準決勝が終わり、夏油はそのまま控室に直行し休息を取っていた。
『やっぱり買い物ですか?それとも訓練ですか?訓練は毎日してるんでたまには遊びに行きたいですよね?』
『え?何の話?』
『そりゃあ明日と明後日の予定ですよ。優勝するのは確定なのでパーっと遊びに行きましょうか』
『傑さあ……ナチュラルに自分が勝つと思ってるよね。それにもうすぐ決勝戦なんだけどな』
『そうですけど……何かおかしいですか?自分が負けると思って戦うのは馬鹿だけですよ』
『ハハハ!君は本当に面白いな!私にも傑のような気持ちがあればな……』
『もしご自身を信じれないなら、菜奈さんは私を信じていればいいんですよ。私は負けません』
『そうだな……うん、そうするよ』
そこでドアをノックする音が聞こえてくる。夏油が返事をすると、そこには物間、鉄哲、宍田、拳藤、柳がいた。
「やあ夏油。決勝戦前に激励に来たよ」
「さっきの戦い、痺れたぜ!」
「応援に参りましたぞ」
男子3人は単純に激励に来たみたいだった。夏油は拳藤たちに目を向ける。
「私はこいつらの監視だよ。さっきも物間がA組を煽りに行ってたからな」
「私も付き添い。夏油、頑張れ」
拳藤たちは物間たちを見張りにきたようだ。
「わざわざありがとう。これはますます頑張らなければ」
夏油は気合を入れ直す。
「あんまりやりすぎるなよ?恨みを買っても知らないからな?」
「そんなこと心配しなくていいさ。憎きA組を叩きのめしてやるんだ!」
「だから憎くないっての」
「物間氏は対抗心むき出しですな」
「俺は切島とも仲良くなったからそこまで対抗心ないぜ!」
急に控室が騒がしくなった。そんな様子も夏油にとっては幸せだった。
「夏油、嬉しそう。私たち来て良かった?うるさくなっちゃったけど……」
柳がそんなことを言うが夏油としてはうるさくなるのも歓迎だ。
「来てくれて良かったよ。騒がしいのはどうだろう……そんなに好きではないけど君たちは別みたいだ」
夏油は柳に微笑みながらそう言った。
「それじゃあ私たちはもう行くな。あんまり邪魔してると集中できないだろうし。ほら、皆行くよ」
「夏油、絶対A組をボコすんだ!」
「優勝しろよ!応援してるぜ!」
「夏油氏、陰ながら応援してますぞ」
「頑張ってね」
口々にそう言って退室していく。
「ああ。B組に勝利を届けるよ」
夏油がそう言うと皆笑顔になった。
それから間もなくして、決勝の時間になり夏油は入場ゲートを抜け、ステージに向かう。歓声からすると、夏油の圧倒的強さに惹かれたのか結構人気のようだった。
「轟、君は迷っているのかな?」
「は?」
夏油の問いかけに轟は訝し気な表情。
「だから、炎を使うかってことだよ。塩崎との戦いで使ってなかったろ?」
「迷ってるのか……俺は……」
「別に炎を使っても使わなくてもいいと思うよ、どうせ私が勝つし。それはともかく、どうして君はここに立っている?遊びのつもりなら帰ってくれないか?」
「どうしてお前にそんなこと言われなきゃならねえ。俺は本気で……」
「やってないさ。でも丁度いいね。私もここからは本気だ。全身全霊で君を潰す」
「⁉」
夏油の覚悟が決まった顔を見て後ずさる轟。
ここで準備が整ったのか、プレゼントマイクの声が会場に響く。
『さぁいよいよラスト!雄英1年の頂点がここで決まる!決勝戦、轟対夏油!!今!!スタート!!』
轟はスタート直後から氷結を放った。それに対し夏油は手をズボンに突っ込んで突っ立ったままの姿勢だ。そのまま氷に飲み込まれる。
『いきなりかましたぁ!早速優勝者決定か⁉』
そんな実況が聞こえるが夏油は余裕だった。
「やっと出番が来たよ。おいで、クイーン」
その時会場にいた全員が気温が下がったかのように感じた。それだけの圧力を感じたのだ。
氷を突き破って何かが出てきた。
「ギャァァアアアアアアアアァァッ!!」
それは大声を出しながら現れた、異形の怪物だった。エイリアンのような頭の上半身に二本の腕が付いている。下半身は黒く細くなっていた。
「これは私の秘密兵器でね。呪いの女王、特級過呪怨霊のクイーンちゃんだ。女の子だから容姿を弄るのはなしだよ」
轟もこれは予想外だった。これだけの圧を受けたことは人生で一度もなかった。
クイーンはそのまま轟に向かっていく。それに対し轟は氷結を放つがクイーンはそれを力技で食い破る。
「君にはクイーンの試金石として期待していたんだけどな……残念だよ、轟」
