期末試験の終わった次の日の朝、教室の空気は明るかった。全員クリアまでこぎつけたのが大きい。
試験が終わった後、疲れただろうということですぐに解散したこともあり皆で試験の話で盛り上がっていた。
「私の所は私が相澤先生の相手をして塩崎が突破って感じだったな。そうしたらすぐに終わってしまった。皆は?」
夏油は軽く試験の突破方法を説明した。
「私たちは合体技で突破しましたな!鎌切氏が上手い事連携してくれましたぞ」
「俺のとこは力技だぜ!やっぱ最後は強引に行くのが性に合ってるな!」
「僕は精神的に疲れ切ったけどね……ハハハ……」
宍田、鉄哲もいい内容だったみたいだ。物間には誰も触れない……
「私は庄田を投げてクリアした。庄田の自爆技が心配だったけど」
「俺たちは拘束されたんだが柳が咄嗟に機転を利かせてカフスだけ掛けてくれたんだ。助かったよ」
「あそこまで行くのに骨抜がだいぶ頑張ってくれた。お互い様だよ」
拳藤・庄田ペアに何があったのか少し気になる夏油だった。骨抜・柳ペアは拘束までされるとは意外とギリギリだったのかもしれない。
「私と黒色はお互いに移動を助け合って先生を回避していった感じかな。戦闘はほとんどしなかったよ」
ブラドキングの相手をした取蔭はそう説明する。
「俺たちはかなり危うかったぜ。俺が壁を張り続けてプレマイ先生の攻撃を防御して最後は吹出の一撃で倒した。だよな?」
「そうなんだよね!心がボボーンって感じだった!」
円場と吹出は厳しい戦いだったようだ。相変わらず吹出の言っていることはよくわからないがそんなところ彼の良い所だと思う夏油である。
「私たちも大変だったノコ……全然攻撃が効かなくて、逃げては攻撃を繰り返して何とかしたノコ」
「ん」
小森と小大が相手をした13号に対してどう戦うか考える夏油。あまり有効な策が無さそうだった。
「最後は俺たちか。ポニーが角に乗せて運んでくれたおかげでスピードで翻弄しながら攻撃できた。そこから接近戦に持ち込んでカフスを掛けたぜ」
鱗と角取のペアの相手は上手くやったようだった。
そこまで話していたところで予鈴が鳴る。
「皆、お喋りはここまでにして席に付こう」
拳藤の指示に従い着席するB組。そこへ教室のドアが開きブラドキングが入って来る。
「お、皆席に着いてるな。感心、感心。じゃあ早速今回の期末試験の結果だが……赤点なし!皆良くやったぞ!」
「「「「「よっしゃ!!」」」」」
ブラドキングがそこまで言ったところで教室は歓喜の声に包まれた。
「嬉しいのはわかるが静かにするように!というわけで全員で林間合宿に行く。まあ赤点だろうと行くんだが……それはともかく合宿のしおりを配るから後ろに回してくれ」
夏油も前から回って来たしおりを受け取りさっと見た。結構沢山の荷物が必要なようだった。
(ん?これは……楽しくなりそうだ……)
夏油の口角は自然と上がっていた。
その日の帰り道、いつも通り4人で帰っていると、鉄哲が話し始める。
「合宿の持ち物多くねえか?俺かなり買いにいかないとないもんばっかだぜ」
「そうですな。私も水着なんかは新調しなければ」
「じゃあさ、明日皆で買いに行かないか?」
物間が買い物の提案をする。
「悪い、私は最愛の彼女の服や水着、その他諸々の買い物とデートの予定だから無理だ。私たち抜きで行ってきてくれ」
夏油は志村とデートがあると言い断った。
「そうかい?わかったよ」
「相変わらずブレねえなあ!」
「ですが夏油氏らしいですな」
結局、男三人で行くことになったようだ。皆と別れ夏油は一人電車に乗る。
『傑、私明日出かけるとか聞いてないけど』
志村は不満げに言う。
『そりゃさっき初めて言いましたからね。でも菜奈さんの服とか諸々買わないといけないもの沢山ありますよね?水着とか男子とじゃ買いにくいんじゃ?』
『まぁそうだけど……仕方ない、じゃあ二人で行こうか。近場のショッピングモールでいいのかい?』
『そうですね。遠出してもいいですがそこまでする必要もないでしょう』
翌日、夏油と志村は近場のショッピングモールに来ていた。丁度お昼の時間だったので昼ご飯を食べることになった。
美味しそうなイタリアンが見つけそこに入る。混んでいる時間だったがタイミングが良かったのかすぐに座れた。
「この後はどうする?まず傑の服を買いにいく?」
「いえ、ここは先にあなたの服を買いましょう。女性の買い物はある程度悩む時間があった方がいいでしょうし」
「そうか?悪いね」
「いいんですよ。むしろ待っている時間すらも楽しいので」
