USJで救助訓練をした次の日の午後、B組は教室でプレゼントマイクの授業を受けていた。しかしそこにアナウンスが響き渡る。
『教職員に伝達します。手の空いている職員は至急、職員室にお集まりください。繰り返します。手の空いている職員は…………』
「なんだぁ?こんなの滅多にないぞ?……リスナーはしばらく自習な!」
そう言ってプレゼントマイクは教室を飛び出していった。
「何があったんでしょうなぁ?こんな急に呼び出すなんて」
宍田が隣の夏油に話しかける。
「そうだな……トラブルであろうことは予想がつく。ただ内容はわからないね」
そう言った夏油だったがガンちゃんを飛ばしプレゼントマイクの後をつけさせていた。職員室には入れなさそうだったので外で待機させた。
そしてすぐに大慌てで教師たちはどこかに向かう。行き先は昨日夏油たちB組が授業を受けたUSJだった。
(USJに教師がぞろぞろと何の用だ?重大な事故でも起きたのか?)
夏油の疑問はすぐに解消された。USJに入ると生徒が何者かに襲われているのが眼に入った。
夏油はガンちゃんを見つからないように天井付近に飛ばし状況を見ていた。するとヴィランと思しき男は黒い靄のようなヴィランと共に姿を消した。
そして怪我をして倒れている生徒を見ると、その顔に見覚えがあった。
(あの子は入学式の日に指を破壊してボールを投げていた子……ということはこのクラスは1年A組か……さっきの黒い靄、まさか転移のような個性か?厄介なヴィランがいるものだな)
少ししか見れなかったがこれ以上見て回るのは危険だと判断し、夏油は呪霊を自らの下へ戻した。
その後、しばらくして1年A組がヴィランに襲撃されたことがブラドキングからB組に説明され、急遽明日は臨時休校となることが発表された。
「というわけで、見た限りだと転移のような個性で侵入してきたようですね」
夕食を食べながら夏油は志村と今日の襲撃事件について話していた。
「転移か……そんな珍しい個性をどうして悪用するかな……理解に苦しむよ」
志村は強力な個性を悪用するヴィランを理解できない様子。
「そうですか?今やほとんどの人間が個性を持っています。それを持て余した連中が出てくるのは当然だと思いますけどね」
「む、傑はヴィランを肯定するのか?あいつらは人を踏みにじり、人の幸せを奪う連中なんだぞ?」
夏油の発言に志村は反論する。
「やだなあ。そんなんじゃないですよ。ただ……抑圧されるというのは反動もあるってことです。個性自体は受け入れられ、称賛される社会なんだ。それが解放される場が必要ということが言いたいんですよ」
「たしかにヒーロー以外は基本的に個性を使う場所がないもんな……仕事で許可が出た場合くらいか?」
夏油の言葉に少し納得した様子の志村。
「こんな個性を抑圧する社会に誰がしたんでしょうね?まるで無個性が考えたみたいだ」
「まぁ個性が発現した当初はそれらは確かに異物だったんだ。それまでの個性が無かった社会がそれを抑えようとするのは仕方なかったのでは?」
「私はそれが不思議ですけどね。弱者に合わせているみたいで……ただそういう意味ではヒーローになるきっかけをくれた菜奈さんには感謝してますよ。ヒーロー免許さえあれば思うがままに個性を使えますし」
「時々君の言っていることには納得がいかないこともあるが、少し理解できるのが残念だね。個性を抑圧した結果、それがさらなる個性による犯罪を生む。どうすればいいんだろう?」
志村は物憂げにグラスに入った酒を飲んだ。
「あんまり飲むと明日に差し支えますよ?」
夏油が心配するが志村は気にしない。
「心配するな。この体になってから酔いにくくなってるんだ。元々飲む方じゃなかったんだが、やっぱり酒って美味しいな……そういえば俊典はUSJに居なかったのか?こういう時には真っ先に出てきそうなものだが」
「思い返してみると見てないですね。USJ全域を見れたわけでもないですしどこかに居たのかもしれないですが……」
「やっぱり誰かに個性を渡したのか?彼もいい歳だ。そろそろ力が衰えるし後継を考えるはず……」
「個性を渡すと力が衰えるもんなんですか?」
