夏油が志村と出会った翌朝、夏油は朝食を作っていた。そんな時志村が寝室から下りてきた。
「おはようございます、菜奈さん。朝ご飯食べますか?」
「おはよう。いただこうかな。ただこの体はご飯を食べられるのかな?昨日は眠れたが眠らなくても特に眠くならなかった。もう私の体は人間じゃないのだな……」
「呪霊と融合してますからね。さっ、とりあえず朝食を食べましょうか」
夏油が作った食事は美味しそうだった。特にお腹が空いていなかった志村もぺろりと平らげた。
「今日は菜奈さんの体を調べましょうか。ちょっと歩くと小さめな山があるんですよ。そこなら何かあっても大丈夫でしょう」
さっそく山へ移動した。故人であるはずの志村がヒーローコスチュームを着ていると目立つので、運動しやすい服を借りている。
「試すといっても何もすればいいんだ?個性は使ってみたが使えないみたいだ」
「菜奈さんの個性って何ですか?」
「浮遊だ…………それと増強型の個性もある」
「個性二つ持ち?珍しい。これはますます……」
「夏油くん?」
「いえ、なんでもないです。個性が使えないということですが、呪力で使うのではないですか?呪霊の体となっているわけですし」
「呪力?それはどうやって使うんだ?」
「それはですね…………」
夏油は志村に呪力の使い方をレクチャーする。覚えがいいのか数十分で呪力のコントロールを身に着けた。
「生前のパワーよりも出力が出ていてコントロールがなかなか難しいな」
「まあ最初はそんなもんでしょう。私よりもよっぽど早いです」
志村は素の力も呪霊として増大した。しかも玉藻前は夏油と共に戦闘をすることで前世のそれよりもかなり強化されていた。コントロールが難しいのは当然である。
「では術式、じゃなかった。個性を使いましょうか」
「ん?この身体強化が個性ではないのか?」
「それは呪霊に備わっている身体機能みたいなもんです。個性は別にありますよ」
「へー。呪霊ってとんでもない化け物だな」
「まぁそんな化け物を飼っているっていうんで私は嫌われ者なんですよ……」
「すまない!そんなつもりでいったんじゃ……」
「いいんですよ、事実ですから。それじゃあ個性の使い方は……」
夏油は腹黒かった。志村の良心に訴えかける言葉の選び方をしている。
元々の玉藻前の術式は狐火。幻影を映し出すことのできる炎を生み出すことができる。この世界で個性として強化された狐火は並みのプロヒーロー以上の火力を持つ。
志村も試してみるとすぐに炎を出すことができた。
「素晴らしい。疲れなどはありますか?」
「いや、全くないな。むしろ心地良いくらいだ」
「へえ…………」
夏油は感動していた。前世の特級呪霊の体に人間の中身。これがあればあのオールマイトをも超えれる一助になるかもしれない。心の中で笑いが止まらなかった。
「外で確認できることはあらかた試しましたし戻りましょうか」
夏油と志村は家に帰ってきた。やっぱり機密性を考えると家くらいしか話す場所がない。
「それでこれからどうしたいとかありますか?私としては傍にいて欲しいと思っていますが……」
「制限があって私は君から離れられないのだろう?ならば君といる他ないな。これからよろしく頼むよ、夏油くん」
「夏油くんは他人行儀じゃないですか?私たちは家族、いや、魂の繋がりがあるパートナーだ。もっとフランクに呼んで下さい」
「……じゃあ傑、よろしく頼むよ」
「はい、菜奈さん」
第一目標達成だ。夏油の心は踊っていた。ここまで自身のプラン通りだった。
「この家に私一人で住んでいるのを不思議に思ってますよね?昨日は簡単な自己紹介しか話せなかったので全て話します」
そこから夏油の状況を細かに話す。悲し気な表情を作るのも忘れない。話を聞いていた志村は憤りを隠せない。
「傑、ずいぶん苦労したんだね。いくらお金を送っているとはいえ親が子供を捨てるなんて…………いや、私が言えた義理じゃないか……」
「菜奈さんにもお子さんが?」
