ちょっとでも感化される人が出てくれば御の字くらいの気持ちでやってます。
その日も夏油はインターンに励んでいた。夏油もそれなりに楽しくなってきたのか、要請された日は授業日でも構わず福岡に来ていた。今はビルの屋上で勝手に休んでいる。
しかし今日はいつもと違うことがある。それは眼球呪霊のガンちゃんに小型カメラが取り付けられており、配信しようとしていたのである。
ガンちゃんから直で映像を流すことも出来そうではあったがブレが酷そうなので断念し、面白そうだと思ったサポート科の女子が作ってくれたのだった。
「やっぱりサポート科は優秀ですね。ねえ菜奈さん?」
「そうだね。いや、それよりも配信って正気か?今からインターンの時間だろう?」
「正気も正気ですよ。ここからは布教ターンなんだから。じゃあカメラつけますね」
夏油はそう言ってカメラをつけた。そして配信開始のボタンを押す。
「見えているでしょうか?ご存じの方もいらっしゃると嬉しいです、カースキングこと夏油傑です。今日私がいるのはどこだと思いますか?そう、福岡なんですね。なぜ福岡にいるのかというと、ホークスの元でインターン中なんですよ。この前仮免を取りまして、正式にヒーロー活動ができるようになった次第であります。少しインターンを経験しましたが、ヒーローがどのようにヴィランを捕らえているのかを知って欲しくてこの配信をしています。もっと見たい方はチャンネル登録、信者になってくれると嬉しいです。では早速ヴィラン退治に出発だ!」
そう言って夏油はエイに乗ってパトロールを開始する。志村もデルフィニウムで空を飛んでいる。夏油は街中にガンちゃんをばら撒いており、異常を発見したら即座に急行するようにしていた。そこで夏油は事故になりそうな車両を発見し向かった。
「見てください。あの車、運転手が病気何かで意識を失っているようです。こういう時は……力ずくで止めます」
夏油が止めますと言った時には一つ目が車を止めていた。その後、運転手たちを車外に運んで救急車が来るのを待つ。
「あ、教祖だ!」
「教祖様でしょ!」
「カース!」
「カスキンだー!」
「夏油様♡」
周辺に子供が集まって来ていた。
「見てください、純粋な子供たちの笑顔を!この曇りなき眼を!これこそあるべき社会の姿!このような光景を目指してヒーローは活動しているのです。あ、サイドキックさんたちがいらっしゃいましたね。では私は次の現場へ。さらば子供たち!」
その後すぐに高層ビルが燃えているとの通報が入り、夏油が行くことに。急行するとだいぶ火が回っていた。
「これは私では厳しいですね。頼みます」
「了解」
志村は火の中に突入していった。ガンちゃんを入れて夏油も中を確認する。予め決めていたサインで人数を伝えた。まだ複数人取り残されている。
夏油は一気に避難できるように虹龍を出し、乗れるように晶鎧で席を作らせる。完全に虹龍をバス扱いしている夏油であった。
「ふむ、天井の崩落が怖いな。ゾンバ、少しでいいから浮かせろ。やりすぎるなよ」
ゾンバをだして天井を支えさせる。そこで志村が全員救出成功したらしい。夏油はそれを出迎える。
「これで13人全員だ。後はいないんだよな?」
「ええ。これで全員です。一旦降りましょう」
夏油たちは被害者たちを連れて地上に降りる。被害者の中には助かって泣き崩れる人までいた。規制線の外から家族と思われる人もやって来て抱き合っている。
「全員助かって良かったです。ありがとうございました」
「火は私が担当だろう?当然のことをしたまでさ」
夏油と志村が話していると、被害者の一人がやって来る。
「本当にありがとうございました!もうダメかと思って諦めていたんです……」
涙ながらに夏油たちにお礼を言ってくる。
「お礼を言うことはいい事ですよ。ヒーローは光なのです。あなたも心の光を灯し、ヒーローという存在に感謝を捧げましょう。そうすれば必ず救われます」
「光?あぁ絶望していたところに差し込んだ光ということですか?私も雄星教でしたっけ?を信じます!」
「それはとてもいい事でしょう。あなたも救われますように」
他の被害者たちもこちらを祈るような動作をし始めた。そこであるものを思い出し、格納呪霊から取り出す。
「皆さん、もしよろしければこちらの教典を差し上げます。興味がある人はご一読を。興味が無ければお隣さんにでもあげてください」
教典を配っていく夏油。夏油の計画は本格的に始まりつつあった。
その後も夏油は精力的にインターンに励んでいった。立てこもりが発生すれば怪我人一つ出さずにヴィランを制圧。個性で暴れる者がいたら制圧。個性を持て余したチンピラ集団も制圧。
ホークスじゃないと舐めてかかって来た相手にも一切容赦せずに淡々と制圧していく姿は威風堂々としたものだった。
そこまでは凄い奴が来たものだと思っていた市民たちだが、教典を配っていくのには驚いた。しかしあまり宗教のアピールはしてこない。
実際、夏油は露骨にやりすぎると色々と警戒させるかと思って抑えていただけであった。押しつけがましいことはしないので夏油は受け入れられていたし、夏油が救った被害者は信者になることも多かった。