「そうだね。俊典に継承してから次第に私の力は衰えて行った。だから俊典にもちゃんとした後継者が必要なんだ。そもそも今の社会は俊典に頼りきっているように感じる。彼だって人間なんだ。限界がある。私は君にも期待しているよ。君がナンバーワンになるのを隣で見ていたい」
そう言って志村は笑った。
「ナンバーワン……ですか……正直そこまで考えてなかったですね。そもそも私はヒーローになりたいとはあまり思っていなかったので。ですがあなたとなら最強になれるかもしれませんね」
夏油は想像した。自分がプロヒーローになり傍に志村がいる。そして周りにはB組の仲間たちもいる。それは本来の夏油の目的ではないかもしれない。だがとても魅力的な未来だった。
臨時休校明け、夏油たちB組は教室に集まっていた。
「皆おはよう!ヴィランの襲撃では心配させて申し訳ない。防犯については再度徹底して万全を期す。どうかこれからも雄英を信頼してくれ」
ブラドキングは今回の襲撃騒動を開口一番に謝っていた。
「そんな、謝らないで下さい!先生方は悪くないんですし!」
拳藤がそう言う。
「そうは言ってもな……まぁとにかく今後はもっと慎重にやっていくということだ。というわけで連絡だが、もうすぐ雄英体育祭がやって来る!!知っている人も多いだろうが、君たちにとって重要なイベントだ。きちんと準備して臨むように。以上だ」
そう言ってブラドキングは話を切り上げた。
その日の昼休み、今日もいつものメンバーである夏油、物間、鉄哲、宍田、拳藤、柳で昼食を取っていた。
「雄英体育祭、楽しみだぜ!なあ皆!」
「鉄哲燃えてるな」
「鉄哲、うるさい」
「僕たちB組が活躍する時が来たようだね!」
女子二人はうるさそうにしているが鉄哲に加え物間もやる気のようだ。
「私も活躍したいですな。親の反対を押し切ってきた手前、情けない姿は見せられませんので。夏油氏は?」
宍田が夏油に問いかける。
「物間と同じ気持ちかな?B組皆に活躍して欲しい気持ちが強いね」
夏油がそう言うと他の皆は意外そうにした。
「夏油お前、あんなに強いのに謙虚すぎないか?B組のこともいいけどもっと自我を出そう」
拳藤は夏油が仲間優先なのが気に食わなそうだ。
「なら一緒に訓練するってのはどうだ?希望者だけでいいけど夏油と一緒に訓練すればいい特訓になるんじゃないのか?夏油としてはB組を強化できるし、参加した奴は強くなれる。どうだ⁉」
「鉄哲から出るとは思わなかったいい意見」
「なんだと、柳!失礼だな!」
「いいですな。私も夏油氏と訓練する約束してましたし」
「いいかもね。我がB組のエースとして味方を強化してくれるのは有難い!」
「物間、何だって?エースとは何のことだい?」
夏油は聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。
「エースだよ、エース。B組最強の夏油がA組がB組より上であるわけではないということを証明するんだ!」
「お前のその対抗心はどっから湧き出てくるんだ……」
拳藤が呆れている。
「だっておかしいだろう⁉一昨日からテレビはA組、A組って雄英にはA組しかないみたいにもてはやしてさ。僕たちもいるってことを知らしめないとね」
「悔しい気持ちは分かるけどな!仕方ないけどB組は存在してないみたいな扱いだし」
鉄哲も物間の気持ちに一部同意のようだ。
「なるほど……たしかに少しA組が目立ちすぎではあるね。物間の言うことも少しわかるな」
「おぉ!わかってくれるか!流石夏油、僕の理解者だ」
「本気で言ってんのか⁉物間に取り込まれるな、夏油!」
「狙って潰すようなことはしないよ、拳藤。ただ真剣勝負の場で手を抜くのは失礼だろう?」
夏油は意味ありげに笑った。
※※※
一方その頃、A組の緑谷出久はオールマイトと仮眠室で話していた。
「君が来たってことを、世の中に知らしめてほしい!!」
だが緑谷はあまり体育祭に気乗りしない様子。
「う~ん。じゃあこれ言うか?でもなぁ、教師としてはあんまり言っちゃいけない気がするし。悩ましいなぁ」
「どうしたんですか?何かまずいことでも?」
