夏油が福岡から帰って来た翌日、早速学校があったので一週間ぶりに登校していた。
「皆、おはよう」
挨拶しながら教室に入る夏油。するといたる所から挨拶が返って来る。帰ってきた気がするなーっとボケーっとしていると、
「夏油氏、どうしたんですかな?お疲れですかな?」
隣の席の宍田が話しかけてきた。疲れてぼうっとしているように見えたようだ。
「そんなことないよ。移動は長かったけど楽しかったし、体験自体も付いて行くだけって感じだったし」
夏油は笑顔で答える。
「そうでしたか。私も似たようなものでしたな。基本的には付いて行くだけで避難誘導のやり方を教えてもらったり、戦闘訓練の相手をしてもらったりしましたぞ」
「ほう、いいじゃないか。それは滅多にない良い経験ができたんじゃないか?」
「そうですなぁ……夏油氏の特訓のおかげで近接戦闘は褒められましたぞ!」
宍田は嬉しそうに夏油に言った。
「それは違うさ。宍田が真剣に訓練したからだ。私はその相手をしていたに過ぎない。もっと自分に自信を持つんだ」
「そう言われると照れますなぁ……」
「何の話をしてるんだい?」
そこに聞きなれた声が話しかけてきた。物間だ。ついでに鉄哲もいる。
「職場体験の振り返りだよ。嬉しいことに宍田は近接戦闘が褒められたらしい」
「へー、流石はウチのクラスでもトップクラスの戦闘力を誇るだけはあるね」
「良かったじゃねーか、宍田!俺は怒られまくったぜ!」
物間は素直に感心していた。鉄哲は何故か怒られたことを嬉しそうに報告してきた。
「ハハハ……ところで夏油。君、ニュースになってたよ」
「ニュース?」
「ほらこれ」
そう言って物間は携帯でニュースサイトを見せる。
「どれどれ……『体育祭優勝の夏油、ホークス事務所で職場体験!将来はナンバースリーのサイドキック確定か⁉速すぎる男に難なく付いて行くその秘密は……』へえ、随分と持ち上げてくれるね。というかこの写真いつ撮ったんだ?もっとカッコいいのがあったはずだが」
夏油は記事をざっと読んで感想を口にした。
「そこかい⁉そこなのかい⁉まぁ君らしいが……これでA組に話題性でも勝てそうだ!」
物間は頷きながらも興奮している様子で言った。
「でもよ、A組はヒーロー殺しの逮捕に関わってるって切島から聞いたぞ。なんか位置情報が送られてきたって」
鉄哲が他は知らない情報を言う。
(ヒーロー殺しを逮捕したのはエンデヴァー。A組にはエンデヴァーの息子がいる。職場体験先に親の所を選んでも違和感はないか。だがもう逮捕された事件だしどうでもいいか……)
夏油は内心でそんなことを考えつつも口を開く。
「それってあまり言いふらさない方がいい情報じゃないか?忘れておこう」
「そうなのか⁉わかった、忘れるぜ!」
「鉄哲氏は本当に忘れそうですな……」
「許せないなぁ!いや、話題性といえば拳藤がいた!彼女はCMに出るんだ!」
誇らしげに言う物間。
「CM?職場体験に行ったんじゃないのか?」
夏油が疑問を投げかける。
「その職場体験先のヒーローが芸能活動をしているヒーローだったんだ。ウワバミって知らないか?」
「知らないなぁ」
「知ってるぜ!」
「知っていますぞ」
夏油以外は知っていた。そんな話をしていたところで拳藤がやって来る。
「ちょっと、物間!なんで言いふらしてるんだよ⁉」
拳藤としては恥ずかしいようだ。
「えぇ?目立つのはいい事じゃないか」
「ちなみにA組の八百万もいたからその対抗心は意味ないぞ」
拳藤は冷静に突っ込む。
「なに⁉またしてもA組か……!いつも僕らの栄達を阻んでくる……!」
「阻んでないっつーの」
「それよりCMに出るって本当なのかい?」
夏油が拳藤に尋ねる。
「そうだけど……似合ってないって思う?」
「いいや、少しも。むしろこんな美人がCMに出てくれるなんて、その企業は得したなと思っただけさ」
「そ、そうか?そう言われると照れるな……」
「もっと自信持ちなよ。鉄哲なんていつも自信満々だ」
そう言って夏油が鉄哲に目をやる。
「ん?俺か?俺はいつも自信たっぷりだぜ!」
「ほらね」
