【完結】ヒロアカ世界でも猿が嫌いな夏油傑   作:カワニ

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林間合宿④

 林間合宿も三日目に突入した。今日も夏油たちは個性を使い続け、鍛え続ける。

 そんな中、相澤から補習組が動きが止まっていると注意が飛ぶ。他の生徒にも常に原点を意識するように言う。

 

「ねこねこねこ……それより皆!今日の晩はねえ……クラス対抗肝試しを決行するよ!しっかり訓練した後はしっかり楽しいことがある!ザ!アメとムチ!」

 

 ピクシーボブが肝試しがあると教えてくれた。これは夏油にとっても楽しみだ。

 

「というわけで、今は全力で励むのだぁ!!」

 

 その後も同じ様に訓練を続けていき、気づけば夕食の時間になる。

 

「昨日言った通り、今日の夕食は肉じゃがだよ!」

 

 昨日と同じようにB組は拳藤の指示に従って夕食を作った。夏油は今日はいつもの問題児たちに加えて志村、拳藤、柳も一緒に食べている。男子が勝ち取った牛肉の肉じゃがはとても美味しい。

 

「今日の訓練どうでした?」

 

 夏油は志村に尋ねる。今日は不思議と志村をあまり見なかったから気になっていたのだ。

 

「え!えっと……いつも通りだよ、うん……」

「ん?」

 

 いつもと様子が違う志村に訝しげな表情になる夏油。志村と目が合うと目を逸らしてしまうし、少し顔が赤いような気がする。

 

(これは……一体どういうことだ?いや、私にはわかるぞ。鈍感系主人公ならここで、『今日は変だったな』と思うだけだろう。だが私は違う!菜奈さん、あなた私のことを意識していますね?ついに私の想いが成就する時が来るのかもしれない)

 

 夏油は観察力に長けた察しのいい男である。志村の気持ちはある程度理解しているのであった。

 

 

 

 夕食の片付けも終わり、いよいよ肝試しの時間がやって来る。先にB組が脅かす側をやる。

 夏油も脅かす配置に着く。4人一組に分かれ、同じ組には泡瀬、塩崎、吹出がいた。志村も当然一緒だ。

 

「しかし脅かすなんてこと、してもいいのでしょうか……」

 

 塩崎は一方的に脅かすことに抵抗があるみたいだ。

 

「塩崎、これは肝試しなんだよ?むしろ全力で脅かさないと相手に失礼というもの。叫び声を上げようが、失禁しようがとことんやるんだ。きっと神は許してくれるさ。だって神も降臨する時は人々を驚かせただろう?それと同じだよ」

「なるほど……そうですよね、神が許してくれるのならば、全力でやりましょう」

 

 夏油の適当なガバガバ理論に納得してしまう塩崎。

 

「おい、また適当言って塩崎丸め込んでるぞ……」

「夏油、やっぱいかれてるよね!」

「傑、君はいい詐欺師に成れそうだね……」

 

 詐欺師どころか前世で教祖だった男だ。レベルが違う。

 

「皆失礼だな。私は導いているのさ」

「……?皆さんどうかされましたか?」

 

 困惑する塩崎をよそにどう脅すか作戦会議をする。

 

「私がそれぞれの組に付けている呪霊からの情報だともう脅かし方を決めているところが多い。私たちも早くやろうか」

 

 夏油は連携やいつ誰が来るのか把握するためにB組の各組にガンちゃんを付けていた。

 

「とは言っても俺と吹出はあんまそういうの向かないぜ?」

「だね!」

 

 たしかに泡瀬と吹出の個性は肝試し向きではない。

 

「じゃあ私の狐火の幻影で姿を隠すからギリギリまで近づいて声上げなよ」

「お、それいいな!」

「グワーって声を出すのは得意だ!」

 

 志村の提案であっさり役割が決まっていく。

 

「私はどうしたらいいのでしょう?」

「塩崎はそうだな……ツルを使って首吊り死体風にするのはどうだろう?」

「わかりました。やってみます」

 

 夏油発案の案で塩崎も役割が決まる。

 

「それで夏油はどうすんだ?」

「それはもちろん、とっておきを使うよ」

 

 夏油は悪い顔をして言った。

 

 

 

 夏油たちが待ち構えているところに早速常闇、障子のペアが歩いてくる。

 

「さっきの地面から首が出てくるの怖かったな」

「思わず声が出てしまった……」

「ねえ、わた、わタ、わたし、きれい?」

 

