トーナメントも二回戦が終わり、勝ち残ったのは4人となった。
鉄哲は治療され席に戻って行った。夏油は引き続き保健所に留まっていた。
「夏油、ここに居ていいのかい?一試合目終わったらすぐ次だろう?」
「試合間が空くみたいなのでここにいます。次の試合が終わってからでも間に合いそうです」
リカバリーガールの問いに夏油はそう答えた。
『菜奈さんは次の試合どう見ます?』
『正直に言えば塩崎さんは厳しいかもね。炎はもちろん氷も相性が悪い。本人の運動能力も高いわけではないしね』
『うーん……そうですよね……塩崎には頑張ってもらいたいですが……』
夏油が塩崎の勝利を願っている間に轟と塩崎が入場してきた。
『ついにやってきた、準決勝!ついに解禁した炎は見れるのか⁉A組轟焦凍!バーサス!ベスト4の紅一点!B組塩崎茨!スタート!!』
プレゼントマイクの合図でスタートする。両者互いに広範囲攻撃を持っているためかお互いの個性がぶつかり合う展開。
だが塩崎の方が分が悪い。ツルがどんどんと凍らされていく。彼女もある程度予想していたのか凍らされた部分を切り離す。
『やっぱりツルが凍らされますね。そしてなぜ轟は炎を使わない?炎の方がツルに対しては有効なハズ……』
『私には彼が迷っているように見える。今までよりも動きが悪い』
『事情は分かりませんがこんな時に出し惜しみとは随分と余裕そうだ……』
『そう言うなよ。彼にも何か事情があるかもしれないだろう?』
炎を使わないと見た塩崎は、轟の左右から挟み込むようにツルを伸ばす。だが轟はここで前に出てきた。
塩崎もツルで防御しようと対応するが間に合わない。轟は横向きの氷の柱を作り、その上を走って上から塩崎に急接近した。運動能力は完全に轟の方が上であった。
接近した轟は塩崎の足元から凍らせていき、完全に体が動けなくなったところで塩崎は降参した。
『塩崎さん、行動不能!轟くん、決勝進出!』
ミッドナイトのコールに観客が沸き立った。
『俺としては塩崎に頑張って欲しかったけど、轟強かったな!炎を使うかと思ったんだがな……』
『塩崎からすると相性が悪かったな。相性差を覆すには作戦や立ち回り、フィジカルなんかで上回るくらいしか方法がないからな』
実況と解説の言葉を聞き、夏油は控室に移動しようとする。
「頑張ってきな、夏油。今日はお疲れ様」
「これからが本命ですけどね」
リカバリーガールの労いに夏油は薄く笑って部屋を後にした。
『聞きそびれてたけど教導ってどういうことだい?』
『そのままですよ。教え、導く。それが私が彼にできる唯一の救いなのだから』
志村の問いにそう答える夏油。もしここで夏油とすれ違っている人がいれば、夏油が何か企んでいる胡散臭い顔が拝めたことだろう。
『救い、か……どう救うのかは分からないけど爆豪くんの為になることなんだよね?』
『ええ。彼は一言で言えば調子に乗っている天才なわけですよ。その鼻っ柱を折ってしまえば……ある程度落ち着いた人間になるのではと思っています。ただ、彼の生来の性格ならもう手の打ちようがないですね。諦めましょう』
控室に着いた夏油。座りながらも会話を続ける。
『いまいち何がしたいのかわからないけど、要は爆豪くんをまともにしたいってことだろう?それは無理だよ。だって君がまともじゃないからね』
『ん?』
『ん?』
『まともじゃない?この私が?そんなはずはないですよ。私ほど真面目な人間はいませんよ』
『真面目は真面目だけどクズなところあるじゃないか。そういう人はまともではないよ』
夏油は納得してしまった。たしかに自分がどうこう言える立場ではなかった。
『だから素直に彼の問題点を指摘すれば良いんじゃないか?』
『フム……一考の余地はありますね。変に奇をてらわないで正面から格の違いを分からせますか』
夏油は真正面からの殴り合いを想起した。
『うん。それが早いと思うよ。でも傑がB組で良かったな。A組の子たちクセが強そうだ』
『それは私も思います。やっぱりB組は私たちの居場所なんですよ。だからこそ、私はB組はA組の下ではないんだというところを見せつけなければならない。私が勝つと信じている仲間の為にも』
『君のB組への愛は驚嘆ものだな。成長したね、傑』
志村は優しい声でそう言った。
『あなたがいたからですよ。おっと、そろそろ始まりますね』
夏油は入場ゲートをくぐり歓声を受けながらステージにたどり着いた。そこでは爆豪が立っていた。
「降参するなら早い方がいいとは言っておくよ」
「よう、前髪野郎。お前をぶっ殺すのを楽しみにしてたぜ」