「あはは……鉄哲とまではいかないけどそうするよ、ありがとう。ところで夏油はどんな感じだったんだ?ホークスの所に行ったんだろ?」
拳藤はホークスの所の様子が気になるようだ。
「そうだな……あんまりかな。ただ今後の参考になる情報は手に入った。収穫はあったよ」
「ん?トレーニング方法とかってこと?」
「いや、それ以上だよ。詳細は教えられないけどね」
夏油は意図せずに口角がにんまりと上がっていた。ホークスにどう対処するのか思案している。
「夏油氏、また悪い顔してますな」
「夏油はやっぱこうじゃなくちゃな!」
「流石このクラスでも僕以上の腹黒さを持つ男」
好き勝手言われる夏油である。
「酷いじゃないか、そう決めつけて……でもまぁ君たちがそう言うならそうなんだろうね。フフフ……」
「はぁ……どうしてウチのクラスは問題児ばかりなんだろうな……そろそろ始業だ。席に着こう」
「じゃあ僕も席に戻るかな」
「じゃあな!」
丁度その時チャイムが鳴り、ブラドキングが入って来た。今日はそれぞれの職場体験の振り返りをやるみたいだ。
一週間の職場体験も終わり、いつも通りの日常が帰って来た。
翌日、この日の午後はヒーロー基礎学の授業だった。担当はオールマイトだ。
「ハイ、私が来た。ってな感じでやっていくわけだけどもね、ハイ、ヒーロー基礎学ね!久しぶりだ少年少女!元気か⁉」
「元気です!!」
鉄哲が元気よく返事をする。
「うむ、鉄哲少年ありがとう!今日は職場体験直後ってことで遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!」
どうやら今日は本格的な訓練ではないようだった。複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯の運動場γで、5人4組に分かれて訓練を行う。
オールマイトが救難信号を出したら街の外から一斉にスタートし、誰が最初に手助に行けるかの競争をする。
『今回は菜奈さんの出番は無さそうですね』
『むしろあったら困るよ。俊典の授業は極力表に出たくないんだ』
『菜奈さんがそう言うのなら気持ちを尊重しますよ』
夏油と志村が話している間に組が決まっていた。夏油は初っ端の一組目だった。他の面子は骨抜、鎌切、角取、黒色だった。
夏油はスタートの位置に着く。
(このクラスでも機動力がある面子だね。でも私には関係ないか)
『スタート!!』
スタートの合図が出た途端、夏油はエイを出して飛び乗る。そのまま救難信号の位置まで高速で飛んで行った。
一瞬で到着した夏油は当然ながら1位だった。ゴール地点にはオールマイトしかいない。
「夏油少年⁉はやっ!まだ30秒と経ってないぞ⁉」
想定外の速さに驚いたのか不明だが、あたふたして挙動不審なオールマイト。
「ここは上空を飛んでしまえば障害物はないですし、ホークスに付いて行っていたおかげでスピードが上がりましたね」
事もなげに夏油は言う。
「そ、そうか……まだまだ成長の余地があるのはいいことだな、うん!」
オールマイトが一人で納得したところで角取が2位で到着する。何故かオールマイトはほっとした様子。
「ゴール!フー、疲れましタ。アレ!夏油クン、早いデス!ワタシィが1位取った思ったノニ!」
「簡単には負けるわけにはいかないよ。私にもプライドがあるからね。それに角取も十分早いじゃないか」
「夏油クン、ワタシのことはポニーと呼んでクダサイ!故郷ではそう呼ばれてマシタ!」
角取はポニーと名前で呼んで欲しいようだ。
「そうかい?じゃあポニーと呼ばせてもらうよ。君の角、やっぱりかなりパワーがあるねぇ」
「そうデスカ?嬉しいデス!」
角取と談笑して間にも黒色、骨抜、鎌切が次々とゴールする。
「影の繋がってない所が課題か……」
「柔化しても本人のスピードが上がらないのがなぁ……」
「障害物を壊さずに避けるのが難しいぜぇ」
それぞれ自分の課題を見つけているようだった。ちなみに夏油は眼球呪霊のガンちゃんを上空に飛ばしてそれぞれ観察していた。
今度放課後に訓練するときにアドバイスするつもりだ。(お前は教師なのか?)
