【完結】ヒロアカ世界でも猿が嫌いな夏油傑   作:カワニ

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期末試験前

 時は流れ六月最終週、期末テストまで残すところ一週間を切っていた。

 

「鉄哲、もうすぐ期末試験だが勉強進んでるか?」

 

 授業の合間の休み時間に、夏油は鉄哲に試験勉強の進捗状況を尋ねる。

 

「進んでねえ……ヤバいぜ……」

 

 珍しく弱気な鉄哲である。

 

「そうか。なら週末は勉強会だな」

「夏油……!教えてくれるのか⁉恩に着るぜ!」

 

 鉄哲の中間の成績を知っているだけに放っておけないと思う夏油。

 

「それ、僕も行っていいかい?僕も中々に危機的状況なんだよね」

 

 そう言う物間も座学の成績はあまり良くはなかった。平均より少し下くらいか。

 

「私も苦手科目を何とかしたいのでお願いしたいですぞ!」

 

 宍田も参加したいようだ。

 

「別に構わないよ。ただ……困ったな。私一人では教える時間が足りなそうだ。拳藤、ちょっといいかい?」

「ん?なんだ?また問題起こしたか?」

 

 夏油に呼ばれた拳藤がやって来る。

 

「やだなぁ、私がいつ問題起こしたんだ?」

「体育祭以降、お前が学年問わずモテ始めて、私を盾にしてるだろうが……何が『そういうことはウチの拳藤を通してもらわないと困る』だよ。私が困るんだよ。お前が自分で断れよ……」

「だって仕方ないじゃないか。浮気を疑われては私が困る。有象無象の女などに興味はない」

 

 夏油は大して悪びれずにそう言った。ホントに自分本位でクズな男である。

 

「夏油はぶれないね」

「流石だぜ!」

「いや、拳藤氏を盾にするのは可哀そうなような……」

 

 この中でまともな感性を持っているのは宍田くらいなのかもしれない。

 

「まぁいいんだけどさ、先輩とも知り合いになれるし。で、本題は?」

 

 ちゃっかり人脈を形成する拳藤。流石、抜け目ない。

 

「週末に鉄哲のために勉強会をしようと思ったんだが、物間と宍田も参加したいとのことで教師役が足りない。拳藤、出番だ。あと他に呼びたい者がいれば呼んでくれ」

「出番だってなんだよ……いいけどさ。レイ子も呼んでいいか?わからないところあるって言ってたし、得意教科は教えられるし」

「もちろん。じゃあ場所は……学校は閉まっているしな……私の家に来るかい?」

 

 夏油は自身の家に招くことを提案した。

 

「いいのかい?夏油の家って確かご両親海外だって言ってなかったか?」

 

 物間は勝手に夏油の自宅に上がっていいのか憂慮しているようだ。A組への対抗意識が無ければ割と常識がある。

 

「構わないよ。こんなことに許可は要らないよ。皆は一人暮らしがほとんどだろうだしねそれに忌々しい事にあの家は広いから……

「?」

 

 夏油の最後の言葉に疑問符が付く。そんなこともお構いなしに夏油は話を続ける。

 

「期末で赤点を取ったら林間合宿に行けないみたいだし、気合入れて行こう。演習試験は……集まって訓練というのは難しそうだし各自で準備する形になりそうだ」

「それなんだけどさ、対ロボットになるって先輩から聞いたよ」

 

 拳藤が耳寄りな情報を告げる。

 

「ロボットかぁ……僕には難しそうな試験だな……」

 

 物間は個性柄、対ロボットは相性が悪い。

 

「俺はやり易いな!でも対人の方が夏油との訓練が役立ちそうだけどよ!」

「私もそうですな。近接格闘を中心にやっていたので」

 

 鉄哲と宍田は対人でも問題なさそうだが、対人戦の方が好きなようである。これも友人であるゴリラの影響か……

 

「あまり心配することないと思っているけどね。私が見た限り皆着実に成長している。あとは経験の問題だろう」

 

 夏油はそう言って励ます。そこでチャイムが鳴り、次の授業が始まる。

 