「居たんだ。でも里子に出した。ヴィランから守るためとはいえ、我が子を捨てた私に他人を批判する資格はないな……」
「そんなことはない!出会ってからまだ少ししか経ってないが、あなたは高潔で立派な人間だ!事情があったのでしょう?良ければ私に話してみませんか?」
「いや、しかしこれを話せば君を巻き込んでしまう。それだけは避けたい」
「変わりませんよ。あなたと私はもう一心同体。むしろ話さない方が危険な状況になるかもしれません」
「しかし…………わかった」
志村は逡巡しているようだった。だが決意を固めたのか話し始めた。
夏油にとってそれは驚くべき話だった。個性を奪い与える個性を持つ巨悪。それに対抗する力の結晶。どちらも今の夏油では敵わない強敵だ。
「それで私は
志村は涙ぐみながら話した。夏油にとってまたも驚きの情報だった。あのナンバーワンヒーローのオールマイトが継承した個性を持っていたとは。
「オールマイトにあなたのことを連絡しますか?生きていると知ったら喜ぶでしょうし」
「いや、それはいい。死人が生き返っても迷惑をかけるだけさ。このままがいいんだ」
「そうですか……わかりました。話は戻りますが、お子さんは結局どちらに?分からないのならば探してみますが」
「それはやめてくれ!生前の仲間や俊典にも探さないように言ってあるんだ。元気に暮らしているところに危険を持ち込むようなことは避けたい」
「わかりました。あなたがそう言うのなら」
夏油と志村はこれからのことについて話す。
「傑、君大きいから高校生くらいかと思ってたら中学生なんだよね?高校はどうするの?」
「どうしましょうかね?あんまり考えてませんでした。無気力に生きていたので」
嘘である。AFOの話が無ければ裏社会を牛耳ろうとしていた。
「じゃあヒーローになるのはどうだ?個性も体も鍛えているし君にぴったりだと思う。この家から通える範囲にヒーロー科最高峰、雄英高校があるし」
「よく知ってますね。そうですね……ヒーローは少し考えていたんですがそれもありですかね……」
「そうさ。誠実な君にぴったりだと思うよ。学校の成績もいいんだろう?それにヒーロー科なら君の個性を悪く言う人なんかいないはずさ」
夏油は悩んでいた。
(ヒーロー科なら私を恐れ、嫌悪する人がいない?それは考えたことがなかった。そこならば私の家族を見つけられる?)
「……行ってみます、雄英。そこなら仲間ができるかもしれないですし」
「うん!その意気だ!そうと決まれば明日からトレーニングしていこう。これでも現役のヒーローだったんだ。教えられることがあるはず」
「ふふっ、よろしくお願いしますね」
翌日、またも山に夏油と志村の姿があった。そこで夏油は志村に呪霊を紹介していた。
「これがさらし首呪霊です。個性は骸骨召喚、動く骸骨を召喚できます。脆いので雑兵程度にしかなりませんが」
「いいじゃないか。雑兵程度でも人手が増えるのは強みになる。それに本体のでかさがいいね」
「次にこれが虹龍。個性は硬化です。元々硬いんですが鱗を使ってもっと固くなります。光っているときが硬化しているときですね」
「へぇ。カッコイイうえにシンプルに強いな」
「で次が口裂け女。個性はハサミ。対象は一人限定ですが、「わたし、きれい?」と質問をしてそれを聞いた相手の周囲に巨大な糸切狭による攻撃をする個性です」
「口裂け女?あの怪談の?物騒だけど強そうではあるね」
「14体目が鎧武者呪霊です。崩鎧という個性で、攻撃を受けると鎧が崩れ、その度に呪力が増加していきます」
「ピーキーだけど使い道が多そうだ。一番の巨体だし。これなら巨大化するような相手でも戦えそうだ」
「そして現状の最後、15番目が玉藻前、あなただ」
「私が最新だったのかそれであの呪力量……恐ろしいね」
夏油は呪霊の紹介を終えた。
「こうして見ると傑、君かなりバランスよく作ったね」
「そうですね。手数が少なすぎても問題ですが決め切る手札がないのもまたしかり」
「君の誕生日、2月の頭だろう?そこでも何か作るのかい?」
