原作蹂躙もの(夏油が一般人を殺していくなど)にはならないのでお気を付けください。
転生から出会い
その日ある赤子が産声を上げた。その赤子は夏油傑と名付けられ、両親に望まれて生まれてきた。だが彼の中身は前世で最悪の呪詛師と呼ばれた者であったのだ。
(ここはどこだ?体が動かない。私はたしかに死んだはず……)
夏油傑は困惑していた。彼には濃密な死の記憶があり、死んだら地獄行きだと覚悟していたからである。
しかし今は動かない体で天井を見上げるのみ。まるで赤子にでもなったようではないか。そんなことを考えながら意識を失った。
その後も意識があったりなかったりを繰り返し、生後数か月が過ぎた。夏油もただボーっとしていたわけではない。両親からの断片的な情報で赤子に生まれ変わったのはすぐに分かった。
(何かの術式のせいか?人殺しの私が生まれ変わるなんて皮肉なものだな)
夏油はいつの時代に生まれたのか必死に考えていた。だが断片的な情報だけではそれを特定するには至らなかった。
夏油が次に考えていたことは呪力についてだ。彼は生まれ変わっても呪力を持たないなんてことは微塵も考えていなかった。自らが蔑んだ
結果的に呪力があったのは彼にとって良かったのか悪かったのかは誰にも分からない。ただ夏油にとって呪力があるのは当たり前であり、意識がある時間に自身の術式について考えていた。
(術式を感じ取れる……前世とは違う感じだ。呪霊を取り込んで操るだけじゃない。創造することも出来そうだ。名付けて呪霊創操術。これがあれば猿共を駆逐できる……!)
夏油は歓喜していた。その顔は赤子なだけに見る人を笑顔にするものだったが、中身は醜悪そのもの。
ただその笑みの裏で問題もあった。
(呪力が少ない……これでは4級くらいにしかなれないぞ……!いや、まだだ。まだ呪霊さえ取り込めば可能性はある……!)
彼は理想を追い求める、とことん諦めの悪い男であった。そしてもう一点問題がある。それは生まれてこのかた、呪霊を目撃していないことだ。
(結界の中なのか?それにしては呪術のじゅの字も聞かないが。これでは雑魚呪霊すら取り込むことができん)
そんな中、夏油は呪霊を創造することにした。少ない呪力でも弱い呪霊ならば作れそうだった。
術式を知覚し、呪霊創操術にはいくつか制限があることが分かった。
・呪霊を創造して種類を増やせるのは1年につき一体である。
・創造できる呪霊は見たことがあって明確なイメージができるもののみ。
・同種の呪霊を同時に複数体呼べる呪霊と、複数体呼べない固有の呪霊がいる。
・複数体呼べる呪霊は、術式なしかつ単体の体重が術者の倍未満である場合。
・呪霊を創造する際には、器官や一部を取り除くことは出来ても加えることはできない。
・呪霊と視界を共有することができる。
・呪霊玉は呪霊のサイズによって小さくなる。
・強い呪霊ほど制御が難しくなり、弱い呪霊から強い呪霊へと順序だてないと制御不能になる危険性がある。
・呪霊の質にもよるが脳のキャパシティーがある。
・呪霊を操れる距離に制限がある。
・呪霊のサイズはある程度可変。
・呪霊の回復には術者の呪力が必要。
・固有の呪霊が祓われると24時間呼べなくなる。再度呼ぶのに創造と同量の呪力が必要。
・呪霊は成長する。その方法は2種類あり、人間の負の感情を取り込むことと修行を積むことである。
・呪霊が成長すると呪力が増し、術式が進化する。術式がなかった呪霊は生物的な進化をする。
・生物的な進化をした呪霊の能力には呪力を使わない。
これらの制限を知覚したとき、夏油は前世との勝手の違いを思い知った。
(術式が呪霊を作り出すことを前提にしている?しかも取り込んだ呪霊が成長するだと?1年に一体という制限も痛いな……だが現状でできることをするしかないか。猿を消すためにも)
夏油は少ない呪力量で作れてかつ情報収集に向いている呪霊を生み出すことにした。
それが眼球呪霊だ。この呪霊はその辺の雑魚呪霊から眼球と羽のみを残したシンプルな呪霊だった。これなら呪力をほとんど消費しないし、呪霊玉も錠剤サイズでこの体でも飲み込むことができる。
夏油はこれが新たなる社会を作るための第一歩だと感慨深い気持ちを持ちながら、作った呪霊玉を飲み込んだ。
そしてそれを呼び出して操る。
(操作の感触は前世と変わりないな。運用は変えなければならなそうだが……)
そう夏油が考えていた時だった。母親がすごい勢いでやってきた。
「この化け物!どっから入ってきたのよ!」
そう言って夏油の母親は眼球呪霊を叩いて潰してしまった。この光景は夏油にとって驚きの連続だった。
(なに⁉猿が呪霊を見ただけでなく祓っただと⁉一体どういうことだ?この親から呪力は感じなかったはずだが……?)