「じゃあ続きは昼休みにでも話そう」

「ああ」

「おう!」

「そうですな」

 

 それぞれ自分の席に着席する。夏油も着席したが志村が話しかけてくる。

 

『傑、良かったのか?自宅に招くってことはつまり……』

『私の過去を話すことになるかもしれないですね。両親のことも含めて』

『本当にいいの?』

 

 志村は夏油が夏油の過去を話すことを心配しているようだ。

 

『タイミングがあれば話そうとは思っていました。そろそろ話してもいい頃合いです。それにネットを見たら私のことを知っていそうな人が暴れてたのでそのうち有名になるかもしれません。あ、体育祭優勝した時点で有名か……』

『傑……真面目に話してるんだけど』

『これも時間の問題だったということですよ。私のことを思って下さるのは嬉しいです』

『傑がそこまで考えているなら何も言わないよ。彼らなら君の扱いに憤るだろうしね』

『だといいですね』

 

 そこで話は終わり、夏油は授業を聞くのに集中し始めた。

 

 

 

 その日の昼休み、夏油たちは食堂にいた。食事を買って席を探していると、物間がA組に絡んでいる。

 

「ああ、ごめん。頭が大きいから当たってしまった」

「B組の!えっと……物間くんよくも!」

 

 A組の委員長、飯田が怒っている。

 

「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね。A組って注目を集める要素ばかり増えていくよね。ただその注目って決して期待値とかじゃなくてトラブルを引き付ける的なものだよね」

「⁉」

「あー怖い!いつか君たちが呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らにまで被害が及ぶかもしれないなあ!ああ怖……ふっ!!」

 

 そこで拳藤が物間の首に手刀を叩き込みお仕置きする。

 

「シャレにならん。飯田の件知らないの?ごめんなA組。こいつちょっと心がアレなんだよ」

「拳藤くん!」

「でもトラブルが多いのは否定できない事実だね。もっと行動は気を付けたほうがいい」

「夏油くんまで!」

 

 物間が煽りに行ったのだ。当然夏油も参戦した。

 

(げ、夏油くん……⁉オールマイトに要注意するように言われてたけど……どうすれば……)

 

 緑谷は考えすぎて夏油の顔を見つめていた。

 

「ん?私の顔に何かついてるかい?えっと……そう、緑谷くんだ。」

「え、僕のこと覚えてるの?」

「当たり前じゃないか。ウチの骨抜を吹き飛ばした子だ、忘れるはずない。それに良い個性だった」

「夏油って個性好きだよな。よく初対面で良い個性だねって褒めてるし」

 

 拳藤が補足して言う。

 

「そうかな?そんな自覚はなかったが……個性とは素晴らしいものだからね。ほとんどの人間が持つことができる。ついそこに目が行ってしまうのかもしれない」

「そうなのか!なら緑谷くんと気が合うかもしれないな!緑谷くんも個性が好きでよくノートにメモを取っているぞ!」

 

 飯田は夏油が特に求めていない余計な情報を話す。

 

「ほう、それはいい趣味をしている。君には期待しているよ」

 

 夏油はそう言って緑谷に笑いかける。その笑みはどこか胡散臭かった。

 

(期待……⁉どういう意味だ……?それに個性が好きって一体何なんだ……?)

 

 緑谷は先入観もあり夏油をどうも怪しく思ってしまう。そしてさっきの夏油の言葉の意味について考え込んでしまう。

 

「あ、そうだ。さっき期末の演習試験が不透明とか言ってたよな?入試ん時みたいな対ロボット演習らしいよ」

 

 拳藤が先ほど話していた演習試験の内容に関して話す。

 

「どうして知ってるの⁉拳藤さん⁉」

 

 麗日が驚いたように尋ねる。

 

「私、先輩に知り合いいるからさ、聞いた」

 

 拳藤がそう言うと納得した様子のA組一同。緑谷は考え込んだままだった。

 

「バカなのかい拳藤。せっかくの情報アドバンテージを!ココこそ憎きA組を出し抜くチャンスだったんだ……」

「憎くはないっつーの」

 

 拳藤はまたも物間に手刀を食らわせた。そして物間を引きずって席を取っていた鉄哲たちに合流する。

 夏油としては一連の会話に収穫はなかった。ただ気になったのは緑谷の様子だ。

 

(そんなに私の前髪は変か……?)

