職場体験当日、B組は駅に集合していた。
「皆、コスチュームは持ったな!本来は未だ学生の身は公共の場じゃ着用厳禁だ。落としたりしないようにな。それとこれからお世話になるのはプロヒーローのご厚意があってのことだ。くれぐれも失礼なまねはしないように!それじゃあ気を付けて行ってこい!」
ブラドキングの話が終わり、B組はそれぞれの職場体験先の方面の電車の路線に移動する。
「皆に会うのは一週間後か。無理するんじゃないよ、特に鉄哲」
夏油は脳筋である鉄哲を心配する。
「俺か⁉俺より物間のが心配じゃねえか?」
「ハハハ、ハハハ!何を言っているのかな、鉄哲は。僕が心配されるようなことすると思うかい⁉」
「両方とも暴走しないか心配ですぞ……」
「4人とも喋ってていいのか?電車の時間確認してる?」
横から拳藤がいつまでも喋っている4人に注意する。
「やべ!もう行かなきゃだ。じゃあな!」
鉄哲は時間がないのか走って行ってしまった。
「私たちも行こうか。私は九州だから同じ方角がいないのは残念だが……」
「トップヒーローの職場体験の土産話楽しみにしてるよ」
「それではまたですな!」
夏油は皆と別れ、九州へ向かう。新幹線で行くのでかなり時間がかかりそうだった。
新幹線の車内は平日なこともありかなり空いていた。
「菜奈さん、出てきてくださいよ。一緒に車窓の眺めを楽しみましょう」
夏油は志村に出てくるように言う。
「仕方ないな。というか私の分も駅弁と切符買ってたし最初からそのつもりだっただろ?」
志村は出てきて呆れながら言った。そのまま夏油の横に座る。
「フフフ、バレましたか。菜奈さんと旅行気分を味わえるなんて職場体験も存外捨てたもんじゃないですね」
「こんなおばさんと一緒で何が楽しいのかわからないけど、傑が嬉しそうでよかったよ」
「おばさんという表現はあまり好きではありませんね。お姉さん、ですかね?それに年齢なんてあなたの前に関係ありませんよ」
そう言う夏油の目はどこまでも優しかった。
その後も夏油は志村との二人旅を楽しんで気づけば福岡に到着していた。
『あっという間でしたね』
『傑、楽しそうだったね。いつもよりもテンションが高かったよ』
『そうですか?あ、ここですね。ホークスの事務所』
夏油は職場体験先にホークスを選んでいた。ホークスの事務所はその年齢のわりに立派な建物だった。
『私もこれくらいの稼ぎが欲しいですね。菜奈さんと不自由ない生活をしていくためにも』
『あんまり気負いすぎるなよ。最悪私は食事も睡眠も摂らなくていいんだから』
『そういうわけにはいかないでしょう。それが私の責任ですよ』
夏油は事務所に入っていく。受付で話は通っていたのかすぐにホークスの部屋へ案内された。そこにはホークスの他にA組の常闇もいた。
「お、やっと来たね。ようこそホークス事務所へ。とはいってもあんまり教えたりする気はないんだよね。サイドキックの皆さんに付いて行って色々教えてもらいな。じゃっ!」
ホークスは言いたいことを言ってそのまま出て行ってしまった。夏油が呆気に取られていると、常闇が話しかけてくる。
「夏油、お前もここだったか」
「常闇、君がいるとは思わなかったよ。一週間、お互い頑張ろう」
夏油がそう言ったところで再びドアが開く。
「職場体験で来たのは君たちだよね?まずは事務所の案内するから付いてきて」
サイドキックに連れられて事務所を歩く。流石はナンバースリーなだけはありかなり広い。宿泊設備も完備していた。今日から夏油たちはそこに泊るらしい。
「じゃあこれからパトロールの時間だから更衣室でコスチュームに着替えてきてね」
夏油たちは言われた通り着替え、パトロールに同行させてもらう。だがそれは夏油が思っていたものとはだいぶ違った。
ひたすら先を行き事件を解決するホークスを追いかけ、後処理に終始する。流石にこれではあまり意味がないと思い、夏油はホークスに尋ねる。