「皆ゴールしたね。一番は夏油少年だったが、皆入学時より個性の使い方に幅が出てきたぞ!この調子で期末テストへ向け準備を始めてくれ!」
そうオールマイトは締めくくってこの組は終わった。
「そういえばもうすぐ期末試験か。あっという間だな」
「ケヒヒ、俺地味に座学がやばいかも」
「俺もだぜぇ」
「ワタシは現代文がマズイデース」
「得意科目をお互い教え合ったりしようか。ポニーなら英語とかね」
「オゥ!夏油クン、ナイスアイディア!」
「それいいな。放課後空き教室とか使ってもいいし」
その後も賑やかに話しながらモニターの場所まで移動する。それぞれ座学も問題がありそうだが、鉄哲の面倒だけで精一杯になりそうな予感が今からする夏油であった。
無事に授業も終わり、更衣室で着替えている夏油たち。
「なあ、なんでここの壁だけ真新しい感じなんだ?」
誰かがそんな疑問を口に出す。皆の視線がそちらを向く。夏油も振り返った。
「ホントだ。材質からして違くねえか?」
「なんか硬そうな壁だな……」
そこで骨抜が言いづらそうに言う。
「あー……なんか覗き穴が発見されたらしい……」
「「「「「はぁ?」」」」」
一瞬場が静まり返る。
「マジでか?この雄英で覗き……?」
「この隣って女子更衣室だよな?それって……え、そういうこと?」
「流石に笑えないぞ……犯罪者じゃん」
真面目生徒が多いB組から非難の声が上がる。
「だよなー。たまたま職員室に用があったから聞いちまったんだよ。なんでも穴を作ったのと今回発見して覗こうとした生徒とは別らしい」
「雄英で覗きとは大それたことするな」
「勇者かよ」
「いやただの馬鹿だろう」
夏油はもしも志村が隣で着替えていて覗かれたらと考えたらはらわたが煮えくり返った。
『もし菜奈さんが覗かれたら言って下さいね。そいつは殺しておきます』
『傑は過激だなぁ。私の着替えにそんな価値あるか……?』
『ありますよ。殺すのがダメなら記憶が飛ぶまで殴り続けますね』
『ははは、わかったよ』
全ての雄は夏油の想い人を狙っているかもしれない。そう考え夏油は改めて決意した。彼女を絶対に死守しなければならないと。
※※※
仮眠室
時は前日に遡る。A組が救助訓練レースをした日、その授業終わりに緑谷はオールマイトに呼ばれていた。
そこでオールマイトは緑谷にワンフォーオールの成り立ちと、オールフォーワンの存在について話をした。
「頑張ります!オールマイトの頼み……何が何でも応えます!あなたがいてくれれば僕は何でも出来る……できそうな感じですから!」
緑谷はそう意気込む。それに対してオールマイトは本来なら言わなければと思うこともあったが一言返すにとどまった。
「…………ありがとう」
「いいえ。それでオールマイト、お話は以上ですか?」
「いや、まだある。これは話すか非常に迷った。さっきの個性を奪い、与えるという話に繋がるが、ある生徒はまるで複数個性を持っているような能力を有している」
オールマイトは真剣な表情で語る。
「あ、それってもしかして……」
「ああ。1年B組の夏油少年だ。生徒を疑いたくはないが、彼は個性だけじゃなく怪しい点がある。知り合いの警察に調べてもらったんだが……彼には戸籍上の家族はいるが、小学校に入ってからしばらく誰も目撃していない。親戚もおらず、まるで彼は一人で生きてきたかのようだ。果たして当時小学生だった彼にそれが可能なのかは疑問がある」
「小学生から一人で生活していたんですか⁉」
緑谷は驚きの声を上げる。
「それに去年になってから突然、顔を隠した人物の出入りがあるようだ。それも調べたらしいが正体不明だった。授業で見たことがある人型呪霊の可能性も考えられるが、果たして個性とそんな関係になるのか……」
「常闇くんはダークシャドウと友達みたいな関係ですよ」
緑谷はそこについてはオールマイトにしっかり言う。
「たしかにそれはあるね。私の考えが至らなかった。だがなにより呪霊という存在だ。それぞれがまるで個性を持っているかのような能力を持つ。やはり人一人にそんな力が宿るというのは疑問がある。夏油少年が生き物を格納し操る個性で、それぞれの生き物にオールフォーワンが個性を与えたと考えれば納得がいく。あと決勝戦で出したものは、あの時初めて見たが鳥肌が立ったよ。あれは今の私では止められないかもしれない……」
「そんな……オールマイトでも勝てないかもしれないなんて……」
緑谷にとってはオールマイトは絶対的存在。彼が負けるなんてことは想像できない。
「ただこれはまだ現状証拠とも言えない小さな可能性に過ぎない。が、ワンフォーオールのことは絶対に秘密にするんだ。もし仲良くなっても誰にも言ってはいけない。爆豪少年は信じてなかったからいいが、相手がオールフォーワンに繋がる人物の場合、君が狙われることになる」
そこまでオールマイトの話を聞いた緑谷は緊張した面持ちで尋ねる。
「夏油くんとは接触しないようにした方がいいですか?」
「難しいところだ。意識して接触しないというのは周りに違和感を与えかねない。それに彼とはクラスが違うからそこまで関わることもないと思う」
「それもそうですね……焦って変なこと聞きました」
「くれぐれも気を付けてくれよ」
オールマイトと緑谷の懸念は果たして正しいのだろうか。今はまだ疑念が渦巻く。
※※※
その頃の夏油くん(職場体験明け初日)
夏油「久しぶりのB組楽しいな~菜奈さんもいてハッピー!」