 底冷えするような声が背後から聞こえてくる。

 

「は?」

「……」

 

 二人は振り返ると髪の長い女がいた。暗くてよく見えないが、大きな口から牙が生えていて明らかにおぞましい姿をしている。

 そしてすぐに横の木から人が垂れ下がって来る。シルエットだけなら首吊りのように見えた。

 

「怨めしい……怨めしい……呪ってやる……」

 

 そうつぶやく声が聞こえてくる。さらに二人の横から気配を感じ、それぞれそちらの方を向くといつの間にか顔中目玉だらけの男が至近距離にいた。

 

「置いて行くなよ……」

「待ってよー……」

 

 そう言って手を伸ばしてくる。

 

「うおー!」

「なんだこれは⁉」

 

 叫びながら障子と常闇は早足で去って行った。

 

「うんうん、中々良かったんじゃないか?怖がりな相手なら失禁まで行けるかも」

 

 夏油は満足気に頷いた。

 

「私の演技はあれで良かったのでしょうか……それにしても恐ろしい行いをしてしまっています……」

「直前で夏油の呪霊、ガンちゃんだっけ?を顔に張り付けるのはいい案だったな!」

「クールなあの二人が早足で歩いて行ってたから成功だね!」

 

 

 何組かその後も同じ手順で脅かし続けた。だがそこで夏油が異常に気付く。

 

「ん?なんだあの煙……」

 

 目の前に迫っていた謎の煙をガンちゃんの視界で捉える。

 

「迷っている暇はないか。ダルマ、強制誘引」

 

 夏油はダルマを出し、その煙を強制的にダルマに吸わせる。そして出していた他の呪霊は志村以外しまう。

 

「夏油、どうしたんだ?」

「心がボワーンってなったのかい?」

「夏油さん?」

 

 3人は夏油の突然の行動に疑問を持つ。

 

「傑、もしかしてあの煙、毒ガスかなんかか?」

「ええ、おそらくはですが。それになんだか焦げ臭い」

 

 志村はすぐに夏油の行動の意図を察し、警戒態勢に入る。

 

「つまり、何者かに襲撃されているんじゃないかってことさ。皆、移動できる準備をしてくれ」

 

 夏油は警戒を促す。

 

『皆!!ヴィラン二名襲来!他にも複数いる可能性あり!動ける者は直ちに施設へ!会敵しても決して交戦せず撤退を!』

 

 マンダレイのテレパスが頭の中に響く。

 

「聞いた通りだ。混乱しているだろうが君たちは先に施設へ戻れ。私は出来るだけ皆を回収して戻る」

 

 そう言って夏油は玄武を呼び出す。

 

「こいつなら森だろうが突っ切れる。早く乗るんだ」

「でもよ、夏油。お前はどうすんだよ」

 

 泡瀬は夏油の身を案じているようだ。

 

「心配するな。私の力は知っているだろう?私なら他の生徒の居場所をある程度把握しているし、回収したらすぐに追いつくさ。時間がもったいない早く乗ってくれ。あと途中で拳藤たちも乗せていくからそのつもりで頼む」

 

 夏油がそこまで言うと泡瀬たちは渋々玄武に乗る。それを送り出し、夏油は志村に向き直る。

 

「さてと。菜奈さん、準備は出来てます?」

「もちろん。傑、無理するなよ?」

「分かってますよ」

 

 夏油はすぐに虹龍を出し、ガンちゃんで居場所がわかっている生徒のところに戦闘は避けさせつつ送る。虹龍に、進化した個性である晶鎧を応用して結晶による座席を背中に作らせる。これなら多くの生徒を回収できるだろう。

 ただしB組には呪霊を付けていたから居場所が分かるが、A組の生徒のほとんどの居場所が不明だ。とりあえず多くのガンちゃんを出して探させるが暗くて視界が悪い。非効率という他ないだろう。

 

「は?」

「どうした?」

「拳藤と鉄哲が玄武に乗りませんでした。ヴィランの元へ向かうみたいです。全く何考えてんだか……」

「君に頼りきりではいけないとでも思ったんだろうね。でも彼らが危険だ」

「しかたない……一つ目、援護に行け」

 

 夏油は一つ目を出し、ヴィランの元へ向かった二人の援護を命じる。

 ここで夏油はクラっときて倒れそうになる。

 

「大丈夫かい⁉昼間あんなに脳を酷使したんだ。疲労もあってキャパ不足になってる……!もう戻ろう、十分だ」

 

