【完結】ヒロアカ世界でも猿が嫌いな夏油傑   作:カワニ

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ヒーロー名

 体育祭の後の休みも終わり、登校日がやってきた。雨の中いつも通り電車に乗る夏油。

 

『菜奈さん、一昨日はあれで良かったんですか?せっかくだし出かけても良かったと思うんですが……』

『疲れてるのに出かけるというのは君に申し訳ないよ。そもそも傑の優勝祝いだったんだし。それに夕食はそこそこ良い店に行ったじゃないか』

 

 夏油の問いに志村は呆れたように答えた。

 

『ですけどせっかくの休みなんだしデートに行くというのも悪くなかったと思いますね』

『私は考えるとは言ったけどまだ答えてないからな?申し訳ないけど返事にはしばらく掛かる』

『いつまででも待ちますよ。期待して待ってます。雄英を卒業する頃には返事してくれると嬉しいですね』

 

 夏油は余裕そうな声でそう言った。

 

『待たせてる私が言うのもなんだけど、ずいぶんと気が長いね……』

『卒業したら自立できますしね。二人で生活していくのならそれからでも遅くはないですよ。あとこの関係もある意味気に入っていますし』

『傑って真面目だけど愉快な性格してるよな……』

 

 志村が少し呆れた様子だった。

 

『ありがとうございます。惚れました?』

『惚れてない。それにあんまり褒めてもない』

 

 いつも通り夏油が志村との通学中の会話を楽しんでいると、横から話しかけてくる声がする。

 

「ねえねえ君、雄英の夏油くんだよね?」

「ん?はい、そうですが……どちらさま?」

 

 話しかけてきたのは40代くらいのスーツ姿の男性だった。

 

「体育祭見たよー、優勝おめでとう!いい個性だねー」

「ありがとうございます。そう言って頂けると光栄です」

 

 夏油は無難に返事をした。

 

『めんどくさいオジサンだな……せっかく菜奈さんと話しているのに』

『そう言わずに相手してあげなよ。ヒーローはファンとの交流も大事だよ。あとさ、周り見てみな』

『え?』

 

 夏油が周りを見回すと、周辺の視線が夏油に集まっていた。

 

「やっぱり夏油くんだ」

「体育祭優勝してた……」

「生で見るともっとカッコいい……どうしよ……」

「へーやっぱいい体付きしてるなー」

 

 これには夏油もどうしたもんかと考える。

 

「娘が君のファンなんだけど、サインしてくれないかな?」

 

 最初に声を掛けてきた人がそう頼んできた。

 

「サイン?サインですか?私そういうのは書いたことないんですが……」

 

 とりあえず受け取ったメモ帳に夏油流のサインを書いた。

 

「これでいいですか?」

「おー!ありがとう!これで娘も喜ぶよ!」

 

 ほっとした夏油だったがこれで終わらなかった。

 

「夏油くん、僕もいいかな?」

「すみません、私もお願いしたいんですが……」

 

 次々に話しかけられる夏油。

 

「あー……順番でお願いします」

 

 というわけで急遽夏油傑のサイン会の会場となってしまった車内。内心面倒な夏油であったが仕方ないと割り切った。

 ある程度終えてそろそろ降りる駅に近付いてきたころに、女子高生の集団の声が聞こえてきた。

 

「行ってきなよ」

「そうそう、もう会えるか分かんないよ?」

「カッコいい、一目惚れしたって言ってたじゃん!」

「でも……恥ずかしい……」

「じゃあアタシが言ってあげるよ!」

 

 集団の一人が夏油の元へやって来る。

 

「すみません、あの子、夏油くんのファンらしくてお願いしてもいいですか?」

「もちろん」

 

 夏油は笑顔で応じた。

 

(うひょー!あの子が言う通りこの人カッコいいなー……)

 

 やって来た女子も少し興奮気味だった。

 

「えっと、サインでいいですか?」

「写真はダメですか?ツーショットで……」

(こいつマジか……厚かましいな)

(呼んできたアタシが恥ずかしい……)

