職場体験も終わり、そろそろ期末テストを意識してくるある日。
「突然だが連絡が一点。再来週に授業参観を行う」
ブラドキングの連絡に騒がしくなるB組。
「静かに!まだ話は終わってないぞ。プリント配るから後ろに回してくれ」
そう言って渡されるプリントにはご丁寧に授業参観のお知らせと書いてあった。
「プリントは必ず保護者に渡してくれ。肝心の授業内容だが……保護者への感謝の手紙だ。忘れずに書いてくるんだぞ!」
静まり返る教室。そこで拳藤が挙手して発言する。
「あの。冗談ですか?」
「ん?冗談なわけあるか。大真面目だ。いつもお世話になっている保護者への感謝の手紙を朗読してもらう」
ブラドキングは真面目な顔をしてそう言い切った。
「マジですか……」
「恥ずかしい……」
「何書こうかなぁ」
困惑しているが仕方がないと諦めるB組一同。そんな中困った事になったと考える夏油。彼の親が授業参観にくるなど天地がひっくり返ってもありえない。
「ただその前に施設案内で軽く演習は披露してもらう予定だ。恥ずかしい姿を見せないように明日からもしっかり訓練に励むように。いいな?」
「「「「「はい!」」」」」
ブラドキングに対し元気よく答えるB組。それでも夏油の心は晴れない。
学校からの帰り道、いつも通り4人で帰りながら先ほどの授業参観の話をする。
「僕のうちは母が来るかな。皆は?」
物間が授業参観に誰が来るのか尋ねた。
「俺のうちも多分そうだな!」
「うちもですぞ!……夏油氏?」
どこか浮かない表情の夏油に訝しげな表情となる3人。
「……あぁ、私の親は海外住みでね。多分来られないなーと思ってね」
夏油は気にしていない顔を作りそう言った。
「そうか、海外か……ちょっと帰って来るってわけにはいかないね」
「そいつは残念だな……!」
「難しいですな」
3人とも残念そうにそう言った。
「じゃあ私が行くよ」
いつの間にか出てきていた志村が事もなげに言う。外なので志村は顔を隠している。
「いつの間に……というか出そうとしてなかったのに」
「私にはっきりと自我があるからかな?出ようと思ったら出れちゃった」
「そんな出れちゃったって……」
志村のあっけらかんとした態度に呆れる夏油。
「こんにちは」
「いつも訓練世話になってるぜ!」
「どうもですぞ!」
それぞれする物間、鉄哲、宍田。
「はい、こんにちは。傑、私は君の家族だろう?だから私が授業参観に行くんだ。何か間違ってる?」
楽しそうな様子で夏油に問いかける志村。
「フッ、間違ってませんね。よろしくお願いします、今回は私の保護者として」
「任せておけ!ふふふ……」
というわけで夏油の保護者として志村が行くことになった。
「良かったじゃないか、夏油」
「たしかに夏油の保護者みたいなもんだしな!」
「でもブラド先生に報告しておいた方がいいような気がするのですぞ」
宍田はよく気が付く男であった。
「そうだね。今日帰ったら電話しておくよ。ありがとね、宍田くん」
夏油の保護者問題は解決を迎え、彼らは安堵した顔で帰って行った。
家に帰った志村は早速雄英に電話した。
彼女のことは以前に夏油の個性の一部としてブラドキングに紹介済みであり、事情を話したらすんなり通った。
もしかしら家庭事情についてもある程度把握しているのかもしれないと考える志村だった。
だがここで大きな問題が発覚する。授業はすべて録画されており、それをオールマイトなど志村の顔を知っている人物が見てしまうかも知れないのだ。
「どうしよう、傑……!」
「落ち着いてください。顔を隠すのは怪しいので狐火を使うのはどうですか?ブラド先生にもあらかじめ伝えておけば問題ないと思いますし」
「それだ!流石は傑、悪知恵が働くな!」
「それ褒めてます?」
「微妙?」
「ですよね」
「ふふふ……」
志村が慌てただけでこの一件は解決した。だが問題があるとすれば……
「そうすると私は菜奈さんに手紙を書くんですよね?」
「ん?そうなるね」
「これは楽しくなってきましたね。つまりはラブレターいうわけだ。公開告白もできると……どんどん外堀が埋まっていくな。私は何もしていないのに……」
夏油は勝手に環境が外堀を埋めてくれる状況に感謝した。
「傑?なにブツブツ言ってるんだ?手紙、楽しみにしているよ」
「きっとあなたの心に響く言葉を送って見せます」
夏油は張り切っていた。
「そこまで気合入れなくていいのに。傑さあ、私のこと好き過ぎない?」
「当たり前のこと言ってどうしたんです?」
「……いや、もう何も言わないよ」
改めての夏油の偏愛に志村は閉口した。
授業参観当日、夏油はいつも通り教室にやってきた。一つ違うのは志村は別行動だということだ。