 志村の懸念は当たっていた。夏油は昼間の訓練で限界まで脳を酷使したため疲労が取れていない。

 

「まだ行くわけにはいきませんよ。多くの生徒がこの森にいるんですから……」

「でも……」

 

 そこで再びテレパスが来る。

 

『A組B組総員、プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!』

 

 まさかの戦闘許可が出た。

 

「わかってるね、イレイザー。戦闘許可が出たのは幸いだ。これで言い訳不要」

「そんなこと言って、戦闘できる状態じゃ……」

 

『ヴィランの狙いの一つが判明!生徒の「かっちゃん」と夏油くん!「かっちゃん」と夏油くんはなるべく戦闘を避けて!単独では動かないこと!わかった⁉二人とも!』

 

 ヴィランの狙いの一部が知らされたが夏油も含まれていた。

 

「私が狙い?何が目的か知らないが皆を巻き込むなんてふざけたことを……」

「なおさら引くべきじゃないか?君の身に何かあれば……」

「いえ、むしろ狙われてる人間が生徒がいるところに行く方が危ない」

 

 話している間に近くで八百万が襲われている姿をガンちゃんで確認する。

 

「まずい!急ぎますよ!」

「ああ、もう!」

 

 夏油に連れ立って八百万の元へ急行する。そこでは八百万が一人、異形のヴィランに襲われているのが見えた。雄英襲撃や保須で捕まった奴に似ている。

 

「任せました!」

「任された!」

 

 夏油は志村にヴィランの相手を任せ、八百万の状態を確認する。頭に怪我をしているようだ。

 

「八百万!大丈夫か!すぐに治療する」

「夏油さん……その前にこれを……最悪を想定して作りました……」

 

 八百万は小さな尖った物を渡した。矢じりのようなものだった。とりあえずポケットに入れる。

 

「ヴィランに投げて頂ければと……思います……」

「投げればいいのか?おい、八百万?しっかりしろ!」

 

 八百万が限界そうなので夏油はエイを呼び出し、彼女を丸呑みさせて施設へと飛ばす。夏油は激しい頭痛を感じる。そこへ志村がやってくる。

 

「また呪霊を……」

「それより奴はどうです?」

「……とりあえずボコボコに殴っておいた。まともに会話できる相手じゃなかったよ。しばらくは意識が戻らないはずだ」

 

 夏油が志村の視線の先を見ると、ヴィランがダウンしている。

 

「なら良かった。虹龍は生徒を順調に回収できました。そのまま施設の護衛に回します」

「頭痛、酷いんじゃないのか?顔が辛そうだよ」

「でもA組が回収できてません。葉隠と耳郎、今の八百万だけです。戦闘を避けるために回避させたところもあるので」

 

 そこで麗日と蛙吹がヴィランに襲われているのに気が付く夏油。頭痛で集中力が鈍っている。

 

「あんな所にいたのに気が付かないとは……行きましょう」

 

 夏油は走り出す。志村も遅れて走り出した。

 

「今日はホントに言うこと聞かないねっ!」

 

 急いで行った先では、女のヴィランに蛙吹が舌を刃物で切られていた。

 

「蛙吹!大丈夫か!ワーム、拘束」

 

 夏油は接近し、ワームを相手の足元からだし全身を拘束する。

 

「んっ!やぁー!」

 

 ずいぶんと若いヴィランだった。夏油たちと同年代かもしれない。

 

「離してー!もっとチウチウしたいのー!」

 

 ヴィランは拘束を逃れようとしているようだった。

 

「この異常者め……クズが、さっさと答えろ。敵の数と配置は?目的はなんだ?」

 

 夏油は尋問する。情報が手に入れば守りやすい。だがヴィランは関係ない事しか言わない。

 

「もう一度聞く。敵の数と配置は?目的はなんだ?私は今、機嫌が悪い。さっそと吐け、社会のクズ」

「嫌なのです!やー!」

 

 どうにか口を割らせたいし拷問でもするかというところで夏油は崩れ落ちる。それを志村が支える。

 

「クソッ!目が回る……」

「傑、大丈夫か!」

 

 意識が飛びそうになるのを気合で堪える。

 

「夏油くん!助かったけど大丈夫⁉顔色が悪いよ」

「夏油ちゃん、助けてくれてありがとう。あなたも狙われているんだから無理しちゃダメよ」

 

 麗日と蛙吹も心配する。

 