(この子結構図々しいとこあるんだよな)

 

 ツーショット女子の友達は内心でそんなことを思う。

 

「んーっとー……まぁいいか、いいですよ」

 

 ここまで来たらもういいかと投げやりな夏油だった。

 そのままその子と写真を撮る。ついでにその友達たちとも写真を撮った。ちゃっかりしている友人たちである。

 

「ありがとうございました!」

「マジで感謝です!」

「性格もイケメンですね!」

「家宝にします!」

 

 口々に感謝を述べる女子高生たち。

 

「ははは……どういたしまして……」

 

 丁度そこで夏油は下車する駅に到着し、サイン会兼撮影会から解放された。

 

『明日からエイで通学しちゃダメですかね?』

『我慢しなよ。これもいわゆる有名税ってやつさ。そのうち収まるって。それよりもだ。女子高生たちの連絡先の一つや二つゲットしないでどうするのさ』

『そういうことはしませんよ。理由はもちろんわかってますよね?』

『うっ、これは藪蛇だったか……』

 

 トラブルもありながらも夏油は教室に到着する。

 

「夏油やっと来たか。疲れてそうだけど何かあったのかい?」

「おはよう、夏油!今日も元気にいこうぜ!」

「夏油氏今日は遅かったですな」

 

 そこには物間、鉄哲、宍田が待っていた。

 

「皆おはよう。別に遅く出たわけじゃないけど雨で電車が遅れたかもしれない。いやちょっと電車でね……」

 

 今朝の電車内の出来事を語る。

 

「へー、そんなことあるんだ。流石は体育祭優勝者」

「俺も話しかけられたけどオッサンばっかだったぜ!」

「私は車で来るのでわかりませんなぁ」

 

 宍田も電車通学なら話しかけられそうなものだが、彼はお坊ちゃまなのだ。

 

「そういえば昨日の視線が集まってたしね」

「そういえばそうだったかも……あまり気にしていなかった」

 

 物間の発言で昨日のお疲れ様会兼祝勝会のことを思い起こす。

 

「ファミレスというものに初めて行きましたぞ。中々良かったですな!」

「カラオケでの俺の歌も披露出来て良かったぜ!」

 

 宍田と鉄哲も昨日は楽しかったようだ。

 

「ああやってクラスの団結が深まるのはいいことだ。憎きA組を打倒するためにもね。そう言う意味では夏油は良くやってくれたよ。するとは思ってたけどきっちり優勝するとはね」

「私のことはいいよ。それより皆が満足そうでよかったよ」

 

 夏油は本心からそう言った。

 

「俺は夏油とあそこで戦いたかったけど、それは来年に持ち越すぜ!」

「私は正直もう当たりたくないですぞ……」

 

 その後もしばらく話していると、チャイムが鳴る。ちょうどブラドキングが入って来た。

 

「チャイム鳴ったぞー、席に着け。今日のヒーロー情報学は少し特殊だ。ヒーロー名の考案だ」

 

 ブラドキングがそう言った途端、教室は興奮した声が聞こえうるさくなった。

 

「おーい、静かにしろ。前にも少し話したが、プロからのドラフト指名が関係してくる。あくまで今回の指名は将来性に対する興味だ。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてこともよくある。だから今回の指名に一喜一憂しないように。その指名の集計結果がこれだ」

 

 そう言ってブラドキングは集計結果の棒グラフを表示した。

 

「例年はもう少しバラけるが今年は夏油に一極集中したな」

 

 夏油が1万近く指名を貰っており、他は塩崎が300強、鉄哲や宍田も100以上の指名を貰っていた。他にもトーナメントに進んだ泡瀬や骨抜なんかも指名があった。

 

「俺ねーじゃん!」

「私ないノコ」

「俺もない……」

 

 落ち込んでいる者もいれば、

 

「やったぜ!結構多いんじゃねえか、これ!」

「神に感謝を……」

「これは嬉しいですなー、あれ?夏油氏?」

「なんだい?」

「あまり嬉しそうではないですな」

「うーん……なんだか数字だけだと実感がわかんないなーと思ってね。朝から感じていたが、日の当たる世界にいるのは違和感があるな」

 