そしてそれに拍車をかけたのが記事だ。夏油が活躍するたびに雄星教のことも掘り下げられるようになった。ネットでも過去の動画が拡散してより多くの人の目に留まる状況。配信もそれを手伝った。
この状況について夏油は自分の部屋で考えていた。既に日が沈みそろそろ寝る時間だ。
「うーん……想像以上に広まっている。信者も順調に増えている。ネットの凄さを実感したな……知名度が凄いことになっているね」
「傑?明日は学校でしょ?準備してあるの?」
志村が久しぶりに学校に向かう夏油を心配する。
「授業に関しては問題ありませんよ。予習も復習もばっちりです。それより問題は……」
夏油は志村を羽交い絞めにする。
「わっ!急に何するんだよ、傑」
「いや、菜奈さんが寂しがってるかなって。最近忙しかったから」
「寂しいって、いつも一緒にいるだろう?」
「でもこうやって抱きしめたりは外じゃ中々できないじゃないですか。だから私はこの時間が尊い」
夏油はしばらく忙しくしていて満足に志村と話す時間がなかったことを気にしていた。
「そう言われると振りほどけないな。私は君に甘い。もっと厳しくするのが君のためだと分かっているのだが……」
「甘くてもいいじゃないですか。私はあなたのことを甘やかして離れられなくしたいですけどね」
「それはちょっと怖い」
「冗談ですよ」
「いや本気の声だった!」
「半分冗談ですよ」
「半分本気じゃないか⁉」
「ふふふ、やっぱり菜奈さんは面白いなぁ」
「君、面白がってるだろっ」
夏油にとって志村はかけがえのない存在だった。だからこそ素の彼を出せるのかもしれない。夏油はいい顔で笑っていた。
そんな日常を過ごしている中、八斎會の事件が起きインターンは一時中断されることとなる、かと思ったが……
「はい?私は続行?どういうことです?」
放課後、ブラドキングに話があると言われ教室に残っていた夏油は自分だけインターンを続けるように言われて困惑していた。
「それがだな……雄英としても一律にインターンは中止すべきという意見で固まっていたんだ。しかしもっと上から夏油なら問題ないだろうし続けるようにとのお達しが来たらしい。どうする?やりたくないのであればやらなくていいぞ。適当に理由つけて断れる」
ブラドキングはそう話すが夏油としてはインターンを続けるのに前向きだった。インターンを続けるのは布教のためには丁度いい。
それにインターンで接して感じたが、ホークスから悪意を感じ取ることはなかった。裏にいるのは十中八九オールフォーワンではないだろうと志村とも話し合って結論が出ている。
「続けますよ。上って公安でしょう?それを無視しちゃまずいですって。むしろやる気に満ちていたところなので問題ありません」
「むう……俺としては中止させたいがお前がそう言うなら仕方ない。くれぐれも無理はするなよ。いつでも中止できることは覚えておくんだ」
「はい。ありがとうございます」
夏油はそのまま下校し寮に帰る。談話スペースでは何人か集まって話しているようだった。夏油が来たのに気づいたのか話しかけてくる。
「おう、夏油!先生に残らされてたけど、どうかしたか⁉」
相変わらず鉄哲は声がでかい。
「大したことじゃないよ。私はインターン続行らしい」
夏油の発言に対して驚く一同。
「夏油氏は続行でしたか。私は中止との連絡が来ていましたが……」
「ウチのクラス、インターン行ってるの夏油と宍田だけだもんな。A組は何人かインターン行ってるらしいけど」
拳藤はA組の事情を知っているらしい。
「まぁ私の方が特殊なんだろう。何やら思惑があるみたいだし。じゃあ私は失礼するよ。これから動画投稿しなくては」
夏油は今日も動画投稿するつもりのようだ。
「またやるのか……問題起こすなよ?」
「何言ってるんだい、拳藤?私がいつ問題を起こしたというんだ。何かトラブルが起きても私が引き起こしたのではなく、あくまで寄って来たまで。私は至って品行方正だよ」
そう言って夏油は部屋に戻る。
「あいつブレねえな―……」
「流石だよね」
「拳藤でも唯一抑えきれないな」
「でもまともな振りが上手いのが厄介」
「夏油氏は擬態も演技も上手いですな!」
そんな会話が残されたB組でされているとも知らずに夏油は動画を投稿した。
『どうも皆さんこんばんは。雄星教の教祖、カースキングこと夏油傑です。本日は皆さんにインターンを通しての所感をお伝えしようと思い動画を撮っております。大して話すこともないので短めです。
まず、最近愚かなヴィランが増えております。皆さんもそうお感じになりませんか?特に集団でのヴィランが多い。彼らは勘違いしてしまったのでしょう。自分たちでも何かできると。オールマイトがいない、象徴が不在なら捕まることはないだろうと。調子に乗っていますねぇ……
ですが安心して下さい!オールマイトがいない?ヴィラン隆盛?世界よもう大丈夫!私がいる!この私が社会のクズを取り除く!ヴィランよ震えて待っていろ、私が捕まえにいく!