検証するためにも呪霊を作り続けた夏油だったが、その日からしばらく呪霊を出して祓われてが繰り返された。
「あなた、これって傑の個性かしら?」
「ああ、そうかもしれない。検査を受けなければ!次の休みに行こう」
(個性?なんのことだ?それに検査だって?猿がこの私を病気扱いか。世も末だな)
そんなある日、母親だけでなく父親とも一緒に病院へ連れられて行った。
よくわからない検査を受けさせられ診察室で医師の説明を受ける。そこでは意味の分からない会話が繰り広げられた。
(個性があってよかった?今時、無個性は辛い?何を言ってるんだ?)
夏油は混乱していたが話を聞いていくうちに何となく状況がつかめてきた。
(個性という異能があるのか。それが無ければ無個性と……なるほど、じゃあ呪術は存在しないのか?私は別の世界に生まれたのか?果たしてそんなことがあり得るのか?個性は使えば使うほど伸びるのか。だから呪霊を作ることが前提で成長する術式なのか。待てよ?ならば私の呪力も使えば使うほど増大するのではないか?)
疑問も多かったが一先ず納得した夏油。しかもこれからの成長の可能性も確認できた。彼にとってはどうでも良かったが両親も個性の発現に喜んでいるようだった。ただ彼らの個性を引き継いでいない点は残念そうであったが……
(両親はてっきり
「あうあおおああええあ」(猿は殺さなければ)
「あら!傑が喋ったわ!なんてかわいい……!」
「この時期に喋れるなんて天才だな!おもちゃを買ってやろう!」
夏油一家は楽しげな様子で家路を辿った。
夏油は病院に行った日から呪霊玉を作っては飲み込んでいた。そうして呪力は少しずつ増えている。
夏油は1歳の誕生日を迎えると、新たな呪霊を作り出した。今回作ったのは小型のイカの呪霊だ。前世では飛ばして遠距離攻撃に最適だった。
この呪霊を両親に見られたときも、我が子は天才だと褒めたたえられていた。
次の年、夏油はムカデの呪霊を作った。手数を増やすに持って来いの呪霊だ。今の体では複数体呼ぶことは出来ないが大人になった時には大量に呼べるだろうと考えていた。両親はちょっと怖がっていた。
その次の年は試しにバッタかコオロギのような一級の虫型呪霊を本来よりも作った。人一人は余裕で乗れる大きさなのでこれも軍隊のように量産しようとしていた。これを見た時、母親は叫び声を上げて倒れた。
次の年にはいよいよ術式、この世界での個性を持つ呪霊を作り出した。その最初が物を格納する呪霊だ。
そして翌年にはダルマの呪霊を作った。この呪霊の個性は吸収。エネルギーを吸収して溜めこむ個性だ。
「呪霊創操術には呪霊相応の呪力が必要だ。ここ数年の呪力トレーニングのおかげで呪力は増えたがまだ足りない。優れた呪霊を作り出すにはもっと呪力が必要だ。そこでこいつだ。こいつがあれば私の呪力以上の呪霊が作り出せる!」
小学校入学前、最後に作り出したのはエイの呪霊だった。この呪霊の個性は回復。口に入れた生物を回復させることができる。そこまで回復スピードは速くないので傷が深ければそのまま死んでしまうが……
小学校に入学するまで夏油は順風満帆だった。不快な猿がほとんどいない世界、強力な個性を持つヒーローが賛美される社会、ここは夏油にとってほとんど理想郷と言って良かった。
問題点は2割の無個性だ。老人たちはそのうち死ぬだろう。しかし若者の無個性もたしかに存在する。これも滅すためにはさらなる力が必要だ。
その後も夏油は呪霊を作り続けた。戦闘に備えてフィジカルの強化や呪力の増加も忘れない。
エイの次は前世でも多用していたワームを作った。個性は毒。
その次は大鼻呪霊。重力光という、ゾんばという言葉と共に重力を発生させる光を生み出す個性を持つ。
そしてその次に夏油は巨大亀型呪霊を作った。この呪霊の個性は消化であり、食べたものを何でも消化してしまう個性だ。
夏油の計画は順調だった。フィジカルを鍛えぬき、呪力量も前世並み、呪霊の種類も増えた。
(なんて素晴らしい世界だ……!前世には足りなかった力に加え、得られなかった猿ではない本当の家族がいた……!私は今、猛烈に感動している!私の望む世界が……今目の前にある!!)
