8月下旬、仮免試験当日がやってくる。会場まではバスで移動していた。夏油は今日も一番後ろで物間、鉄哲、宍田と座っている。
「ねえ、どうして僕らはA組より遠い会場なのかな?おかしくない?おかしくない?」
いつも通り物間はA組に不満を言っている。遠いのは面倒だと夏油も内心思っている。
「おーい、皆注目!もうすぐ試験会場に到着するが注意事項がある。お前たちは体育祭で個性が世間に割れてる。よって仮免試験では伝統的に最初に潰される。雄英潰しは恒例行事だ。心してかかるように!以上!」
ブラドキングからの忠告を聞く車内の生徒たち。
「皆!どんな試験か内容が分からないから何とも言えないけど、とにかく落ち着いて協力していこう。困ったら私や夏油、茨、宍田、鉄哲あたりが何とかしてくれるから頼ること!いいね?」
「「「「「おう!」」」」」
拳藤が早速クラスを纏めている。頼れるリーダーだ。ブラドキングも満足そうに頷いている。
夏油たちは会場に到着してバスを降りる。周りを見回すとこちらに注目しているのがわかった。
「ん?あれって雄英じゃね?」
「ホントだ!」
「やっぱオーラあるなあ」
「あれ夏油くんじゃない?やっぱカッコいい……」
「どうしよう……サインくれるかな?」
「辛い境遇でも雄英でヒーロー目指してるなんて憧れるぜ!」
雄英自体に反応している人もいるが夏油に対する反応もあった。夏油はにこやかに手を振りながら通り過ぎる。
「夏油!やっぱおめー人気あんな!」
鉄哲が夏油の人気について言及する。いつも通りテンションが高い。
「B組のエースだし当然さ!あわよくばそのままB組の人気につなげて欲しいね!」
「物間氏、相変わらず心がアレですな……」
物間と宍田も特に緊張していなそうであった。
コスチュームに着替え、説明を受けるために受験者が集まった。あまりに人が多くて身動きしづらい。
「えーそれでは本年度8月の仮免試験を始めさせていただきます……」
それから試験の概要が説明されたが、先着100人で、体に3つ付けたターゲットにボールを当て、2人に当てたら合格だ。
夏油としては拍子抜けだった。てっきりもっと面白いものだと思っていたからだ。
説明を聞いていた部屋だと思っていた物が開き、移動を開始する。
「皆、固まって動くよ!前衛は後衛の防御、拘束できる個性持ちは中央で拘束担当、特に泡瀬は運ばれてきた奴を片っ端から固めてね!」
「おう、任せとけ!」
拳藤の指示に従って動き始める。彼女は集団で固まって人数分の受験者を確保してから全員で合格するみたいだ。
そして大して間を置かずに試験が始まる。
『スタート!!』
始まるや否や、近くにいた受験者の視線が夏油たちに集まる。そしてそれぞれボールを投げてきた。
(クイーンで暴れさせてもいいが……それだと逃げてしまうかな?ならここは……)
夏油は玄武を出し、進化した個性である吸引でボールを片っ端から吸いこませる。他のB組も各々防いでいた。
『菜奈さん、暴れていいですよ』
『了解』
夏油の側から黒い穴が開き、志村が出てきた。そして夏油はついでに援護が要りそうなところに虫を送る。
志村は出てくるや否や、青白い炎で正面を燃やし尽くした。かなりの受験者が倒れている。
「おいおい……夏油にあんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!」
「ダメだ!今のでほとんどやられちまった!お終いだ!」
夏油は倒れている生徒を百足鎖牢で拘束し、虫で泡瀬がいるところまで運ばせる。
「うんうん、流石ですね。私が何かするようなこともないかもしれません」
夏油は一応三節棍を持ってはいたが振るう気はなかった。
「サボってないで働きなよ、傑。暇なら他の子のところ行ってあげればいいじゃないか」