クイーンはついに轟の元に到達し、腕を振り払う。それだけで轟はスタジアムの壁まで吹き飛んで行った。
「あーあ……すぐ終わっちゃった……期待はずれだったね、クイーン」
夏油は残念そうな顔で呟き、クイーンを体内に戻す。
「轟くん、場外!よって、夏油くんの勝ち!!」
『まさに圧倒的!以上で全ての競技が終了!今年度雄英体育祭1年優勝は、B組夏油傑!!』
表彰台などの準備をするのに少し時間を取り、表彰式に移る。
「それではこれより!表彰式に移ります」
ミッドナイトの進行で表彰式が進もうとするが、3位のところにおかしなものがある。というか居る。
「何あれ……」
「うわああ……」
爆豪拘束されていた。どうやら起きてからずっと暴れていたようだ。
「轟、彼はどうして暴れているんだろうか?」
「わからねえ。腹でも痛えのかもしれねえ」
「そうか、それは大変だ。爆豪はう〇こ我慢して暴れてる、と。塩崎はどう思う?」
夏油は格納呪霊に入れていた紙とペンとテープで「彼はう〇こを我慢しています」と書いて爆豪に張り付けてから、轟から塩崎に向き直った。
「彼は悪魔に取りつかれているのでしょう。早く祓わなければ……」
「祓うか……なら私がやろうか?」
夏油が爆豪と目線を合わせようとすると、余計に暴れだした。どうしてだろうか?(当たり前)
「これは大変だ!私では祓いきれない。塩崎の祈りが必要だ」
「わかりました。哀れな仔羊の為に祈りましょう」
塩崎の祈る姿は神聖さ清廉さを感じさせた。
『どうです?塩崎のいまいちアピールが足りないと思った部分をアピールさせてみましたけど』
『傑さぁ……半分ふざけてたよね。最初のう、うん、トイレの話は要らなかったよね?』
『う○こは必要でしたよ。あの絵面じゃあまずかったでしょうし、ユーモアがないとね』
『……本当は?』
『これから先、表彰式の写真なんてよく出るだろうに、これは傑作だ、フフフッ』
夏油のテンションは高かった。優勝して気が緩んでいるともいう。
「メダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!「私がメダルを持ってき」我らがヒーローオールマイトォ!!」
ミッドナイトの声とオールマイトの登場とが被ってしまっていた。
オールマイトが3位から順にメダルを掛ける。
「塩崎少女、おめでとう!いい戦いだったね。相性差を覆すためには地力を鍛える必要がある。そこを乗り越えればさらに良くなるさ」
「ありがとうございます。神に感謝を……」
塩崎はオールマイトそっちのけで祈り始めてしまった。
「で、では爆豪少年!っとこりゃあんまりだ……」
オールマイトは爆豪の口の拘束を外した。
「3番……こんな3位なんて何の価値もねえんだよ!世間が褒めても俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!」
「そういうのは失礼じゃないか」
夏油が声を掛ける。
「横から失礼。皆、精一杯努力して今日を迎えた。それぞれ全力を出し切った。それを押しのけて私たちはここに立っている。
それを3位は価値がない?ゴミ?ふざけるな!周りに失礼だと思わないのか?戦った相手への敬意はないのか?雄英体育祭は全国の視聴者が見ているんだぞ?そんな粗暴な言動が許されるはずないだろう?もう一度自己を見つめ直したまえ」
「うるせえ!!前髪野郎!!俺は1位以外要らねえんだよ!!」
また爆豪の顔が凶悪になっている。ただし夏油がさっき言ったような殊勝なことを考えているかは微妙だが……
「まあまあ、そんなこと言わずに。受け取っとけよ!傷として!忘れぬよう!」
「要らねっつってんだろが!」
オールマイトにも爆豪の態度は変わらない。オールマイトは爆豪に無理矢理メダルを掛けた。
次に2位の轟にもメダルが授与される。
「轟少年、おめでとう。左側を使わなかったのは訳があるのかな?」
「緑谷戦できっかけを貰って……分からなくなってしまいました。あなたが奴を気に掛けるのも少しわかった気がします。俺もあなたのようなヒーローになりたかった。ただ……俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃ駄目だと思った。清算しなきゃならないものがまだある」
「……顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」
最後に夏油の前にやってくる。