 

 見当違いのことに悩む夏油であった。

 

 

 

※※※

夏油宅

 

 期末試験を控えた週末、夏油は自宅で友人たちの到着を待っていた。

 

「そんなにそわそわしても来る時間は変わりませんよ」

 

 夏油は初めて友達を自宅に招く息子を心配する母親のような志村の様子に呆れた様子で言った。ちなみにB組は志村の顔を知っているので顔は隠していない。

 

「だって仕方ないじゃないか。傑の友達がウチに来るんだぞ?もう一回掃除しようかな?」

「もう今日3回したじゃないですか……」

 

 そのときインターフォンが鳴る。見てみると物間たちが来たようだ。返事をして玄関まで出迎えに行く夏油と志村。

 

「暑い中よく来たね。上がってくれ」

「「「「「おじゃまします」」」」」

 

 きちんと挨拶をしてから家に上がる物間、鉄哲、宍田、拳藤、柳の5人。お土産まで渡してくれる。人間が良く出来ている。

 

「早速だがあまり時間がない。わからないところから重点的にやって行こう」

 

 というわけでリビングですぐに試験勉強に取り掛かる。特に危機的状況である鉄哲には夏油がほとんどつきっきりで教えていた。

 

 適宜休憩を挟みつつもしばらく勉強した。一応試験範囲がひと段落し雑談に興じる一同。もうすぐ帰ろうかというような時間になってきた。

 

「それにしても皆の私服を見ることはあまりないから新鮮だ」

 

 物間がそう言うと夏油も頷く。

 

「確かにね。女子二人は普段以上に華やかだ。あぁ、あなたはそれ以上なことは言うまでもないですよ」

「はいはい、わかってるよ」

 

 夏油は志村に対する気づかいを忘れない。彼女に誤解させるような事は避けなければならないからだ。だが志村の返事は適当だった。

 

「制服と私服だと雰囲気変わるよな!」

「夏油氏が意外とラフで驚きましたぞ。てっきりもっとかっちりしているのかと」

「確かに夏油のイメージとはちょっと違うかも」

「夏油、普段はしっかりしてる風を装ってるから」

 

 どうやら今日の夏油の服は普段のイメージとは違うようだ。

 

「ほら、やっぱりもっとしっかりした服を着たほうが良かったんだよ」

 

 志村は今日の夏油の服にも不満があったようだ。

 

「別にこれでもいいでしょうに……」

 

 夏油は不満げだった。

 

「こういう友達んち来たときは定番だけどよ、アルバムとかないのか?中学のアルバム」

「アルバムか……ちょっと待っててくれ」

 

 鉄哲の要望に応えてアルバムを自室に取りに行く夏油。

 

「傑…………皆、これからの傑の話、面倒くさがらずに聞いてくれると嬉しい」

「それってどういう……」

 

 志村は真剣な面持ちでそう言った。

 そこで夏油がアルバムを片手に戻って来た。

 

「はい、面白いもんはないけどね」

「おう、ありがとよ!どれどれ……」

 

 鉄哲はアルバムをめくっていくがだんだん表情が固くなっていく。

 

「これ、間違ってねえよな?集合写真以外夏油写ってねえぞ……」

「え?」

「ちょっと私にも見せて」

 

 拳藤もアルバムを見ていく。

 

「……見当たらないな」

「どういうことだい、夏油?」

「見たまんまさ。私はそこではいないものとされてたんだよ」

 

 夏油は表情を変えずにそう言った。

 

「いないって……」

「今日話すかは決めてなかったが丁度いいと思ったんだ。君たちと友達になって、仲間になって、そろそろ話すべきなのかもしれない。ちょっと長話になるかも。

 ここは私の地元なんだ。この地で産まれた。両親はいい人だったよ。滅多に怒らないしやりたいことをさせてくれた。でも個性を使うにつれて変わっていった。

 彼らによると私の個性は化け物を生んでいて、私は化け物の総大将のようだ。ある時、『私、化け物産んじゃった……!』って母親から聞いた時も疑ってなかったよ。だって家族だったから。