一緒に行動するようになって離れることはほとんどなかったから少し不安な気持ちになる夏油。彼にとって志村は彼の半身に等しい存在となっていた。
「皆、おはよう」
「おはようございます、夏油氏」
夏油が挨拶しながら教室に入った時にはほとんどの生徒がすでに登校していた。
「手紙書いてきたかい?」
「もちろん書きましたぞ。これを読むと思うと照れますが……」
「私はむしろ楽しみだな。私の彼女への想いが伝わることを願っているよ」
「相変わらずぶれませんなー」
宍田はいつも通りの夏油に感心しているようだった。
しばらくしてチャイムが鳴るが、ブラドキングはやってこない。たまには遅れることもあるかとそのまま待っていたB組だが、ショートホームルーム終了のチャイムが鳴ってもやってこない。
流石におかしいと思い始めるが全員の携帯が一斉に鳴る。
「なんだ?ブラド先生から……『今すぐ模擬市街地に来るように』……宍田、そっちも同じか?」
「そうですぞ。全く同じ文面ですな」
「だとすると……行くしかなさそうだな」
夏油と宍田が話していると、学級委員長の拳藤が声を張る。
「皆!とりあえずブラド先生から言われた通り移動しよう。一応手紙も持って行くように」
拳藤の指示通り乗り場で待機していたバスに乗り込む。
「でもどうしてわざわざ呼び出したんだろうね。普通に教室まで来てから一緒に行けばいいのに」
物間はブラドキングの行動に疑問を感じたようだ。
「なんか用事があったんだろ!わからねえが!」
鉄哲はあまり深く考えていないようだ。
「保護者がいないことから既に案内をしているのでは?」
宍田は保護者の案内をするために先に行っているのではないかと言う。
「気になることはあるが……言われた通り動くしかなさそうだ」
夏油は少し嫌な予感がした。それは志村がいないことへの喪失感なのか……
模擬市街地のバス停に到着した。しかしそこには誰もいない。
「中に入ってていいのか?」
「誰もいないみたいだし、入って待っておこうか」
拳藤の先導で進もうとしたところで、悲鳴が聞こえてくる。
「なんだ?」
「悲鳴が聞こえたような」
その悲鳴が止まぬうちに別の人たちの叫び声も聞こえる。夏油たちは慌ててその方角に駆け出した。だんだんとガソリンのような臭いもしてくる。
開けた視界の先には空き地が広がっていた。本来そこにあったであろうビルは倒壊しており、瓦礫が無残に積まれている。
ビルの建っていたところには半径数十メートルはある大穴が開いていた。
そして穴の中央にポツンと取り残された四角い檻。削り残された塔のような地面の上に檻が置かれている。
檻の中からクラスメイトを、彼らの子供に救けを求める声が聞こえる。檻の中に居たのは生徒たちの保護者だった。
慌てて近くに駆け寄ろうにも、穴にはガソリンが撒いてあるようだった。
「つかブラド先生はどうしたんだ⁉」
誰かが苛立った声を上げる。そこに機械的な音声が聞こえてきた。
「ブラドキングセンセイハ、イマゴロネムッテイルヨ。クライツチノナカデネ」
それは機械で無機質に変えられた声だが、明らかに敵意が籠っていた。
「土の中って……」
「ブラド先生が……?」
その機械的な声の主の発言に混乱するB組だが、拳藤がリーダーシップを発揮する。
「皆、落ち着いて。正体不明の相手の言う事を真に受けちゃダメ」
夏油は既に眼球呪霊のガンちゃんで周囲を観察していた。
「声の主はどうやら檻の中のようだ」
夏油がそう言うと皆檻の方を見る。
「ソノトオリ。ボクハココニイル」
その言葉と共に保護者の後ろから黒い人影が現れた。フード付きの黒マントに黒いフルマスクをつけた背の高めな人物だった。
「サキニイッテオクガ、ガイブヘモ、ガッコウヘモレンラクハデキナイヨウニシテアル。ニゲテ、ソトニタスケヲモトメニイクノモキンシダ。ニゲタラ、ソノセイトノホゴシャヲスグニシマツスル」
その後、犯行の動機についてつらつら語っているうちに夏油は拳藤に尋ねる。
「どうする?私なら奴一人相手にするのは問題ないが……」
「人質をどうするか、だな……」
「人質については任せた。私は敵の注意を惹く。最悪は戦闘だ。時間はないぞ」
「わかった。頼んだぞ」
「しかし面白いことを考えるね、雄英も」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でもないさ」
そう言って夏油は穴の淵でも檻の近くに行く。
「ところで人質は無事なのかな?」
「ブジダゾ。コレカラオマエタチノマエデ、ダイジナカゾクヲコワシテシマウンダ」
「で、証拠は?」
「ン?ショウコ?」