「またそんな言葉遣いをして……君は親や学校の先生に教わらなかったのかい?話すときは丁寧にって」
「知るかそんなの。それよりやっとお山の大将気取ってる奴をやっとぶっ飛ばせる!」
「はぁ……いくつか言いたいことはあるが、戦いながらでいいか」
『なんか口喧嘩していたがもういいのか?圧倒的な戦闘力でここまで駆け上がって来た最強候補!こいつ止めれる奴いんの?B組夏油傑!バーサス!戦闘力は文句なし!過激な言動が敵を呼ぶ!A組爆豪勝己!スタート!!』
爆豪はスタートの合図とともに爆破を使って急接近、そして大振りで爆破を仕掛けてきた。それに対し夏油は大量のムカデと虫を呼び出し攻撃させる。
夏油は一旦距離を取り様子を見る。
『爆豪が夏油に急接近したかと思いきや、呪霊の波に飲み込まれた傍から爆発音が途切れず聞こえてくるが爆煙と呪霊で全然見えねえ!夏油はなんかリラックスしてないか?』
『爆豪は接近するまでは良かったがあの物量相手は苦労しそうだ』
だが夏油としてはストックしている呪霊を減らされるのは嫌でもあった。固有の呪霊と違ってイカやムカデ、虫はストックを増やすには呪霊玉を飲まなければならない。
小さいから我慢しているが大量だと少し憂鬱だった。そう考えている夏油をよそに、爆豪に群がっていた呪霊たちが全て倒された。
「雑魚なんか出してないであの龍とか巨人とか出して来いよ!そいつらもぶっ殺して俺が完膚なき1位になる!」
「1位1位うるさいな…………烏合では相手にならないね、直に叩くとしようか」
そう言ってから夏油はいつの間にか爆豪の近くに立っており、爆豪が反応した瞬間には右フックが爆豪の顔に突き刺さる。爆豪はそのまま場外ぎりぎりまで吹き飛ばされた。
「ペッ!なんだこのパワー……」
口の中を切ったのか血を勢いよく吐き出しながら夏油のパワーに驚いている。
立ち上がった爆豪が突撃してきたのを避けつつ夏油は喋り続ける。
「前々から君に言いたいことがあったんだ。粗暴な言動、乱暴な言葉遣い、人を挑発する姿勢、これらは改善したほうがいい。これは君の為に言っているんだよ?」
「余計なお世話だ!!死ねええ!!」
そこで今日初めて爆豪の爆破が夏油にまともに当たった。だが効いている様子はなかった。
「チッ!!」
「服が汚れてしまったじゃないか。洗濯するのは私なんだがね……!」
そう言って夏油は殴り返す。それが爆豪の腹部にヒットする。その後も夏油の攻撃は続く。
「あとはーそうだな。自分本位な考え方、自尊心の強さ、攻撃的な性格、人の名前を覚えない、人の容姿であだ名をつける、これら全部君の欠点だ。
このままじゃヒーローじゃなくてヴィラン堕ちでもするんじゃないか?その他にも言いたいことは山ほどあるがこれくらいにしておこうかっ!」
夏油は話している間も殴るのをやめなかった。そして最後の強烈な蹴りで吹き飛ばす。すでに爆豪は全身傷だらけでボロボロだった。
『おいおい……夏油って接近戦もこんな強いのかよ……もう何でもできるじゃん!』
『個性を鍛えに鍛えぬいているな。それに近接戦闘もできる。個性に恵まれた面もあるが紛れもない夏油自身が勝ち取った力。これを攻略するのは至難の業だ』
実況と解説のやり取りを聞きながら、夏油は話しかける。
「もう降参しなよ。勝負はついただろう?」
「降参は……しねえ……俺が、勝つ……」
「困ったね。君さ、まともに注意されたり怒られたりしたことないだろ?敗北を糧にして生きることも大事だ。これは経験談さ。1位を取る、絶対勝つ、大言壮語はいいが現実を見たらどうかな?」
爆豪はふらふらだったが夏油に近付いてきた。だがまともに戦うことは出来なそうだった。
「ミッドナイト先生、止めなくていいんですか?」
夏油が主審に確認するが続行らしい。夏油は爆豪に向き直る。
「君みたいな態度をとっていいのは最強だけなんだよ。わかるかな?君は最強じゃない。分をわきまえたらどうだい?」
「うるせえ……俺は勝つ……」
「わかり合えなくて残念だ。心の底から思ってるよ。じゃあこれで最後だ。さようなら、次に会うのは表彰台かな?私より下の景色を楽しめるといいね」
「……死ね」
夏油は爆豪を場外まで蹴っ飛ばした。
「そんなんだから負けるんだよ、何もできずにね……あぁ、もう聞こえてないか」
「爆豪くん、場外!夏油くん、決勝進出!」
ミッドナイトの宣言で大歓声に包まれる。
『爆豪が手も足も出ないとは中々クレイジーな結果だったぜ!』
『爆豪どうこうというより夏油が強すぎた。こんなの学生に入れちゃいけない実力だな』