「危機的状況だったら行きますけど、今は援護くらいで十分です。それに何から何までやるんでは彼らの成長を阻害する」
夏油の正面にいた受験者たちは敵わないと思ったのか逃げ始めてしまった。丁度その時、目標人数が確保できたのか、拳藤が全員を集める。
「泡瀬の個性でガチガチに固めてるから反撃はないはずだけど注意して!」
拳藤の指示に従ってターゲットにボールを当てていき、B組は全員クリアすることが出来た。その後、案内に従って皆で控室に移動した。
「意外と楽勝だったな!」
「思ったより先輩方弱いですな。これなら夏油氏にハンデありで戦ってもらった方が鍛錬になりますな」
「そっちもそうだったのかい?私もやることがなくて暇で仕方なかったよ」
控室で夏油が鉄哲と宍田と話していると拳藤から注意が飛ぶ。
「お前らなぁ……あんまり油断してると痛い目にあうぞ?それに夏油はやりすぎ。相手ボロボロになってたぞ」
「ん?ははっ、怒られてますよ」
「え?」
拳藤が首をかしげる。
「ごめん、あれやったの私なんだ……あはは……」
いつの間にか出てきていた志村が謝る。
「あ、あなたが……」
志村相手には注意しづらい拳藤であった。
「ほら、拳藤、注意しなよ」
「お前わかってて言ってるだろ……?ホント性格悪いな……」
「それが私なのさ」
夏油にとって拳藤は異性の中でもふざけられる仲なのでお互いに気安い。そんな様子を見て志村は少し嫉妬しているのか髪を弄って落ち着きがない。
もちろん夏油にはそんなことはお見通しなので志村を後ろから抱きしめ、耳元でささやく。
「拳藤とはただの友達ですよ。まったくかわいいなぁ」
「……うるさい」
最近いつもこんな感じだから慣れているB組だが、他の受験者にとっては何でここにカップルがいるのか疑問に思うと共に、雄英は恋愛まで進んでいるのかと戦慄する。普通、ヒーロー科は恋愛する余裕はあまりない。
そんなことをして時間を潰しつつも、二次試験の説明が始まる。モニターに会場が映し出され、爆破された。
そこから少しして試験が始まる。アナウンスでヴィランのテロによって甚大な被害が出ていることが明かされる。
夏油たちもすぐに現場に出て救助を開始した。夏油はガンちゃんを展開しながら虹龍で飛び、遠くまで要救助者を探しに行く。エイには臨時救護所ができるであろうところに待機させておいた。
呪霊で救助するのは怖がらせてしまうため、最後の手段だ。早速高齢者が複数人いるのを発見する。
「もう大丈夫ですよ、ヒーローが来ましたから。怪我はしていますか?」
夏油はそう声を掛けながら笑顔で状態を見る。まともに動けなそうな者ばかりだった。
「それでは私の個性で皆さんを運びますので落ち着いてくださいね。あぁそうそう、あなた猿ですか?そちらのあなたは猿ですか?……え?質問の意味が分からない?……まぁいいです。見る限り猿ではなさそうだ。では順番にこの龍に乗せていきますね」
怪我人を虹龍に乗せ終わり、一気に運んでいく。
「もう少しの辛抱ですよ。治療できる者がいますからね。意識をしっかり」
夏油は声を掛け続け、臨時救護所に到着した。そこにいた受験者にも手伝ってもらいながら怪我人を下ろしていく。
そしてまた怪我人を探しに行こうとしたその時だった。近くから爆発音が鳴り響いた。そこから現れたのはプロヒーローシシドとそのサイドキック達だった。
「爆発で近くにいたガンちゃんが吹き飛ばされたな、可哀そうに……あぁ、この呪霊たちに運ばせるので怪我人は乗せていいですよ」
夏油は近くの受験者にそう言いながら三節棍を取り出す。
「ありがたいけど君はどうするの?」
「そりゃ決まってるでしょう。丹精込めて育てた呪霊の弔い合戦ですよ」
丹精込めたのも弔い合戦なのも事実ではないが、そろそろ暴れたいと思っていた夏油はシシドの元へ行くことにする。