※※※
「やはりあんなのは親ではない。私の家族ではないのだ」
夏油は今世の両親をもう家族だとは見なしていなかった。両親が夏油を置いて海外に逃げたのだ。置手紙はお金は口座に振り込んでおくこと、家は好きにしていいことが書かれていた。
今思えば予兆出ていた。夏油を気味悪がっていたし、「化け物産んじゃった……!」と言っていたのも夏油は聞いていた。
だが家族を置いていくなどとは思ってもいなかったのだ。
「この世界でも私の家族を探さなくてはね」
夏油は切り替えた。だが本人は気にしなくても、周りの態度は変わった。
「あの子両親に捨てられたらしいよ……」
「個性が気味悪いんだって……」
「化け物飼ってるって噂だぜ」
「昔見せてもらったことあるけど、不気味な生き物だらけだったぜ」
同級生からは心無い中傷が絶えなかったし、いじめられた。そして教師からも腫れ物扱いであった。
「夏油、なんか困った事あれば言えよ?相談くらいなら乗れるからな?」
「いいえ、特にありません。ありがとうございます」
「そうか?そうだよな。じゃあ……」
怯えた目をした教師に相談をすることはなかったし、それで解決するとも考えていなかった。それに夏油の成績は優秀でそれは教師も理解しているようだった。
そんな日常を過ごしているうちに、夏油は中学生になった。中学でも夏油の噂は付いて周り、周囲からは浮いていた。
ただ一つ変わったことがある。それは夜な夜な喧嘩やヴィラン退治に精を出していたことだ。
夏油は実戦経験を積むことと、どこまで自分の実力が通用するのか計ることを目的にしていた。
そんな日々を過ごしていた中学三年生の夏、夏油は今夜もヴィランを倒していた。
「ふう。その辺のヴィランなら相手にならんね。面白いものはないものか……ん?玉藻前が何かに反応している?」
夏油はこの数年で、一つ目の巨人であるさらし首呪霊、虹龍、口裂け女、鎧武者呪霊、化身玉藻前を創造していた。
その内の玉藻前が何かに反応していたのである。夏油はその方向に向かうことにした。面白そうなことの臭いを感じ取ったのだ。
しばらく歩くと廃工場にたどり着いた。
「ここに何があるのかね?呪霊は喋らないしさっぱりだ。当てが外れたかな?」
夏油が帰ろうとしたときに、幽霊のような光が現れた。
「これは一体?この反応は呪霊に近い……のか?」
夏油はよくわからないまま取り込んでみた。そうすると難なく取り込めてしまった。だがここで異変が起きる。
「これは……玉藻前と今取り込んだものが融合している?ふふっ、面白くなってきたじゃないか」
夏油が玉藻前を出すと、姿が変わっていた。その姿は人間の女性そのものだった。彼女は混乱しているようだ。しかし……
「なんでヒーローコスチューム?幽霊っぽかったが生前はヒーローだったのかな?」
ここで混乱していたであろう女性が問いかける。
「ここはどこだ?私は死んだはずだ。君は一体誰なんだ?」
「そんなにいっぺんに聞かれても答えられませんよ。近くに私の家があるのでそこで話しましょう」
「うっ、それはすまない。もう遅い時間みたいだし送って行こう。君、高校生くらいだろ?夜道は危ない。私はこれでもヒーローなんだ」
「見てわかりますよ。じゃあこちらです」
歩きながらお互い自己紹介をする。突然現れた彼女は志村菜奈というらしい。個人的なことはほとんど話さず、夏油が一方的に話すのを聞いていた。
「ここです」
「いい家住んでるな。じゃあ私はこれで……」
「上がって行って下さい。私の予想ではあなたには帰る場所がないはずだ。街の景色に見覚えないでしょう?」
「…………それはそうだが」
「じゃあ上がってください。お茶の一杯だけでも」
「……お邪魔します」
志村は家に上がった。お茶を入れリビングで話をする。
「どこから話しましょうか……あぁ、まず私の個性は生物を使役するものでして。そのうちの一体の反応を元にあの場所へ行ったんですよ」
これまでの経緯を話す夏油。それを静かに聞く志村。
「夏油くん、君の話を聞いていると私は生き返ったということか?」
「それはどうでしょうね。生き返ったというより融合し、蘇ったといったとこでしょうか?」
「なるほど……というか今いつだ?」
夏油は今日の新聞を持ってくる。
「これが今日の新聞です」
「ありがとう……そんな……こんなに時間が経ってるなんて……」
志村は過ぎ去った月日にショックを受けているようだった。
「菜奈さん。あぁ菜奈さんと呼んでいいですか?これから私と一緒に暮らしませんか?あなたが私の個性の一部になってしまった以上、あまり離れることはできません。ならば私と家族になりましょう」
「呼び方は何でもいいけど……家族ってそんな簡単に……」
「私にはお金を送って来る人だけの関係の人しかいません。そしてあなたには行き場所がない。私を助けると思ってどうです?」
「うーーん…………」
「私たちの関係に名前を付けるとしたら何でしょうかね?使用関係?同居人?恋人?姉弟?ならばここは家族と呼ぶべきでしょう?」
「……うん。わかった。行く場所もないしとりあえず今日は世話になるよ」
夏油は心の中でにんまりと笑った。
(人間の意思と思考能力を持った特級呪霊!しかも個性も強力だ。これならばあのオールマイトにも届きうるのでは……いや、過信は禁物だ。乙骨にも負けてしまったしね)
「とりあえず今日はもう遅いです。明日また話しましょうか」
「そうだな。悪いね、遅くまで」
「いいえ、家族の為ですから。部屋は2階に余ってる部屋があるので案内しますよ。着替えも多分何か残ってますし」
「ありがとう。何から何まで恩に着るよ」
その日はそれで話を終え、就寝することとなった。
(フフフ、これからが楽しみだね)
ここから夏油は更生していきます。