『というわけで決勝は轟バーサス夏油に決定だあああ!』
全身怪我だらけの爆豪はそのまま運ばれていった。夏油はそのまま控室に行くことにした。
『傑、結構好き勝手やったね』
『怒ってます?』
『怒ってはいないさ。でもちょっと驚いた。何が君をそうさせたんだい?』
『同族嫌悪ですかね?過去の私は自分たちを最強だと思ってました。でもそうじゃない。空虚な妄想など何も守れないで終わる。それが私には実感としてあるというだけのことです』
夏油は過去の苦い経験を思い起こす。
『そっか。君が満足してるなら何も言わないさ。次の轟との戦いについて考えよう』
『それについては決まっています。
『え、本当に使うのかい?ここはたくさんの人が見ているけど』
『決勝戦で二人とも舐めたまねするわけにはいかないでしょう。それに実戦訓練のいい機会なので』
『傑って抜け目ないよね』
『最後は派手に行きましょう。体育祭ラストですし、使う機会がないまま緊急時に使うのは避けたいというのもあります』
夏油は轟との戦いに自身の切り札を切ることに決めた。果たして決勝戦はどんな戦いになるのか……
※※※
A組の観客席
時は少し遡り、夏油と爆豪の戦いが始まる前、爆豪と轟を除いたA組はこれからの戦いについて話していた。
「次は爆豪があの夏油とかぁ……どうなるかな……」
耳郎が不安そうに言う。
「爆豪なら勝てるはずだぜ!」
切島は爆豪の勝利を確信している様子だ。
「でも未だに弱点らしい弱点がないよなー」
「デクくんはどう思う?」
麗日は緑谷に尋ねる。
「うーん。距離を取られたら呪霊にやられるし接近戦で勝負をかけるしかないかな。接近すればかっちゃんの戦闘センスが発揮できるはずだし、夏油くんは今まで素手で応戦したことがない。至近距離で高速戦闘をすれば付いてこられない可能性は高いと思うよ!」
緑谷は夏油の戦闘を分析して話した。
「おぉ!爆豪の得意分野にさえ持ち込めば行けそうだな!」
「あっ、あくまでこれまでの戦闘を見てって話だから隠し玉があったら話は変わるけどね」
切島のテンションが上がったところで緑谷が窘める。
いよいよ試合が始まろうとするところで爆豪と夏油が何やら話しているのがここからでも分かった。
「んー?なんか揉めてない?また爆豪が挑発したのかな?」
「その可能性が否定できないのが辛いところです……」
芦戸の疑問に八百万が項垂れながら言った。
そんなことをよそに試合は始まる。開幕直後に爆豪は接近するが呪霊の波に飲み込まれれる。
「あー!爆豪やべえ!」
だが持ち前のタフネスで突破し夏油に肉薄する。
「いいぞ!そこだ!」
そんな声もむなしく爆豪は吹き飛ばされる。
「そんな……かっちゃんが吹き飛ばされるなんて……」
「爆豪……」
その後は一方的だった。夏油が殴り、爆豪はまともに防御する事すらできない。最後は場外に蹴りだされて試合終了。
「かっちゃんがまさか……こんな……嘘だ……ぼろ負けじゃないか……」
「爆豪が一方的に負けるとかどういうことだよ……」
「つか夏油の近接格闘どうなってんだよ……ほとんど動きが見えなかったぞ」
A組の雰囲気は暗かった。そこに話しかけてくる猛者がいた。
「どうしてこんな暗いんだい?まるでお通夜じゃないか」
それはB組の物間だった。
「お前は確かB組の物間!何しに来たんだ?」
「おいおい!何しに来たって酷いじゃないか。僕は慰めに来たんだよ。騎馬戦で僕とやり合って倒せなかった爆豪が夏油を倒せるはずがないだろう?彼は僕らB組が束で掛かっても勝てない強さだよ?」
物間の慰めに来たという言葉の真偽はともかく、夏油の強さは今の戦いでわかった様子のA組だった。
「いないと思ったらまたちょっかい掛けに来てたのか!いい加減にしろ!A組の皆、ごめんな」
物間を探して追いかけてきた拳藤の手刀を食らった物間は引きずられていった。A組はその様子を啞然として見送る。
「でも物間の言うことが事実ならやべえな。騎馬戦で物間と戦ったけど結構強かったんだぜ?爆豪でも苦戦するくらいには。なのに夏油はそれよりも格段に上なのかよ……」
「次は轟とだよな?心配になって来たな……」
A組の不安は的中するのか……それとも杞憂に終わるのか……決勝戦まであと少し。
反省するまで延々と地面に叩きつける案もあったんですが、流石に夏油自身の一般市民からの人気が落ちそうなのでボツになりました。
ちなみの夏油はわざと手加減して爆豪が場外にならないように調整してます。なんて性格が悪いんだ……