「やっぱり君は少しおかしいよ。今度カウンセリングとかいくか?」
「辛辣なあなたも素敵ですね」
その後も食事中は他愛もない事を話しながら楽しい時間を過ごした。
食事を済ませて買い物を始める。志村は女性にしては買い物が早いタイプなのかさっさと買うものを決めてしまうので夏油は拍子抜けした。
だが問題は水着だった。どんなのを買えばいいのか分からないらしい。
「というか私が水着を買う必要あるのか?そもそも私は生徒ではないのだし」
「それはそうですが一人だけ見ているだけというのはお互い気を使いません?諦めて買いましょう。あっ、店員さん!この方の水着をお願いします」
「ちょっと傑!」
夏油は勝手に店員を呼んでしまった。夏油はそのまま少し離れたところで静観する構えだ。志村に店員が話しかける。
「彼氏さんですか?優しい方ですね。水着選びに男性が付いてきてくれることは少ないんですよ。恥ずかしいんでしょうね」
「そうなんですか……いや、彼氏というか……まだ返事はしてないというか……」
志村はいたたまれなくなって赤面しながらしどろもどろになる。
「初々しいカップル未満、キタコレ!!オッホン!ではこれからが楽しみなご関係ですね!それではどのようなものがいいとかありますでしょうか?」
「私は年も年ですし、体が筋肉質なのであまり露出が激しくないものがいいかな……?」
店員が志村から要望を聞き取っているが志村は露出が抑えめのがいいらしい。そんな様子を夏油はニヤニヤしながら眺めていた。
結局少し時間は掛かったが納得のいくものが選べたのか、志村は満足そうに会計に行く。
「素敵な彼氏さんですね。お顔もカッコいいですし盗られちゃダメですよ。ウチの商品で悩殺しちゃってください!応援しております」
「だから彼氏じゃないって……」
志村が思わず夏油の方を向くと何やら女性二人組に話しかけられているようだった。だが夏油は志村が見ているのに気づくと志村に手を振って来た。それに応える志村。その様子を見て女性二人は諦めたのか去って行った。
(ナンパってやつか?やっぱりモテるよな……私から見てもカッコいいし……)
志村は内心で夏油に惹かれているのに気づいた。だが今はその気持ちに蓋をする。
夏油のことを思うからこそ、自分なんかではなく彼に相応しい人と幸せになってもらいたい。それが自分の願いだと志村は自分に言い聞かせる。
(これでいい……これでいいんだ……)
そこに夏油がやって来る。そして耳に口を近づけ小声で話す。
「菜奈さん、落ち着いて聞いてください。今連絡が来たんですが、
「……わかった。残念だが急いで戻ろうか」
志村は本心からそう言った。
「残念だと思ってくれるんですね。嬉しいです」
「そりゃ私だって君と出かけるのは楽しいさ」
「なんだかあなたがそんなに素直に感情を出すのは慣れないなぁ」
「ふふふ、また今度デートしような」
「次までにプランを考えないといけませんね」
夏油と志村は中断することになったがデートを楽しめた。だが夏油の内心はというと……
(
休み明けのホームルーム。ブラドキングからA組の生徒が
「そんなことがあったため、ヴィランの動きを警戒し、例年使わせて頂いている合宿先はキャンセル、行き先は極秘となることが決定した」
まぁ仕方ないよなという雰囲気になる教室。どこに行くかは分からないが夏油としては海がないのは困る。志村がせっかく水着を買ったのに可哀そうだった。
『菜奈さん、今度プール行きましょうか』
『プール?どうして?』
『だってせっかく水着を買ったのに着る機会がないだなんてもったいないじゃないですか』
『でもまだ海がないと決まったわけではないだろう?それにヴィランの動きが活発化しているから遠出は避けるようにって言われたばかりじゃないか』
『そうですよね……はぁクズのヴィランのせいで苦しむことになるとは……品行方正な私に対して酷い仕打ちだ』
夏油は自分のことを表面的には品行方正に振る舞っていると思っているようだ。
『品行方正……?それはちょっと違うと思うけど、ともかく合宿の行き先に海があるといいね』
『ですね。それはそうとI・エキスポは行っていいんですかね?体育祭の優勝でレセプションパーティーのチケットを貰ったんですが』
『それは……ブラドキング先生に確認したほうがいいだろうね』
早速放課後に職員室に行って確認する夏油だが、意外にも構わないと言われた。I・アイランドの警備はタルタロス並みだそうだ。
(I・エキスポか……それにレセプションパーティーもあるということは正装の準備もいるかな?)
今から楽しみにする夏油であった。