訓練の為にも」
というわけで隠れる夏油。だがかなり暇だった……
その後訓練は終了し、校舎に移動し着替えを済ませ夏油は言われた通り職員室を訪れる。
「失礼します。ブラドキング先生、言われた通り来ましたよ」
「おぉ夏油、来てくれたか。じゃあさっそくリカバリーガールの所へ行こうか」
二人は連れ立って保健室まで移動する。移動中はしばらく無言だったが、夏油が口を開く。
「先生、何も言わないんですね」
「ん?何の話だ?」
「中学から調査書送られてきてますよね?私のこと、色々書かれてたでしょう?多分あんまり良く書かれていなかっただろうと思いまして」
夏油は中学の担任が夏油のことを怖がっていたことを知っていた。そして表面上は普通に接してきたが、内心は気に食わないと思っていることも。
「秘密だぞ?まあ色々書かれていたが俺は今のお前を見ている。過去はどうでもいいとは言わないが、一人の主観なんてものに大して価値はない。担任として俺が見てお前はヒーローになれると確信している。だから特に言うことはない」
教師にそんなことを言われたことがなかったため夏油の心は弾んだ。
「やっぱりあなたのクラスで良かった。私は幸運でしたね、ブラド先生。クラスメイトにも恵まれましたし」
「そう言われると教師冥利に尽きるな!ただ物間たちと騒ぐのはほどほどにな。拳藤が大変だ」
「善処します」
「する気ないだろ……着いた、ここが保健室だ。リカバリーガール!!いますか?」
ブラドキングは保健室の扉を開けて声を掛ける。
「そんな大きな声出さなくても聞こえてるよ、ブラドキング!おや、生徒も一緒かい?どこか怪我でも?」
「いえ、今日は彼の個性の件でして……」
夏油のエイの個性について説明するブラドキング。
「そうかい、わかったよ。なら週末にでも役所に行って試験受けてきな。私の方で連絡しておくから。私が連絡すればすぐにでも職員が準備してくれるだろうさ。それにしてもいい個性持ったね。許可証が出れば手伝ってもらう事もあるかもしれない。その時は頼むよ」
「承知しました。ありがとうございます、リカバリーガール先生」
「いいんだよ。それより発覚が遅れたほうが問題だね。ブラド、きちんと個性を把握し直した方がいいじゃないかい?」
リカバリーガールがブラドキングに尋ねる。
「そうですね。夏油、少し時間貰っていいか?」
「大丈夫ですよ」
というわけで夏油はリカバリーガールに挨拶し保健室を退室する。その後職員室で個性を説明し、やっと用事が終わった。
夏油が帰ろうと教室にカバンを取りに行ったら物間たちが待っていた。
「待ちくたびれたぜ!さっさと帰るぞ、夏油!」
「お疲れ様です、夏油氏」
わざわざ待っていたのに驚く夏油。
「てっきり先に帰ってるものだと思ってたけど待っててくれたのか……」
「オイオイオイオイ!僕たちが友達一人置いて帰る薄情者だと思ったのかい?当然待つさ」
物間が心外だと言わんばかりに首を振る。
「フフッ、じゃあ帰ろうか。待たせたお詫びに帰りにコンビニで何かおごってあげるよ。何がいい?」
「マジか!太っ腹だな!」
「コンビニ?あんまり行ったことないですぞ」
「そうなのかい?じゃあ僕がお勧めを教えてあげるよ」
今日も問題児たちは連れ立って帰って行った。