 だが現実はそうじゃなかった。両親は私を残して家を出た。海外に行く、金は送ると置手紙を置いてね」

 

 夏油は淡々と語った。まるで何でもないかのように。それを聞く物間たちは静かで愕然とした様子だった。

 

「で、そこから周りの態度も変わった。親に捨てられるほど気持ち悪い個性、恐ろしい個性と言われ、悪評はあっという間に広まった。

 個性が怖がられていたから直接暴力だとかをされるというようなことはなかった。いたずらされてもやり返してたしね。でも学校では無視される生活になった。アルバムで私が写っている写真がないのは誰かと一緒にいることがなかったからかな?集合写真とかには流石にいるし。

 教師も上辺だけ困ってることはないか?って聞いてきたが怖がって関わりたくないと思っているのは丸わかりだった。

 だから私は中学3年生、突然変異呪霊の彼女と出会うまでは独りぼっちだったというわけさ。つまらない話だろう?異形差別でも似たような話はあると言うし。

 今回話したのも体育祭でちょっと有名になったらしくて私のことを好き勝手言っている人もいたようだから、他から知るなら君たちには先に言っておこうかと思ったわけだ……ん?どうした?」

 

 夏油はそこまで語って周りの反応がない事に気付いた。

 

「どう言えばいいか分からないよ……」

「すまねえ!俺がアルバム見たいだなんて言ったばかりに……」

 

 鉄哲は自分が言わせたと気にしているようだった。

 

「そうじゃないよ。さっきを言った通りこれはそのうち言うつもりだったんだ。むしろいい機会を貰ったと思ってる」

「夏油氏、大変でしたなあ……!」

「宍田、泣くなよ。私は今思えばそこまで辛いとは思っていなかった気がする」

 

 宍田にティッシュを差し出す夏油。

 

「でも夏油は強いな。グレてもおかしくない環境だぞ」

「私、怖い話好きでよくネットサーフィンするんだけど、この辺で化け物を操る個性を持った子がいるって都市伝説見たことがあったけどそれが夏油だったなんて……あ、私は化け物なんて思ってないからね」

 

 拳藤は夏油に感心し、柳はネットで都市伝説になっていたことを教えてくれた。

 

「わかってるよ、柳。まぁ傍から見たら化け物だというのは否定できないし。まぁ私の話は以上だよ。聞いてくれてありがとう。今日は解散しようか。これ以上は遅くなるしね」

「いや、そんな空気ではなくないか?」

「帰りづれえな!」

「そうですな」

「そうそう」

「うん」

 

 神妙な空気になってしまったので帰るに帰りづらい。

 

「いや、帰ってもらうよ。そうじゃないとイチャイチャしづらいじゃないか」

「バカ、そういうこと人前で言うな」

 

 いつも通りの夏油の様子で空気が弛緩する。

 

「そういうことならお暇しなきゃね」

「これ以上居座るのも悪いしな!」

「夏油氏、応援してますぞ!」

「夏油また明日な!」

「今日はありがとう」

 

 口々にお礼を言って玄関に向かう。

 

「「「「「お邪魔しました」」」」」

「また明日」

「皆、今日は来てくれてありがとね」

 

 夏油と志村は玄関まで見送った。5人は帰って行った。

 

「話せて良かったね、傑」

「そうですね。まぁ個性を見せている以上は今更な話かもしれませんが……」

「そうかもしれないけど、傑が自分の口で話したのも良かったと思うよ。今日はお祝いに私が夕食作るよ」

「いえ、それは遠慮しておきます」

「えー、なんでだよー!」

「じゃあ一緒に作りましょう。これが妥協点です」

「ふふふ、わかったよ」

「なんだか夫婦みたいですね」

 

 夏油は今日も幸せだった。それに肩の荷が下りたような、すっきりとした表情だった。

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