緑谷が尋ねるがオールマイトは言おうか言うまいか悩んでいる様子。
「職権乱用は今更か……今からいう事は他言無用で頼む。ヒーロー科の1年にはとんでもない生徒がいる……」
「とんでもない生徒?どういうことですか?」
「恐ろしく強いということさ。かれこれ数週間経つけど、どの訓練でも底を見せたことがない。なにより入試で見せた広域制圧能力!彼のそれは他の追随を許さない。今年の一般入試の実技1位だ。記録にある限りでは歴代でもトップと思われる。
そんな化け物クラスの実力者が他のクラスにはいるんだ。生半可な気持ちでは気がついたら終わっているってことにもなりかねない。十分注意し給え」
「1位……そういえばヒーロー科はもう1クラスあるんだった……ちなみに名前聞いていいですか?」
「彼の名前は夏油傑だ」
※※※
放課後になり、夏油が帰り支度を整えていると廊下が騒がしい。
「なぁなぁ夏油!ヴィランに襲撃されたっつーことでA組を見に来た奴で廊下があふれてやがる!俺も話聞いてみてえし行こうぜ!」
鉄哲が夏油を誘う。
「なんだ、被害者見物か……趣味が悪いね」
「まぁそう言うなって!ヴィラン襲撃を乗り越えたってのはインパクト大だろ⁉」
「夏油氏、鉄哲氏は暴走しそうなのでお守りをお願いします。拳藤氏がいない今、夏油氏にしかコントロールできませんぞ!」
宍田がそう言う。
「あー、物間と拳藤は明日の訓練の許可取りに行ってたか……はぁ仕方ない、私が行こう」
「そう来なくちゃな!流石は夏油!」
というわけでA組前の人だかりに行く夏油と鉄哲。
そこでA組の一人が挑発的な発言をしてそこにいた普通科の一人が前に出てきて宣戦布告をしていった。
「どこにでも好戦的な人はいるもんだね、鉄哲……っておい何する気だ」
鉄哲は人込みをかき分けてA組の前まで行く。
「隣のB組のモンだけどよう!ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよう!エラく調子づいちゃってんな、オイ!!本番で恥ずかしい事んなっぞ!」
鉄哲は大胆にもそんなことを言ってしまう。これはフォローが必要だと夏油も前に出る。
「初めまして、A組の皆さん。私は夏油傑。彼と同じB組の者です。いやー失礼なことを言って申し訳ない」
(夏油……傑……!オールマイトが言っていた1位……)
緑谷は戦慄した。こんなに早くオールマイトが言っていた人間と出会うとは思っていなかった。
「だけど彼は純粋にA組の人と話したかっただけなんだ。決して茶化したりしようと思ってきたわけではない。そうだよね?」
「おう!そうだ!こっちも怒鳴って悪かったぜ!」
「この通り彼も言い過ぎたようだ。どうか許してやってくれないか?」
夏油と鉄哲が謝る。
「そういう事であれば、水に流そう!なあ皆!」
「そうだぜ!こっちも爆豪が言い過ぎたし!」
「そもそもこっちからモブとか言ったしな」
A組は人がいいのかすぐに鉄哲を許す。
「君にも申し訳ない。ウチの者が無礼を働いたね」
そう夏油は最初に群衆をモブといった生徒に声を掛ける。
「うっせえ。しゃべり掛けんな。胡散臭え顔しやがって」
「これは手厳しい……」
「おい、爆豪!」
「爆豪くん!謝罪している相手に暴言は良くないぞ!」
A組も爆豪をたしなめ夏油に謝る。
「別に構わないよ。その方が良心の呵責を感じずに済む。体育祭は私の優勝だから」
「「「「「え…………」」」」」
「ほらな」
「いやー、A組の皆が予想以上にいい人で困ったと思っていたけど潰しても問題なさそうだ。それじゃあまた体育祭で。真剣勝負、楽しみにしているよ。じゃあ鉄哲、帰ろう」
「おう!じゃあな、A組!」
夏油と鉄哲は教室に帰っていく。
「そういや、やっとやる気になったんだな!嬉しいぜ、夏油!」
「A組を見ていたら不思議とね。あの態度の相手に負けるのは癪に障るからね。明日から訓練は激しくいくよ」
「おうよ!」
潰すとは言っても、直接対決でもない限りA組を積極的に妨害するつもりはなかった。あくまで夏油はB組の強化に努めるつもりだ。
(そういえば、今年の体育祭にはワンフォーオールの継承者がいるかもしれないな……これは忙しくなりそうだ)