 夏油としては自分がこんな注目を浴びるような存在になるというのに違和感を感じていた。

 

「でもあの数だとどうしたらいいかわかりませんな」

「……たしかに。あれどうすればいいんだ?」

 

 夏油はヒーローにあまり興味を持っていなかった。ろくにヒーローのことなど知らない。

 

「これを踏まえて指名の有無関係なく、いわゆる職場体験に行ってもらう。プロの活動を実際に体験してより実りある訓練をしようってことだ。仮ではあるが、適当なものをつけてはダメだ。この時の名前が認知されそのままプロ名になってる人も多いからな。じゃあ15分で考えて発表だ」

「「「「「発表⁉」」」」」

 

 ブラドキングの言葉に驚くB組一同。これは真剣に考えないといけなくなりそうだ。

 

「何を言っている。プロになったらその名前で呼び合うんだぞ?こんなので恥ずかしがっていたらやっていけないぞ」

 

 それぞれにフリップが行き渡り頭を悩ませるB組。

 

『何かいい案ありませんか?』

 

 夏油はすぐに志村に相談した。

 

『珍しくすぐに相談してきたね。ヒーロー名、思いつかないの?』

『ヒーローなんて今まで興味なかったので。あれ?菜奈さんのヒーロー名はなんでしたっけ?聞いていないような……』

『私のことはいいんだよ!今は自分のヒーロー名だよ。一般的には個性や戦闘スタイル、見た目からとることが多いらしいよ』

 

 志村は自分から話を逸らし、夏油に真っ当なアドバイスをする。

 

『あとはそうだなー……尊敬してるヒーローから取るとかもあるね』

『そうですか。ありがとうございます、菜奈さん』

 

 夏油は考える。

 

(個性から取ると呪いの「カース……」みたいになるのか?それとも創操部分で、創操のゲトー、ゲトーレン?ん?レンはどっからきた?頭が混乱している……

 戦闘スタイルは臨機応変か?どちらかというと王様みたいに中心にいることが多いが……

 見た目は僧侶っぽい感じか?僧侶、僧侶……何も思いつかないな。

 あとは尊敬しているヒーローか。菜奈さんは教えてくなそうだし、あとはブラド先生くらいか……ん?いいんじゃないか?)

 

 夏油は長々と考えた結果、方向性が見えてきた。それをフリップに書く夏油。前世で宗教家だったおかげか字はかなり上手い。

 

『菜奈さん、決まりそうです』

『お、良かったじゃないか』

『これです』

『どれどれ……へーいいじゃないか。名は体を表す。その通りだね』

『それに尊敬するヒーローの要素も入れましたよ』

『それもあったか……いい名前だね』

 

 そしてヒーロー名を考え始めてから15分が経過した。

 

「じゃあ発表してもらうが、やりたい奴いるかー。お、じゃあ拳藤から行くか!」

 

 拳藤が手を上げていたようで彼女から発表するようだ。前に出てきてフリップを掲げる。

 

「私のヒーロー名は、バトルフィスト!」

 

 拳藤は彼女の個性や素手で戦うスタイルが出た名前となった。

 

「いいじゃないか!拳藤の特徴が良く出ているな!」

「ありがとうございます!」

 

 ブラドキングにも好評のようだった。

 その後も何人かヒーロー名を発表していき、夏油の番が回って来た。

 

「これに決めました。カースキング」

 

 夏油はいつも通り堂々と言い切った。

 

「夏油……それってもしかして……?」

 

 ブラドキングは期待するようにそう言った。

 

「ブラド先生リスペクトですね。あまりヒーローに興味のない私にとって真に尊敬できるヒーローとはブラド先生なので。それに戦闘スタイルも王様っぽいかな?と思いまして」

 

 夏油はこの名をつけた理由を説明した。

 

「夏油……お前ってやつは……お前ってやつは……」

 

 ブラドキングは感極まったのか泣き出してしまった。

 