すでに迎撃に当たった受験者は何人もやられており、怪我人の元まで迫っていた。
「おいおい、もうこんなにやられているのか。本当に弔い合戦だな」
夏油はシシドに向き合う。
「活きが良さそうなのが来たな!楽しませてくれよ!」
シシドが夏油を敵と見定めてやって来るが、夏油はその前に大量の虫とムカデを出す。そして志村も出てくる。
「ここは任せました」
「了解」
夏油は志村は短い言葉を交わしてシシドとぶつかる。シシドの一撃を三節棍で受けた。その後もしばらく打ち合い、夏油は相手の力を把握する。
そして横目で志村の状況を確認すると、青白い炎が燃え盛っている。またも暴れているようだ。
「じゃあそろそろいいですかね」
「あん?」
「私はあなたを止めておくのが役割だろうと考えていましたが……別に倒してしまっても構わないのでしょう?」
「やってみろ、青二才!」
数分後、倒れていたのはシシドだった。激しく戦ったのか全身が傷だらけ、血だらけだ。ムカデとワームの合わせ技でガチガチに拘束されている。
シシドに対して夏油は涼しい顔をして服が少し汚れたくらいだった。
「ん……ぁ……ぐ……」
「これがプロの実力か……さて、じゃあ他の援護に……」
夏油が動き出そうとしたとき、試験が終わる。
「せっかく体が温まって来た所だったのに……」
「傑、そっちは……君、相変わらず容赦ないね」
夏油が残念がっていると、志村がやって来ていた。
「相手はこんな大規模被害を引き起こしたヴィランですよ?警戒するに越したことはないでしょう」
「まあそうだけど、興が乗ってそうしただけだろう?」
「バレましたか」
「君のことはもう大体わかるよ」
こうして彼らの仮免試験は終わった。あとは結果発表を待つのみだ。
合否の発表のために再度受験者が集合した。
「皆で受かってるといいな!」
「私は結構自信ありますぞ!できることはしましたからな!」
「ちょっと僕緊張してきたな……お腹痛い……」
鉄哲はいつも通り元気で物間は緊張気味なようだ。
「心配いらないよ。全員で受かってA組を煽りに行こう」
夏油がそう言うと、物間はいつもの調子を取り戻す。
「アハハハ!そうだった!A組に負けないためにも全員合格はマスト!」
「そうそう、その意気だ」
喋っている合間に公安委員会の担当者が出てきて合否が発表される。五十音順で掲示されており、夏油の名前もあった。
「これで落ちてたらシャレにならないから良かったな。で他の皆は……」
「合格ですぞ!」
「受かったぜ!」
「も、も、も……物間、あった!」
夏油がB組が全員受かっているか確認する間もなく、周りの声で何となくわかってしまった。全員合格したようだ。
その後採点内容が記載されたプリントが配られた。
「何々……『猿ですか?という意味不明な問いかけ』でマイナスされているな。別に意味不明ではないのだが。で、90点か。悪くないね」
夏油は何人かで見せ合ったりしたが、拳藤は流石といったところか、高得点だった。反対に鉄哲はかなりギリギリだった。
帰りのバスは皆疲れていたのか、寝ている人も多く静かだった。大して疲れてもいない夏油は起きている。
『仮免、取れて良かったね』
志村が話しかけてきた。
『そうですね。取れなきゃ計画がとん挫していたところでしたよ。理想の世界の為のね』
『傑、君やっぱいかれてるよ。普通考えついてもやらないって』
『かもしれませんね。でも私はやりますよ。何しろ行動力のある男なので。今日帰ったら早速動画第2弾を撮ります。編集もあるので菜奈さんにあんまり構えなそうです。すみません』
夏油がそう言うと、志村は狼狽したように言う。
『なっ!私がいつ構って欲しいなんて言ったんだ⁉まったくもう……』
『でも構って欲しいでしょ?』
『……まあ、少しはね』
夏油と志村が痴話喧嘩している間にもバスは進み、気づけば雄英に到着していたのだった。