「だから、無事だという証拠だよ。あいにく私は目が悪くてね。ここからじゃ私の家族が無事なのか確認できないじゃないか」
「エッ!コウイウトキハ……ダマサレナイゾ。ソウイッテチカヅイテクルキダロ」
「バレたか。でも人質を取るまでは良かったと思うが……危害を加えると言ってしまったのは悪手だったね。遠慮せずにぶっ飛ばせる」
夏油はそう言って呪力を使い肉体を強化して一瞬にして敵に接近し、穴の外まで殴り飛ばした。敵はそのまま市街地のビルに突っ込んだ。
「皆、今のうちに人質の救助だ!」
拳藤が音頭を取って救助を開始する。そちらは任せても問題ないと判断した夏油は敵の元へ行く。
「ここからどうするのか見ものだね。本物のヴィランなら本気出しても良さそうだ。久しぶりに暴れるとしようか」
夏油はそう言って格納呪霊から三節棍を出した。
「これを使う機会がなかなかなくてね……練習には丁度良さそうな相手かな?」
「イタタ……エ、マ、マッテ」
「待たないよ」
夏油はそのまま三節棍を振るう。容赦なくぶっ叩いていく夏油。だが呪力で強化していないのかそこまで威力はない。それでも敵は痛そうだ。
「イタ、イタイ!ボクキンセツハダメナノニ」
「しかしヴィランに容赦するわけにはいかないんだ。早く降伏してくれないか?」
「……ウ~」
ガンちゃんで救助の様子を見ていた夏油は、無事に人質が全員確保できたことを確認した。
「先生、授業は終わりでいいですか?」
「エ、ナンデ?」
夏油がそう言うと敵は混乱した様子だった。
その時、倒壊したビルからブラドキングが突如出てきてこう言った。
「これで授業は終わりだ!皆良くやったぞ!夏油はさっさとこっち来い!」
呼ばれた夏油は戦闘をやめ、倒れている敵に声を掛ける。B組は混乱している様子だった。
「大丈夫ですか?結構手加減したはずですが……流石にこれ以上は難しいですよ」
敵は黒いフルマスクを取った。その顔に見覚えがない夏油。
「あ、素顔はあまり見せませんのでわかりませんか。僕、13号です!」
「13号先生でしたか。どうりで戦闘慣れしていないと思ったら……」
「お恥ずかしい……」
夏油と13号がB組と保護者の元へ行く。
「皆さん、ご協力ありがとうございました!中々真に迫った演技でした」
ブラドキングは保護者達をそう労った。
「え、どういうことですか?」
「つまりはドッキリということだ!」
ブラドキングがそう言うと、B組は安堵した表情でほっとした様子だった。
「マジかよ……」
「はぁーびっくりしたー」
「授業で良かった……」
夏油は志村の姿を探すと保護者達の中にいた。心配していなかったが一安心だ。
「今回の授業の講評だが……概ね問題なし!ただし夏油、お前授業だって気づいていただろ?」
ブラドキングは確信をもって夏油に尋ねた。
「まぁそうですね。確信を持ったのは殴った時ですけど」
いつもと変わらない様子でそう言った。
「え⁉」
「なんで?」
「だって彼女がヴィランにやられるとは思えないから」
夏油がそう言うと皆も納得した様子だった。訓練する時に志村の実力が高いのはB組で周知の事実だった。
「気づいたのに続行させてくれて助かった。あそこで授業だとバラされたら成立しなくなってた」
「ちゃんと本番だと思って対処するべきだと思ったので。授業参観でネタバラシは興ざめでしょう?」
夏油としてはきっと意味のある授業だろうなと考え続行させたに過ぎない。
「あ!もしかして私に人質の救助を任せたのって……」
「皆にも見せ場が必要だろう?折角保護者の皆さんがいらっしゃっているんだし」
「あの時は冷静じゃなかったから気づかなかったけど、今考えると夏油一人で対処できたよな……」
「どうだろうね」
実際は多分できただろうと思っている夏油である。
「今日の反省点をまとめて明日提出。じゃあ今日はこのまま解散だ。保護者の皆様、ご協力ありがとうございました」
ブラドキングが最後に保護者にお礼を言って授業は終わった。それぞれの生徒が保護者の元へ向かう。
「傑、いつも通りの活躍だったね」
志村が夏油に話しかける。
「もしあなたの安全が脅かされていたら冷静ではいられなかったかもしれません」
「そんなことにならないように努めるよ」
「はい。あぁそれとこれ、私が書いた手紙です。読んでくれたら嬉しいです」
「もちろん読むよ!嬉しいなぁ、誰かから手紙をもらうなんていつ振りだろう……」
志村は夏油の手紙に感激しているようだった。ただ内容は愛の告白なのだが……それが志村の気持ちをより一層揺らすことになることを彼女はまだ知らない。
(公開ラブレター朗読&告白がなくなってしまったのは残念だね。どうアプローチするか考えねば……)
夏油の内心は今日も平常運転だった。