「個性使って追いかけていいですか?後処理が大事な仕事だというのもわかりますが、これでは学ぶものも学べないので」
夏油の問いにホークスは気にしたこともなく答える。
「ん?ついてこれるならいいよ」
言質を取った夏油はエイを出して追いかける。
「へー、それは体育祭でも見たなぁ。ずいぶん速い。体育祭では手抜いてたでしょ?」
「本気でしたよ。障害物が多かったもんで」
移動に個性を使うのには許可が出たが、事件の解決に参加するわけにはいかないので上空から見ているだけになるのがほとんどであった。避難誘導もホークスの羽で行ってしまう。
『ずいぶん暇な職場体験ですね』
『そう言わない。若くしてナンバースリーになったホークスの仕事振りは参考になるはずさ。見てるだけでもね』
『それはそうですね。一般的なヒーローの仕事がどういうものかはわかりませんが、解決スピードが早いのは見て取れます』
初日は見ているだけで終わってしまった。サイドキック達からすると追いついているだけでも驚きのスピードなのだが……
事務所に戻り夕食を食べる。事務所に食堂まであるのは流石に驚きだった。
宿泊設備の与えられた部屋に戻ってから、夏油は物間たちと連絡を取ったが皆慣れない環境で疲れていそうだった。
早めに話を切り上げて就寝した。
職場体験二日目以降もやることはほとんど変化なかった。変わったのは書類仕事のやり方を教えてもらったくらいか。
夏油から見て常闇の扱いは不憫だった。自分はまだ移動手段があるが、彼は追いつくのが難しい。
三日目になってもやることは変わらないが、夜に驚きのニュースが飛び込んできた。なんと最近巷を騒がせていたヒーロー殺しが捕まったらしい。
しかもその保須では先月雄英を襲ったヴィランと似た特徴を持つヴィランが暴れたようだった。
「菜奈さん、このニュースどう思います?」
部屋でテレビを見ながら夏油は志村に尋ねた。
「ヒーロー殺しを捕らえたのはいいとして、この暴れたヴィランというのが気になるね。雄英襲撃のニュースで見たのと見た目の特徴が酷似している。何かしらの生物兵器だったりするのかな?」
「なるほど……たしかにここまで見た目が同じというのは何かあるのかもしれませんね。私たちには関わりようがありませんが」
「まぁ学生の傑じゃ関わることはまずないね。それよりB組の子で保須ら辺に行った子はいないの?」
「それはもう確認済みです。問題ありませんでした」
「流石だね……さっきから携帯弄ってると思ったらそれか」
夏油のB組愛に呆れる志村だった。
職場体験四日目、五日目と同じ日々を過ごしていたが、ついに常闇も不満が限界を迎えたのか、休憩時間にホークスに何故指名したのか尋ねた。
「鳥仲間」
「おふざけで……?」
「いーや、2割本音。半分は1年A組の人から話を聞きたくて。君らを襲った
「……」
「んで、どうせなら俺について来られそうな優秀な人ってことで、上位から良さ気な鳥人を」
常闇とホークスの会話を聞き流しながら、夏油は自分が指名された理由を考える。
(私が優勝したからか?ならもっと教えたりするはず……A組も呼んだからB組も指名した?いや、そんなことでこの後進育成に興味ない人が呼ぶとは思えない。
私個人に興味があるような様子は微塵もなかった。なら何故か……直接聞いてもいいが、この様子だとはぐらかされて終わりだな……)
夏油が考えている間にもホークスは常闇に雄英襲撃時の様子を尋ねていた。
(目的は情報収集か?なら私が持つ情報は……個性か。菜奈さんは体育祭に出していないし個性で間違いない。
何のために情報収集をする?体育祭で優勝したとはいえわざわざ学生を呼ぶのは違和感が有る。危険視された?この感じ、特級認定された時のようだな……)
夏油はその日の夜、志村に自身の考えを話してみた。
「どう思います?」