「ええ。とっておきをね。見たら驚くこと間違いなしです」
「楽しみにしておくよ」
それからの日々は忙しかった。受験勉強もしなければならなかったし、呪霊と呪力の強化に勤しんでいた。
そんな中受験日のある2月がやってきた。その日までに個性のある呪霊は個性が進化したし、個性がなかった種類の呪霊については生物的な進化をした。これにより更に強くなった。
入試まであと少しというところで、夏油は新たに呪霊を作ることにしていた。
「フム、ダルマに限界まで呪力を溜めた。私のコンディションも絶好調。これは成功間違いなしだね、フフフ」
「傑、ホントにそんな呪力がいるのか?とんでもない量だけど……」
志村もトレーニングの成果がでて呪力を感じ取れるようになっていた。
「必要なんですよ。この呪霊はとんでもない強さなんです。菜奈さんなら勝てるかもしれませんが菜奈さんを除いた全ての呪霊で挑んでも敵わないくらい。私もリスクは負わなくてはね」
「でもこんなの尋常じゃないだろう。心配なんだ!半年間一緒に過ごしてきた。傑に何かあったらと思うと……」
「ではその時は菜奈さんが甘やかしながら看病してください」
「…………馬鹿」
夏油は呪霊の創造を開始する。周囲に禍々しいオーラが漂い始めた。
「来い、祈本里香!!」
呪霊玉にするのは成功した。だが夏油の意識は飛びそうだった。
「傑!大丈夫か⁉」
「……菜奈さん……呪霊玉を口に……お願い……します……」
「わかった」
志村は呪霊玉を夏油の口に含ませる。だがなかなか飲み込まない。志村は取り出した方がいいかとも思ったがこれに掛ける夏油の並々ならぬ思いを知っていただけに躊躇われた。
ふと思いついて水を取ってきた志村。水を口に含み、夏油の口に合わせた。水と一緒に飲み込ませたようだ。
一安心した志村だったがすでに夏油の意識は闇の中だった。
夏油が意識を取り戻したのは丸一日経ってからだった。
「ん?……ここは?私の部屋か」
そこへ志村がやってきた。
「傑!目が覚めたのか!全然起きないから心配したんだぞ!」
「すみません。ご心配をおかけしました。体はもう大丈夫です」
そう言って夏油が起き上がろうとすると、志村が止めた。
「しばらく寝ていろ。丸一日寝ていたんだ。すぐに起きるもんじゃない。何か作ってやる、待ってろ」
言われた通りベッドで待つ夏油。そこに志村が食事を作って持ってきた。
「ほら、食べさせてやる」
「いいですよ、そんなことしなくて。子供じゃないんですから。自分で食べれます」
「中学生は子供だろうが。いいから黙って口開けろ」
この日から志村は夏油に対し、少し過保護になった。よっぽど意識不明だったのが心配だったのだろう。
だが夏油はそんなの気にしたこともなく、最新の呪霊を呼び出した。
「なんだこれは……傑、これはいくら何でも強力すぎないか?」
「…………」
(素晴らしい!こんな膨大な呪力量を持つ呪霊を作り出せるとは!流石は特級過呪怨霊祈本里香だ!だが前世のような乙骨に執着する意識はないようだ。これは都合がいい。しかし個性を感じない?不完全な出来だったのか?まあいい。それでもこいつは使える!)
「……ぐる、傑、傑!聞こえてるか?なにボーっとしてるんだ」
「いえ、ちょっと考え事を。これがあれば雄英にも合格できそうだなと」
夏油は噓をつく。
「いやこれが無くても大丈夫だろう。…………私もいるんだぞ?」
「いえ、菜奈さんに頼ってばかりではいけませんよ。自分の力で合格したいのです」
「傑…………!そういえばこの呪霊はなんて呼べばいいんだ?」
「そうですねえ……呪霊の女王、クイーンなんてどうです?」
「クイーン……強そうだ。私も呼び名考えた方がいいか?もし人前で呼ぶなら名前呼びだとばれてしまうだろう?」
「なら、レヴナントなんてどうでしょう?ぴったりだと思いませんか?」
「蘇りし者か。そのままだな。でも気に入ったよ」
夏油と志村は今回の一件でまた仲を深めた。夏油の雄英入試まであと僅か…………