「呪いの王か……カッコいいな」

「夏油、王様っぽく呪霊操ってるしいいんじゃね?」

「略称はカース?それともカスキン?」

 

 クラスメイトからの評価も良さそうであった。泣いているブラドキングをよそに席に戻る夏油。

 夏油の後もまだ発表していない者が発表し、B組全員のヒーロー名が決まった。

 

「職場体験は一週間だ。体験先は指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選ぶように。指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件の中から選んでもらう。それぞれの事務所の活動地域や得意なジャンルは異なる。よく考えて選ぶんだぞ!期限は今週末までだ」

 

 今週末とはまた時間がないなと思いながら夏油はリストを貰う。だが紙の量がとんでもない。

 

「夏油氏、その量から選ぶのは大変そうですな」

「まあね。それに私はあまりヒーローに詳しくないから選ぶ基準がいまいちわからないな……」

 

 夏油は早速リストを眺めるが見覚えのない名前ばかりだった。

 

「困ってそうだね。協力しようか?」

「俺にも見せてくれ!」

 

 物間と鉄哲もやってきた。

 

「二人はもう決めたのかい?早いな」

「僕は数件だけ来てたからそこから選べばいいだけだし」

「俺は都市部での対凶悪犯罪に決めてるぜ!」

 

 どうやら二人はもう既に目星をつけているらしかった。

 

「私はもう決めましたぞ!シシドの所にしました。私と個性が似ているので勉強になりそうです」

 

 宍田はもう決めたようだ。

 

「へー、シシドか。ビルボードチャートでも上位にランクインしていたきがする。いいところだ」

 

 物間はシシドを知っているようだった。夏油は名前だけ聞いたことあるような気がする程度だ。

 

「じゃあ皆には私の指名のリスト見てもらおうかな?私だけではよくわからない」

「どれどれ……」

「任せとけ!」

「鉄哲氏は戦闘系のところばかりお勧めしそうで不安ですぞ……」

 

 そう言ってそれぞれリストを見始める。

 

「おー、流石優勝者。チャート上位のヒーローからもかなり来ているね」

「クラスト、ミルコ、ギャングオルカからも来てるじゃねえか!」

「ホークス、ベストジーニスト、エッジショット、ヨロイムシャ、リューキュウとトップ10目白押しですな!来てないのは教員のオールマイトとナンバーツーのエンデヴァーくらいですかな?」

 

 興奮している様子をボケーっと見ていた夏油。休み時間なので志村を呼んで尋ねてみる。

 

「休み時間とはいえ、私は出てきていいのかな?あぁ皆、昨日は楽しかったよ」

 

 志村は普段着姿で教室に現れた。

 

「昨日ぶりですね」

「また今度訓練お願いしたいぜ!」

「やはりこうして夏油氏の中から出てくると驚きますな」

 

 昨日の会でも志村は夏油と一緒に参加していた。志村は遠慮したが夏油が強引に連れて行った。ただあまり遠距離に離れることはどっちみちできないのだが……

 一人だけ保護者同伴できたようなものなのに堂々としていた夏油はやっぱり大物なのかもしれない。

 

「傑がどういうヒーローになりたいのかにもよるけど、やっぱり無難に選ぶならトップヒーローからじゃないか?トップ10に入ってるヒーローとか」

 

 志村は夏油にそうお勧めする。

 

「僕はホークスがいいと思うな。若くしてここまで地位を築いたヒーローだ。きっと君の参考になるよ」

「俺は断然ミルコだな!あの戦闘力は最高だぜ!」

「私はリューキュウがお勧めですかな?巨体に変身するヒーローで、夏油氏の大型の呪霊のサイズを操るのに勉強になるはずです。後は怖い見た目のギャングオルカも威圧感を与えないようにする術を学べるかもしれません」

 

 それぞれのお勧めを聞いた夏油は考える。

 

「傑、それでどうする?どの事務所を選んでも君の選択を尊重するよ」

 

 志村は夏油に問いかけた。

 

「そうですね……じゃあ……」

 

 夏油は一人のヒーロー名を言った。

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