「んー……危険視されたというのは、ない話ではないと思う。問題はホークス個人がそう思ったか、何かしらがバックにいてそう思ったか……それが正義の味方であるか悪者であるかが問題だ」
志村は険しい顔でそう言った。
「なるほど。個人でしか考えてませんでしたが、裏に何者かがいる可能性もあると……」
「そうだね。ヒーローがヒーロー志望の学生、それも雄英生を危険視するというのは違和感が有る。裏に誰かいる可能性が高そうだ」
「裏にいるとしたら誰ですかね?ヒーロー公安委員会ですか?」
夏油がパッと思いつくのはそれくらいだった。
「それならまだマシだが……最悪はオールフォーワンと思っといたほうがいい。彼なら傑に興味がある理由に納得がいく」
「それは流石に飛躍しているような気もしますが……最悪を想定するべきですか……警戒しといて損はないですね」
「奴は強い個性を見たら簡単に奪っていく。体育祭で目を付けられた可能性は否定できない。十分警戒するんだよ」
志村の夏油を見る目は真剣だった。
「まぁ私の個性は奪っても意味ないとは思いますが、そんなことは奴は知らないですもんね」
「そうなのか?」
「呪力が目覚めるくらいですかね?呪霊の創造は出来ないと思います」
「なるほど……それでもよく注意しておくんだよ」
「わかりました。もう遅いですし寝ましょうか」
「おやすみ、傑」
志村と話したことですっきりした夏油。この日は快眠だった。
職場体験六日目、七日目も内容は同じようなものだったが、ホークスと合間合間に話す内容で夏油は怪しさが募っていた。
ホークスはこちらの心を解きほぐすような、警戒をさせない話術を使う。飄々とした態度も相変わらずだ。
しかし夏油の個性についてアドバイスする体で色々聞いてきた。これがただの学生であったら話は別だろうが、前世で教祖までやっていた男だ。察するものがあった。
無事に一週間の職場体験が終わった。付いて行っているだけであっという間の一週間だった。
「夏油くん、常闇くん、一週間お疲れ様!あんまり構ってあげられずに悪かったね。ここでの経験が次なる学びに繋がることを願っているよ。もし仮免が取れたらウチにおいで」
夏油たちはお世話になったサイドキックたちにも挨拶して事務所を出た。
「さて、帰るか」
「悪い、常闇。私は人と待ち合わせしているから先に行っててくれ。私のことは待たないでいいよ」
「そうか?ならばさらばだ、夏油。次までに俺もお前に追いつけるように精進しておく」
常闇は去って行った。それを確認してから夏油は帰りの新幹線の人が少ない車両の席に座る。志村も一緒だ。
「で、どう思いました?」
「少なくとも傑個人というか個性に関心があるのは確定かな。裏が何者かは分からないが……」
「公安とヒーローって直接繋がりがあるものなんですか?」
「私の時代ではそんなものはなかったはずだけどな……」
志村は過去の記憶を思い起こす。
「じゃあやっぱり奴の可能性がありますね。そうなると厄介ですが……まぁ私にはあなたがいればいいので最悪海外に高跳びしましょう」
「ふふ、なんだよ、それ。傑は相変わらずだな」
「気持ちは変わらないということですよ」
帰りの車内も夏油は楽しかった。好きな人と二人っきりの時間は特別なものだ。
それに一週間ぶりにB組の皆にも会えることが楽しみだった。
※※※
福岡
ホークスはビルの屋上で羽を休めていた。誰かと通話しているようだ。
「夏油くん、いい子でしたよ。優秀そうでしたし。ちょっと内面に裏がありそうでしたけど表面上は問題なし。ホントに監視する意味あったんですか?」
「公安内に彼を危険視する声があるのよ。特に決勝戦で出したアレ。アレがヴィランとして暴れたりなんかしたらとんでもない被害になる。あなたは彼のお目付け役よ」
「はーい……まぁ仕事なんでやりますけども……」
ホークスは気乗りしないながらも夏油の監視を続けさせられるのだった。