「さて、夏油少年、おめでとう!」
オールマイトはそう言って夏油の首にメダルを掛ける。夏油はお礼を言って受け取った。
「素晴らしい結果だね。予選から全て1位!圧倒的な結果だ。職員室でも話題になっていたよ。今年のB組はクラスで特訓してたんだって?その中心には君がいたんだね。自己を鍛えるだけでなく仲間と鍛錬する。これからはそういう要素も必要になってくるだろう。君は誰よりも先を行っていた。先頭を走るのは大変なことだが、君ならきっとできる。期待しているよ」
「あなたにそう言って頂けて光栄です、オールマイト先生」
夏油の言葉に応えるように頷いたオールマイト。
「さぁ!今回は彼らだった!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性があった!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!てな感じで最後に一言!皆さんご唱和ください!せーの、お疲れさまでした!!」
「「「「「プルス……」」」」」
「プル……えっ⁉」
「そこはプルスウルトラでしょ、オールマイト!」
「ああいや……疲れたろうなと思って……」
最後は締まらなかったが雄英体育祭は幕を閉じた。
表彰式が終わり夏油たちB組は制服に着替えて教室に戻っていた。
「皆、お疲れ様!いい結果が出た者も、不本意な結果に終わった者もいただろう。だがそれを糧にしてこれからもしっかり訓練していこう。連絡事項だが、明日と明後日は休校になる。間違ってくるなよ、鉄哲!」
「なんで俺なんすか!」
ブラドキングの冗談に鉄哲が反応する。教室内に笑いが広がる。
「それから、プロからの指名はこっちでまとめて休み明けに発表する。最悪指名はなくても大丈夫だから心配せずに休暇を楽しめ。以上だ、解散!」
いつもの面子で帰ろうと夏油が帰り支度をしていると、拳藤が声を上げる。
「皆ちょっといいかな!女子で話してて、もし良ければなんだけど、体育祭お疲れ様会兼夏油と茨の祝勝会しない?予定があったり疲れてたりする人は無理に参加しなくてもいいし」
「いいじゃねえか!いつやるんだ?」
鉄哲が尋ねる。
「明日はゆっくり疲れを癒して明後日はどうかなって思ってる。皆どうかな?」
「いいんじゃね?特に予定もないし」
「何気にクラス皆でどっか行くの初めてだよな?放課後の訓練もそれぞれ別だしよ」
「いいかもな!夏油と塩崎も祝ってやりたいし」
満場一致で決まった。
「じゃあ詳しいことは後で連絡するから!皆お疲れ様!」
今度こそ解散し、夏油たちはいつもの4人で帰る。優勝祝いに3人の奢りでコンビニで買い食いしたが、いつも以上に美味しかった。
こんな日が続くといいなと思う夏油であった。
※※※
職員室
生徒が下校した後、夜遅くにも教員は会議をしていた。
「じゃあこの件はいいとして……次だ。夏油くんの決勝戦で出した力は何なのか……ブラド、何か知っていることは?」
教師の一人がブラドキングに尋ねた。
「実際に見るのは初めてだ。書類以上のことは知らない。だが問題はないだろう?生徒が成長しているのはいい事じゃないか」
「だがあの力はあまりにも……それに異質だ……」
「観客はただ強くてすごいくらいの感想しかないのがほとんどだろうが教師目線ではな……」
「それに公安からあれは何だと質問状が来てたぞ……」
教師から不安の声がちらほら上がる。
「だが、夏油は目立った問題行動は起こしていない!成績も優秀だし、授業態度も真面目だ!強い力を持つ者として他を牽引する能力もある!俺は危険視する理由はないと考える」
ブラドキングは猛反論した。
「私もそう思うよ。彼は仲間想いで恐ろしく真面目な子だろう。それが行き過ぎないか心配ではあるがね。そこまで不安視する要素は少ないと思うよ」
オールマイトもブラドキングに賛同する。その後も意見が交わされるが、ほとんどは問題ないとする意見だった。
「どちらも意見もわかるのさ!でも我々は教師だ。生徒を信じないでどうする。夏油くんが生徒である以上、ここは彼の絶対的な味方でないといけないのさ!普通の優秀な生徒として彼を見守ってあげよう」
校長の一声によって議論はまとまった。だが夏油の力の影響は他にも……
※※※
???
「いい個性ばかりだなあ。どの子も欲しいねえ……特に夏油くんの個性は素晴らしい!欲しくてたまらないよ……それにドクターの新たな研究材料になりそうだ」