というわけでヴィランの犯罪は私たちヒーローが許しません。全身全霊を掛けてヴィランを駆逐していきます。ちなみに今まで通り特に福岡で活動する予定です。
これで私が伝えたいことは終わりなのですが……え?尺が余っている?うーん……そうですねえ……あぁそうだ、最近教会の建設が決まりました。東京の西の方です。詳しい場所は公式ホームページまで。あと信者の数が想像以上に増えているので雄星教の本格的な活動が始まるようです。ヒーロー支援募金やヒーロー慰霊祭、教典の配布、ヒーロー道徳の教育なんかの活動をしていきます。まぁ私は寮生活であまり関われないのが残念ですが……
本日は短いですがこれで終わりですかね。インターン活動はこれからも続くので活動中は配信することもあるかと思います。それではまたお会いしましょう』
動画はここで終わっていた。
この動画にも反響があった。出来て間もない宗教なのに拡大のスピードが早いこと、豊富な資金力が驚異的であった。
拡大が早いのは夏油のカリスマ性故だろう。生い立ちやそのルックス、話し方や圧倒的な実力。そのどれもが彼を魅力的に見せた。
豊富な資金力は夏油の偶然から生まれた人脈からだ。I・エキスポで偶々救っただけの権力者や資産家と繋がりが築けたのが大きい。
こうした急な思想の拡大は公安も無視できないものとなっていた。
※※※
ホークスはこの日、秘密回線で公安委員長と連絡を取っていた。
「夏油くんのインターン続行、マジですか?」
「私も迷ったけどね……公安内部でも意見が割れてるのよ。あの力を危険視する声も少数だけどあるし、オールマイトがいない今、人気に目をつけて新たな象徴候補として祭り上げようという動きもある。私たちも一枚岩ではないの」
公安委員長の口調から彼女の苦悩が伺える。
「まぁそこら辺の事情もわかりますけどね。夏油くんを改めて観察してましたけど、確かに心に闇を抱えてそうな、危うい感じはありました。でもヒーローをやる姿勢に嘘はない。それは確信してます。だから彼を危険視する必要はないとだけ俺からは進言しておきます。あと将来のナンバーワンというのもあり得る話ですね。それを育てられるなんて光栄だなー。まぁ教えることあんまりないけど」
ホークスはインターンを通して夏油を観察していた。そこで彼は夏油も信じることに決めたようだ。
「そこら辺は私もあんまり危惧してないわ。私が懸念しているのは雄星教の拡大ね。教義自体はヒーロー社会や公安にとっても歓迎すべきもので問題視している人は少ないけど、あの急拡大を見ると……」
「宗教のことはよくわかりませんが、有害ではないんでしょう?委員長のお考えならインターンは中断させた方が良かったんじゃ?インターンで拡大されている部分もあるでしょうし」
「それがね、どういうわけかもっと上から、政治方面と財界からも夏油くんのインターンを続行させるよう要請が来たのよ。一体どういう繋がりがあるのか分からないけど」
ここだけの話、気を利かせたのか夏油が知らない間に雄星教の支援者が勝手に夏油のインターンを続行させるように要請したらしい。
「そういうことなら仕方ないでしょう。それに福岡を任せられるようなら俺も色々と動きやすい」
「そうね。メリットを考えたらこれもありな気がするわ。まぁそういうわけだから、今後も彼を面倒見てちょうだい」
「後進育成には興味なかったんだけどなぁ……まぁ分かりました。俺は俺の仕事をこなすだけです」
ホークスはそう言って通話を切り飛び立った。