「心配いらないさ……まだしばらく持つ。それより情報を得て先生たちに伝えたい。協力してくれ」

「わかった!」

「わかったわ」

 

 どう口を割らせようかというところに、何人かが森の中から出てくる。

 

「麗日⁉蛙吹⁉」

「障子ちゃん、皆……!」

 

 それは障子を始めとしたA組の男子たちだった。ヴィランでなく一安心した夏油。

 

「ヴィランを捕らえたのか、流石夏油。でも顔色が悪いぞ」

「麗日さん、ヴィランと交戦してたのか」

 

 障子は夏油の心配をする。緑谷は麗日たちの様子が気になるようだ。

 

「大丈夫だ。それよりそっちの状況は?」

 

 夏油は障子たちに尋ねる。

 

「とりあえず無事でよかった……そうだ、皆も一緒に来て!僕ら今かっちゃんの護衛をしつつ施設に向かってるんだ」

「………………ん?」

「爆豪ちゃんを護衛?その爆豪ちゃんはどこにいるの?」

 

 緑谷が爆豪を護衛しているというがどこにも姿が見えない。

 

「え?何言ってるんだ。かっちゃんなら後ろに……」

 

 そう言って振り返る緑谷だが爆豪はいない。そこへ声が聞こえてくる。

 

「彼なら俺のマジックで貰っちゃったよ。こいつぁヒーロー側にいるべき人材じゃねえ。もっと輝ける舞台へ俺たちが連れてくよ」

 

 声がした方を向くと、木の上にシルクハットに覆面を付けた男がいた。

 

「⁉っ返せ!!」

「返せ?妙な話だぜ。爆豪くんは誰のモノでもねえ。彼は彼自身のモノだぞ!エゴイストめ!」

「返せよ!!」

「どけ!」

 

 轟が氷結で攻撃するも簡単に避けられる。その後も覆面ヴィランはペラペラ話して油断している。畳みかけるチャンスだが夏油は意識が朦朧としてきた。

 轟が再度、大氷結で攻撃するがこれも躱される。

 

「悪いね、俺ァ逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ!ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか。もう一人は無理そうだな……開闢行動隊!一人は目標達成だ!もう一人は無理!短い間だったがこれにて幕引き!予定通りこの通信後5分以内に回収地点へ向かえ!」

 

 そう言って覆面ヴィランは去って行く。

 

「ダメだ……!」

「させねえ!絶対逃がすな!」

 

 A組の皆は奴を追いかけるが、夏油は走ることもままならなかった。

 

「いや、その前に……ワーム、即効性麻痺毒」

 

 捕らえた女ヴィランを麻痺させておくのを忘れないようにする。

 

「奴を追って下さい。私は動けなそうです」

「ダメだ、傑を置いて行くことはできない。この森に何人ヴィランがいるのか分からない以上、今の状態の君を放置していくわけにはいかないよ」

「でも……」

「でもじゃない!少しは私の言うことも聞いてくれ!!」

 

 夏油は考える。今できる最善を。その時ポケットに入れていた物の存在を思い出す。

 

「最後のお願いがあります……私を運んでください。戦闘はしないので」

「……約束できるか?」

「はい」

「…………はぁ、わかった。負ぶっていくからしっかり捕まってろ」

 

 志村は夏油の目を見て従うことに決めた。そのまま夏油を背負う。そして全速力で走り出した。少しして、蒼い炎が出ているのが見える。

 

「蒼い炎⁉私と似た個性か!」

 

 そのまま二人は近くまで接近する。黒い靄のようなものが複数ある。ヴィランはそれで撤退するようだった。

 その中の一人に、夏油と志村にとって見覚えのある奴がいた。志村が少し前に倒したヴィランだ。

 

「どうして⁉あいつは私が……」

 

 そう言っている間に奴の姿が靄に飲み込まれていく。使いどころはここだろうと判断し、夏油は薄れる意識の中で最後の力を振り絞ってヴィランにあるモノを投擲した。それは八百万から貰った矢じり型のモノである。

 ヴィランに命中したか確認する間もなく夏油の視界が暗くなる。

 

「傑、今のは……?おい傑、しっかりしろ!傑!」

「すみません……あとお願いします……」

 

 夏油はそう言い残して意識を失った。




夏油が意識を失った場合、出していた呪霊は強制的に夏油の中に戻ります。例外は自分の意志で出れる志村のみ。強制的に戻った場合、直前に継続して出していた時間分は再召喚できなくなります。(意識がすぐに戻った場合の話ですが)
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